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ゲーム世界に三年居た俺は神様に助けを求められました②

 ブルーア大陸の端に位置する辺境の地。

 そこにある【水晶谷】。

 名前の通り、水晶でできた谷がずっと続いてる所だ。

 入り組んでるから、一般の人間はまず入らないし、冒険者でさえ、わざわざ入らない。

 なぜなら、入るメリットがゼロだから。

 水晶谷はモンスターが出ない。

 水晶から出る微量の魔力をモンスターが嫌がるから、それが魔除けになってるんだ。

 モンスターを狩ることが仕事の冒険者にとって、モンスターが出ない場所なんて、全く用がない。ダンジョン装備も出ないしな。


 そんな辺境の場所に……。


「アカムレッドクレープ久しぶりに食べたねー」

「相変わらず最高ね。アカムレッドだけじゃなくて、全部の国で売ってればいいのに」

「それだとアカムレッドクレープじゃなくなるんじゃないの?」

「……少し、甘すぎないか?」


 遠足気分で来てる森の熊さんパーティ……。

 アカムレッドクレープ買うのはいいんだけどさ……なんで俺の金で……。


 それにいくらモンスターが出ないからって気を抜きすぎじゃないですか?


「……俺にも一個くれ」

「駄目」


 そして相変わらず、俺の金で買ったにも関わらず、俺のくださいを拒否。

 ……理不尽もここまでストレートだと気持ちいいですね。今まで何度そう思ったことか。


 水晶谷は、水晶が発する魔力で、日々構造が変わる。

 前にガンマが夕日森で、無理やり魔力で干渉して迷いの森みたいになったのと同じだ。

 だから、普通に歩いてるだけだとすぐに迷う。

 俺は前に来たときに、()()()の所に行くための方法を聞いたから大丈夫だけどな。


「ヒロユキ。迷いなく進んでいるが、大丈夫なのか?」

「ああ。水晶の魔力を感じながら歩いてるからな」


 水晶が発する魔力。

 それを感じ取って、魔力がだんだん弱くなってる方向に向かえばいい。

 あいつが造った空間は、水晶の魔力を弾くから、必然的に魔力が弱くなるんだ。


「あんたって本当に魔力探知機よね」

「人を道具みたいに言うんじゃない。カラフルナイトがそういう職業なんだよ」

「ヒロユキ様が道具だったら、私ずっと愛用するよ!」


 ハス。その発言はちょっとずれてるぞ。

 気持ちは嬉しいけどな。


 確かに、普通の奴じゃ感じ取れないような魔力の弱まりだけどさ。

 上級職だったら、少し違和感を感じる程度にはわかるはずだぞ。

 つまり、アマノだってわかってもいいはずだ。


「逆にお前はなにも感じないのか?」

「私はぶっ飛ばす専門よ」


 こっわいな。こいつ。

 たまに魔力を感じる云々の話をしてるから……アマノは強い魔力には反応するけど、弱い魔力には関心がない感じだろうな。

 つまり100か0ってことだ。

 オリビアが魔力を持ってないのはすぐにわかってたみたいだし。


「本当にモンスターが出ないんだねー」

「きゅー」

「アカムを餌に差し出せば出てくるかもな」

「うぎゅー!!!」


 珍しく、アカムがサニーの鞄から出て来てる。

 周りにモンスターがいないから、警戒心が薄れてるのかもな。

 居たら居たでうるさいだけだけど。


「ていうかマジな話。お前、ワイバーンにケンカ売るなよ? 調教されてるから大人しいけど、同族相手には容赦ないかもしれないからな」

「……きゅ?」


 きゅ。じゃねぇよ。わかってねぇだろこいつ。

 サニーにしっかり手綱を引いてもらおう。俺的には別にワイバーンに食われてもいいけど。

 いちおうこいつは神器の一つだし。サニーに泣かれたら敵わないしな。


「……お。あったあった」


 谷を抜けて、開けた場所に出た。

 ここは、魔力で無理やり空間を生み出した場所だ。

 生活できるように、水晶の魔力を遮断してる。

 そのおかげで、この空間だけは水晶の魔力の影響を受けないんだ。

 まぁ……普通はそんなことできないけど。

 これをやるには、かなりの魔力と魔力コントロールが必要だ。

 竜人は亜種の中でも、ダークエルフに次いで魔力が高い。相手にするとかなり厄介だぞ。

 あいつはもう戦いを隠居してるから大丈夫だけどな。


「あそこだな」


 奥にある、小さな家。

 一人暮らしだけを視野に入れてるような家だ。最低限の広さで生活できるだけの家。

 そして周りには、数頭のワイバーンが鎖で繋がれている。

 特殊な鎖で、ワイバーンたちでも切れないようになってるんだっけな。

 ワイバーンたちは俺たちを見て、少し警戒してるように唸ってるけど、攻撃してくることはない。

 そうやって調教されてるからな。野生のワイバーンとは違う。


 家の中に入ると……相変わらず、無表情で感情がわかりづらい顔の、竜人……。

 ラーダ、が居た。


「よっ」

「……人間の気配がすると思ったら、お前か」


 最低限の灯りだけが灯されてる家の中で、本を読んでいたラーダ。

 家の中も、自分で使うだけの家具が設置されてるだけ。

 生活するうえで効率的かもしれないけど、寂しい見た目だな。


 男のくせに長い黒髪で、竜と同じ鋭さをもった赤い瞳。

 感情が無いんじゃないかってくらい無表情で、まぁぶっちゃけ一言で言えば不愛想。

 服と長いローブで完全に隠れてる……というか意図的に隠してるけど、体には竜の鱗が纏われてる。

 竜の鱗は低級の魔法なんかじゃ傷も付けられないぞ。

 それにめちゃくちゃに硬いから、拳で殴られるだけで致命傷になることもある。


「二年ぶりぐらいか? 相変わらず人生つまらなそうな顔してるな」

「生まれつきだ」

「美少女いっぱい連れてきたんだから、もうちょっと嬉しそうな顔しろよ」

「……」


 言われて、ラーダは俺の後ろに居たアマノたちに目を向ける。

 普通、これだけ美少女揃いだったら歓喜するところだけど……。

 それどころか……警戒。観察するような目だな。

 そりゃそうだ。

 基本的には、ラーダはもう人間と関わることをやめたんだ。

 こんなに大勢の人間がここを訪れるのは何年ぶりなんだろうな。


「……なによ。この不愛想なの」

「本人が言ってただろ。生まれつきだから許してやれ」


 相手によって不愛想なのはお前も同じだろ。

 初対面のときのことを俺は忘れてないぞ? いきなり死ね。だからな。

 ラーダの不愛想なんて可愛く思える。


「……こいつ。相当な手練れだな」


 ラーダを見ただけで、その実力を感じ取ったのか。ラナは少し警戒してる。

 お互いに警戒してて……ピリピリした空気になってる。

 まぁ……手練れは手練れだな。

 なんて言っても……。


「元四角だからな」

「四角だと?」

「ああ。ガンマの前に紅炎の異名を持ってたんだ」


 実力で言ったら、ガンマよりもまだ上だと思うぞ。

 赤色火属性魔法の扱いなら、この世界で三本の指に入るほどだ。俺は別として。

 しかもガンマみたいに、改造色魔法は使ってない。

 純粋な色魔法と魔力だけで、だ。


「安心しろ。もう隠居してるから。戦いからは退いてる」

「……」


 元四角。

 それを聞いて……安心しろってのも無理な話か。

 ラナはまだ警戒を解かない。


「……何の用だ?」

「ワイバーンを貸してくれ。もちろん、金は払うぞ」

「……どこに行くつもりだ?」

「ホワイトシロンだ」


 ラーダには余計な話は不要だ。どうせなにを話してもそんなに反応ないし。

 要件だけをさっさと話したほうがいい。だから俺は状況を簡潔に説明した。


「陸路で行くと時間がかかるからな。俺のテンワプは転移場所がリセットされちまってて使えない。ワイバーンが一番速いからな」

「……ホワイトシロンだと、首都の手前までしか行けないぞ。吹雪でワイバーンが動けなくなる」

「ああ。それで充分だ」


 元々、そのつもりだった。

 ホワイトシロンは、大陸の全部が年中雪で吹雪だ。

 ワイバーンは寒さに弱い。首都の周りは特に吹雪が酷いからな。

 そんなところをワイバーンで無理やり進んだら、ワイバーンが衰弱しちまう。

 首都の手前からは歩いていくしかない。そこまで行けば、大した距離じゃないしな。


「……金はいらん」

「ん? なんで?」

「子供から金を取るほど、落ちぶれてはいない」


 相変わらずお堅いな。素直にもらっておけばいいのに。

 確かに、何百年も生きる亜種から見れば、俺たちなんてただの子供だろうけど。


「後でくれって言っても遅いぞ? 力づくでもらうって言っても無理だぞ」

「勝負で負けた身だ。お前相手にそんなことを言うか」


 ラーダは立ち上がって、ワイバーンたちの準備をするために外に出て行こうとした。

 途中で……サニーの頭にポンと手を置いて、ポケットから飴を手渡す。

 自然にそんなことをやってるもんだから、アマノが少しイラッとした顔になってるぞ。


「ありがとー!」

「……」


 満面の笑みでお礼を言ったサニーにも、表情を全く変えずに、ラーダは外に出て行った。

 あの笑顔を相手にしてもこれとは……ちょっと尊敬。俺なら絶対に顔がニヤける。


「良い人だねー」

「まぁ……あいつ、子供が大好きだからな」

「……変態じゃないのよ」

「違う。お前みたいにちっちゃい子が好きなわけじゃない」

「どういう意味よ。ワイバーンに食べられて死ね」


 あ。やべ。素直に言葉が……。

 でも、マジで子供が好きってのは変態的な意味じゃない。

 犬猫可愛いって言う感じの……いや違うな……えぇっと……。


「……純粋に、子供が好きなんだよ。親が子供を見守る的な感じでな」


 子供を見守る親。うん、これだな。

 子供は守るべき対象。そんな感じだ。

 元四角だけど、子供は絶対に傷つけないし、傷つけさせないって聞いた。

 俺がこの世界に来たときには、もうガンマが紅炎を名乗ってたから、詳しくは知らないけど。


「……亜種で元四角とは思えないな」

「まぁ……亜種にもいろいろ居るってことだ」


 ラーダとは、クエストの過程で戦うことになったんだけど。

 けっこう、俺は苦戦した。

 レベルが今ほど高くなかったってのもあるけど、戦いに関しての熟練度が半端じゃない。

 間違いなく、四角の中では一番の実力だったと思うぞ。


「おい」


 ラーダが戻ってきた。

 早いな。もう準備できたのか? と思ったけど……違ったみたいだ。


「なんだよ?」

「……少し前に、ブルーア国王が奴隷制度廃止を宣言した」


 ギクリ。と内心ちょっと動揺する。


「へー……それはよかったな」

「……奴隷たちはこれからの生活を保障されたうえで、仕事も与えられるらしい。あの国王が、どういう風の吹き回しだろうな」


 ……こいつ。わかってるうえで言ってやがるな。

 でも、ちょっとそれは黙っててもらえませんかね。アマノたちには言ってないんだよ。


「……聞いた話だと、国王は相当に怯えながら奴隷制度廃止を宣言していたらしい。どこかのお節介が、国王に脅しでもかけたのかもしれないな。実力で」

「ストップ。さっさとワイバーンの準備して来い」

「……ふっ」


 笑ってるよ。表情変えないまま。

 ったく……余計な話をしやがって。普段は喋らないくせに。


「今の話……なんだったの? 奴隷制度廃止は良いことだけど……」

「どこかのお節介が国王に奴隷制度廃止を無理やりさせたってことだろ? どこの誰かは知らないけどな」

「……国王を説得したってこと? そんなことできる奴居るわけ?」

「さぁな。俺は知らない」


 まぁ……説得。じゃないけどな。

 文字通り。力づくで。無理やり脅しをかけたんだけど。


 …………………………俺が。


 もちろん、正体は隠したけどさ。


「偉い人が居るんだねー。でも、これでマムちゃんみたいな奴隷の人達がもういなくなるってことだね!」

「よかったね! ヒロユキ様みたいな正義の味方が他にも居るんだね」

「……そうだな。ヒロユキみたいなお節介が、他にも居るみたいだな」


 ……………あ。やべ。

 ラナにはばれてるなこれ。俺を見てニヤニヤしてる。


 まぁいいか……ラナなら余計な詮索はしてこないだろ。


 一国相手にケンカ売るなんて、普通は大罪だからな。


 ………………………ばれなきゃいいけど。










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『おまけショートチャット』


「竜人って竜なの? それとも人なのー?」

「……どっちもってことで納得してください」

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