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ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました⑤

 アストロを探すこと一時間。

 出てくるのはダンジョンを徘徊する雑魚モンスターたちばっかり。

 すでに全階層を探索したと思うけど……中ボスすら見かけなかったな。


「……全然いないじゃないのよ」

「誰かが倒した直後。もしくは倒してる最中だったのかもな。まぁ三十分周期だからな。そのうち出てくる」


 こればっかりは仕方ない。ボス狩りってのはこんなもんだ。

 一回見つけちまえば、後は時間がわかるから効率が良くなるんだけどな。最初の一回。見つけるまでが大変なんだ。


「来たぞ!」


 ラナが剣を構える。

 またモンスターたちが出てきた。おなじみのウルフマンが四体。


「あ~~~~~! もう、うざったいのよ!」


 アストロが見つからないイライラによって、アマノの怒りがウルフマンたちに向けられた。とんだとばっちりだけど。


「【ウォタルウェーブ(大津波)】!」


 覚えたての青色魔法上級。【ウォタルウェーブ】を詠唱するアマノ。

 水弾を撃ち出すウォタル。水弾を連続で撃ち出すウォタルバブル。

 そしてウォタルウェーブは、大きな波を起こして敵を攻撃する色魔法だ。

 青色が特性色のアマノにとって、最強の色魔法と言っても過言じゃない。

 具現化された大きな波が、ウルフマンたちを一瞬で飲み込んでいく。


「アマノン強いねー!」

「ああ。上級職になったことで、色魔法が洗練されているな」

「そ、そんなこと……ないけど……」


 あ。純粋に照れてる。

 ツンツンしてる奴だけど、ああいう表情を見せるときは劇的に可愛く見えるからな。いや。顔はいつも可愛いんだけどさ。


「【キャノンシュート】!」


 アマノたちの後方。倒したウルフマンたちとは別に、三体の【ゴーレムマン】が迫ってきていた。

 いち早く気が付いたハスが、【キャノンシュート】を発動。

 キャノンシュートは、矢を巨大化させて敵を貫くスキルだ。その破壊力は、大銃士の中でもトップクラスだ。

 ゴーレムマンは【ゴーレム】って岩石モンスターと人を合成させたモンスターだ。

 図体だけで動きの遅いゴーレムが、人と合成されることで動きが速くなってる。

 まぁそれでも、ハスの矢の方が速かったってことだ。

 巨大化した矢が、ゴーレムマンたちをまとめて粉々に砕いた。


「油断大敵だよ。虎上院さん」

「わ、わかってますよ!」


 照れてた表情が一変。プリプリと機嫌が悪そうに腕を組んでそっぽを向いたアマノ。

 ぐうの音も出ないってこのことだな。正論にはさすがに反論できないってことだ。


「みんなー。回復するよー。【スーパーヒール(超治癒)】!」


 サニーが詠唱した【スーパーヒール】で、パーティ全員にヒールがかかる。

 スーパーヒールは、そのまんまの意味で、ヒールの上位互換。

 単体にしか使えないヒールがパワーアップして、パーティ全員に一気にかかる上に、回復量も段違いで上がってる。


「ブレッシング! リフレクター!」


 全員にブレッシングとリフレクターをかけ直して、次の戦闘に備える。

 現在位置は地下一階。

 この階層にはいなそうだから、上に戻ってみるか。


「えぇっと……上に戻る階段はと……」

「ユッキー……あそこに誰か居るよ?」


 え? 他の冒険者か?

 別に、ここはダンジョンだから、他にも冒険者が居てもおかしくはないけど。初めてだな。俺たち以外の冒険者を見たのは。


 ……と、思ったけど。違った。


 あれは冒険者じゃない。


 見た目は、小さな男の子だけど……。


「あの子。迷子かしらね。子供が一人でなんでこんな所に来たのかしら」

「ちょい待ち。アマノ」


 駆け寄ろうとしたアマノを止める。

 見た目に油断して、やられる冒険者も多いんだ。

 普通に考えれば、こんな所に子供が一人で居るわけがない。モンスターが徘徊してるダンジョンにな。


 やっと遭遇したか。アストロじゃないけど……。


「あれが中ボスだよ。アストロを殺した(設定の)モンスターだ」

「え? ちょっ……あんな小さな子供が!?」


 正確には、ただ子供の姿をしてるだけだけどな。


「……【ドッペルゲンガー】だったか?」

「ああ。魔界の【シャドー】ってモンスターを人間と合成したモンスターだ」


 シャドーは、影のモンスターだ。

 決まった形のない。形をいろいろと変化させてくるモンスターなんだけど……そいつが人間と合成したことで。


「あいつは姿を変化させるモンスターだ。だからあの姿は、ただ子供を装ってるだけだ。うかつに近寄るとやられるぞ」


 ドッペルゲンガー。都市伝説とかで聞いたことがあるかもしれないけど。

 もう一人の自分。的な奴だったか? 自分と同じ姿をしてる奴がもう一人居るって。

 たぶん、この能力はそれを模してるんだろうな。


 ドッペルゲンガーはゆっくりと俺たちに近づいてくる。

 中ボスとはいえ、アストロよりはかなり弱い。普通に戦えばアマノたちが負けることはないだろうけど……厄介なのは……。


「あ……あれ?」


 アマノが呆然として声をあげる。

 それはそうだ。初見じゃみんなこうなる。

 ドッペルゲンガーが子供の姿から変化して……。


「アマノンが二人になったよー!」


 アマノの姿になったんだからな。


 ドッペルゲンガーはパーティメンバーの姿になって、攻撃に躊躇いを持たせるんだ。

 それが一番厄介だ。

 アマノの姿になったことで、ラナたちは攻撃を仕掛けることができなくなった。


「こ、虎上院さんじゃないんだよね? 攻撃したら痛いとかないかな?」

「アマノンそっくりだねー。攻撃しづらいな……」

「……落ち着け! 下手に近づくと危険だ。距離を取るぞ!」


 外見が仲間ってだけで、冒険者は戸惑うもんだ。

 その混乱を利用して、ドッペルゲンガーは攻撃してくる。

 ドッペルゲンガーに仲間割れを起こされて全滅したパーティも居るほどだ。


 まぁ……ここに一人。躊躇いもなにもなく、好戦的な奴も居るけど。


「私の姿を真似るんじゃないわよ!!!」


 自分の姿を真似されたことで、アマノは怒り心頭。

 自分自身とも言えるドッペルゲンガーに、容赦なく色魔法を詠唱した。


「メガフェルノス!!!」


 大火球がドッペルゲンガーに向かって撃ち出される。

 自分と同じ姿だってのに、マジで躊躇しない。全力じゃん。

 いや。いいんだけどさ……むしろいいんだけどさ。やっぱりおいおいってなるよね。


「すばしっこいわね!」


 メガフェルノスを避けて、ドッペルゲンガーは逃げて行った。

 アマノのはちゃめちゃな怒りを感じ取ったのか? 姿を真似てるのに全く意味がないからな。

 それを追いかけるアマノ。自分相手に殺意満々じゃねぇか。


「アマノ! 深追いするな!」

「止めないでラナ! あいつは殺す!」


 大きな声で殺すって言うんじゃないよ。

 全く……パーティでの単体行動はご法度だぞ。


 ドッペルゲンガーを追って行ったアマノを追いかけて、俺たちも一層へと上がって行く。

 やっと追い付いたと思ったら……アマノがなぜか、攻撃するのを躊躇うように後ずさってきた。

 さっきまで殺る気満々だったのに、どうしたんだ?


 ……ああ。そういうことか。


「ひ、卑怯よ! そんなの!」


 ドッペルゲンガーが、今度はサニーの姿に変わっていた。

 アマノにとっては、最大の防御になるな。絶対に攻撃できないじゃん。こんなの。


 ドッペルゲンガーは腕だけを剣に変化させて、アマノに接近してきた。

 もちろん。アマノはサニーの姿になってるドッペルゲンガーを攻撃できない。

 色魔法を詠唱できずにあたふたしてると、ラナが間に入って、ドッペルゲンガーの剣を受け止めた。


「アマノ! 一度下がれ!」

「う、うん!」


 アマノを下がらせて、ドッペルゲンガーを力づくで押し返すラナ。

 正直、ドッペルゲンガーは戦闘力的にはそこまで高くないんだ。姿を変えてくるのが厄介なだけでな。


 押し返されて膝を着いたドッペルゲンガーが、今度は……。


「わ、私……か?」


 ラナの姿になった。

 駄目ならすぐに次の姿。その判断が早いんだ。そこも面倒な所だな。

 両手を剣に変えて、双剣士のラナを真似てるつもりなのか、ドッペルゲンガーが斬りかかってくる。


「ぐっ!?」


 二刀での打ち合い。

 自分の姿をしてる奴を相手にしてることで、ラナの剣がいつもより鈍い。

 無理もないけど。自分を相手にするなんて、気持ち悪いからな。


 打ち合いの果てに、一度距離を取ったドッペルゲンガーが、今度は……。


「うっわぁ……今度は私?」


 ハスの姿に変わった。

 剣だった両手が、今度は弓に変わる。魔力で造った矢を、アマノたちに連続で撃ち出してきた。


「クリアシールド!」


 サニーが詠唱したクリアシールドが展開されて、魔力の矢を防いだ。

 クリアシールドは、元々クレリックのスキルだからな。魔力を防ぐ壁だ。魔力で造られた矢も防げる。


「ああもう! なんなのよあんた! 正々堂々とかかってきなさいよ!」

「モンスターにそんなこと言っても無駄だろ」

「うっさい。やばい薬を体内に打たれて精神発狂して死ね」


 俺に当たるなって。ていうかその死に方怖い。

 でも確かに、これじゃ拉致が開かないな。

 こっちは満足に攻撃できない。このままじゃジリ貧になる。

 目的はこいつを倒すことじゃないしな。時間をくってられないんだけど……。


「また姿を変えるみたいだよー」


 ドッペルゲンガーが、また姿を変化させるみたいだ。

 どうせまた俺たちの中の誰かだろ? だったら誰でも変わらない。

 アマノたちは満足に攻撃できないだろうし。

 こうなったら俺がとっとと終わらせて……。


 ドッペルゲンガーが変化したのは……。


 ……俺の姿だった。


「ウォタルバブル!」

「ツイン・ソニックブレイド!」

「パワーシュート!」

「セイントオーブ!」


「おかしくないですか君たちっ!!!???」


 なんで満場一致の総攻撃仕掛けてるわけっ!?

 俺だよ俺! 俺の姿になったんだよ!! ちょっとは躊躇いとかないわけ!! さっきまでみたいにさ!!!


「は? あんたなんかどうでもいいわよ」

「ヒロユキはこれぐらいで死にはしないだろう?」

「全然ヒロユキ様に似てないもん! 本物のほうが格好良いからね!」

「ユッキーは普通じゃないもんね?」


 それぞれいろんな思いの上で攻撃したみたいだけどさ。さすがに全く躊躇ないと傷つく。

 それとアマノ。お前が一番酷い理由だ。


 全員の総攻撃を受けて、ドッペルゲンガーはその姿を黒い影に変えて、跡形もなく消えて行った。

 攻撃できれば、そこまで苦戦する相手じゃなかったからな。

 攻撃できた理由が納得いかんけど!


「それよりも! ボスはどこに居るのよボスは!」

「このダンジョンのどっか」

「……そんなことはわかってるのよ。馬鹿にしてるの? 溺れて死ね」

「まてコラ! ウォタルウェーブを詠唱しようとするんじゃない!」


 溺れて死ねってか。お前が殺そうとしてるじゃねぇか!


 アマノを宥めてると……ピリッと、強い魔力を感じた。


 ……来たか。リヴァイサンのときと同じ感覚だ。


「来たぞ」

「あ? なにがよ?」

「お望みのボスだ」


 暗い通路の先。

 確かあのあたりは……アストロがずっと使ってたメイン研究室だったかな。

 砕けてボロボロになった扉。その奥から……。

 ゆらり……とぼんやりした光を体にまとった、それは姿を現した。


【アストロの亡霊・出現】










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『おまけショートチャット』


「ドッペルゲンガーのアマノ。本物より胸が大きくなかったか?」

「……遺言だけは聞いてあげるわ」

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