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ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました⑥

 足元までの長い白衣。

 ボサボサになった髪は、研究に没頭してたことを表してるのか?

 髪に隠れた赤い眼が、ギョロリと俺たちを見据える。

 得物は大きな注射器だ。実験体に薬を注入しまくってたからだろうな。

 半透明のその体は、その場に居るはずなのに、存在感があんまりない。

 まさに亡霊って感じだ。


「気を付けろよ。説明した通り、打撃攻撃は効果が無い。ラナは攻撃を受けることに専念。アマノとハスはスキル連打。サニーはラナのサポートだ」

「わかってるわよ!」

「行くぞ!」

「さくっと倒そうね!」

「頑張るよー!」


 アマノたちが一斉にそれぞれの役割を果たすための配置につく。

 まずはラナが前に出て、アストロの攻撃を止めに行った。


「はあぁぁぁぁ!」


 アストロの注射器針を剣で受け止めて、弾き返す。

 宙に浮いているアストロは、弾かれても全く体勢を崩さない。

 休む間も与えず、ラナに連続で攻撃してくる。


「ラナ。注射器針を受けると混乱する。注意してくれ。黒色魔法も使ってくるから。サニーはクリアシールドの準備な。アマノとハスは……」

「わかってるって言ってるでしょ!」

「見ててね! ヒロユキ様!」


 アマノ。いちいち俺に噛みつかないで。


 ラナがアストロの攻撃を受けてる間に、アマノとハスがスキルを叩き込んでいく。


「ウォタルウェーブ!」

「パワーシュート!」


 ラナが巻き添えを食わないように離れた瞬間、大きな波が、アストロの体を飲み込む。

 その波を貫いて弾くほどに鋭く撃ち出されたハスの矢が、さらにアストロを追撃。ダメージを与える。


「――!!??」


 アストロが奇声をあげた。耳にキーンと響くその声は、色魔法の詠唱合図だ。

 すかさず、ラナが前に出てターゲットを取る。


「クリアシールド!」


 前に出たラナの体を、クリアシールドが包み込む。

 その直後、アストロの黒色魔法が発動した。

 黒色魔法闇属性の中級【ヤークフォース(黒爆発)】だ。

 黒い魔力の塊が、弾けてダメージを与えてくる。


「ぐっ!?」


 衝撃でちょっと顔を歪めたラナだったけど、ダメージは0だ。

 クリアシールドは万能防御魔法だ。俺もよく使ってるしな。


「ウォタルウェーブ!」


 ラナがクリアシールドに守られてることを確認して、その隙に、アマノがもう一発ウォタルウェーブを発動させる。

 アストロとの距離が近いけど、クリアシールドのおかげで、ラナは巻き添えを食わない。

 なるほど……味方の防御魔法を利用する。こういう使い方もあるな。さすが秀才。


「パワーシュート!」


 ハスも間髪入れず、魔力の矢を連続で撃ち出す。

 アストロの肩。腹部。額に矢が刺さって、魔力が弾けてダメージを与えていく。

 良い感じだ。これなら、爆裂スキルを使われる前に倒しきれそうだな。


「ラナ。もしアストロが爆裂スキルを使いそうになったら下がってくれ。無差別範囲のスキルだからな。サニーのクリアシールドでパーティ全体を守らないとやられるからな」

「わかった!」


 ラナならアストロが爆裂スキルを使う兆候がわかるだろう。

 爆裂スキルモードになると、攻撃する動きが変わるからな。

 よし。ついでにアストロの攻撃力を下げておくか。


「アストロの弱点ポイントは注射器だ。破壊すると怯むぞ。ついでに攻撃も弱くなる」

「任せてヒロユキ様! 私が壊すよ!」


 俺の話を瞬時に理解したハスが、狙いをアストロの注射器に絞った。

 動き回るアストロの注射器。それを正確に、パワーシュートが連続で射抜く。注射器が粉々に砕け散った。

 これで、ラナが攻撃を受けるのがかなり楽になるぞ。混乱の心配もなくなったからな。


「ウォタルウェーブ!」


 怯んだアストロは動きを止めた。ラナが一度離れて、アマノのウォタルウェーブがまたもさく裂。しかも、今回はこれだけで終わらなかった。


「エレカミストーム!」


 波にのまれたアストロの体を、落雷が追撃。

 雷は波を伝わって眩く放電。威力を倍増させた。

 おぉ……アマノがいつもやってるウォタルからエレカミのコンボだ。

 しかも今回は上級魔法でやってるからな。これはかなりの威力だ。


「もう一撃行くわよ!」

「止めだね!」


 エレカミストームで感電して、動けずに居るアストロ。

 完全に麻痺してるな。ボスを状態異常にするなんて、やるじゃないか。

 今が好機と言わんばかりに、アマノとハスが止めの攻撃を繰り出す。


「ギガフェルノス!」

「【ダブルパワーシュート】!」


 赤色魔法火属性上級。ギガフェルノス。

 アマノの奴、上級魔法連発だな。覚えたてで使いたくて仕方がないんだろう。

 炎の嵐が、アストロの体を包んで焼いていく。

 そしてハスの【ダブルパワーシュート】。

 これは名前の通り、パワーシュートを二連続で撃ち出すスキルだ。

 大銃士のスキルで、ただ単に二連続ってだけじゃなくて、威力も向上してる。いつのまにか覚えてたんだな。SP消費が激しいから、連発はきついけど。止めには良いスキルだ。

 ハスの魔力の矢が、アストロの額を連続で貫いた。瞬間……。


「――!!??」


 アストロがまた奇声をあげて、体が膨張していった。

 膨張した体は少しずつ光に分解されて消えて行って、やがて完全に消滅した。


【アストロの亡霊を倒した】


「やったぁー!」


 アストロ撃破。サニーが歓喜の声をあげる。

 うん。終わってみれば、なかなかの戦いだったな。

 それぞれが立派に役割を果たしてた。みんな成長したもんだ。

 特にアマノ。

 一人でクエストをクリアしようとしてた自己中だった頃とは比べ物にならないな。

 言うと怒るから言わないけど。


「すごいな。みんななかなかの連携だったぞ」

「ラナもご苦労様。怪我とかしなかった?」

「なんかあんまり強くなかったね。私たちが強すぎるのかな?」


 ……確かに、戦いとしては良い戦いだった。

 けどな……。

 喜ぶアマノたちを尻目に……俺はため息をついてた。

 うぅん……やっぱり、一回で落ちるほど甘くないか。


「……あんた。何ため息ついてるのよ? 私たちの勝利をもっと祝福しなさいよ」

「それは素直に祝福するけど。俺たちの目的は……アストロに勝つことじゃないからな」


 そう。それはあくまで……目的までの最低条件だ。

 アストロに勝って、大事なのはその後なんだよ。

 消滅したアストロ。その後には……なにも残っていなかった。

 つまり、なにも落とさなかったってことだ。


「落としたアイテムは無し。また三十分後に再戦だな」

「……」


 アマノたちも、やっと思い出したみたいだな。

 アストロを倒せたところで、ダンジョン装備を落とさないと、全く意味が無いってことを。


「……これを後何回繰り返すわけ?」

「決まってるじゃん。ダンジョン装備を落とすまでだよ」

「……嘘でしょ?」

「マジだけど?」


 当たり前のことを聞くな。

 そもそも、ダンジョン装備を取りに来たんだ。出るまで狩るに決まってるだろ。


 目的の装備を落とすまで、時間沸きのボスに粘着して倒し続ける。

 オンラインゲームとかでは……これをボス癖とか呼んでたっけな?

 つまり、俺たちはボス癖になるってわけだ。


「三十分あるし。昼飯にするか? そろそろ昼時だろ」

「ご飯だご飯! 今日のお昼はなにかなー?」

「一度現世界に戻るか? カンナさんが待っているぞ」

「ヒロユキ様! 私も一緒にご飯食べてもいい?」


 呑気な面々を他所に。

 アマノだけが……この苦行とも言える作業を、理解したみたいだな。

 まぁ。最初だけだって。


 その内……。


 ボスを探すのが楽しくなってくるから大丈夫だ。





ミ☆





 アストロを倒し続けること、丸一日。

 そろそろ、現世界では深夜だと思う。

 正直、俺的には一回戻りたいんだけど……。


「沸き時間よ! みんな行くわよ!」

「よし! 先行は任せろ! 地下から順に行くぞ!」

「SP回復OK! 次も倒しちゃうよ!」

「サポート色魔法かけるねー!」


 この子たち。ボス狩りにはまりすぎて、全然帰る気配がないんだよ。

 アマノも、最初こそ、繰り返されるであろう作業に絶望の表情だったけど……何回かアストロを探して倒す内に、感覚がマヒ。今では楽しそうにアストロを探してる。


 うん。君たちは今……立派なボス癖です。


 その内楽しくなるとは思ってたけど、想像以上だ。

 めっちゃ生き生きしてるじゃん。

 まぁ元々好戦的な面子が多いからな……ボスを倒すって作業が楽しくなっても無理はないけど。


 ……昔の俺を見てるみたいで、ちょっと微妙な気分。


 あの頃の俺も……こんな感じでボス狩りにはまってたからなぁ。


 そして……アストロとの戦いが十回を超えた頃だった。


「あ」


 アストロが消滅した後に、二本の杖が残ってた。

 おぉ……まさか二本同時に落とすとはな。運が良いぞ。


【女神の杖を獲得】

【悪魔の杖を獲得】


 女神の杖と悪魔の杖。

 対になるこの二つの杖が、アストロの落とすダンジョン装備だ。

 女神から見放されて、悪魔に心を売ったってアストロの心境がモチーフになってるんだったかな?


「え……? もしかしてこれが……」


 倒すことに夢中になってたアマノたちだったけど、突然の戦利品に、呆然としてた。

 おいおい……元々の目的はこっちだからな? 忘れるんじゃないよ。


「これが、求めてたダンジョン装備だ。女神の杖がサニー用。悪魔の杖がアマノ用な。しばらくはこれで武器には困らないぞ」

「「……………」」


 アマノとサニーが杖を見つめて、しばし沈黙。

 やがて……顔が満面の笑みに変わって行く。


「「やったぁぁぁぁぁ!!!」」


 おぉ……抱き合って喜んでる……。

 今までの努力が実を結んだ結果だからな。それは嬉しいだろう。

 これも俺の目指してたことでもある。

 自分で手に入れたほうが、達成感があるってな。


「さてと……じゃあ今日はこれで帰るか」

「なに言ってんの? まだ会長のダンジョン装備を取りに行ってないじゃないのよ」


 ……え?


 いやいやまてまてまて……。

 まさかこのまま行くつもり?

 まて。今日はさすがにもう帰りたいぞ。


「いや。もう深夜だし。今日は大人しく帰「行くわよ!」」


 聞け。俺の話をよ!


 大体。次はどのボスを狩るかお前は知らないだろうが!


「ヒロユキ。次はどのボスを倒すんだ」

「新しい武器を早く試したいねー」

「次は私の装備だね! 楽しみだなぁ」


 ……こいつら。


 思った以上に、ボス癖になってやがる。


 けっきょく、全員をなんとか説得して現世界に帰れたのは……一時間後だった。










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『おまけショートチャット』


「サニーは女神。アマノは悪魔。なるほど……武器は口ほどに物を言うってことか」

「うまいこと言ってるつもり? ていうか、どういう意味よ。悪魔に呪われて死ね」

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