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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悪役令嬢にTS転生したけど自由に生きる

作者: 神代騎龍
掲載日:2020/05/04


「ラフィーネ! お前との婚約を破棄する!」


 何というか、思った通りとでも言えば良いのだろうか、婚約者であるクリストファー殿下から婚約破棄の通告を受ける。


 現在、学園の卒業式後に行われるパーティーの真っ最中。既に国王を始めとして貴族の重鎮の方々も揃っており、そのお歴々をお待たせしていたのがこのバカ王子こと王太子のクリストファー殿下だったというわけである。そして、入場直後の第一声が今の婚約破棄の通告だったというわけだ。


「そしてこのメリーを新たな婚約者とする!」


 バカ王子こと王太子殿下が、更に遅れて入ってきたピンクブロンドの女性を周囲に分かるようにエスコートして新たな宣言をする。ここまでくるともう余りにもお約束(テンプレ)過ぎて逆にビックリするくらいだ。


 まあ、ここまでの流れを見て貰えば分かると思うが、所謂『悪役令嬢転生モノ』という既に使い古された物語ストーリーの終盤と言うことになる。俺自身、ネットでそういう作品をそこそこ読んではいたので有る程度のお約束(テンプレ)なら理解できると思っていたのだが、まさかここまで俺が思った通りの様式美テンプレに則って突っ走ってくれるとは思わなかった。


 そう言えば、言い忘れていたが俺が婚約破棄を受けた悪役令嬢のラフィーネである。つまりは『悪役令嬢転生モノ』というよりも『TS転生悪役令嬢モノ』と言った方が正しいのかも知れない。そこに『ざまぁ』の要素が加わるかどうかは、このバカ王子のこれからの言動に掛かっているのではないだろうか。


「やっとですか。婚約破棄は承りました」


 元が男なのでどうしても思考は男性側になってしまう。しかし、今の言葉遣いでは余り関係ないように感じるかもしれないが、普通にしゃべる時は女性の言葉遣いをしている。というか、さすがに十年以上もラフィーネをやっていれば言葉遣いぐらいは何とかなる物である。まあ、かなり厳しかった王太子妃教育の賜物とも言えるかも知れないが……。


「それではどうぞお幸せに」


 それだけ言って踵を返す。国王陛下や王妃様が真っ青な顔をしているが、王太子殿下自らが国王陛下を始めとした国の重鎮達の前で宣言してしまったのだ。既に婚約破棄このそうどうを無かった事には出来ないだろう。


「待て!!」


「何でしょう?」


 数歩歩いた所でバカ王子に呼び止められ振り返る。


「今までメリーに対して行ってきた悪行の数々、牢屋の中で悔いるがいい。捕らえろ!」


 本当に何処までもテンプレート通り。まあ、当然ながら想定はしてたけど。


「さあ、来い!」


 なかなかのイケメン君がやってきて俺の腕を掴む。さて、いかにもテンプレ通りということで、もう既に皆さんお察しの通りこのイケメン君が騎士団長の息子様である。


「嫌です。離して下さい! きゃっ!!」


 腕を掴まれて引っ張られたので一応抵抗を試みると、簡単に押し倒されて背中に痛みが走る。当然と言えば当然だろう。力に関して言えば男女差は勿論、レベル差もかなりあるので普通なら絶対にかなうわけが無いのだ。


 ちなみにこの世界にはRPG的なステータスが存在していて、目に見える形でステータスプレートなども表示できる。元となるのが乙女ゲームなのかラノベやら漫画なのか全然知らないのだがRPG要素もあるのだろう。普通に魔法も使えるしスキルも色々と揃っている。


「ふんっ! 抵抗など無駄だ」


 普通に考えればコイツが言うように、高々レベル25程度の女性である俺ではレベル100を超えている筈の男性であるコイツに勝てるわけがない。だが、さっきも説明したようにこの世界にはスキルがある。そして俺の場合、使い方によっては如何様にも出来るのだ。


「痛いですわねっ!」


「ぐぎゃっ!?」


 俺の持っている身体強化のスキルに10000倍のMPを注ぎ込んで100倍の効果を持たせる。なお、2倍にする為にはMPを4倍、3倍にする為にはMPを9倍必要とするので、効果倍率の2乗のMPが必要になるというわけである。そして、普通の身体強化で10%の上昇なので、今回は1000%上昇で通常筋力の10倍の力が上乗せされるというわけだ。と言うわけで、いとも簡単に拘束を抜け出した。というか、その際少しやり過ぎたようで彼の腕の骨がバキッという音と共に折れたらしく、ゴブリンの鳴き声かと思うような声を上げて倒れ込んでいた。一応言っておけば、ゴブリンの鳴き声ぐらいなら聞いたことはある。


「うぐぅっ!」


「貴様! 何をした!!」


「単に攻撃を受けたので相手の武力を封じただけですわ」


 騎士団長の息子のうめき声が響く中、バカ王子から問われたので素直に答える。バカ王子は気付いてないようだが、余りにもアホな王子の言動に……というか、騎士団長の息子に俺を襲わせたのを見た王妃様が卒倒してしまったようで、国王陛下の周辺もかなり慌ただしいことになっているようだ。


「ぶげっ!」


 騎士団長の息子が無事だった方の手で俺の足を掴んできたので、掴まれてない方の足で頭を踏みつけると簡単に気絶した。一応身体強化のスキルは発動中なので力は強くなっているのだろうが、踏みつけるという行為に関しては踏みつける速度と俺自身の体重に掛かってくるので力の上昇はそれほど関係しないはずである。


「そもそも!!」


 騎士団長の息子を助けようとしたのか、それともバカ王子の命令通りに俺を拘束しようとしたのかは知らないが、パーティー会場の警護をする騎士達が周囲に集まってきたので声を張り上げる。


わたくしには牢屋に入れられるような悪行という物がさっぱり分からないのですが、一体どう言う事でしょうか?」


 周囲を牽制しながらバカ王子に尋ねる。


「貴様ぁ! あくまでも白を切るか! 良いだろう、教えてやる。クラード!」


「はっ、かしこまりました。我がフライアンス家の恥を晒すのは忍びないが、この愚妹を抑えることが出来なかったのは私の落ち度だ」


 バカ王子には三人の取り巻きが居て一応それぞれが攻略対象っぽいのだが、そのバカ王子の命令で出てきたのがラフィーネの兄であるクラード・フライアンスだ。後の二人はここに倒れている騎士団長子息と、兄の後ろで見えにくい場所に立っている外交官子息である。バカ王子は勿論のこと、兄を含めた取り巻きの様子から考えても間違いなく乙女ゲームで言う所の『逆ハールート』に乗っているのだろう。


「まず去年の11月13日、公爵家のリディア・アルシェンコ嬢とその取り巻きを使って嫌がらせをさせた」


「はぁっ? えぇーっと……リディア嬢のアルシェンコ家とフライアンス家の仲が悪いのは誰でも知っていることでしょう? 私がリディア嬢に頼んだとして行動してくれるわけがありませんわ」


 兄の発言に対して即座に言い返す。同じ公爵位を持つアルシェンコ家とフライアンス家の仲が悪いことは周知の事実であり、国王陛下ですら頭を痛めている状態なのだ。普通に考えればラフィーネが頼んだ所で実行するはずも無く、それどころか逆にメリーさんを焚き付けるぐらいのことはするのではないだろうか。


「ぐっ、それなら12月9日、メリーの教科書を破り捨てた。そして12月18日、メリーのブローチを盗み出し、クリスマスパーティーではメリーのドレスに紅茶を掛けた」


「どうだ、心当たりがあるだろう!」


 兄がいくつかの出来事を並べた後、バカ王子がドヤ顔で言ってくるが心当たりなど有るわけもない。


「全然ありませんわ。そもそも、12月に関しては学校に全く来ておりませんし、クリスマスパーティーにも出席しておりませんわ」


「なんだと!?」


 少なくともラフィーネのスケジュールを少しでも見ていれば気付くはずであるにもかかわらず……いや、兄も勿論の事ながら、最初から空気と化しているが兄と一緒にやってきてバカ王子の後ろに控えている、外交官の息子に至っては絶対知っているはずなのに、全員が全く分かっていないようなので続けて説明する。


「11月の28日から正式な婚約者としてお披露目をする為に一ヶ月もの間、周辺各国を回っていたこと、覚えておりませんの?」


「あっ!」

「そういえば……」


 声を上げたのはバカ王子と外交官の息子である。バカ王子自身は何年かに一回ぐらいのペースで周辺国に行くイベントがあるようなのだが、王太子の婚約者とは言えただの公爵令嬢であるラフィーネにそんなイベントはないので、お披露目の為に周辺各国を回らなければならなかったのである。その時には外交官も一緒に行動していたのでその息子が知らないのはおかしいだろう。なお、バカ王子が周辺国に出向く時は基本的に一国に出かけては戻ってくるので日程的には一週間程度なのに対し、俺の場合は周辺国全部を一度に回ったのでほぼ一ヶ月という日程になったというわけだ。


 これは、本来ならバカ王子が婚約者を紹介するというイベントであり、バカ王子も一緒に周辺国お披露目の旅をしなければならないはずだったのだが、「オレはいつも行ってるんだからお前だけで行ってこい」と言って俺だけに行かせたのだ。それなのに覚えてないとか、全くもってアホである。あ、俺だけとは言ったが、外交官である侯爵とその夫人を始めとして、外務官僚や事務官、侍従や侍女から執事やメイドまでそこそこの人数を帯同し、更には護衛の騎士や警護の冒険者まで含めれば結構な人数になっていた。なので、外交官の息子も知ってなければおかしいのである。


「な……ならば今年に入ってから1月20日、風の魔法を使い彼女の服を切り刻んだだろう」


「それは何処でですか?」


 焦りが見える兄の言葉に俺は場所を聞き返す。この件に関しては魔法を使った場所というのが非常に重要なのだ。学園の外で使われた場合なら普通に傷害事件として扱われるべき案件であるし、学園内だとしたら攻撃魔法を使うことが基本的に禁止されていて使えないからである。


「校舎裏のバラ園だ!」


「それこそ無理ですわね。この学校で魔法を使うことがどういうことか分かってますでしょうに」


 ドヤ顔で答えるバカ王子に事実を伝える。バカ王子に理解できるかどうかはさておき、この学園内では攻撃魔法を使う際の注意事項がある。基本的には、授業で魔法を使う訓練などの事前申請がされた場合にのみ対象に向けた発動が可能な結界が張られているのだ。つまり、学園内での攻撃魔法使用不可というのは、攻撃魔法を使おうとしても対象に向けて発動しないことを意味している為、俺がメリーさんに対して風魔法を使ったとしてもメリーさんには絶対に当たらないのである。


「何を言っている! 貴様がその時にバラ園に居たのは知ってるんだぞ!」


「確かにバラ園には居ましたわ。でも魔法を使って彼女の服を切り刻むのは不可能です」


 この学園の生徒ならば絶対に知っておかなければならないことなのに、やはりバカ王子は理解できてないようでどんどん恥を上塗りしているが、俺は極力冷静に答える。


「ふんっ! 貴様が風魔法を使えることぐらいは知っているんだ! 観念したらどうだ!」


「この学園内では悪意を持って攻撃魔法を使うことは出来ませんのよ? そのくらいご存じでしょうに……」


 校内一の厚化粧を誇る……まあ、本人は誇ってるつもりは無いと思うが、その厚化粧先生を上回るような恥の上塗りを重ねるバカ王子に、呆れすぎて逆に冷静さを失いかけた俺が多少あおり気味に答えた。俺の周囲……まあ、未だに騎士達に取り囲まれている状況なのでその外側、騎士達も周囲をびっしり埋め尽くしているわけでは無いのでその外側の様子も普通に見えるわけだが、今までバカ王子を普通に王子様として羨望のまなざしで見ていたと思われる女子達からも、余りにもアホなバカ王子の言動によってかなり冷めてしまったというか呆れたといった雰囲気が伝わってくる。


「そんなことあるかっ!!」


「確かに悪意のある攻撃魔法は対象に届きませんな」


 声を荒げたバカ王子に対して、「あるわっ!!」と答えそうになった俺の代わりに温厚な言葉で返したのはこの学園の学園長である。若い頃は平民出身ながらも宮廷魔術師の筆頭にまで上り詰めた実力の持ち主だそうで、貴族では無い為宮廷魔術師長にこそなれなかったものの、この学園の学園長を任されると同時に準男爵位を得たと言う話である。


「なっ! どう言う事だ!」


「我が学園にはそういった結界が張ってあるのです。生徒を人質に取るようなテロ等を防ぐ為ですな」


 自分の無知を棚に上げて激高するバカ王子に学園長が答える。流石は年の功と言って良いのだろうか、呆れた様子も見せずに丁寧に答えている。


「そ……それなら2月12日、彼女を階段から突き落としただろう! 現場でお前の姿を見たし、攻撃魔法の類いでは無いからな!」


「確かにその時は現場に行きましたけど、私が見た時には階段の踊り場で人目も憚らず抱き合っていただけではありませんか」


 バカ王子の言う日には、確かに悲鳴のような叫び声が聞こえたので階段へ見に行ったのだが、バカ王子とそこのピンク頭が階段の踊り場で抱き合っていて、バカ王子が俺を睨んでいただけである。


「貴様がメリーを突き飛ばしたくせに何を白々しい!」


「あの時間帯なら授業が終わって放課後になったばかりですから人通りも多かったはずですが、その時の状況を見た人はいらっしゃいますか?」


 どうしてもバカ王子は俺がピンク頭を階段から突き飛ばしたことにしたいらしいので、その時の状況を見ていた人は居ないか探してみる。少なくとも俺が現場に着いた時には20人を超えるぐらいの人だかりが出来ていて、ピンク頭が悲鳴を上げた時には俺がその場に居なかったことぐらいなら証言できる人も居るはずである。


 少し間を開けて一人がゆっくりと手を挙げると、その後何人かが続けて手を挙げる。俺は「どうぞ」という感じで手を動かして、最初に手を挙げた女性に発言を促す。


「あの時……最上階なのに下級生の方がいらっしゃるなと思って見てみたら、そちらのメリーさんという方がずっと階段の下を覗き込んでいまして、「あ、来た」って言ったと思ったら階段を叫びながら凄い勢いで駆け下りてらっしゃって……。ただ、その時にはラフィーネ様はいらっしゃいませんでした。ラフィーネ様がいらしたのは、メリーさんの叫び声を聞いて有る程度人が集まった後のことだったと思いますわ」


「それなら補足しても良いですか? 僕もその時悲鳴を廊下で聞いたので階段に向かおうとしたんですけど、ちょうどラフィーネ様が教室から出てこられたのでほぼ同時に階段に着きましたが、ラフィーネ様の言われたようにその時には殿下とそちらのメリーさんが抱き合ってましたよ」


 俺が発言を促した女子生徒がその時の状況を説明し、俺が階段へ到着したタイミングについては遅れて手を挙げた男子生徒が補足してくれた。確かこの男子は俺が教室を出ようとした所で悲鳴が聞こえてそのまま教室を出た時、階段へ向かおうと走り出しかけていた生徒だったと思う。ちょうど俺が教室を出た所で、俺に気付いて走るのをやめたので何となく覚えている。


「え……と、誰かに突き落とされたわけでもないようですが……」


 ここまでくると流石に俺の周囲を囲んでいる騎士達もバカ王子のアホさ加減に呆れたのか、俺を拘束しようという気は全く感じられなくなっている。しかし、腕の骨が折れたと思われる騎士団長の息子が居るので、それだけは何とか救護できないかと考えているようだ。


「おのれ、ちょこざいな!」


 なんか元の世界の時代劇で悪代官が言いそうな言葉を吐き捨て、バカ王子が俺を睨み付ける。この世界の元となったのがどんなゲームなのかラノベなのか漫画なのかその他なのかは分からないが、このバカ王子はいくら何でも頭悪すぎだろうと思う。まあ、その辺の所まで含めて『悪役令嬢転生もの』の予定調和テンプレではあるのだが……。


「そう言えば、クリストファー! ラフィーネは婚約破棄に応じているのだから私がこの場でラフィーネを勘当すれば平民になる。そうすればどんな些細なことでも王太子妃をいじめた罪に問えるのでは無いか?」


「おおっ、そうだな! 流石クラード、でかした!」


 バカ王子だけかと思ったらどうやら兄までアホだったようだ。


「何を言っておられるのやら、婚約破棄を了承は致しましたが婚約自体は王命によるものであり、破棄するにも当然王命が無ければ正式な婚約破棄とは成りません。したがって、現時点ではまだ私は貴方の婚約者というわけです。それから、この後正式に婚約破棄をされて更に勘当されて私が平民になったとしても、以前のことを持ち出して私を犯罪者に仕立てることは出来ませんわ。まあ、まともに関わったことも無いどころか下級生だったこともつい先程知ったばかりのメリーさんをいじめた事などありませんが、平民をいじめた程度で『その当時貴族だった私』を罪に問うことなど出来ないことぐらいはご存じでしょう? それに、そこのメリーさんもまだ王太子妃ではありません」


 何だか既に婚約破棄が成ったような言い方をしている二人に釘を刺しておく。まあ、このバカ王子がやらかした所為で国王陛下としても婚約破棄を認めざるを得ないだろうが、正式に国王陛下が婚約破棄の判断を下すまで俺の立場はバカ王子の婚約者なのだ。それから、俺としては貴族の特権みたいな所に触れたくは無かったが、実質伯爵位以上の貴族なら平民を殺した所で罪に問われることは無い。ついでに言えば、伯爵位未満であったとしても実質的に罰金程度で済んでしまうのである。当然、少々いじめた程度では罪に問われることなどない。余り気分の良い制度とはいえないが、現状これがこの国の法律で定められているのでどうしようも無いのだ。


「貴様! メリーを平民だと言ったな!? 馬鹿にするのもいい加減にしろっ!」


 俺の指摘を受けてバカ王子が激高するが、俺には全然意味が分からない。


「おや、どうしてでしょうか? 私、王太子妃教育の中でこの国の貴族全員の名前を覚えさせられましたが、その中にはメリーという名前を持つ人物がおりません。また、他国の方だったとしても、この学園に留学してきた他国の方は平民に至るまで名前を覚えておりますが、その中にもおりませんわね」


 俺も名前だけは覚えたわけだが顔までは分からないので、あのピンク頭がどこかの貴族の令嬢だったとしても判別が出来ない。ただ、国内の貴族全員の名前を覚えた上で学園の留学生全員の名前も覚えている俺としては、記憶の何処にも引っかからないメリーという名前から平民だと認識するには充分な根拠がある。


「メリーというのはオレ達が使う愛称だ! 本当の名前はメルシア・ルーディコールだ! 分かったか!!」


「いや、分かったか、とか言われましても……。まあ、確かにメルシア・ルーディコールと言う名前は記憶に御座いますわ。学年は私達より一つ下で、サイモン・ルーディコール男爵に三年前認知されておりますわね」


 バカ王子に言われてやっと納得する。それなら確かにメリーと言う名前で引っかかるわけが無い。バカ王子の言動には、もう呆れを通り越して脱力の感すら覚える。というか、『悪役令嬢転生もの』としてもその元となったはずの『乙女ゲーム』としても王道テンプレを突っ走りすぎだろうと思ってしまうほどにテンプレ的な設定だ。まあ、簡単に説明すると、メリーさんことメルシアさんはルーディコール男爵と男爵家に仕えていた平民メイドの間に生まれた子供で、平民として暮らしていたが三年前にルーディコール男爵が奥様を亡くされた際、平民メイド共々引き取って自分の子供だと認知したというわけである。


「まあ、男爵令嬢であれば私がいじめていたとしても処罰できませんわよね?」


 貴族は貴族でも、伯爵以上と未満では扱いに相当な差があり、殺人なら多少の罪に問えるがいじめ程度では罪に問うことなど出来ないのである。


「それならお前が平民になれば良いわけだ。クリストファーに提案したことを実行することになるとは思わなかったが、お前のような愚妹は我が家に必要ない! 父上がこの場に居ない以上、私が当主代理としてお前を勘当する!!」


「それなら私は以後平民と言うことでよろしいのですわね?」


 兄、クラードの宣言により、俺、ラフィーネはただの平民になってしまった。まあ、この辺もある程度想定していたので、王太子妃教育で滅茶苦茶に忙しかった時間の合間を縫って実行していた事が役に立つわけだ。


「当然だ! そして、オレからも言わせて貰おう。この場に居ない父上……いや、国王陛下に代わり貴様との婚約破棄を宣言する! さっきまでは居たはずだけど、今は居ないからな。国王代理の権限は王太子であるオレが使うことが出来るんだ! そうだ! これからこのメリー……いや、メルシアをオレの婚約者とすることを国王代理として宣言する!!」


 兄に続いてバカ王子まで代理権限を使ってやりたい放題である。さっき王妃様が卒倒されたことで別室へ移動したようだが、自分の息子がおかしな事をしている状況を知りながら王妃様の方について行ったというのは、国王陛下も意外とアホなのでおいであそばされるのかも知れない。まあ、そのお陰で俺は自由を手に入れられたのだから余り悪く言うのはやめておこう。


「それでは王太子の婚約者という立場からも解放されたことですし、フライアンス家からも勘当されましたので私はこれで失礼しますわ」


「待て! もはやお前はフライアンス家の人間では無い。屋敷の中に入ることも、屋敷の中の物を持ち出すことも許さんぞ!」


 俺がこれから自由を謳歌しようと思った所で、兄から家の敷居をまたぐなと言い渡される。どうやら今まで俺が色々とやらかしてきた商売関係の権利の書類などを奪おうと思っているらしいが、残念ながら権利関係の書類は勿論のこと、大切な物は全て俺の亜空間収納に保持しているので全然問題ないのである。というか今、部屋に置いてあるのは俺の発明なんかを盗もうとする人間に対するトラップばかりだったりする。


「あら、私の部屋に置いてある物の扱い方とか分かりますの?」


「ふんっ! お前の部屋のガラクタなど全部処分だ!」


 一応部屋に残してきた物をどうするのか聞いてみるが、色々とやらかした時代の余り物などが残っていることになっているので、それらも上手く行けば高額で商人達に売れるのではないか、などと思っているのかも知れない。


 俺の部屋に置いてきた物の中には、下手に触ってはいけない物などが置いてあったり、ひっくり返すだけで数秒後に爆発を起こす物まで置いてあるのでかなり危険ではある。恐らく屋敷の半分ぐらいを吹き飛ばせるぐらいの威力はあるはずだが、その際には俺に味方してくれた使用人やメイド達ぐらいは助かって欲しいので、俺の合図が有った場合には屋敷から離れるように言ってある。そもそも俺に味方してくれていた使用人やメイドというのは、元々身寄りが無く冒険者証も持っていて冒険者としてもそれなりにやっていけるだけの実力があるので、身一つで屋敷から逃げ出しても全然問題なく生活できるはずなのだ。そして、俺の合図というのは俺が魔力を飛ばしたら俺の部屋の扉にちょっとした変化が現れるというもので、俺に味方してくれている使用人やメイド達は全員その事を知っているしネットワークも確りしてるので素早く全員に伝わることだろう。ただ、今は学園内から魔力を飛ばそうとすると攻撃魔法だと見做される可能性もあるので、それに関しては学園から出た後で行う予定だ。


「まあ、それなら扱いには気をつけて下さいませ。現時点を持ちまして公爵家の私の部屋だった場所にある物は、全て元お兄様に譲渡致します。以上!」


 そう言って俺は踵を返す。これで俺の部屋のアイテムによって、元兄が全てのスキルを失おうが、屋敷を爆破させようが、酷い呪いを受けようが、どうなったとしても元兄の責任なので好きなようにして貰おう。


 バカ王子だけに留まらず、兄までもがメリーさんに傾倒し始めてからは、俺も敵味方の振り分けを色々とやってきた。その中で両親は中立といえる立場だったので、今回は卒業式に参加できなくなってしまったが、公爵領内でどうしても外せない仕事を入れさせて領地に戻って貰ったのである。まあ、これも王太子の婚約者という立場だったからこそ出来たことなのだが……。


「きゃぁーっ!!」


 俺が数歩歩いた所でピンク頭が盛大な悲鳴を上げる。今度は何だと思い振り返ってみると、ピンク頭のドレスがズタズタに引き裂かれていた。


「貴様ぁーっ!!」


 バカ王子が俺を睨みながら叫ぶ。どうやらピンク頭のドレスを引き裂いたのが俺だと思っているらしい。


「平民が貴族に攻撃をするということは死罪に値するんだぞ。お前がそれほど愚かだったとはな」


「いや、この学園内では魔法攻撃できないって知ってるでしょうに。まあ、自分に掛ける分は結界も反応しないはずなので自作自演か、もしかしたら……」


「貴様ぁーっ!! メリーを侮辱する気かぁーっ!」


 元兄に反論するとバカ王子が俺の言葉を遮って激高する。激高するのももう何度目だよと思わなくもないが、この学園の結界の特性から考えて自作自演の他に、そこのピンク頭が風魔法で俺に攻撃してきたという可能性もあるのだ。まあ、バカ王子に遮られてその可能性の部分に触れることは出来なかったが……。


「まあ、私で無いことは確かですわ」


「貴様っ、もう許さん。貴様のような女には生きる資格は無い! 死ねぇー!!」


「よすのじゃっ!!」


 俺の言葉に冷静になったのか冷静さを失ったのか分からないが、バカ王子は俺に向かってかなりの大きさのファイアーボールを投げつけてきた。うん、冷静になったって事は無いな。学園長の制止の言葉も少し遅かったようである。


 バカ王子の投げたファイアーボールは俺に届く前、跳ね返されたかのようにバカ王子へと戻っていきバカ王子の目の前で炸裂した。恐らく体に近い場所で直撃していれば内蔵ごと吹き飛ばせるだけの、もし頭に当たっていれば頭を吹き飛ばせるだけの威力があったのだと思われるが、いきなり跳ね返ってきたことで思わず両手を突き出したのであろうバカ王子の指先に触れた時点で炸裂したのだ。


「ぐがぁっ!!」

「きゃぁーっ!!」

「うぐっ!」

「わぁっ!」


 当然のごとくバカ王子は後方に吹き飛ばされ、その周囲に居たピンク頭や兄、ついでに外交官をしている侯爵の息子も結構な距離吹き飛ばされている。見た感じバカ王子の両腕は二の腕辺りから先が無くなっているようだが、まだ息はあるようである。


『殺意を持った攻撃魔法を確認。結界内での全ての魔法の発動を無効化します』


 急に校内放送で警報音と無機質な声が流れる。まるでコンピューターの音声合成のようだが、この世界にコンピューター……というか、そもそも電気が無いのでこの声は魔法による物だろう。


『魔法の使用者は第一講堂内に二名確認、一名が悪意有る風の攻撃魔法を発動、氏名、メルシア・ルーディコール、直後に別の一名が殺意ある炎の攻撃魔法を発動、氏名、クリストファー・ラージハーツ。二名の攻撃対象、ラフィーネ・フライアンス。近辺の警備騎士は速やかに現場へ急行し犯人の確保と被害者および一般人の保護をせよ』


 警報音が鳴り響く中魔法の音声合成が流れているが、内容を聞く限りどうやらピンク頭は自作自演では無く俺が考えていた二つ目の可能性、即ち俺に対して風の魔法を放ち、それが跳ね返って自分のドレスを切り裂いたようだ。


「ですから私が申し上げました通り、学園内で攻撃魔法を使うことは出来ませんのよ? こんな風に跳ね返るとは思ってもみませんでしたが……。しかし、これでメルシア様の服を切りつけた犯人が分かりましたわよね。今日は私に向けてでしたが、1月の時も私に向けて魔法を放ったのか、もしくは自作自演と言うことでしょうね」


 これだけ警報音が鳴り響く中では俺の声などバカ王子に届かないかも知れないが、一応それなりに大きな声を出して告げると、俺はそのまま講堂を後にする。


「何事だ!!」


「ク……クリストファー!?」


 講堂から出る際に国王陛下の声とまるで悲鳴のような王妃様の声が聞こえたが、それも俺にとっては既にどうでも良いことである。特に王妃様は回復魔法が使える人を探しているようだが、さっき音声合成の言葉の中に『結界内での全ての魔法の発動を無効化します』というのがあったので、もしかしたら回復魔法も使えないのでは無いだろうか。


 俺は一度学園の寮に戻り、私物を全て亜空間収納に放り込もうとしたのだが、どうやら亜空間収納も魔法と認識されるらしく現時点では使えなかった。仕方なく、少々重いが寮から運び出して学園の外で収納する。ついでに屋敷へも魔力を飛ばしておく。






 さて、これで俺は晴れて自由の身、兄もバカ王子も代理権限とは言え勘当と婚約破棄を宣言したのだ。今更父や国王陛下が出てきた所でどうしようも無いはずなのだが、このまま王都に留まっていると絶対面倒なことになるのでさっさと街を出ることにする。


 卒業式の後のパーティー中だったこともあり、時間は既に昼を過ぎているが、俺の身体強化で走ればいくつか先の町か村には行けるだろう。出来れば早い内に隣国へ到達したい所ではある。


 思えば最初は普通に只のTS転生だと思っていて、領地の運営などに口出ししたりだとか現代知識で知識無双してみたりだとか色々やらかしてきたわけだが、第一王子の婚約者となり……いや、無理矢理されたと言った方が正しいが、その辺からは乙女ゲームでは無いかという可能性も感じつつ過ごしてきた。


 元が男だと言うことも有り、王子との結婚にも全然魅力を感じないどころか寧ろ全力で嫌だったし、こんな身分じゃなければRPG的に世界を回ってみたりダンジョンに潜ってみたりしたいとも思っていた。その為にバカ王子との婚約を解消できないか色々と策を練ってはみたものの、王命による婚約というものはそうそう簡単にどうにかなるものでは無かったのである。


 それでも俺は諦めなかった。王太子妃教育という長時間拘束を潜り抜けて冒険者ギルドに登録を済ませ、少々のスキルを自力で開花させ、レベル上げをして、スキルポイントは俺の固有スキル『消費MP半減』に注ぎ込んだ。お陰で魔法やスキルを使う際の消費MPは100万分の1にまでなっていたわけだが、これが身体強化でMPを10000倍にしても枯渇しなかった理由である。また、自力で開花させた魔法スキルの中に土魔法があり、ストーンバレットと言う魔法を使い堅さと射出速度をそれなりに上げることで、MP1で拳銃を撃っているのと同等以上であろう威力の攻撃が出来、LV25というこの世界では全然話にならないほどのレベルの低さでも……いや、それより更に低かった頃からそれなりに戦えるようになっていたというわけだ。


 そして、学園に入学してから一年が過ぎ二年生になってからしばらく経った頃、遂に乙女ゲームの展開が開始されたのである。乙女ゲームと言えば悪役令嬢の婚約破棄が定番と言って良いだろう。上手く行けば自由の身になれる、当然俺はそこに賭けた。


 実際に悪事を働くとかは以ての外だったが、特に何もしなくてもバカ王子とピンク頭はどんどん接近して親密になっていったし、俺が変に断罪されるような行動を取らなければ最終的に処刑とか幽閉になるようなことは無いとも思っていた。


 かなり忙しい王太子妃教育の合間に冒険者ランク維持の為クエストを消化、実質俺は授業が終われば王宮に出向かなければならず、その為放課後はまず学園に居ないのに、俺が何かしら悪事を働いているとか嫌がらせをしているとか、バカ王子とピンク頭が勝手に色々やらかしていたので、最終的にあんな終わり方になったのである。そう言えば、俺はピンク頭の悲鳴しか聞いたことが無いような気がする。卒業パーティーの会場でも悲鳴以外で特にしゃべってはいなかったはずなので、外交官の息子よりも空気だったのかも知れない。いや、外交官の息子も大概空気だったか……。


「お、こんな時間から大変だな」


「こんにちはー」


 王都の北門で門番の衛兵さんと挨拶をする。学園の授業が早く終わった時や午後からの出なくても良い授業があった時などは、王太子妃教育の為に王城へ出向く前に僅かな時間を利用してクエストに出ていたりしたので、門番の衛兵さんとは顔見知りなのである。というか、こちらとしては何度か会っているので数人の顔を見知っては居るのだが、向こうにしてみれば昼過ぎに出て行き短時間でクエストを終わらせて戻ってくる風変わりな冒険者として記憶に残っているだけなのかも知れない。でなければ、普通の冒険者に比べて圧倒的に出かける回数の少ない俺のことを覚えては居ないだろう。


「じゃ、気をつけてな」


「はーい、行ってきまーす」


 いつも通り冒険者証の確認を済ませると出発する。いつも通りの言葉を交わすが、もう俺はしばらくここに戻ってくることも無いだろう。思えば一番最初、余りにも俺のレベルが低いので必死になって止めようと説得してくれた門番の衛兵さんが今の人だったなぁ、と思い出して懐かしく感じる。






 王都の門から出てしばらく歩いた後、俺は身体強化100倍を掛けて走り出した。あ、そうだ。余りにもテンプレばかりだったので一言言っておこう。


「私の冒険はこれからだ! 今までご愛読ありがとう御座いました。ラフィーネ先生の次回作にご期待下さい!」


 あれ? なんか、テンプレ違いな気がする。



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