スキル〈映画脚本家〉をもつ俺、仲間の死亡フラグが見えてしまうので全部折る
冒険者として異世界に転生した俺の身に備わったスキルは、いわゆるフラグが見えるというものだった。
師匠はその能力を因果律幻視と表現したが、俺は勝手に〈映画脚本家〉と名付けた。
映画制作会社所属の脚本家としてフラグ管理に頭を悩ませていた前世の自分を思い出したのだ。
特に死亡フラグには敏感になった。
死亡フラグが見えているのにそれを放置するのは、俺にとって見殺しにするのと同じだからだ。
「……俺さ、このクエストから帰ったら故郷の幼馴染と結婚するんだよ」
同じパーティの戦士が不意に言った。
「いきなりフラグ立てんな!」
死亡フラグに気付いて指摘すれば、そのフラグを折ることができる。だがこの世界の住人はなぜだかすぐフラグを立てたがるのでとにかく油断ならない。
「なあ、もし俺に何かあったらさ……手紙を故郷に届けてくれないか。ここに来る前に書いておいたんだ」
「いやそれもフラグだってば!」
「なーに、念のため! 念のためさ。そんな顔をするなよ。不死身と呼ばれた俺がこんなところで死ぬはずがない。そうだろ?」
「お前止まんねえな、ちょっと黙ってろや!」
「あたしね、今が一番幸せ。村で魔物扱いされてたあたしが、人の役に立ってるんだもん。このクエストがずっと続けばいいのに」
魔術師が笑顔で言う。
「んー……フラグだな、それも」
「このパーティのみんなと一緒なら、あたしもう何も怖くないんだ」
「完全にフラグだわ」
「ふ、気持ちのいい連中じゃ。お主もいい仲間を得たな」
「師匠……」
「もうお主に教えることは何も無い……ごほっ、ごほっ」
「いや師匠フラグ、フラグ! あんたのフラグは即効性高いから怖いんだよ。てかみんな戦闘中に喋りすぎじゃないッ? そういうのもフラグだから!」
俺達パーティの目の前に立ちはだかっている魔王。
奴は高笑いをあげた。
「目障りな人間どもが……往生際悪くさえずりおるわ。我がまだ最終形態を残しているとも知らずにな」
……ん?
「さ……最終形態……だと」
「そんな……相手はまだ全力を出してないとでも言うの」
「魔王の名は伊達ではない……か」
仲間の顔が絶望に染まっていく。
「冥土の土産に見せてやろう、我が最終形態を。ひと思いに滅してくれるわ!」
俺はひとり、口元に笑みを浮かべていた。
助かった。
特大の死亡フラグだ。
この大事なフラグを折るワケにはいかないな。
魔王よ、自分の打ち立てた旗のもとに潔く散ってくれ。
俺は手の内の剣柄を握り込んだ。
なろうラジオ大賞3 応募作品です。
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・テーマ:映画
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