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いきものがかり

作者: 鵜塚 夕
掲載日:2019/09/11

ぼくは、ただ排水溝を見つめることしか出来なかった。









クラスで飼っている金魚の水槽のガラスに、緑の藻が出来ていた。うっすらと濁った水槽のガラスには、小さなタニシがゆっくりと這っていた。少し生臭い水槽に寄り付く人は、余りいないようだった。



ぼくの他にいきものがかりはもう一人いて、朝と放課後のえさやりをしていた。彼女はあまり、いきものがかりの仕事に気乗りしないようだった。本当は、いきものがかりなんて面倒な係じゃなくて、電気係になりたかったとグチをこぼしていた。



そんなものだから、放課後に水槽を洗うのはぼくの仕事だった。ペットボトルで少し濁った水を汲み取り、持ち上げられる重さになった水槽をなんとか水飲み場まで運ぶ。



スポンジとバケツを用意して、残った水槽の水を掃除用の排水溝にゆっくりと流していく。



水槽には、金魚が五匹いた。

小さい金魚が三匹と、大きい金魚が二匹。

食いしん坊の大きな金魚に、ほかの小さな金魚はエサを取られがちで、ぼくはエサをやる時、小さな金魚たちが食べられるように顔のそばにエサを落としてやるのが常だった。



金魚には一応、名前がついている。

大きな赤い金魚はエリザベス、少し色の薄いもう一匹の大きな金魚は小池さん。

小さくてすばしっこい子はポチで、よく隅にいる子はトサキント、鼻の先が少し白くなっている子はザビエル。



水槽は結構重くて、慎重に水を流していく。

本当は、先に金魚をバケツに移したかったのだけど、金魚用の掬い網は先日、教室に侵入してきたハチを捕獲するために尊い犠牲になったのだ。クラスのやんちゃな子が、ハチをつかまえようと網を振り回して壊してしまった。針金とあみの隙間が破けてしまった。結局ハチは、担任の先生が国語の教科書で窓の外にたたき出していた。ちょっとかっこよかった。女の人ってつよい。



水道のヘリに寄りかけて、ぼくとしてはこの上なく気を張って、神経を集中して水を流していたはずだった。



傾けた水槽の角から、一匹の金魚が零れ落ちた。ポチだった。


あ、と思った時にはもう、排水溝の暗い穴に吸い込まれていったあとで。


そのまま排水溝から目が離せなかった。





そのあと、どうにかバケツにほかの金魚を移して、もう一度排水溝を覗いて見た。


見えるはずもなかった。




スポンジでぬめった藻をおとして綺麗になった水槽に、前日にペットボトルに汲んでカルキを抜いた水を注いでいく。ペットボトルをくるくる回して渦にして勢いよく注ぐ。



そのあと、金魚たちを水槽に戻した。

やっぱり、一匹足りなかった。

ポチは、流れていってしまった。




翌日、かなちゃんは朝のホームルームの前に金魚にエサをあげて、クラスのみんなは普通に授業を受けて、そのまま何事もなく放課後帰って行った。



だれも、金魚が一匹いなくなったことになんて、気づいちゃいなかった。



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