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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界を巡る魔法使い

追放された聖女が出会う、むかしむかし「ざまぁ」してやった魔法使い 〜追放されたんだね、かわいそうに。愛しい聖女よ、魔法使いが助けてあげよう〜

作者: イーサーク

 カラスが見ていた。私の使い魔だ。


 鴉が見透す屋敷の中で、たった一人の少女が、百人もの冒険者たちに取り囲まれていた。


「聖女イネス、君は、今日限りで僕のパーティーから追放だ!」

 少女に向かって、高貴な剣士が無情にも言い放つ。


「王子さま……」

 その少女、聖女イネスは悲しみを浮かべた。


「……私は、もう必要ないということですね?」

「そうだ、イネス。僕は君をずっとかばってきたけど、もう無理だ。これ以上、君を聖女としてパーティーに置いておくわけにはいかない! 君はもう必要ない!」


 聖女は恋人に縋り付くようにたずねるが、王子は容赦なく言葉を重ねた。


「……あなたとも?」

「そうだ! 僕と君の仲もこれまでだ!」

 聖女は、薬指に指輪がある右手を握りしめる。


 きれいに伸びた金髪、可愛い顔立ち、しなやかな肢体、悲哀に満ちた表情。


 ……ほう、これは、これは。何とも魅力的な娘だな。身も心も素晴らしい。

 薄幸の美しき聖女というわけか。


 私は、聖女イネスを見初めた。


 それにどうやら――彼女はハメられているようだ。


「理由はお分かりですわよね?」


 青年の傍らから魔術師のローブを着た華美な令嬢が、同情の欠片もない余裕の笑みで聞き返す。


「はい、皇女さま……。私は聖女の身でありながら、幾度も敗北し、二度も捕囚となり……奇跡の力を失って、皆さまの足を引っ張ってきた罪深き女です……」


「素直でよろしいですわ。役立たずだという自覚は、ちゃんとあったのですのね」


 イネスが泣きそうだというのに、皇女は嬉しそうに嫌味たっぷりだ。

 周りの冒険者たちからも、聖女をバカにする笑い声が上がる。


 この世界の人間たちは、古くから邪神教団との苦しい戦いを強いられていた。

 その希望となっているのが、女神から奇跡の力を授かった「聖女」たちである。 

 それでこの少女も聖女となったが、今は奇跡の力を失ったということか。


「それにね、あなたの代わりはもう見つけてあるのですよ。さあ、出てきなさい」

 

 部屋の扉が開き、まだ幼い顔立ちの娘が入ってきて、イネスが愕然となる。

 小柄で、短髪で、イネスとよく似た可愛らしい娘だった。


「エリーネ!?」

「お姉ちゃん……」


 ほう。イネスとこの娘は、姉妹らしい。


「なぜですか!? なぜ、エリーネがここに!?」

「彼女にもたらされたのよ。女神様の奇跡の力がね」

「そういうことだ。今日からは、君の妹エリーネが新たな聖女となって世界のために戦う。だからイネス、お前はもう戦わなくていいんだよ!」


 イネスはあからさまに反対しながら、妹に向き直った。


「エリーネ……あなた、本当に自分の意思で?」

「そうだよ。これからはあたしが戦う!」


 対して、妹は強い意志を見せる。


「だからお姉ちゃんはもう戦わないで。このままだと死んじゃうよ!」

「そこまで言うなら……見せてみなさい、エリーネ。あなたの実力を!」


 イネスは、館の地下にあった訓練場で剣の試合をすることになった。


「はっ!」

「キャアアア!?」


 しかしイネスは、妹に為す術もなく打ち負かされてしまう。

 聖女の力の有無は決定的。諦めず、五回挑むも結局全敗した。


「どう、お姉ちゃん!? これがあたしの実力だよ!」

 勝利した妹は、目元を涙で濡らしていた。

「うう…………エリーネ、すごいわ。強くなったのね」

 うちのめされたイネスは、痛みに苦しみながらもがんばって微笑んだ。


「これで決まりましたわね」

「ああ。奇跡を失ったイネスは追放。今から僕たちの聖女はエリーネだ!」


 パーティーの笑い声が響き渡る中、聖女はフラフラになりながら起き上がった。


「……王子さま、今までお世話になりました。妹をどうかよろしくお願いします」


 イネスがそこから出ようとすると、王子と皇女が話しかける。


「イネス、あの件は忘れていないだろうな」

「はい……いつか必ず」

「これからどうする? 聖女以外でなら、まだ僕たちと一緒にいられるぞ?」

「そうですわ。聖女ではなく、雑用係の侍女メイドとしてね」

「……考えさせてください。エリーネ、がんばってね」


 妹への精一杯の笑顔を最後に、聖女イネスは背を向けた。


「お姉ちゃん……ごめんね」



***



 その後、イネスは再起を図ろうと、新たな転属先を探して他の冒険者パーティーを転々とするが、どこからも無碍なく断られてしまう。


「ああ、女神様……私はこれからどうすれば……?」


 行く宛という希望を失った聖女は、教会の女神像に向かって、一人、涙を流しながら祈るしかなかった。


 天井の梁に、鴉が止まって見下ろしていることには気づかずに。

 鴉の眼を通して、私は彼女をずっと見ていた。


 大方、事は知れた。理不尽な追放だ。

 聖女は自分で気づけないまま、罠にかけられたのである。


 いつもくだらんな。愚かな人間たちのすることは。

 私は昔を思い出し、憎たらしくほくそ笑む。


 あんな奴らの好きにさせるものかよ。

 それに、あの聖女は実に美しいしな――。


「やっぱり王子さまのもとに戻るしか……」

 教会の長椅子に座っていた聖女があきらめかけたタイミングで、

「どうしたんだい、お嬢さん?」

 私は、聖女イネスの前に現れた。

 身の丈ほどの杖を持ち、全身にローブを着た、頼りがいのある男の姿でだ。


「あ、あなたは?」

「なあに。通りすがりのしがない魔法使いさ」

 驚く聖女に、軽く自己紹介をして、

「なんだか君がとても困っているみたいだったのでね。何かあったのかな?」

 隣に座ってもいいかなと誘うように問いかける。


「……はい。実は――」

 誰かに助けて欲しいイネスは、迷いながらも話し始めた。

 この人が助けてくれるかもしれないという、わずかな希望を抱きながら。


 かわいそうな聖女の口からぜひとも聞きたかった私は、隣に座る。


 かつて、イネスはただの町娘だった。

 両親を失って、妹を育てながら二人で暮らしていたという。

 そして三年前、人々が邪神との戦いに苦しみ、ずっと義憤に駆られていた中で、女神の加護を授かった。邪神教団から妹エリーネと世界を守るために、彼女は聖女となったのだ。


 それから、亡国の王子と出会い、彼が率いていた冒険者パーティーに加わる。

 奇跡の力で、光の剣を振るい、聖なる魔法で仲間たちを支援し、数多の邪教徒と魔物たちを倒して人々を守った。


 聖女イネスは希望として崇められ、亡国の王子は邪神を倒す勇者に最も近い男ともてはやされる。帝国がバックにつき、魔術師の皇女が新たな仲間となり、聖女と王子たちは、この世界で最強最高のパーティーになったという。


「全てが順調だったんだね」

「……はい」

「その右手の指輪もその頃に?」

「これは……ある方がくれたものです」


 将来を誓い合った時に王子がくれたものだろう。


 しかし数ヶ月前、突然、イネスは奇跡の力を失った。


 光の剣は鉄の塊と化し、聖魔法は使えず、かつての活躍はできなくなる。

 運にも恵まれず、邪神教団に何度も敗北し、邪教徒と反逆者に二度も捕らえられ、助けてくれた王子たちを危険に晒した。

 まだ人々に愛されていたが、聖女としての威信は落ち、王子の信頼まで失った。


「……そして、私はとうとう追放されました」

 イネスは語り終える。自分は聖女に戻りたいのですと。

 私は聞いた。

「まだ隠していることがあるね」

「……えっ?」

 イネスの驚きようが、図星だと伝える。


「例えば、妹のことで王子にお金を借りているとか?」

「……おっしゃるとおりですわ」


 彼女は白状するように語り続けた。


 聖女になった後、妹は田舎の村の叔父に預かってもらっていた。

 しかし叔父は農地を広げてこれからという時に教団の襲撃を受けて命を落とし、無事だった妹は叔父の遺した莫大な負債を抱えることになってしまう。


 その負債は、亡国の王子と魔術師の皇女が立て替えてくれたらしい。


 彼らへの恩と負債を何とかして返そうと奮闘したが、不運なことに反逆者に捕まってしまい、その時の身代金で負債はさらに積み重なってしまったという。


「この事を知る者は、わずかしかいません。どうか、誰にも話さないでください。どうか……」

「もちろんだとも。聖女が借金などという俗なことを、と知られたら、邪神と戦う人々の心に悪い影響を及ぼしてしまうからね」


 聖女とて一人の人間、ましてや愛する妹のため。

 それでも気にするのが、愚かな大衆だからな。


「そうだったんだね。かわいそうに――」

 私は悲しそうな目を浮かべ、彼女に同情を示した。

「よし、わかった。魔法使いが助けてあげよう」

「えっ……ほんとうですか?」


 イネスは迷う。

 頼りたいのは山々だが、まだ会ったばかりの私のことを上手く信用できない。


「魔法使いさま……どうして、私を助けてくれるのですか?」

「おとぎ話を読んだことはあるだろう? 魔法使いとは、そういうものなのさ」


 私は優しく微笑んだ。

 彼女の心の中で、聖女としての誇り、私への恐怖、王子への未練、妹への愛情、様々な想いが交錯する。


「どうする? 王子殿下の元に戻りたいというのであれば止めはしないが……」

 と私が帰ろうとする素振りを見せて立ち上がると、

「待って! お待ちください、魔法使いさま……」

 舞い込んだ幸運を逃したくないと、イネスは座ったまま私にすがりついた。


「……お願いします、魔法使いさま。どうか私をお助けください……助けて」


 彼女の願いは、聖女だった自分を取り戻すこと。

 そのための希望は全て潰え、秘密も握られてしまっては、彼女はもはや私に助けを求めるしかなかった。


「もちろん約束するよ。私が必ず君を助けると。必ずね。さあ、ついておいで」


 そうして私は、聖女イネスを誘い込んだ。我が術中へと。



***



「それで、魔法使いさま。いったいどこへ?」

「実は、私は冒険者ギルドを持っていてね。まずはそこを見せてあげよう」

「そこに……私を入れてくださるのですか?」

「どうするかは、後で君が決めるといい。けどきっと気に入ると思うよ。君の新しい居場所としてね」


 私たちは、町の路地を歩いていく。

 しばらくして辿り着いたのは、古くも美しい館だ。


「うわあ、きれいなお屋敷……」

「そうだろう。中もすごいぞ」


 私は扉を開けて、イネスを中に招く。


 その中は、美しい宿であった。

 入ってすぐの広々としたロビーには、まばゆい照明で彩られた酒場が置かれ、高級の長卓と椅子が整然と並んだ内装が、イネスをさらに感動させる。


「なんて素敵なんでしょう。ここが魔法使いさまのギルドなんですね?」

「そうだとも。この館は、私自ら設計して、一から建てたものなんだ」


 ちなみに、館のデザインは、来る途中で彼女の好みに合うように魔法で調整しておいた。


「まっ、見ての通り、今は人がほとんど出払っているけどね」

 その通り、館にいるのは三人だけだ。


「いらっしゃーい」

 その内の一人、給仕姿の少女が私たちを出迎える。

「って、なんだ、お師匠か。後ろの子はどちら様……って、聖女さまじゃん!」

「喜べ。うちに入るかどうか見に来てくれた」

「マジで!? マジで!? お師匠、やる~♪」


 私の前で、二人の少女が向かい合う。


「イネス。この子は、私の弟子のフィーだ。ここで働いている」

「はじめまして、フィーさん」

「ようこそ、ようこそ、聖女さま。冒険者ギルド『秘密の館』へ!」


 少女たちが仲良くする姿は微笑ましい。

 次に残りの二人を紹介した。


「赤髪の赤騎士。自称、不死身にして無敵の男。前衛は比類ない」

「聖女様、お会いできて光栄の至り!」

 赤色の髪と鎧を着た騎士が感動して、がっしりとした肩を震わせる。


「東の暗殺者アサシン。無口な男で、武術、隠密、格闘術の達人だ」

 頭のフードで顔を隠した長身の男が、無言のまま片膝をついて跪く。


「そして、私の弟子のフィーだ。魔法は一通り教えてある」

「これでも魔術師の端くれだよ。よろしくね、聖女さま!」

 魔術師姿に着替えてきた弟子が改めて明るく自己紹介した。


「あとは出払っているが、皆いずれもが、私が世界中を旅して集めた最高の冒険者たちだ」

「魔法使いさまは、メンバーではないのですか?」

「私はここのオーナーさ。たまには戦うよ」


 ギルドについて、イネスに一通り紹介を終える。


 知識を広げるために始めたのだが、それでも私のギルドだ。

 聖女の新たな門出として、ここ以上にふさわしい場所はないと断言できる。


「さて、聖女よ。どうする?」


 イネスはよく考えてから決意する。もはやここ以外に道はない。


「……決めました。魔法使いさま、どうか私をこのギルドに入れてください」

 彼女の申し出を聞いて、私と弟子たちは破顔した。


「ありがとう。歓迎するよ」

「これからよろしくね。聖女さま」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 イネスはようやく救われて、安堵の笑顔を見せる。


「さて、しばらくは私が君のそばで助けてあげようかな」

「そんな、お忙しいでしょうに……」

「遠慮するな、聖女さま。世界の命運がかかっているんだから」


 その気になれば、いつでもどうとでもできるが、今は聖女のそばで一緒に過ごしたいからな。


「それと皆さまに『聖女』と呼ばれるのは恐縮です。私はもう『聖女』ではありませんから」

「いいや、そんなことはないよ」


 イネスの言葉を私は否定した。


「私が予言しよう。女神は再び君に微笑み、奇跡の力を授けてくださると」

「ほ、本当ですか?」

 私の言葉に、イネスは胸を大きく弾ませる。

「ああ、本当だとも。では新入りの君にこの指輪をプレゼントしよう」


 私は懐から金色の指輪を出して、イネスがドキッとするのも構わずに彼女の右手を取った。


「こ、この指輪は?」

「ギルドのメンバーの証となる『秘密の指輪』さ。私の御呪おまじないがかけてある。君に幸運がありますように、とね」


 その指輪を、聖女イネスの右手の中指にはめる。

 隣の薬指にある王子の指輪と並ぶように。


「もう一度、予言しよう。聖女イネス。女神は再び君に微笑む。必ずね」


 その日、聖女は館に泊まった。


 翌日、聖女が余りにも心配するので、私は彼女の妹の様子を見に行くことに決め、弟子を連れて亡国の王子の屋敷を訪ねた。

 魔法の指輪屋さんに変装してな。


「まあ、なんて美しい指輪……」

「お嬢さん、お目が高い。それは輪廻の指輪。魔力回復の効果がありますぜ」

「それを五個買おう。あとその勇者の指輪を三つ。なあに、金に糸目は――」


 弟子が指輪を売り、亡国の王子と魔術師の皇女たちが夢中になっている間、私は密かに聖女の妹エリーネに近づいた。


「うわあ、お姉ちゃんのクッキーだ!」

「君のことをとても心配してね。私が様子を見に来たんだ」


 昨日のお礼がしたいと、今日の朝食を作ってくれたイネスの料理は逸品。

 聖女の手作りクッキーは実においしくて、ギルドメンバー皆に好評だった。


 これからも朝昼晩、私たちの三度の食事をできる限り作ってくれるという。

 聖女の手料理とは嬉しい発見だ。毎日の楽しみが増えて喜ばしい限りである。


 私は、エリーネに「お姉さんは私のギルドでがんばっているよ」と明かした。


「そうか。君はまだお姉ちゃんが大好きなんだね?」

「うん。お姉ちゃん、奇跡の力を失った後も無理ばかりして。だから今度はあたしがお姉ちゃんを守ってあげたいの」


 それで、王子と皇女が説得して、今のパーティーに入ったようだ。


「お姉ちゃん、また無理してないよね?」

「ああ。そんなことはさせないよ。約束しよう。私と君との約束だ」

「ありがとう、おじさ……ううん、お兄さん!」


 私は、妹にも秘密の指輪をプレゼントして、右手の中指にはめてあげる。

 妹の人差し指には、姉と同じ王子の指輪があった。



***



 まもなくして起きた邪神教団との戦いで、イネスは《秘密の館》ギルドの冒険者として参戦した。


 その日は、邪神の魔女が率いる侵略軍と人間側の連合軍との戦いとなる。


 邪神の魔女とは、邪神教団の幹部たちのことだ。

 聖女と同等以上の力を持ち、人間たちにとっての恐るべき脅威である。


 魔女と相対したこの戦いで、イネスの活躍は目覚ましいものとなった。


「赤騎士さん、ここの前線を一分間支えてください!」

「心得た、聖女よ! 吾輩の戦いぶりをしかとご覧あれ!」


 赤騎士が百体もの敵をたった一人で足止めする。

 イネスは勇ましく先頭に立って、ギルドメンバーと軍の指揮をする。

 策を授けたのは私だ。


「聖女さま、アサシンから連絡! 魔女が援軍を引き連れて、こっちの側面を突こうとしてるって!」

「フィーさん、アサシンさんに伝令を。魔女の軍を私たちのところに引きつけるようにと。敵勢がまとまったところで、フィーさんの魔法と私の光の剣で――!」


 策は成功した。

 敵勢力は壊滅。イネスは自ら振るった光の剣で、魔女を見事に討ち取った。


 力を失ったはずの彼女に、どうしてそんなことができたのか。

 決まっている。私の予言通り、イネスに奇跡の力が戻ったからだ。


「聖女さまー!」

「聖女さまー!」

「聖女イネスさま、バンザーイ!」


 聖女イネスの復活に、兵士と冒険者たちは歓喜した。

 そんな彼らに、聖女は優しく笑いかけて手を振ったのは言うまでもない。


 フィーたち、彼女の新たな仲間も鼻高々だ。


 そんな聖女に、私は近寄った。


「見事だったよ。がんばったね、イネス」

「魔法使いさま……ありがとうございます」


 私に褒められて、聖女は心から喜び、感謝した。


 ちなみに邪神の魔女は、かつていた聖女たちの成れの果てだが、まだイネスに話す時ではない。


 一方、別の戦局では、亡国の王子パーティーが悪魔の軍勢を圧倒していた。


「喰らえ、悪魔共! 僕の裁きの雷を!」

「フフフ。私の炎で、燃えてしまいなさい!」


 空高くから私の鴉が見下ろす中、王子の電撃剣と皇女の火魔法が悪魔の群れを焼き払う。

 他の仲間たちも強い。さすがはこの世界、最強の一角といったところか。


「女神様、あたしに力を!」


 特に目を引くのが、新たな聖女エリーネだ。

 そのパワーは姉以上で、光の剣で悪魔を一掃し、パーティーの強さを底上げして、瞬く間に治癒してしまう。


 そして彼らには、私が売った魔法の指輪もあった。


「もう魔力が回復してますわ。本当にこの指輪、すごい効き目ですわね?」

「ああ、あの指輪屋、いいものを売ってくれた」


 全能力を強化し、敵の位置を遠くから察知させ、魔力を半永久的に回復させる。

 そこまでの効果が得られて、彼らはさらに調子づく。


 その代償にも気づかずに。


「さあ、このまま一気に!」

「――待って、王子さま!」

 王子が追撃に出ようとすると、妹が止める。


「どうした、エリーネ?」

「何かが……近づいてきてる」

「何を言ってるのですの? 悪魔共はもう全部逃げ出して……!?」

 

 その瞬間、彼らの目の前の空間が黒く引き裂かれて――、


『OOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』


 そこから、彼らにとって全く未知の巨獣モンスターが現れた。


 その後、王子のパーティーは、戦死者四名を出して無残に敗走する。

 新たな聖女が巨獣モンスターを倒していなければ全滅していたことだろう。


 この事は帝国の介入で隠蔽されたため私だけが知ることになり、伝えられた聖女はひどく狼狽した。

 私がクッキーを土産に見舞いに行くと、無事だった妹は元気な笑顔を見せ、後で姉を一安心させる。


 その時の姉妹の幸せな姿は、私を微笑ませてくれた。

 王子と皇女御一行の無様さを目にした時以上にな。



***



 それからも邪神との戦いは続き、聖女イネスと秘密の館一行は活躍を重ねる。

 聖女エリーネも負けじと、強大な奇跡の力を揮う。


 聖女姉妹の健気で可憐な献身は、この世界の人間たちの希望となっていった。

 助け続けた私は、イネスの信頼と好意を深めていく。


 それに引き換え、亡国の王子一行は落ちぶれていった。

 冒険に出る度、未知のモンスターに襲われ、妹聖女に守られて、失敗を繰り返す日々。

 未知のモンスターは彼らの前にしか現れず、帝国の介入があるため世間に知られることはない。

 しかし成功譚もなく、見窄らしく荒れ出した彼らの姿に、人々は失望した。


 そんな王子をイネスは心配になってしまう。彼らに追放されたというのにだ。

 未練もあっただろうが、さすがは聖女。なんと素晴らしい慈愛の持ち主か。


 なのに彼らは、それに全く値しない。

 そろそろ我が愛しの聖女に、恋していた彼の本性を教えてあげるとしよう。



***



 いつものように鴉が見透す中、屋敷の奥で王子たちが荒々しい会議をしていた。


「クソ。なんでなんだ!? あのモンスターはなぜ僕たちだけを……」

「全くもって不愉快ですわ! 邪神の呪いだというの……」


 王子と皇女が醜く喚き散らす。


 周囲で不快に聞いている仲間たちは、聖女を追放した時には、バカにした冒険者が百人もいたのだが、今では死ぬか、抜けたりして、五十人足らずだ。


 勢いを失った彼らは、ますます私から指輪を買うようになっていた。

 この指輪は強烈だからな。ハマり込んで、身を滅ぼす程に。


「そんな言い方やめようよ。王子さま、皇女さま。今はみんなで……」

 彼らより年少のエリーネが大人になってたしなめるが、

「エリーネ。なぜなんだ!? なぜあの怪物に、お前だけが勝てる!?」

 却って、王子は激怒した。


「えっ……?」

「だってそうだろ! あの怪物はお前を襲わない、怪物の強力なブレスもお前には効かない、逆にお前の攻撃は効果絶大だ!」

「確かにそうですわ。どうみたって変ですのよ?」

「それは……あたしにもわかんないよ」


 エリーネはそう答えることしかできない。


「エリーネ……お前、何か仕組んだのか?」

「えっ?」

「あの怪物を操って、僕たちを陥れて、お前だけ出世しようと!?」

「そんな……あたし、そんなことしてないよ!」

「いいや、嘘だ!」


 少女が必死に否定しても、王子は頭に血が上って聞き入れない。


「復讐のつもりか!? 僕がした――」

「王子様!」

 それ故に、己の口から漏れてしまう。

「……王子さま、今のどういうこと?」

 皇女が止めるのも遅く、エリーネは聞き逃さない。


「『僕がした』って……お姉ちゃんに何かしたの!?」

 今度はエリーネが怒り、王子に詰め寄る。

「……なんでもない」

「嘘! 何か言ってよ。答えてよ!」

「うるさい!」


 王子は怒りのままに、両手でエリーネを思いっ切り突き飛ばした。

 エリーネの小さな体が、床に勢いよく倒れてしまう。


 既に暴力沙汰だというのに、皇女たち他の仲間は呆然となって見ていることしかできない。


「イネスも、お前も、この僕に向かって生意気な口を聞きやがって!」

 そして王子は倒れたエリーネに近づくと、

「やめてください!」

 誰かが王子の前に進み出て、倒れた妹に駆け寄った。


「……イネス?」

「ご無沙汰してます……エリーネ、大丈夫?」

 理解できない王子の前で、イネスは膝をついて妹を介抱する。


「イネス、どうしてここに?」

「私が連れてきた」


 呆然となる王子に向かって、私は部屋に入って言った。


「お前……指輪屋?」

「イネスが君と妹のことを余りにも心配するのでね。今日は彼女も連れて来たのだが……これは何というべきか」


 もちろんこのタイミングを狙ってきた。聖女を誘ってな。


「フィー、頼む」

「はいよ~」


 フィーがイネスとエリーネを連れて、部屋を出ていった。


「待て、どこへ連れて行く?」

「亡国の王子よ。さっきの君の言葉は聞かせてもらった。やはり私の推測通りだったな。君が、イネスの奇跡の力を奪ったんだろ?」


 私は向かい合って、王子を問い詰める。


「な、なんのことだ?」

「君と皇女は、イネスにあげた指輪に呪いをかけた。邪神の力による呪いをな。それでイネスを『汚れた。裏切った』と女神に思わせて、奇跡の力を失わせたんだろう。代々、王侯貴族たちが聖女を操るために使ってきた闇の手口だ」


 女神は潔癖な性格で、聖女のわずかな汚れも許さない。聖女が汚れれば、すぐに怒って、自分があげた力を取り上げるという。心の狭いことにな。


「なぜ僕がそんなことを? 聖女だったイネスは大事な戦力だったし、僕と彼女は将来を誓い合って……」


「だけどイネスは貞節。身持ちは堅く、結ばれるまではと君の求めも断った。また生真面目で、君にも王子らしくしてくださいと言いつけてくる。君はそんな彼女が嫌だった。実は好色、誰かに言い聞かせられたくない君は、もっと従順な女がいい。何でも聞いてくれるそこの皇女のように。だから流れた。皇女と婚約すれば、帝国の支援で王国を再興し、王様になることも夢ではないからな」


 私のその一言に、亡国の王子は、皇女と一緒にギクリとする。

 既に大抵のことは、イネスに伝えてある。とても怒られたよ。


「そこで素直に謝ればいいのに、お前はまだイネスに未練があった。もっと従順な女にしたいと望んだ。そこで皇女にもそそのかされたお前は、皇女の魔術で彼女にあげた指輪に呪いをかけ、女神に見捨てさせて、奇跡の力を奪った。イネスを無力にして、絶望させて、自分の言いなりにさせるために」


 冷や汗を流す王子は、苦笑しながら聞き続けた。


「力を失った後もイネスは気丈だったので、さらに追い詰めた。パーティー内で図り、帝国の裏工作まで使って、彼女を失態続きにさせることで。敵に情報を売り、邪神教団に彼女の叔父の農園を襲わせ、反逆者に彼女を捕らえさせ、負の遺産と身代金で借金まで背負わせた。そのあげくが追放だ!」


 つまりは叔父さんの仇でもある。こいつも見下げ果てた外道だ。


「妹エリーネが聖女になったことで、さらに好都合。妹をパーティーに誘い、追放したイネスを侍女メイドとして自分の手許に戻して、完全に縛り付ける。ゆくゆくは姉妹揃って奴隷同然に。王子は欲望を満たし、皇女は王子の昔の女を堕とすことができてご満悦……」

「……魔法使いさま」

 扉の方を振り返ると、イネスが戻ってきていた。


「もう十分です……」

 聖女の瞳から哀しみの涙が流れる。

 途中から聞かれていた。聖女の後ろで、フィーが顔でごめんと謝ってくる。


「証拠はあるんですの?」

 皇女が傲慢にも聞いてきて、私は答えた。

「私と仲間の暗殺者で徹底的に調べたよ。全ての証拠は既に君の父君である皇帝陛下に送らせてもらった。後で聞いてみるといい」

「そんな真似――」

「一番の証拠は、イネスの指輪の呪いに付着していた君の魔力残滓さ。ごくわずかだったから解析は困難を極めたよ。まっ、聖女のためならば苦はない」


 私がそう答えると、皇女は嘘ではないと悟り、顔が真っ青になった。

 痕跡は完全に消したと確信していたようだが、私の手にかかれば無駄なことだ。


 一方、イネスは、王子と向き合う。

 

「イネス……」

「王子さま……この指輪はお返しします」


 イネスは右手の薬指から指輪を外して、王子に投げつける。

 王子の体にぶつかって、床に転がった指輪は二つあった。もう一つは妹のだ。


「さようなら」

「イネス!」


 イネスの決別の言葉を最後に、私たちは秘密の館に戻った。


「それじゃあ、フィーさん……エリーネのことお願いします」

「まっかせて。大丈夫。たいしたケガはしてないから……聖女さまも元気出してね。出さなきゃダメだよ」


 エリーネは秘密の館で保護して、フィーが看護に当たった。


 イネスはさまうように自分の部屋の扉の前まで戻り、放っておけない私はそこまでついていく。


「……魔法使いさまがいてくださなければ、私、どうなっていたんでしょう?」


 立ち尽くすイネスの口から嘆きがこぼれ落ちる。


「王子さま……とても勇敢で、優しかったんですよ……そりゃ変に体を触られたり、言うこと聞いてくれなかったり、怒鳴られることはありましたけど……」


「わかっている。君は何も悪くない。君は何も……」


「魔法使いさま……魔法使いさま…………う、う、うわあああああああー!!」


 イネスはかわいそうに泣きながら、私の胸に抱きついてくる。

 私は優しく抱きしめ、慰めてあげた。



***



 王子と皇女のパーティーは、大事な守護者である聖女を辱めた罪に問われて、追放処分となった。

 ただし、あくまで公式上はである。実態は、皇太子の庇護下に置かれていた。


 くだらん、政治だ。

 ――思い知らせてやるのは、もっと後にしてやるか。



***



 あれ以来、エリーネは秘密の館の仲間となる。フィーとは大の仲良しだ。

 イネスは右手の薬指に私があげた指輪をはめてくれていた。それに何かと私に甘えてくるようになる。


 ある日、館の中にある訓練場で、姉妹が剣の試合をしていた。


「たああー!」

「いたあ!?」


 イネスが妹の木剣で頭を打たれ、ショックで座り込んでしまう。

 驚くべきことに、イネスに奇跡の力が戻っても、妹の方が強かった。


「一本! エリーネの三連勝!」

「どう? もうお姉ちゃんじゃ、あたしには勝てないよ!」

「うう、そんな……」


 審判のフィーと勝者の妹に負けを言い渡され、イネスは落ち込む。 

 初めの時とは違って、妹は姉に容赦ない。

 聖女としての戦いが、エリーネを随分とたくましくさせたようだ。


「まだよ、エリーネ。復活したお姉ちゃんの力、見せてあげるんだから!」


 姉と聖女のプライドにかけて、イネスは負けたくない。

 何より、私に強い聖女として見てほしいから。

 

「いいよ、お姉ちゃん。やれるもんならね!」

「やっちゃえ、エリーネ!」


 イネスはがんばるも、かわいそうに勝てそうになかった。


 エリーネの才能には私も驚いている。彼女の奇跡の力は、最初から姉を超えており、既に歴代聖女の中でも最高峰。これでまだ発展途上なのだから。


 全く、こういう驚きがあるから世界を巡り、知識を広げるのはやめられない。

 もちろん、この世界での最大の収穫は、聖女イネスだ。


「あう……」

 がんばったイネスは、何度も妹にコテンパンにされ、とうとう力尽きてしまう。


「どう、お姉ちゃん、まだやる……お姉ちゃん?」

「こりゃ、やりすぎたね。ごめんね、聖女さま、大丈夫?」


 妹と弟子が動けなくなったイネスを介抱する。


「ハア……ハア……まだ……まだなんだから……」


 妹に敗北した聖女は、ぐったりと目を閉じて倒れ、ハアハアと喘ぐことしかできない。


「そのへんにしておきなさい」

 そこに私は現れた。

「……えっ……魔法使いさま!? いやだ、こんな――きゃん!」

 聖女は目覚め、恥ずかしがって起き上がろうとするが、足に力が入らずにまた転んでしまい、恥を上塗りすることになった。


「……いつから見てたんですか?」


 両ひざをついたイネスが、涙目で顔を真っ赤にしながらたずねる。

 私はいけないことに、いじめてしまいたいと思った。


「うむ。君が初めに負けた時からかな」

「ほとんど初めからじゃないですかー!」

「いや、君が妹相手に、必死にがんばる姿も、負けちゃう姿も、倒れている姿も、とても可愛かったぞ」

「ひどいです。ひどすぎます……もう、いじめないでください……」


 イネスが泣きながら顔を背けて、私は慰めながら謝った。


 ただイネスは心の隅で、こんな姿を私に見せたいとも思っている。

 魔法使いさまならばいい、と。


「それじゃあ、お兄さん。お姉ちゃんのことよろしく」

「聖女さま、お師匠と仲良くね。ごゆっくり~」


 雰囲気を察した妹と弟子が、私たちをからかうようにその場を去り、イネスをもっと赤くさせた。


「……私、ダメな聖女ですよね」

 イネスが弱音を吐く。慰めてというサインだ。

「王子さまのことも気づかなくて、妹にも負けるだなんて……私、聖女なんて向いてないんじゃ……」

「そんなことはないよ」

 もちろん私は慰め、励す。


「エリーネは確かに強いが、精神的にはまだ若い。指導力や社交力で優れた君が支えてあげないとね。それにみんなが知っている。人々の希望となっている聖女は、イネス。君だ」

「……魔法使いさま」

「さあ、疲れただろう。休むといい」

「はい……」


 私はイネスを優しく抱き上げ、癒しの魔法をかけると、館の中にある浴場まで連れて行ってあげた。

 イネスは湯船から上がって薄着に着替えると、かまどの火が温かい休憩所に来て、腰を下ろして待っていた私のひざを借りて、安らかに眠った。


 イネスの心は、とても傷ついている。


 日頃から聖女としての戦いで疲れているというのに。

 聖女の力と名を失い、敗れ、囚われ、追放されて、あの頃はもうひどかった。

 後に王子の裏切りを知って、守ってきた妹より弱くなってしまい、傷は深まる。


 傷心のイネスは、誰かに助けて欲しい。

 無理もない。まだ少女だ。

 しかし、人々から愛されし希望、聖女でもある。


 人々のためには、誰にも甘えられない。

 甘えられるのは、私しかいない。


 だからイネスは、少女としての恥、弱み、涙を、私にだけ見せる。


「魔法使いさま、見て」


 助けて、癒やして、励まして、慰めて、と私にお願いしてくるのだ。


 だから私は、「君を助ける」とイネスに語り続ける。

 聖女という少女の心に、私からの愛を積み重ねるのだ。


 上手につけ込んで、優しくつかみ取りながら。

 赤い果実を黒い大釜で煮るように、じっくりと。


「魔法使いさま……大好き」

 かわいいイネスが、寝言を言った。

「ああ、私もだよ。私のかわいい聖女さま」



***



 我々の仲間、東の暗殺者が山脈の奥深くで邪神教団の本拠地、邪神の大神殿を発見した。

 人間たちの連合軍は、そこへ進軍して決戦を挑むことになる。

 聖女姉妹と秘密の館のパーティーは、先駆けを担う名誉を授かり、私も同行することにした。


「魔法使いさまも来てくださるのですね?」

「ああ。君の最後の戦いだ。助けてあげると約束したからね」


 そう聞いて、イネスはとても喜んだ。


 街から出陣する時となり、聖女イネスが馬に乗り、街から人々の歓呼に包まれる中、王子と皇女が睨み続ける視線に、私だけが気づく。

 

 それからの大神殿までの道のりは平坦ではなかった。

 途中まで幾千もの軍勢が何度も立ちはだかる。


 邪神の魔女を筆頭に、魔女の騎士、邪教神官、邪教徒のゾンビたち。

 聖女たちは犠牲を重ねながら次々と突破した。


 そして遂に大神殿の前に到達して、さらなる強敵が現れる。

 上位の魔女、破壊の黒悪魔、死神の鎌の巨人。

 突破は困難を極めた。


「ここは我々に任せ、あなた様は大神殿の中へ!」

「今度こそ邪神教団を! 私たちの世界のために!」

「聖女さまー!!」

 

 戦士、兵士、冒険者たちが必死に呼びかける。

 聖女は涙を呑み、私と秘密の館の仲間たちを連れて、大神殿の中へと突入した。


 奥まで突き進み、途中で敵勢を止めるため、赤騎士、アサシン、フィーが残る。


「足止めは吾輩たちにお任せを!」

「邪神は頼んだよ、聖女さま!」


 さらに最終エリアの前で、デススタードラゴンが立ちはだかる。


「手強いな。私が遊んでやるか!」

「魔法使いさま!?」

「先に行け。なあに、すぐに駆けつけるさ」

「お姉ちゃん、行こう!」

「魔法使いさま……ご武運を!」


 聖女姉妹は最終エリア、大儀式の間へ到達した。


『待ちかねたぞ、今代の聖女よ』

 そこで待っていたのは、邪神教団の教祖、大魔女だ。

 彼女をひと目見て、イネスは背筋が凍る。


『何と美しい。邪神様降臨の生贄としてくれよう』


 声を聞いているだけで、血の気が失せ、肩が震え、足がすくみ、思い知る。

 自分では勝てないと。


「お姉ちゃん、しっかり!」

 イネスの恐怖は、妹の一言だけで霧散する。

「大丈夫。あたしとお姉ちゃんなら勝てるよ!」

「そうね……大魔女! 邪神教団の悪行もこれまでです。私たちの手であなたを倒します!」


 決戦が始まる。

 大魔女が放つ闇魔法と呪いの魔力は極大。

 確かにイネス一人だと勝てなかっただろう。

 だが今はエリーネがいる。聖女は姉妹で二人いる。相性は抜群だ。


「光よ!」

『なに!?』

 聖女姉妹が同時に放った聖魔法が、大魔女の闇魔法を消し去る。


「今よ! 光の剣で!」

「これで、最後だー!」

 そして姉妹二人で斬り込み、十字の光の剣で大魔女を断ち斬った。


『ギャアアアアー!?』

 勝った!? そう思った聖女姉妹が振り返った瞬間――、

『アアアアアア――ナント、美シイイイイイイイイイー!!』

 大魔女の中から巨大な悪霊が現れ、ドス黒い瘴気の腕でイネスを抱き寄せた。


「ぐうううっ!?」

「お姉ちゃん!?」

 イネスの必死の抵抗も虚しく、大魔女の身体に抱きつかれ、黒い瘴気にまとわりつかれ、動けなくなってしまう。


『美シイ、ナント美シイコトカ! 聖女イネス! 我ノ新タナ伴侶ニシテクレヨウ!』

 悪霊が、凄まじい瘴気を放ちながら醜い男の声で歓喜の叫びを上げる。


「あ、あなたは!?」

『教エテヤロウ。我コソガ、邪神ダヨ』


 その通り。この世界の闇の権化、邪神様のお出ましだ。


「あなたが……邪神!?」

『ソウダトモ、ズット我ガ聖女ノ中デ、我ガ眷属ノ者共ヲ操ッテイタノサ!』

「……聖女?」

『マダキヅカナイカイ? 大魔女ト魔女タチハ、君ト同ジ聖女ダッタ女タチダ』


 邪神の口から出た衝撃の事実に、イネスが愕然となった。


「魔女が……聖女!?」

『嘘デハナイ。女神ガ寄越シテクレタ聖女タチヲ、我ガ取リ憑イテ、魔女ニシテ、我ガ伴侶ニ変エテキテヤッタノサ!』


 イネスは、これから自分がされることに気づいて身の毛がよだつ。


「……まさか、私も?」

『ソウダヨ、イネス。君ハ、最高ノ聖女。ダカラ我ガ最高ノ伴侶ニシテヤロウ!』

「い、いやあああああああああああああー!」

 

 余りの恐怖に耐えきれず、聖女イネスは泣き叫ぶ。


「お姉ちゃんを離せ!」

『オット、ヤメテオケ』

 エリーネがすぐに助けようとするが、邪神の一言に止められる。


『既ニ、我ト聖女ハ、魂ト魂ガ固ク結バレテイル。君ガ何カスレバ、オ姉チャンモ、タダデハスマナイヨ』

「そんな……」

「だったら、エリーネ。私に構わず――!」

『モットモ、我ハ邪神。人ヲ超エタ神ノ一柱。イカニ聖女トテ、人間ゴトキ少女デハ、滅ボスコトモ、抗ウコトモデキヌガナ。今迄ガ、ソウデアッタヨウニ!』


 抵抗も無意味。犠牲も無駄死。

 邪神に勝てないことを悟って、聖女イネスの瞳から絶望の涙がこぼれ落ちた。


『サア、聖女イネス、我ト最高ノ伴侶トナッテ、永遠ノ時ヲ共ニ生キヨウデハナイカー!!』

「いや……いやあ! 助けて! 助けてください! 魔法使いさまあああー!!」


 その時――、


「ああ。約束したとおり――助けてあげるとも!」


 私は駆けつけた。


「魔法使いさま!」

「甦れ。かつて大魔女を打ち破りし聖女の魂よ!」


 この時のために準備しておいた魔法を発動。

 邪神が取り憑いている大魔女の身体が光った。


『ナ……ナンダ?』

『……邪神よ。そんなことはさせません!』

『オ、オオオオオオオオオオオオオオー!』

 大魔女の口から、邪神の男声と、美しい女性の声が響き渡る。


 大魔女の身体が光り輝き、女性の精霊が浮き出てきて、邪神の悪霊の瘴気を抑え込む。

 イネスはまだ瘴気に捕らえられていたが、剣を握る右腕は動けるようになった。


「あなたは……まさか、聖女さま?」

「そうだ。私の魔法で、大魔女の肉体に女神の力を降臨させ、聖女の霊を蘇らせたんだ!」

「お兄さん、すごい!」


 自分のしたことを教え、エリーネがはしゃぐ。


「さあ、今の内だ! 聖女が女神の力で抑え込んでいる今であれば邪神を倒せる!」

『そうです。長くは持ちません――今まで散ってきた聖女たちのためにも、早く!」

「君たちの光の剣で、邪神を滅ぼすんだ!』

「……わかりました!」


 姉妹二人は、再び光の剣を振り上げた。


「滅びなさい、邪神!」

「ずっと、ずっと、いなくなれー!」

『ヤメロ! ヤメロ! ヤメロオオオオオオー!』


 断末魔の叫びを上げる邪神の霊に、白く輝く剣が振り下ろされる。


『――ありがとう。私の可愛い妹たち』


 その声と共に、邪神の悪霊は、跡形もなく消え去った。

 

「私こそ、ありが……」

 イネスは力尽き、膝から崩れ落ちて、

「おっと」

 地面に倒れる前に、私が抱きとめる。


「おつかれ、聖女さま」

「魔法使いさまも……」


 聖女は幸せ一杯に微笑むと、私の胸元で安らかに眠りについた。



***



 決戦の大勝利に、人間たちは歓喜に湧く。

 同時刻、大神殿の地下深くに眠る洞窟で――、


『オノレ、オノレ――』


 わずかな残骸と化した邪神が蠢いていた。


『我ハ邪神。何度デモ、何度デモ復活デキル。スグニ――』

「おっと」


 そこに、一羽の鴉が舞い降りる。


『――オマエハ?』

「おとなしくしててくれるか。彼女に私との安寧をあげたいのでね」

『オマエハ――? オマエハ――!? オマエハアアアアアアアア――!!?』


 凶々しい神の絶叫が、小さくて真っ黒なくちばしの中に吸い込まれていった。



***



 邪神教団との戦いに勝利し、人間の王侯貴族たちによって盛大なパーティーが開かれる。

 主役は、もちろん邪神を打倒した聖女イネスだ。

 その最中、聖女は様々な男たちに言い寄られた。帝国の皇太子、騎士団長、公爵、伯爵、商会の御曹司、私生児に至るまで。大胆に求婚されることも。


 そんな彼らに対し、彼女は態度でこう示す。

 ごめんなさい、私には心に決めた人がいるんです、と。

 終盤になって、イネスは私と話をした。


「魔法使いさま、本当にありがとうございます。今の私があるのは、ぜんぶ、ぜんぶ、魔法使いさまが助けてくれたおかげです」

「いいや。一番の理由は、君ががんばったからだよ」

「魔法使いさま……」

 聖女はうっとりとなる。


「……私、あなたにお返しがしたいです。とても返しきれませんが、何でも、何でもおっしゃってください。私、何でもいたしますから」

「そうかい。それじゃあ……今晩、君の家に行ってもいいかな?」


 今夜、イネスは家に一人っきりだ。

 聖女は、魔法使いさまと私の、ふたりっきりで……と想像し、


「……はい。ぜひ、いらしてください。心よりお待ちしています」


 幸せで絶頂になった。


 夜になり、私は聖女の家を訪ねる。

 イネスは素敵なドレスを着て待っていた。


 彼女が腕によりをかけた夕食を、私はごちそうになる。

 食後は酒を飲み交わし、互いに笑い合う。


 彼女の姿は可愛くて、声は心地よくて、料理はおいしくて、話は楽しかった。

 ああ、やはり、聖女イネスは素晴らしい。


 聖女とのひとときを存分に楽しみ、聖女の方も幸せでたまらない瞬間、私は突然席を立った。


「……魔法使いさま?」

「すまない。急に用事ができてしまってね、ちょっと出てくるよ」

「あの、もしかして、私……何かお気に召さなかったことでも?」

「なあに。そんなに心配しないで。すぐに帰ってくるさ」


 私は思わせぶりな態度をしながら、家の扉を開けて外に出る。


 ひとりだけ残された聖女イネスは、家の中で泣きそうになった。


 私がもう帰ってこないのではないのかと、自分が何か粗相をして、私に嫌われてしまったのではないかと、もう二度と会えないのではないかと、心配でたまらなくなる。


 そうやって、焦らす。


 焦らす、焦らす。楽しいだろう?


 それに用事があるのは本当だ。


 さっきからあいつらが、イライラしながら覗き見していたからな。

 このまま放っておくのも面白いが、そろそろこっちから出向いてやるとしよう。


 私は道を裏に回って、真っ暗な路地に辿り着く。


「おい、いるのだろう。出てきたまえ」

 闇の中へと声をかけると、路地の影からみすぼらしい集団が現れた。


「指輪屋!」

「やあ、元気そうだな。王子さま」

 亡国の王子御一行様だ。


 その姿にかつての栄光の面影は微塵もなく、凶々しい剣や槍を持って殺気立ち、私に激しい怒りを向けて全身を震わせていた。

 今か今かとあの家に押し入って、私を殺し、無理矢理にでもイネスを奪い返そうと企んでいたのである。

 それで肌寒い夜の中、皇女の魔術を使ってあの家の中を盗み見ていたのだが、私が寵愛される様子を見せられて、もうたまらなかったというわけだ。


 ちなみにこいつらをここに送り込んだのは、帝国の皇太子。

 聖女にフラれた腹癒せも兼ね、邪神教団残党の仕業に見せかけ、聖女を悲劇のヒロインに仕立て上げ、人々からの求心力を――とそんなことはどうでもいいな。


「悔しいか。愛しの聖女を寝取られて?」

「うるせえー! このブタ野郎ー!」


 王子が、豚のようにわめいた。


「ほう、私は豚か。それでは豚に寝取られた君は、豚以下の何なんだろうな?」

「やかましい! お前だろ。僕たちを騙して、ここまで落ちぶらせたのは!?」

「ああ。私だよ」


 私はあっさりと認め、王子を憤慨させる。


「お前たちが先に、イネスの指輪に呪いをかけたんだ。だから私も、お前たちのお返しに呪いの指輪を売りつけてやったのさ」


「あの指輪には、どんな呪いが!?」

「異世界から力を奪う呪いだよ」


「……異世界?」

「こことは違う世界からな。ただしお前たちが依存した程の力を得られる代償に、時空の狭間を繋ぎ合わせ、力を奪われた存在を呼び寄せてしまう危険性がある」


「……それじゃあ、僕たちだけを襲ったあの未知のモンスターは!?」

「ご明察。お前たちに力を奪われた異世界のモンスターだ。まあ、私がそう仕組んだわけなんだが」


 私がほくそ笑み、王子と皇女たちはわなわなと震えた。


「もちろんエリーネは絶対に安全だ。私があげた指輪に、異世界の魔物に絶対に勝てる御呪おまじないをかけてあげたからな。襲われない、攻撃無効、弱点属性付与、絶対防御などなど」


「それが、エリーネだけが勝てた理由……」

「そうすることで、お前たちを落ちぶらせ、エリーネとの仲を引き裂いていき、そして決定的となるタイミングで、イネスにお前の本性を教えて……」

「イネスの奇跡の力はー!?」


 私の説明の途中で、王子が激昂した。


「イネスの奇跡の力はなぜ戻った!? 僕と皇女が指輪の呪いであいつを汚して、女神から見捨てさせてやったのにー!?」


「ああ、それか――私が女神を洗脳した」


 私の答えに、王子が黙り込む。


「女神を……洗脳?」

「この世界で『女神』とされる、神霊、概念、権能、摂理、思念体、システム……と、まあ、呼び方は何でもいいが、その存在に会いに行って、女々しい性格をしていたから、イネスにまた奇跡の力を与えるように、私が躾けてやったのさ」


 王子と皇女は、何も言えない。


「まあ、聖女が少し汚れたぐらいで、気が変わる心の狭い女神様だったんだ。心を入れ替えさせてやった方が、この世界の人間たちのためというものだろう?」


 全く、理解できない故に。


「ああ、全く、亡国の王子よ。さっさと皇女を捨てて、聖女に謝っていれば。お前は救われただろうに。お前は勇者となり、聖女と結ばれて、ハッピーエンド。この世界で永遠に語り継がれる伝説になっただろうに。そうなるとその中で、私は、君を助ける魔法使いか。それは、それで、聞いてみたかったな~」


「もう黙れ! 黙りやがれー!」

 王子の怒りが頂点に達した。


「さっきからワケわかんねえ、フザけたことを言いやがって! お前ら、構わねえ、こいつを殺せー!」

「「おおおおおおおー!!」」

「おっ、やっと手を出してきてくれるか。これでようやく――好きにできる」


 私は嗤い、杖を持っていない手の指をクルッと回して魔法をかける。

 王子たちは、立ったまま動けなくなった。


「動けねえー! なんだ!? なにをしたんだ、てめえー!?」

「金縛りの術をかけただけだぞ。そんなこともわからないのか」


 私が呆れ返る。奴らは怒るか、恐れるか、後悔することしかできない。


「わかっていないな。魔法使いを相手にするのが、どういうことなのか。まあ、無理もない。人間の魔術師ときたら、火しか使えない、回復はできないといった、無知蒙昧な愚物ばかりときたもんだ。そこの皇女さまのように」


 皇女はご自慢の魔術で解こうとするが、当然為す術もない。

 だから私は教えてやることにした。


「本当の魔法使いはな、こんなことや――」


 まず奴らのうち一人を、火だるまにして焼き殺し、


「こんなことも――」


 次に、刃物を持った二人を操って、互いに刺しまくり、


「これからお前たちに見せてやることだってできるんだぞ」


 王子だけ金縛りを解いた。

 いきなり自由になって、王子が事態を飲み込めず立ち尽くす。


「ほら、かかってこい」


 私が杖を振り回して見せてやると、王子はようやくやるべきことに気づく。


「うおおおおおー!」

 剣を振り上げ、猛然と私に斬りかかってくる。


 亡国の王子は、聖女にも匹敵するこの世界で最高の剣士の一人。

 手にする剣は、聖女封じの力を持った帝国の秘宝、邪神の剣だ。

 堕ちたものだな。


 その一撃を軽々と避けて、私は王子のほほに杖の一突きをお見舞いした。


「ぐっ!? くそ!」

 王子が切り札である電撃剣を使おうとする。

「おっと」

「なっ!?」

 私は指を振って、電撃魔法をかき消した。


「男と男の決闘なんだ。魔法ナシでやらなくてどうする?」

「このー!!」


 微笑む私に、王子は怒り、何度も剣を打ち込んだ。

 その度に、私は避けて、避けて、杖をお返しする。


 打って、打って、壊して、壊して、弄ぶ。


「くそおおおおー!!」

「ほら」

「ぐはっ!」

 私は最後の一撃で、邪神の剣を叩き折り、王子を派手にブッ倒した。


「と、まあ、ご覧のとおりだ。本当の魔法使いはな、何だってできるんだよ」


 私は、遠慮なく言い放つ。

 倒れながら見上げる王子と、動けずにずっと見ていた皇女たちは、すっかり絶望に染まりきっていた。

 どうやらようやく理解してくれたようだ。私が魔法使いであることを。


「さて、ではおしまいにするか」

 私は、倒れたまま震える王子に近づいた。


「待て、待て、待て、待てー! お前も、勇者や国王の称号が欲しいのかー!?」

「くだらんな。私にとっては、異世界の魔王の位や神の座すらも、ただの通過点に過ぎないさ」


 亡国の王子に、私は魔法をかける。

 もちろん皇女たちにも。あとで皇太子にも。一度殺した奴は生き返らせてから。


 みんなにとって、かわいそうな結末(ハッピーエンド)となる魔法をな。


 私は聖女の家に戻った。


「すまない。遅くなってしまった」

「魔法使いさまー!」


 私は、鍵のかかっていなかった扉を開けると、心待ちにしていたイネスは勢いよく私に抱きついてきた。


「……心配でしたわ。もう帰ってこないのではないかと」

「そんなわけないだろう。かわいい君を待たせてしまっているのだから」

「魔法使いさま、今夜はもう、どこにも行きませんよね?」

「ああ、行かないよ、イネス。今夜はずっと、私と君のふたりっきりさ――」


 私は、聖女イネスとの素晴らしい一夜を過ごした。






 ――この世界から邪神はいなくなったが、争いが消えたわけではない。

 人々のためにイネスは聖女として戦い続け、私は魔法使いとして支え続ける。


 そんなある日、いつものように彼女の家で二人っきりで過ごしている時だった。


「最近、思うんです。王子さまたちがまた……」


 優しい聖女の顔に、恐怖、悲哀、怒りといった暗い感情が渦巻く。


「……絶対にもう嫌なのに」

「大丈夫。私がついてるよ」


 私が彼女の手を握って指輪に触れると、イネスは安心して笑顔になった。


 そうだとも。心配はいらない。彼らは、楽しんでいる。

 ()()()()()として、新しい人生を――。


「魔法使いさま」

「なんだい、かわいいイネス?」

「これからもずっと私のそばで助けてくださいね」

「もちろんだとも。私の愛しい聖女さま」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖女姉妹が可愛い(*´ω`*) [気になる点] 結局、【魔法使い様】の正体は前作の【異世界の魔王】で良かったのでしょうか。 あと、王子一行はどうなったのでしょう? [一言] 面白かったで…
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