ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました⑧
現世界に戻ってすぐ……天乃たちは瞳姉に拉致された。
可哀想に……今頃は着せ替え人形だろう。
蓮は生徒会の仕事が少し残ってるからって、一度学校に戻って行った。
会長は大変だな……お祭りには絶対に顔を出すって言ってたけど。
一人残された俺は、一人でぼーっとしてたりする。
……純粋に休んでるんです。最近ゲーム世界行ってばっかりだったからな。
いいじゃん。少しぐらいぼーっとしてる時間があったって。
ゲーム世界でも、最近は考え事する時間が多かったしな。
今日の祭りの間ぐらいは……なにも考えずに、楽しませてくれ。
夏休みの宿題のこととか忘れさせてくれよ!!!(重要)
まぁ商店街の祭りなんて、俺もかなりご無沙汰だからな。
中学で……ゲーム世界に行く前に最後行ったっきりだから……小学生ぶり? マジか。
ゲーム世界から戻ってきてからは、祭りとかはどうでもよくなってたからなぁ。
そう考えると、俺も成長したもんだ。(?)
……ていうか遅いな。
浴衣って着替えるのに時間がかかるのは知ってるけど、それが数人となると、さらに時間がかかってるな。
……眠い。
昨日はあんまり寝てないからな。そりゃあ眠気だってきますよ。
………………………………グゥ………。
「ユッキー? 寝てるの?」
「あひゃっ!?」
ほっぺを突かれて、飛び起きる。
変な声出ちまった……恥ずかしい。
「おはよー」
「……おはよう」
完全に落ちてた。あー……眠気に完全に負けてた。
目を擦りながらサニーを見ると……赤色の浴衣に身を包んだサニーが笑顔で立っていた。
「ゆかた! 可愛いねー。似合ってるー?」
「おお。可愛い可愛い」
ぱたぱたと跳ねるサニーの頭を撫でる。
赤色に桜の花がちりばめられてるデザイン。赤と白のチェック柄の帯が子供らしい。
子供の浴衣姿ってのは、純粋に可愛らしいもんだな。俺もいつか父親になったら、自分の子供に対してこういう感情を抱くときがくるのかも。
「……サニーを変な目で見るんじゃないわよ」
「見てねぇよ!? 俺の純粋な目をそんな邪な感じで言うんじゃ……」
声の方向に振り返ると……。
浴衣に身を包んだ、天乃、ラナ、カンナさんが並んで立っていた。
………なんだこれ? 花園?
そう思ってしまうぐらい、可憐な雰囲気を纏ってるぞ。
元々美人ぞろいだったのが、さらにやばいことになってる。
なにこれデジャヴ? 水着のときも似たようなことを思った気がする。
ラナは現世界ではおなじみのポニーテールに縛った黒髪と同じ、黒色の浴衣。
黒色にカラフルな花火がデザインされてて、まるで夜空に見える花火みたいだ。
白い帯が黒とよく合ってる。
普段とまったく雰囲気が変わってて、めっちゃドキッとした。
カンナさんも髪と同じ白色の浴衣。
青。黄。オレンジの水玉がところどころに入ってるデザイン。シンプルなだけに白に合うデザインだ。白に水色のラインが入った帯で色合いがさらに綺麗だ。
ちょっと子供っぽい部分もあるカンナさんだからこそ、水玉模様が似合うな。
そして天乃。
長い桜色の髪を……お団子って言うの? まとめてあるから印象が全く変わった。
髪の色に合わせてピンク色の浴衣。赤色と青色の朝顔がデザインされてる。
白の帯の上から結ばれた赤い紐が、可憐さをさらに上げてる。
……なにこいつ? 可愛いな。おい。
「……なに見てんのよ?」
「……あれ? おかしいな。浴衣で体形がわかりづらいせいか、いつもより胸が大きく見え「それ以上言ったらあんたの首と体がさよならすることになるけど?」
それ。俺がゲーム世界でゴルディオに言ったやつじゃん。ぱくるんじゃないよ。
いやしかし。いいね。女の子の浴衣ってのは。
華やかで。これぞ日本の夏って感じがする。
たまにはこういう夏もいいもんだ。
「これだけ可愛い子たちが並ぶと壮観ね……」
いつの間にか、俺の横で瞳姉が恍惚の表情でスマホ片手に写真を撮ってた。
……浴衣ってけっこう高いイメージなんだけど。いくら使ったのかは問うまい。
しかし、時間がかかったな。外はすでに夕暮れだ。祭りはもう始まってるぞ。
「瞳姉は浴衣着ないの?」
「動きづらくて嫌いなのよね」
「……天乃たちには着せてるくせに」
「私なんかが着ても、誰も喜ばないでしょ?」
瞳姉。学校であなたのファンがどれだけ居ると思ってるの?
自分の人気度をもっと把握したほうがいいぞ。教師の紅一点なんだから。
瞳姉が浴衣で祭りなんて行ったら、学校の男子生徒どもはもちろん、男教師陣だって大喜びだと思うけど。
「……確かに、動きづらいな。いざと言うとき、動けなそうだ」
「ラナ。こっちの世界ではいざと言うときなんてないから大丈夫だって」
剣士のラナからすれば、確かに浴衣なんて窮屈なだけかもしれないけど。
我慢してくれ。祭りの間着ててくれれば、瞳姉も満足だろうから。
「は、恥ずかしいです……」
顔を真っ赤にしてるカンナさん。
……一般的に言えばたぶん、メイド服のほうが着ると恥ずかしいと思うんだけど。
「ユッキー! 早く行こうよー」
祭りに行きたくて仕方ないサニーは、俺の手を引っ張ってきた。
浴衣に着替えてる間も、たぶん、こんな感じだったんだろうな。早くでかけたくてソワソワしてる子供。瞳姉と天乃が顔を緩ませてたのが目に浮かぶ。
「サニー! 手を繋ぐなら私とよ!」
「どこで張り合ってるんだよ?」
「うっさい」
「じゃあこうしようよ!」
サニーが右手で俺の手を、左手で天乃の手を握った。
俺と天乃の間に入って、サニーがニコニコと嬉しそうにはしゃぐ。
「こうやって行けば一緒に行けるよねー」
「そ、そうね……」
ちょっと、天乃が恥ずかしそうな顔をする。
……たぶん、俺と同じことを考えたんだろうな。俺も少し顔が熱い感じがしてる。
……これ。まるで…………。
「まるで親子みたいですね」
カンナさんが、純粋故に、ストレートな感想を述べた。
俺と天乃の顔が、かーっと赤くなる。
さすがの俺も、そんなこと言われたら恥ずかしくなるぞ。
「や、やっぱり駄目よ! こんな形で祭りに行くなんて!!」
「えー……私、こうやって行きたいな」
上目遣いのサニーの一言。
天乃の良心に会心の一撃。
「……」
俺のことを睨んできた天乃。
無理だぞ? こんな顔してるサニーの手を離すなんて、俺にはできないからな?
あんたから離しなさいよ的な感じで見られても無理だからな?
「……天乃。覚悟を決めろ。俺だって恥ずかしい」
「……わ、わかったわよ」
観念した天乃。
サニーの上目遣いには誰も勝てない。
可愛すぎて。
そして断ると泣いちゃいそうで。
「しかし、ヒロユキとアマノではサニーの親という歳ではないだろう。兄と姉と妹ではないのか?」
「あ。そうですね。うっかりでした」
うっかりでした。じゃないよ。
最初からそう言ってくれれば、俺たちの無駄な羞恥心はなかったのに……。
けっきょく、商店街までの道のりを、俺、天乃、サニーで手を繋いで行くことになってしまった。
……道行く人の視線が痛い……………。
ミ☆
「人がいっぱいだねー」
商店街に到着して、さっそくサニーは人の多さに興味津々。そして驚いたみたいだった。
まぁ……小さな町だし。こういう祭りはけっこうレア物だからな。なんだかんだ、イベントがあれば人が集まるもんだ。
さすがに俺はもう手を繋いでないけど、天乃はサニーの手を離そうとしない。
でも、今回は天乃の欲望全開が理由じゃない。
純粋に、これだけの人混みだ。逸れたらあぶないからな。
「……闘技大会でも開かれるのか?」
「違うって。確かに似たようなもんとは言ったけど……これはただ純粋に、こういう店が立ち並ぶイベントなんだよ」
「……いべんと?」
そこからだったか……。
「あ、あの……私の格好、おかしくないですか? さっきから視線を感じるのですが……」
「おかしいどころかすっげぇマッチしてるから大丈夫だって」
視線を感じてるなら。それはカンナさんが美人だからってだけです。
海のときと一緒だ。こんだけ美少女が揃ってれば、視線を集めるのは無理もない。
……同時に、俺に対する視線もあるけど。
あれ? あいつなに? なんであんな美少女軍団の中に男が? 的なやつね。
ギャルゲーとかで主人公に向けられることがよくある視線ね。
「いやぁ。これだけの浴衣美人が揃ってると壮観だねぇ」
「……なんでお前居るの?」
晃はいつから居たんだよ。気が付いたら居るから怖いんだよこいつ。
「尾行してきたからね」
「……」
「冗談だよ?」
「人間関係を考え直そうかと思った」
だって冗談に聞こえないもん。こいつの場合。
「まぁ冗談は抜きにしても、こんな小さな町でのお祭りなんだから。別に来ててもおかしくはないでしょ?」
「まぁそれはそうか」
俺もさっき同じことを思ったし。
小さな町だから、なんだかんだ人が集まるって。その中に晃が入ってても全くおかしくはない。
「ラナさんの浴衣姿も拝めるしね」
「……」
こいつ。やっぱり尾行してきたんじゃないだろうな?
「ところで、先生は浴衣じゃないんですね?」
「私の浴衣姿なんて誰も嬉しくないでしょ?」
「いやいや。先生、学校で先生のファンクラブ会員が何人居ると思ってるんですか? 会員からすれば、先生の浴衣姿とか発狂するほどの喜びですよ?」
「あらー。冗談で褒めても何も出ないわよ? 後でたこ焼き買ってあげる」
出てるじゃん。
それから冗談じゃないぞ。
マジであるから。瞳姉のファンクラブ。
「アマノン! あっちに行ってみようよ!」
「サニー! 走ると危ないわよ!」
サニーに引っ張られて、天乃が人混みの中に消えて行った。
まぁ……天乃が一緒に居ればスマホで連絡取れるから大丈夫か。
「カンナさん。なにか食べたい物ある?」
「えぇっと……」
カンナさんはお祭り自体が初めてだろうし。興味がないわけがない。
お祭りの雰囲気。食べ物の匂い。これだけの誘惑の中で、さっきからソワソワし始めてるし。
「なんでも言っていいよ。おごるから。晃が」
「なんで僕なのさ!」
「お前。ラナの浴衣姿がタダだと思うなよ?」
数万円払っても足りないぐらいの価値があるからな?
おごりぐらいで済むならむしろ感謝してほしいぐらいだ。
「……? 私の浴衣がどうかしたのか?」
「お金払ってでもみたいぐらいの価値があるってことだよ」
「……? よくわからないが、私の浴衣姿でいいなら、いくらでも見るといい」
あ。ラナ……そんなこと言っちゃったら……。
「写真撮ってもいいですか!!!」
晃が暴走しちゃうから……。
二次元をリアルにした設定のラナは晃の好みドストライクだから、見境が無くなるぞ。
「しゃしん……? ああ。よくわからないが、好きにするといい」
「ではあっちの神社の前で一枚お願いします!!!」
「ああ。わかった」
ラナ。よくわからないなら了承しちゃ駄目だぞ。
晃のお願いに答える為に、ラナは晃に連れられて商店街にある神社の方に歩いて行った。
……普段はしっかりしてるけど、こういうときは危なっかしいな。悪い奴に騙されないといいけど……。
「浩之。私、ちょっと知り合いのお店に顔出してくるわね」
「いいけど。ちゃんと戻ってきてよ」
「当たり前でしょ。まだみんなの浴衣姿を愛で足りないんだから」
愛で足りないとか言わないでくれ。
気が付けば……この場に残ってるのは、俺とカンナさんだけになってしまった。
全く……あいつらに集団行動の大事さを、もっと説明してやる必要があるな。
カンナさんを一人にするわけにはいかないし。俺は残ろう。
「カンナさん。どっか見てみたい所とかある?」
「ヒロユキさんは……みなさんみたいに行きたいところはないのですか? 私に気を使わなくても……」
「俺は前にも来たことあるし。カンナさんみたいな美人と回れるならそれだけで満足だって」
「え?」
あ。やべ。思わず心の中で止めとくはずだった本音が。
欲望全開の言葉で、カンナさん引いちゃったかな……? これじゃ天乃のことをあんまり言えなくなっちまったぞ。
でも、カンナさんは嫌そうにするでもなく、むしろ笑顔で。
「では……ヒロユキさんとデートですね」
そんな可愛いことを言ってきた。
「……ぎゅってしていい?」
「はい? ぎゅっ……ですか?」
「な、なんでもない」
危ない……また欲望がそのまま言葉に。
だって可愛いすぎること言ってるんだもん。思わずぎゅってしたくなったんだもん。
「と、とりあえずなにか食べようか」
「はい! 実は気になってるお店が……」
カンナさんと二人で、人込みの中を歩き始める。
……今なら俺は、カンナさんの為にいくらでも金を使ってやるぞ!
破産しても(大げさ)悔いはない!!!
お祭り最高!!!
なんて有頂天になってた俺は……。
ラナの言っていた、いざと言うとき。
それが本当に起こるなんて。このときは予想もしていなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『おまけショートチャット』
「ぎゅってしてもいいですよ?」
「マジでっ!?」
「お金もらいますけどね」
「……(財布の中身確認中)」
「あの……冗談ですよ?」
「ぎゅっとしてもいいってほう! それともお金取るほう!!!?」
「りょ、両方です」




