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ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました⑨

 祭りに来てから三十分。

 それぞれが勝手に自分の欲望通りに動いて、集団行動の意味が薄れる中。

 俺、赤柳浩之は………。


「わたあめ……甘くて美味しいですね……」


 年上のお姉さんとデートしてたりする。


 俺の欲望通りに動いたんじゃないぞ? あいつらが勝手に離れて行って、結果的にこうなってるだけだからな? 決して!!! 俺のせいではない!!!


 それにしても……わたあめ一つでこんなに全開の笑顔になれるなんて……。

 カンナさん。純粋すぎるだろ。

 まるでサニーを見てるみたいだな。


「わたあめはお祭りの定番でもあるからな。何年経っても、必ず出店があるね」

「ヒロユキさんもどうぞ」

「え?」


 スッと、食べかけのわたあめを俺に向けてくるカンナさん。

 いや……あの……さすがに食べかけをいただくわけには……。


 だってそれって……関節キスってことに……。


「いやそのね。俺はあれだけど、カンナさん的にそれはいいのかなって「はい。どうぞ」


 問答無用。純粋な問答無用だった。

 食べかけのわたあめを、俺の口に押し込んでくるカンナさん。


 ……………甘いです……。


 年上のお姉さんと関節キス……………………。


「美味しいですよね」

「うん……間接キスはわたあめの味……」

「はい?」

「なんでもないです」


 この状況……心の声がすぐに出ちまう……。

 やばいねこれは。


 めっちゃ興奮しちまう。


 抑えろ……欲望を抑えろ俺!! カンナさんは別に深い意味で俺にわたあめをくれたわけじゃないんだ! 子供がおすそ分けで自分のお菓子をあげるのと同じような感じで……。


「きゃっ」

「おっと」


 人が多い中を歩いてるから、カンナさんが人とぶつかって転びそうになった。

 とっさに、カンナさんの体を支える。ぶつかった人は「ごめんなさい」と謝りながら去って行った。カンナさんも軽く会釈する。

 ラナじゃないけど、浴衣ってあんまり動きやすそうじゃないもんな。まして、初めて着てるんだし。ちょっとぶつかっただけでも危ないな。


「あ……ごめんなさい。ヒロユキさん」

「あ。いや」


 むしろ。ごめんなさい。

 ちょっとあれな所を触ってしまいました。

 カンナさんは全く気にしてる様子はないけど……柔らかい感触が……俺の理性を削り取る……。

 ていうか距離近い。わたあめの香りとはまた違う、大人の女性の香りに、顔がかーっと熱くなってくる。


「私、鈍臭いので……クロックでメイドをやっていたときも、よく失敗してしまっていて……」

「へぇ……意外な話だね。俺には完璧に見えるけど」


 家でメイドをしてるとき、カンナさんが失敗したところなんて見たことがない。


「こちらの世界は便利ですからね。スイッチ一つで、家事が捗りますから!」


 家電のことを言ってるらしい。

 瞳姉に使い方を教わってからは、めちゃくちゃに使いこなしてるっぽかったけど。

 ……あーそういえば。


「あっちの世界では魔力でそういうことをするんだっけ?」


 こっちの電気とかガスのエネルギー的なやつは、ゲーム世界では全部魔力で補ってる。

 なるほど……カンナさんの言ってる鈍臭いってのは、魔力に関しての話か。


「はい。私は……あんまり魔力コントロールが得意ではないので……よく、失敗していたんですよね」


 ホワイトエルフは、魔力に優れた種族だけど。

 まぁ例外も居るよな。全員が魔力コントロールが得意なわけではない。

 こっちの世界ではそもそも魔力を持ってないから、失敗のしようがないってことか。


「でも、カンナさんの魔力はけっこうすごいと思うよ」

「え?」

「カラーチェンジを自力で破ったからね。あれは俺でさえどうにもならなかったからな。潜在的な魔力はかなり高いと思うよ」


 カラーチェンジは禁魔法だ。

 それを自力で破るなんて、ゲーム世界でできる奴が何人居るのやらって話だ。

 だから、そんなに悲観する必要はない。


「それに、カンナさんの料理めっちゃ美味いし。それだけでも胸張って威張ってもいいぐらいだよ。食事は人類にとって最優先事項だからね。もはや神だよ。カンナさんの料理は」

「お、大げさですよ」


 大げさかな? 正直、マジで俺にとってはそのぐらいの価値があるんだけど。


「おまけに美人だし。ちょっとぐらいの失敗なんて、俺なら全く気にならないけどな。存在だけで癒しになる」

「……あの、私……もしかして口説かれていますか?」


 はっ……と、我に返る。

 しまった。また欲望に忠実に言葉は吐き出してた。

 いくら本当にそう思ってるとはいえ、心の中で思ってるだけでいいこともあるだろ!


「ごめんなさい。調子に乗りました。口説こうなんてこれぽっちも思っていません。ただただ。純粋に思ったことを言っただけで……」

「……」


 カンナさん……もしかして怒ってる?

 これは土下座するしかない! 頭を地面に擦りつけて謝罪するしかない!

 早速行動に出ようとしたけど。


「冗談ですよ」


 ニッコリと、カンナさんが笑顔を見せてくれて、ほっと胸を撫で下ろす。

 びびった……もしかしてからかわれてた?

 いつの間にかカンナさんペースになってたな。はぁ……全く、子供っぽいところがやっぱりあるよな。カンナさんは。

 ……そこがいいんだけどさ。


「……んえ?」


 思わず、変な声が出る。

 カンナさんが……俺の手をぎゅっと握ってきた。


「はぐれてしまわないように、手を繋ぎましょうか?」


 カンナさんにとっては、本当にそう思っただけで、深い意味はなかったのかもしれない。

 でも……思春期男子にとっては……。


 それは反則です。


 さっき、サニーと手を繋いでた時とは別の恥ずかしさが……。


 でもそれ以上に嬉しいから、どうでもいいや!!!





ミ☆





 それからもカンナさんと店を回ること、さらに三十分。

 やっと……欲望に忠実な奴の一人を発見した。


「アマノン! 頑張って!」

「任せてサニー! あの熊のぬいぐるみは私がゲットするわ!」


 お祭りで定番の射的。

 おもちゃの空気銃を手に、天乃が景品の熊のぬいぐるみを狙っていた。

 ……構え的に、全く当たりそうにないけど。

 俺の思った通り、天乃の撃った弾は、全部逸れて行った。

 ……下手くそ。


「下手くそ」

「あ?」


 しまった。思わず素直な感想が。

 今日の俺、口が軽すぎる。


「あ。ユッキーとカンカンだー」

「……あんた。なんでカンナさんと手繋いでるのよ」


 あ。まだ手を繋いだままだった。

 それとサニーの独特なあだ名にはもうツッコミは入れまい。


「はぐれてしまわないようにと思って、私からお願いしたんですよ」

「……変なことされませんでしたか?」


 おい。俺をなんだと思ってやがる?

 心の中ではいろいろ思ってたけど、ちゃんと欲望は抑えたぞ。


 天乃たちもいろいろ回ったみたいで、サニーの手にはリンゴ飴やらチョコバナナやら……甘い食べ物が大量にあった。

 こいつら……甘い物ばっかり食べ歩いたな?


「ユッキー。あれ取れるー?」

「ん?」


 あー……天乃が狙ってた熊のぬいぐるみか。

 俺はRPGゲームは得意だけど、射撃ゲームとかは苦手だったんだよなぁ。

 ゲーセンの射撃ゲームでも的を外しまくって、晃にめっちゃ笑われてた。

 ぶっちゃけ、あんまり天乃のことは言えない。


「偉そうに私のこと下手くそって言ったんだから。取りなさいよ」

「……俺が上手いなんて言ってませんー」

「ドヤ顔で言うんじゃないわよ。死ね。射的で間違って込められた実弾で撃ち抜かれて死ね」


 その死に方。そもそもなんで俺が射的の的になってるわけ?


「あの熊がほしいんですか?」


 丁寧な喋り方の女の人が、横から入ってきた。

 カンナさん? と思ったけど、違った。


「おじさん。一回お願いします」


 射的屋のおじさんに、三百円を渡し、銃を手に取る……。


 朝比奈生徒会長。


「―――!?」


 驚きの余り、声もでなかった俺たち。


 だって……それはそうだろ……。


 空気銃の弾数は五発。

 その五発全てが、熊のぬいぐるみに連続で命中。見事に、撃ち落とした。

 確かに、一発じゃ落ちにくいから、この狙い方が妥当だったな。

 だからって普通はあんなの無理だろ。タイミングバッチリで連続ヒットなんて。


「はい。どうぞ」

「ありがとう! ハッスー!」


 熊のぬいぐるみをサニーに手渡す朝比奈生徒会長。

 学校帰りだから、制服だ。つまりは、今は学校モードってことになる。

 人の目があるからな。素を出すわけにはいかないってことか。


「虎上院さん。的を射抜くには、肩の力を抜いたほうがいいですよ?」

「……お、覚えておきます。会長」


 さすが銃士。現世界でも弓道やってるだけはある。

 狙うってことに関しては、素直に敵わない。天乃も納得するしかないな。


「あれ? 朝比奈さんじゃないの」


 そこに、知り合いに会いに行ってた瞳姉が合流してきた。


「高坂先生。こんにちは」

「朝比奈さんもお祭りとか来るのねー」

「はい。赤柳君たちと約束していたので」

「え? 浩之たちと? いつの間に仲良くなったの?」


 瞳姉にはまだ、朝比奈生徒会長がゲーム世界に行ってることを話してない。

 いつも、瞳姉が居ないときにうちに来てたからな。

 そもそも、教師の前で学校モードを解除するわけにはいかないだろうし。


「今日は学校に行ってたのね」

「はい。生徒会の仕事が残っていたので」

「真面目ね~。私なんて仕事をほったらかしてお祭りに来てるのに」

「うふふ。先生らしいですね」


 ……でも、これじゃ肩が凝るよな。

 学校モード。生徒会長としては、そっちのモードのほうが正しいんだろうけど。


「……朝比奈生徒会長……じゃなくて、蓮。別に学校モードじゃなくてもいいぞ。相手が瞳姉だし」

「え?」

「ちょっと浩之。呼び捨てするほど仲良しなの? 天乃ちゃんたちだけじゃ飽き足らず、今度は生徒会長にまで……」


 瞳姉。ちょっと黙ってて。


「瞳姉はゲーム世界のこと知ってるし。言いふらすような人じゃないからさ。それにこれからのことを考えると、瞳姉には知ってもらってたほうがいいと思うぞ」

「……で、でも………」


 迷っている蓮。

 確かに……瞳姉はよしとしても、お祭りだ。人の目もある。

 うちの生徒も、当然この人混みの中に居ても普通なわけだし。いつもと違う生徒会長を目撃される可能性はある。


「……会長。ちょっと来てください」

「きゃっ……こ、虎上院さん?」


 天乃が蓮の髪を、手早く結んでいく。

 ストレートロングだった蓮の青髪が、あっという間に、三つ編みになった。


「はい。どうぞ」


 さらに、天乃は眼鏡を手渡す。だて眼鏡?

 眼鏡をかけると……おぉ。大分雰囲気変わったな。

 ちょっと勉強熱心っぽくて、眼鏡を取ると美人そうな女子高生になった。

 これなら、蓮だってわからないぞ。

 なるほど。変装ね。その手があったか。


「これで大丈夫でしょう? 学校モード。解除してもいいですよ」

「……」


 迷っていた蓮の顔が、ぱぁ~~っと笑顔に変わった。

 そして、そのまま天乃に抱き付く。


「ありがとぉ虎上院さん! 私のことそこまで思ってくれてたんだぁ! 大好き!」

「ちょっと!? 抱き付かないでくださいよ!!!」


 学校モード解除。いつもの蓮に戻った。

 ……天乃のやつ、準備が良すぎるな。

 たぶん、蓮が祭りに顔を出すって聞いたときから、考えてたんだろうな。

 学校モードで祭りに来ても、楽しくないだろうからな。


「え? ……え? ちょ、ちょっとまって。朝比奈さん……よね?」


 瞳姉が珍しく、目が点になってる。

 そりゃそうだ。学校モードの蓮と、素の蓮じゃ、正確が真逆だからな。


 ……瞳姉に説明する前に、天乃を助けてやるか。

 さっきから、これなんとかしなさいよ! って目でこっち見てるし。











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『おまけショートチャット』


「次は金魚すくいをやってるところをお願いします!」

「きんぎょすくい? よくわからないが、わかった」

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