ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました⑦
アカムレッドの紅葉港レッドツリーの東にずっと行くとある【紅蓮の館】。
館ってだけあって、ダンジョンとしては小さいけど、ここにも【ドラキュラ】ってボスが出る。
館に冒険者を誘い込んで血を吸って殺すって設定のボス。
簡単に言えば……吸血鬼のフィリアと大体は同じだ。
血を吸われると、ステータスを奪われる。
だから接近戦は注意しないといけない。
とは言え……あんまり心配する必要はなかったな。
「ウォタルウェーブ!」
なにせ、ドラキュラは赤色属性だ。
青色が特性色のアマノの色魔法で、軽く無双状態。
ラナが前に出て、サニーがクリアシールドで守る。その間にアマノがウォタルウェーブ連打で、簡単に終わる。
ハスは周りのモンスター退治に専念できるほどだ。
やっぱり、マジックマスターになってから、アマノの火力が跳ね上がってるな。
ハスと合わせると、さらにやばい。完全に火力重視パーティだな。
ドラキュラは一時間周期のモンスターだから、沸き時間までの間けっこう時間がある。
だからその間は館のモンスターを倒してレベル上げと、もう一つの目的もある。
ダンジョン装備ってのは、ボスが落とす物だけじゃない。
ダンジョンにランダムで生成される、RPGゲームで定番の宝箱。
ダンジョンによって、中身が変わる。んでもって……低確率だけど、ダンジョン装備がその中にあるんだ。
紅蓮の館には、アマノが装備できる【魔女ローブ】。サニーが装備できる【魔女っ娘ローブ】。ハスが装備できる【伝説の狩人服】が宝箱に出てくる。
それもついでにいただいちまおうと思って、探索してるんだ。
「あ。ヒロユキ様! なんか服が入ってたよ!」
ハスが宝箱を開けて、嬉しそうに叫んだ。
けっこうな数を開けて、やっと服が入ってたからな。無理もない。
「……魔女っ娘ローブだな。サニーのダンジョン装備だ。最大SPが増えるのと、スキル使用時のSP消費が減る効果がある」
「やったね! ハッスー!」
……ハッスー?
ああ。ハスのことか。サニーのあだ名付けも、もはや定番になってきたな。
「はい。サニーちゃん」
「ありがとー」
魔女っ娘ローブを受け取って、すぐに装備するサニー。
定番の。アニメとかでよく見る魔女っ娘の服に似た感じの服。赤が基調になってる。
見た目は魔法使いっぽいけど、これはマジックマスターとクレリック兼用の装備だ。
サポート役のクレリックにとって、SP切れは致命的だ。
回復剤を使う暇もないってときもあるからな。SP消費軽減の装備が一番大事だ。
「か、可愛い……」
魔女っ娘服に身を包んだサニーを見て、アマノがデレッデレに顔を緩ませてる。
確かに可愛いけどさ……。
相変わらず……サニーのことに関しては顔に出まくる奴だな。
これで残りはアマノとハスの防具だな。ドラキュラが出てくる時間までまだあるし、もう少し探索するか。
……でも、さすがに疲れてきたな。
肉体的にはゲーム世界では疲れ知らずだけど、精神的に。
ドラキュラとの戦いに関しては、俺はなにもしてないけどさ。
昨日……ていうか今日の深夜遅くに帰って、昼前まで寝て、カンナさんの美味しい昼食を食べて、またすぐにゲーム世界でドラキュラを狩り続ける。
それがすでに五時間ぐらい続いてるからな。
むしろ、アマノたちはなんで平気そうなの?
ボス狩りハイになって、疲れを忘れてない? この人達。
「あ。また宝箱があったよー」
宝箱は基本的に、開けたら次の場所に自動で生成される。
運が良ければ、すぐ近くに出てくることもある。
さっそく、とてとてと宝箱に近寄って開けるサニー。
「また服が入ってたよー!」
連続で服が入ってたか。被らないことを祈りながら、サニーが持ってきた服を確認する。
「……これは魔女ローブだな。アマノのダンジョン装備だ。サニーの魔女っ娘ローブと同じで最大SPが増えるのと、色魔法詠唱速度が速くなる効果がある」
火力重視で知力激ふりしてるアマノは、SP切れを起こすことはほぼない。
【魔力修練】って言う、SP回復速度を上げるスキルもあるからな。
だから、色魔法詠唱速度を上げて、さらに、実質の火力アップの方向にした。
見た目は……サニーの魔女っ娘ローブよりも、それこそ魔女って感じの赤黒二色のローブ。
「私とお揃いだね! アマノン!」
「お、お揃い……?」
おい。ニヤケすぎだ。
サニーとお揃いって単語に喜びすぎだ。確かに似てるけど。
よし。これでさらにドラキュラを狩るのが楽になったな。
残りはハスの防具か。まぁドラキュラからダンジョン装備が出るまでに見つけられればいいけど。
「ヒロユキ。今日は祭りの日ではなかったのか?」
「……あ。そうだった」
瞳姉がめっちゃ楽しみにしてたからな。アマノたちに浴衣を着せることを。
バックレたら後で俺がなにをされるかわかったもんじゃない。
となると……時間的に、次でとりあえずドラキュラ狩りは最後かな。
ドラキュラは出現する場所が固定だからな。
館の中心にあるロビーが出現場所だ。
だから探す必要はないんだ。つまりは、だいぶ楽なんだけど……。
アマノたちは残念そうにしてた。
ボスを探すことが楽しくて仕方がなくなってたんだ。
……その気持ちがわかっちゃうから嫌だな。
ボスが出た! 探すぞ! 見つけた! 倒せぇ! の流れが楽しすぎるんだ。
宝探しみたいな感じで。
ドラキュラが出てくるまでの時間。館を探索して、宝箱を開け続けること三十分ほど。
日頃の行いかどうかはわからないけど、ドラキュラが出る直前に見つけた宝箱で。
「あ。服が入ってたわ」
またしても服を発見。
そして見た目的に、求めていた最後の物だって、俺にはわかった。
「伝説の狩人服。ハスのダンジョン装備だ。遠距離攻撃するときの攻撃力が上がる効果がある」
「やったぁ! 虎上院さん! 頂戴頂戴!」
「わ、わかってますよ! あげますから抱き付かないでください!」
アマノから伝説の狩人服を強奪して、さっそく装備するハス。
……装備してみて、ちょっとした誤算があったな。
「どう? ヒロユキ様!」
「……」
この装備……肌の露出が多いな……。
お腹がガッツリ出てるじゃん。足も際どい部分まで見えてるし……こんなにエロかったっけ? この装備。
暖かそうな獣の毛皮っぽいのが縁に付いてるけど、意味ないじゃん。すっげぇ寒そうだよ。
「ヒロユキ様?」
「……とりあえず、これ着といて」
さすがにこれは……と、俺のマントを羽織らせる。
眼福だけど……さすがにこれで街中を歩かせるのは罪悪感だ。
後でちゃんと上に着るやつを買ってあげよう。
性能だけで装備を選ぶと、女の子だとこういう問題も出てくるのか……勉強になった。
男なら見た目なんかどうでもいいんだけど。
「ヒロユキ。そろそろドラキュラが出てくる時間だぞ」
「そうだな」
よし。ロビーに移動しよう。
もうそんなに身構える必要もないけどな。俺無しでも、余裕で倒せる相手だし。
ロビーに到着してすぐ……無数の蝙蝠が集まって、人の形を作って行くのが見えてきた。
すでに、見飽きた光景だけど……ドラキュラの出現だ。
蝙蝠が黒い光を放ちながら、黒いマントを羽織った、白肌で赤眼の、ベタなドラキュラの姿になった。
「行くぞ!」
「うん!」
「会長は今まで通り、周りの敵をお願いしますよ!」
「了解!」
ここからは、俺は見てるだけー。
手を出す必要ないからな。
ラナが前に出て、ドラキュラの攻撃を引き受ける。
色魔法に巻き込まれないように、サニーがクリアシールドをラナに展開。
そしてアマノがウォタルウェーブを連打。
この流れで、ドラキュラは数分で撃破できる。
魔女ローブの効果で、アマノの詠唱速度がさっきよりも上がってる。攻撃の効率がかなり良くなってるな。
それもあって、ドラキュラが可哀想になるぐらい。一方的な展開になった。
ほんの三分ぐらいで、ドラキュラがまた蝙蝠に分裂。残りの体力が少なくなった合図だ。
そこに、アマノが止めの一撃。
「ウォタルウェーブ!」
大波が蝙蝠たちを飲み込んでいく。
【ドラキュラを倒した】
あっという間にドラキュラ撃破だ。
正直、ここまで戦闘に関して成長するとは思ってなかったから、純粋に関心する。
これなら、ここから先、俺が居ないときでもそう簡単にピンチになったりはしないだろうな。
消滅していく蝙蝠たち。その下に……ポロッと、なにかが落ちた。
「なんか出たよー」
サニーが近づいて、落ちた物を拾う。
小柄なサニーだと、持つのも大変なほど、大きなそれは……俺たちが求めていた物。
最後の最後で出たか。ドラキュラが落とすダンジョン装備が。
「【アブソーブボウガン】。やっと出たな。ハスのダンジョン装備だ」
「やったやった!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶハス。
アストロに比べたら、少ない回数で出たけど、苦労した分、喜びもまた違う。
「アブソーブボウガンは、攻撃した相手のSPを吸収できる効果がある。火力特化だと、あんまり知力にポイントふれないからな。SP切れが大銃士のネックだ。これがあれば、ほとんどSPが切れることはない。攻撃力もかなりあるしな」
「さすがヒロユキ様! 私のことをよく考えてくれてるね!」
「別に会長のことだけを考えてるわけではないですからね? 私とサニーのことも考えてますから」
いちいちケンカしないでください。
それからあんまり君たちのことを考えてるとか言わないでください。ちょっと恥ずいから。
ともあれ……よし。これで全員の装備が揃ったな。
【アマノ】 職・マジックマスター
Lv70
力 1
体力 30
素早さ 1
知力 248
技 120
武器 悪魔の杖 魔法攻撃力 700 特性色魔法威力1.5倍
防具 魔女ローブ 防御力 250 色魔法詠唱速度半減
装飾品 水面リング 魔法攻撃力+10% 色魔法詠唱時間減少
【サニー=アカムレッド】 職・クレリック
Lv68
力 1
体力 30
素早さ 1
知力 185
技 173
武器 女神の杖 魔法攻撃力 400 ブレッシングの効果増幅
防具 魔女っ娘ローブ 防御力 250 スキル使用時SP消費半減
装飾品 十字架のリボン 回復魔法の効果アップ
【ハス】 職・大銃士
Lv73
力 1
体力 20
素早さ 160
知力 14
技 220
武器 アブソーブボウガン 攻撃力 1000 攻撃時対象のSP吸収
防具 伝説の狩人服 防御力 230 遠距離攻撃力向上
装飾品 鷹の御守 攻撃速度+10%
【ラナフィス=ルミナシア】 職・双剣士
Lv88
力 205
体力 105
素早さ 105
知力 10
技 60
武器 フラムベルジュ×2 攻撃力 450×2 赤色属性付与。スキル威力向上
防具 聖騎士の鎧 防御力 300 物理。魔法ダメージ30%減少
装飾品 パワーリング 攻撃力+20%
装飾品はそんなに急いでそろえなくてもいいからな。
とりあえずはこれで……森の熊さんパーティ。強化完了だ。
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『おまけショートチャット』
「次はどのボスを狩るのよ?」
「次は可愛いボスがいいなー」
「次はもう少し強いボスでもいいな」
「次はヒロユキ様とも一緒に戦いたいな!」
「しばらくボス狩りは禁止です」




