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ゲーム世界に三年居た俺は家出王女にあだ名で呼ばれました①

「浩之。あとで職員室に来てくれる?」

「んあ?」


 欠伸の途中でいきなり声をかけられ、返事が間抜けな声になる俺。

 瞳姉は一枚の紙をペラペラさせながら、怖いぐらいの笑顔だった。


 ……うん。俺は身を持って知っている。


 瞳姉があれだけ笑顔を浮かべて俺を呼ぶときは、めちゃくちゃ怒っているときか、もしくは面倒な用を押し付けるかのどっちかだ。おそらく、今回は後者だ。


「……行かなきゃいけない理由を聞いてもいい?」

「いいから来い(笑顔のまま)」

「……はい」


 駄目だ。逆らえん。笑顔の奥に断ったら殺すと書かれていた。白昼堂々、生徒に殺気を飛ばす教師が居ていいのだろうか? どうかしてるぜ日本。


 昨日と同じように、俺は朝から瞳姉に拉致されて強制登校。

 六月に入って気温がじわじわと上がってきたこの気候の中で、俺はこの鉄筋建物の中でしぶしぶ授業を受けなければいけない状況になっていた。(私は一応学生ですが何か?)


 ……教室にクーラーつけようぜ。いやマジで。そのぐらいの投資してくれ。お国さんよ。


「相変わらず仲いいね」

「そのくだりはもういい」


 晃がムカツクほどの笑顔で横に立っていた。

 うん。童顔じゃなかったら殴ってる。


「それにしても……虎上院さん、今日も休みだったね?」


 晃が空っぽになっている、俺の隣の席をちらっと見た。


「明日からは来るって言ってたぞ」

「……言ってた?」

「あ」


 しまった。思わずポロっと出ちまった。


「何でもねぇ」

「……浩之。虎上院さんと会ったの?」

「気にするな」

「……浩之は図星を指されたとき頭を掻く」


 俺はしっかりと頭を掻いていた。


 よし、逃げよう。


「さってと! 瞳姉に呼ばれてるから職員室に行かないとな!」

「あ、逃げる気? 親友に隠し事なんてしていいと思ってるの?」

「……親友?」

「……君こそ、またそのくだり? 泣くよ?」


 これ以上ツッコまれない内に、手をひらひらと振って、教室を出ようとしたときだった。まさに俺が出ようとしていた教室の後ろ扉が勢いよくガラッと開け放たれた。そしてにゅっと顔を出したのは、


「あ、いた」


 天乃だった。


「……人を指差すな」


 いた。じゃねぇよ。迷子の犬猫を見つけたみたいに言うな。

 つーか、学校を休んだ奴が授業終わってから堂々と教室に来るな。


「さぁ、行くわよ浩之」

「……お前、体はもう平気なのか?」

「大丈夫よ。宿で休んできたから」


 天乃にそう指示したのは俺だ。

 ゲーム世界の宿で休めば、死亡以外の怪我なら全快する。普通のゲームみたいにな。

 だから今日も学校を休んで、一晩宿に泊まってこいって言ったんだ。

 ちゃんと実行したみたいだな。天乃の体に巻かれていた包帯や湿布がなくなってる。


「瞳姉に呼ばれてるからちょっと待ってくれ」

「瞳姉? あぁ……高坂先生? お姉ちゃんなんだっけ?」

「親戚の、だけどな」

「じゃあ私、先に駅前のクレープ屋に行ってるから」

「……まさか俺のおごりか?」

「私にあんなことさせたんだから……そのぐらいいいじゃない」


 それを持ち出されるとなにも言えん。

 ……魔が差したんだ。心の中にいる悪魔が囁いたんだ。もう許してください。


「……天乃」


 さっさと教室から去ろうとした天乃を呼び止めた。大事なことを言い忘れてた。


「なに?」

「……一番安いクレープにしろよ?」

「無理」


 なにが無理なんだよ!? ちょっと食欲をセーブすればいいだけだろ!?

 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、天乃は廊下を走って行った。

 あぁ……駄目だ。あれは絶対最上級ランクのクレープを頼む気だ。クレープって意外と高いんだよ。トッピングだけで何百円も変わるんだ。絶対にトッピング全部盛りとかやられるぞ。あれは。


 ……ていうか、廊下を走るな。


「あいつ……遠慮という言葉を知らんのか」


 頭を抱えながら天乃の背中を見つめていると、めちゃくちゃ痛い視線に気が付いた。

 それも一つじゃない。

 晃を始めとする。クラスの男子からの目線だった。


「……浩之。今、虎上院さんのこと名前で呼んでたよね? それに虎上院さんも浩之のこと名前で呼んでた」


 しまった。堂々と会話しすぎた。

 晃は純粋な好奇心だろうが。それ以外の男子からは恨めしと嫉妬と怒り。どす黒い感情が向けられている。


 うわー……男子って嫌だねぇ。


「……いつの間に、虎上院さんとあんなに仲良くなったの? ていうか、まさか付き合って……そもそも、虎上院さんにあんなことしたってなにを――」

「あぁっと! 瞳姉に呼ばれてるから早く行かないとなぁ! じゃあな! 晃!」


 ビシッと敬礼し、教室を飛び出した。


 あの空気はやばい。クラスの男子に袋叩きにされてもおかしくない空気だったぞ。






ミ☆






 ちなみに瞳姉の用は……。


 一階の職員室から、三階の資料室(しかも真逆の方向)に授業教材を運ぶことだった。(全部で十往復。階段で)






ミ☆






【アカムレッド地方・始まりの村プログナ】


 クレープ屋でアマノが満足行くまでクレープを堪能した後、俺たちはさっそくゲーム世界へと飛んだ。

 今度はちゃんと別々のコントローラーで、だ。なにかあったときの為に、単体でも現世界に戻れる方がいい。

 ……まぁ俺のは兄貴のやつだから、正式にコントローラーもらったわけじゃないんだけどね。

 明日も学校があることを考えると、ゲーム世界へ行ってられるのは一日、四~五時間。休みの日は最悪ゲーム世界の宿に泊まってもいいけど、あんまりゲーム世界にリアル時間を浸食されるのは避けたい。これは俺もアマノも同じ意見だった。


 ……まぁ俺はすでに三年。ゲーム世界に浸食されたんだけど。


 ついでに言うと、俺は瞳姉が帰って来る前に戻らないと……見つかったらいろいろとやばい。心配もかけたくないし。それを考えての一日、四~五時間のプレイ時間だ。


「パーティってどうやって作るの?」

「コマンドに【パーティ】ってあるだろ。それを選択して【パーティ作成】だ。色の義をクリアするとパーティを作れるようになる」


 パーティってのは、クエストを進める上で重要だ。なにせ、パーティに所属してないと、クエストが進まないからな。自分で作成するか、他のパーティに所属するかはプレイヤー次第だ。


「パーティの名前を決めなきゃいけないけど、別に適当でいい。名前なんか重要じゃないからな。パーティを作ったら、次は【パーティ加入要請】を選択して、パーティに加入させたいプレイヤーに触れればいい」

「……」


 少しの時間、アマノは考え込む。パーティの名前を考えてるみたいだな。


 パーティは別に一人で、つまり、ソロでもいいんだ。俺も昔はずっと一人で進めてたし。そこは個人の自由だ。


「ただし、気を付けなきゃいけないのは、パーティリーダーは一回なると、そうそうパーティを壊せないぞ。パーティを壊すと、進めてたクエストが全部リセットされるからな」

「……あんたがリーダーのほうがいいんじゃないの?」

「やめたほうがいい。クエストはパーティリーダーのレベルで難易度が変わる。俺がリーダーになると、しょっぱなから高難易度のクエスト連発だぞ?」

「……面倒な仕様ね」


 文句を言いつつ、パーティ作成が完了したらしく、アマノが俺の肩に軽く触れてくる。パーティ加入要請が表示された。


【『森の熊さん』パーティから加入要請が来ました。加入しますか?】


 ……………………。


 なんてまぁ、可愛らしいパーティ名。


「お前……このパーティ名……」

「な、なによ! 可愛いでしょ! 別にいいじゃないのよ! 思いつかないのよ!」

「お前、熊好きなの?」

「うっさい! さっさと承諾しろ!」


 そんなに怒らなくても。まぁパーティ名でクエストに優劣なんて出ないから、どうでもいいんだけどさ。


 パーティ加入を承諾して、さて、ここから勇者アマノの冒険が始まるわけだ。先は長いけど、こればっかりはコツコツと進めてくしかないな。


 一番の目的は、アマノの姉さんを探すことだし。


「じゃあ、まずはどうするの?」

「……」

「……なによ?」


 驚きの表情で見ていた俺を、睨み返すアマノ。


「いや、ちゃんと人の意見を求めるようになったんだなと思って」

「……悪い?」

「悪いわけない。そうだな……とりあえず【アカムレッド城】に行って転職するぞ」

「転職?」


 まぁ知らないよな。天乃はとにかく、説明書とかを読まないタイプだ。


「いつまでも初心者のままでいられないだろ? 色の証があれば、アカムレッド城で新しい職に就ける。最初は下級職。レベル60になれば上級職に就ける」


 ゲームを始めたときはみんな、職は初心者。

 最初のクエスト、色の儀をクリアしてもらえる、魔王討伐参加の証でもある色の証。それを持ってれば、プログナの北方向にあるアカムレッド城で転職ができる。


「下級職は【剣士】【槍士】【ヒーラー】【マジックユーザー】【銃士ガンナー】【拳闘士】がある。転職する下級職で、次に転職できる上級職が決まるからな。なりたい職はあるか?」

「……強いやつ」

「子供か」


 もっと具体的な理論のもとに結論を出せ。


「逆に聞くわ。私はどれに向いてると思うのよ?」

「人任せか」


 少しは自分で考えろ。


 うーん……アマノに向いてる職。

 まぁぶっちゃけ俺の中で結論は出てる。


「マジックユーザーだろ」

「……なんなのそれ?」

「名前の通り。魔法をメインにして戦う職だ」


 アマノは近接職には向いてない。この前の戦闘を見て、それがわかった。

 魔法をメインに扱うマジックユーザーなら、剣で斬りかかる必要もないから、アマノもそんなに無茶をしないだろ。

 それに、アマノはどっちかっていうと知略タイプの気がする。頭は良いし、馬鹿ではない。魔法で戦うほうが、発想と工夫を戦闘に加えられそうだ。


「じゃあそれでいいわ」

「適当か」

「浩之が言うなら間違いないだろうし」


 とりあえず信用はされてるらしい。

 嬉しいような、なんかうまく使われてるような。


「でも、魔法ってことは力関係ないわよね?」

「ん? そうだな。魔法の威力が上がるのは知力だ」

「……私、力にけっこう振っちゃってるけど」


【アマノ】 職・初心者

Lv3

力    56

体力    1

素早さ   1

知力    1

技     6


武器  スモールソード 攻撃力5

防具  厚めの戦闘服  防御力3

装飾品 木の腕輪    防御力+2


 あーそうだったな。

 まぁでも心配ない。


「心配するな。転職すればステータスが一回リセットされるから。そしたら知力に振ればいい」

「ふーん」

「……だからって知力に全振りするなよ? ちゃんと技にも振れよ? 詠唱速度がめっちゃ変わるぞ」

「わかってるわよ。うっさいわね。私が同じことを二回もやると思ってるわけ? 屋上から飛び降り自殺しようとしてる奴を助けようとして自分が落ちて死ね」


 ……そんな間抜けな死に方は嫌だ。


 とにかく、アカムレッド城に行かないとな。プログナからそんなに離れてない。初心者プレイヤーが最初の拠点として使う町だからな。設備もプログナとは比べものにならない。


「歩いて一時間ってところか。アカムレッド城で転職するまで無駄な戦闘はしないほうがいいな。転職して装備を整えてからレベル上げだ」

「無駄な戦闘はしないって……モンスターに襲われたらそうもいかないじゃないのよ」

「こうやる」


 俺はコマンドを開き、一つの魔法を選択した。

 【インビジルリア】。透明の羽衣って意味なんだけど。これはどの色属性にも属さない、特殊な魔法だ。

 通称【無色魔法】。いろいろ種類があるけど、これはプレイヤーの姿を透明にして、モンスターから身を隠せる魔法だ。ようはエンカウント率をゼロにできる。

 使ってる間はずっとSPスキルポイントを消費するけど、まぁアカムレッド城まで行っても、俺のSPは余裕だ。むしろ減った気がしない程度だ。


「……」


 アマノが俺を軽蔑に似た目で見てる。

 なんで? つーかお前は俺を普通の目で見れないのか?


「なんだよ?」

「……もしこっちの世界で宿に泊まることになっても、私の着替えとお風呂、覗かないでよね。覗いたら殺す」

「……お前、俺のこと変態だと思ってるだろ?」

「うん」


 また即答しやがりましたよ。


 ……もういいや。いちいちツッコんでたら俺の身がもたん。


 インビジルリアをかけ、プログナの北にあるアカムレッド城を目指した。









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『おまけショートチャット』


「お前のそのさ……死に方指定してからの死ねは、どういう感情の元に言ってるんだ?」

「はぁ? 私が思ったことをそのままぶつけてるだけよ。死ねと思ってるから死ねって言ってるだけ。ついでにこうやって死んでくれたらいいなと思うから言ってるだけよ」

「そ、そうですか……(一番タチが悪い奴だなそれ)」

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