ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました⑪
俺を刺してきた(刺さってないけど)男は、瞳姉がさっき言ってた通り魔だったらしい。
警察と救急車が来て、祭りは一時騒然。
男は、駆け付けた瞳姉に追撃を食らって虫の息になってたけどな……。
でも、警察に連行されて行くときに見た男の目………。
完全に精神異常者だった。
虚ろな目で、なにを考えてるかわからない目。
通り魔なんてやるぐらいだから、普通じゃないのは当たり前なんだけど……。
それにしても、あの目は……死んでるような目だった。
騒ぎで、ほとんど強制的に、今日の祭りは終了って形になった。
まぁすでに帰ろうとしてたところだし、祭り自体も終わりに近い時間だったからな。
本当は、俺も救急車で運ばれそうになったんだけど……断った。
だって全然平気だもん。吹っ飛んだ衝撃で少し背中が痛いぐらいで。
服は破けたけどな!
男は俺に突進してくる前にも、人を乱暴に突き飛ばしてきたみたいで、けっこうな怪我人がいたっぽかった。
警察に事情を説明するのが一番面倒だったな……解放されるまで時間がかかった。
そして帰路に着く中で、
「浩之様ぁ……無事でよかったよぉ……」
蓮はまだ半泣き。
「ラッキーだったね。浩之。包丁持った男に体当たりされたのに、ほとんど無傷なんて」
晃は心配そうだった顔はどこへやら。面白がってるし。
「もっと鉄槌をくだしたかったわ」
瞳姉は男への報復が物足りなくて不満そうだし。
「かすてら美味しいねー」
「いろいろな形がありますね……味は同じですけど」
サニーとカンナさんはカステラを食べ歩きしてるし。
「……………」
天乃はまだ怒ってるし。(怖い)
「…………」
ラナはなんでか、考え事をしてる。
そんな感じで、なかなかにカオス状態の帰路。
もうちょっと俺の無事を祝ってもいいんじゃないですかね? 正直、俺も死んだと思ったんだからさ。
「浩之様……本当に痛くないの?」
「大丈夫だって。ちょっとチクッとしただけだから」
包丁先が数ミリ、刺さっただけだし。
ちょっとだけ血が出たけど、それももう止まってる。服が破けた以外は被害ゼロだ。
「救急車に乗って行けばよかったのに。後で大事があるかもしれないわよ?」
「救急車の雰囲気苦手なんだよ」
小学生の頃、遊んでるときに骨折したときに一回乗ったことあるけど……。
俺は苦手だ。いろんな検査されて質問されながら乗ってるのが。痛くてそれどころじゃないんだっての。今日は痛くないけど。
「まぁ救急車で一人寂しく運ばれるより、美少女ハーレム状態で帰ったほうが気分良いよね」
「……確かにそうだけど。言い方考えろ」
俺が煩悩全開みたいに聞こえるじゃないか。
ていうかさ……。
「お前、いつまで怒ってるの?」
「うっさい黙れ。川に転がりダイブして溺れ死ね」
いい加減、怒りを鎮めてくれませんかね?
怖いんだよ。その威圧感が。
めっちゃくちゃに謝ったじゃん。土下座までしたじゃん。
まぁつねり程度で済んだのはよかったんだけどさ。
「あ……私、こっちなんだよね」
「じゃあ私が送って行くわ。浩之たちはラナちゃんが居れば大丈夫でしょ」
蓮とは家の方向が違う。
通り魔はもう捕まったけど、時間が時間だ。女の子一人歩きは危険だろう。
ていうか瞳姉。ラナが居れば大丈夫って……その通りだけど、男としてちょっとプライドが……。
「浩之様。本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。心配してくれてありがとな」
「……うん! またね!」
純粋に、俺のことを心配してくれてるのが嬉しい。
ちょっとハチャメチャな所があるけど……蓮は良い子だ。
「……なにを鼻の下伸ばしてるわけ?」
「やっと話しかけてきたと思ったらとんだ言いがかりだな。おい」
「事実よ。心配したのが会長だけだと思ったら大間違いだからね」
「……すいませんでした」
そこを突かれると……俺はもう謝る以外にない。
魔が差したんだ……ちょっと意地悪してやろう程度の気持ちだったんだ……ごめんなさい……。
「アマノンもカステラ食べないー?」
「食べるわ。ていうかサニー。暗くて危ないから手を繋ぎましょ」
まぁ……そこそこ機嫌は回復したみたいだからいいか。
「じゃあ浩之。僕もあっちだから」
「ああ」
「ハーレム状態だからって間違いを起こさないようにね」
……あいつの場合。冗談で言ってるのか本気で言ってるのかわからん。
いちおう、俺は一歩間違えば死ぬところだったんだから、そんな雰囲気じゃないだろうが。
「ヒロユキ」
ずっと考え事をしてたラナが、口を開いた。
「なんだ?」
「……ヒロユキは、こっちの世界では魔法は使えない……のだな?」
……突然、なにを言ってるんだ?
「当たり前だろ? 今、ラナと戦ったら俺は秒どころか瞬で負ける」
「………」
あ、あの……スルーしないでください。
笑う所ですよ? 今のは。なんか恥ずかしいじゃん。
ラナはまだ難しい顔をしてる。
なにをそんなに悩んでるんだ? 商店街からの帰り道、ずっとこんな感じだぞ。
「……ヒロユキ。はっきり言うぞ」
「な、なにを?」
一体なにをはっきり言うんだ……?
なんか怖いんだけど。俺、なにかしました?
それとも……ラナも俺がおふざけしたことを怒ってるの?
「刃の角度。勢い。体格差。どう考えても……ヒロユキ。お前の傷は、その程度で済むものではなかった。確実に、刃は刺さっていた。致命傷のはずだ」
……………………。
え?
「……どういうこと?」
「あの男の持っていた刃物。刃先が……完全に砕けていた」
マジで? そこまでは俺は確認してる余裕なかったな。
包丁の刃先が砕けてた……?
「……手放したときに砕けたとかじゃなくて?」
「そんなものではない。完全に、強度で負けて砕けた様子だった」
強度で負けてって……。
俺の体は包丁より硬いわけないぞ。見て見て。このプニプニの体。
運動もしてないから、あんまり筋肉とかついてないし。
そもそも……ラナはなにが言いたいんだ?
「……ラナはどう思うんだ?」
「断言はできない。だが……なにかしらの力が、ヒロユキを守ったとしか思えない」
なにかしらの力。
なるほど……だから魔法を使えるか使えないかって話をしたのか。
魔法で身を守ったとしか思えないような状況だった。
「サニーが使っていたリフレクター。あれで身を守れば、刃を弾き返せるんじゃないか?」
「……まぁ確かに、リフレクターなら包丁程度弾き返すと思うけど」
そもそも前提として、俺はこっちの世界で魔法は使えない。
俺だけじゃない。天乃も。サニーも。ラナも。カンナさんも。
現世界では魔法は使えないんだ。
……どういうことなんだ?
確かに、俺がこの程度の傷で済んだのは……。
運が良かったで済ますほど簡単な話ではないかもしれないけど。
「それに……あの男……」
ラナにはまだ気になることがあるみたいだ。
「迷いなく、私たちのところまで突っ込んできたように見えた」
「まぁそうだな。真っ直ぐ、天乃に突っ込んできたな」
「……アマノではない」
ん? どういうこと?
俺には天乃に真っ直ぐに向かってきたように見えたけど。
「いや。正確には……最初はアマノに向かっていた。しかし、ヒロユキが助けに入るのをわかってたうえで、途中からヒロユキに刃を向けていた」
…………………剣士のラナが言うなら、そうなんだろうけど。
ますますどういうこと?
あの男の狙いは元々俺たちで…………。
俺だったってこと?
ただの通り魔じゃなかったのか?
「……とにかく、しばらくは私が、ヒロユキの護衛をする」
「護衛?」
「ああ。私の考えすぎならいいが……ヒロユキはこっちの世界では雑魚だ。命を狙われているなら危険だ」
命を狙われるって……。
俺みたいなただの高校生が、なんで命を狙われるんだよ。
それからあんまり雑魚って大声で言わないでください。さすがに傷つく。
とは思いつつも……確かに、さっきの出来事は不可解なことが多い。
ゲーム世界のことが関係してるのかわからないけど。
確かに、警戒するに越したことはないかも。
「……わかった。頼むよ」
「ああ。任せろ。ヒロユキには指一本触れさせはしない」
そこまで重く考えなくてもいいけど。
……魔法か。
現世界でも、魔法が使えるなんてチート仕様はないけど。
あのとき……俺はなにかに……誰かに守られたのか……?
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『おまけショートチャット』
「はーれむってなにー?」
「えぇっと……女の子に囲まれた男の人のことで……」
「カンナさん。教えなくていいですから」




