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短編

人魚姫の末路

作者: 見伏由綸

私の小さな親切を大切に拾ってくれたから、私は彼に恋をした。

たった一度の恋だから、彼に釣り合う人になろうと必死に必死に努力をした。

仕事終わりに食事に誘って、勇気を出して告白した。

何度も何度も頑張って伝えた愛は、彼に受け取ってもらえたかのように見えた。

体のいい愛人として扱われているだなんて、気がつかなかった。

気がつくと、彼は上司の娘さんと結婚することが決まっていた。

描いていた幸せが単なる虚像でしかなかったことも悲しかったけれど、何よりも自分の愛が届いていなかったことに心が壊れる音がした。

手を差し伸べてくれた彼を愛し、彼に愛される唯一無二になることだけが存在理由だと思っていたのに、私の愛は彼の心に届くことさえなかったなんて。

知らないうちに彼の大切な人になっていた先輩は、とても美しく優しい人で、恋敵なんて必要なかった。

周りを何度見回しても、もう誰も人魚姫を必要としてくれる人はいなかった。

笑顔を忘れた人魚姫は、転職しても受け入れてもらえるとは思えず、居場所はどこにもなくなってゆく。

「馬鹿だね、そんな男さっさと忘れちまいな」なんて言ってくれる人がいたら、人魚姫はまだどこかで生き続けていたかも知れないのに、そんな人はいなくって。

一番星が眠りにつく頃、夜のベールに覆われた崖の上に立った人魚姫は、落ちると分かっていて暗闇に一歩を踏み出した。

いつまでも冷たい海の底へと沈み続けて、ついには泡となって消えてしまった。




「おばあさま、人魚姫はどうして泡になってしまうの。」

「それはね、人魚姫の心が物語の深く深くまで沈んでしまって、次の物語へと進むことができなかったからなんだよ。」


また新たな人魚姫が、人知れずそっと生まれる音がしたーー。






人生に絶望した時。もうどこにも進めないと思った時。その物語に終わりが来ただけで次の物語が別の物語があなたを待っていることを忘れないで。

お読みいただきありがとうございました。


名前は忘れてしまいましたが、物語の喪失や次の物語に移れないことが現代の人間関係に関する問題の根底にある、と論じる学術書(?)から発想を得た作品です。


みなさんの人生にもいいことがありますように。

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