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ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました②

 蓮の話はこうだった。


 蓮には、三つ下の妹が居た。

 小さい頃から重い病気で、ほとんど入院生活。外に出ることがあんまりなかった。

 だから、蓮はゲーム世界でのことをいろいろと話してたらしい。

 家出してからも、妹のお見舞いには欠かさずに行ってた。

 ゲーム世界での話を楽しみにしていた。喜んで聞いてくれていた。

 蓮がゲーム世界で冒険してたのは、妹さんに話をする為でもあったみたいだ。

 でも……二年前。丁度、ゲーム世界で俺が蓮を助けた直後。

 妹さんは亡くなった。


「だからね。ゲーム世界が怖くなったって言うよりも……冒険する意味が無くなっちゃったから、冒険をやめたの。話す相手がいなくなっちゃったからね」


 なるほど……蓮がゲーム世界に行かなくなった本当の理由はそれだったのか。

 ゲーム世界が怖くなったって言ってたわりには、俺を追いかけてゲーム世界に来たし。戦闘も全然怖がってる感じじゃなかったから、気になってたけど。


「……だから、マムちゃんたちのことで、あんなに怒ってたんですね。私のことも、庇ってくれてましたし」

「うん。つい熱くなっちゃうんだよね。妹に会えなくなる悲しさは……よくわかってるから」


 ……そういえば。ラナが言ってたな。

 ゴルディオに、蓮が異常なほどの怒りを見せてたって。

 その場に居なかった俺はよくわからなかったけど、今の話を聞いて、わかった。

 コロナとマムも、姉と妹が引き裂かれた形になってた。

 その悲しみを、妹を失った蓮はよくわかってるんだ。


「……でも蓮。俺たちのパーティに入ってよかったのか? ぶっちゃけ、四角に目をつけられてるから、けっこうハードクエストが続くと思うぞ」

「うん。虎上院さん、お姉さんを探してるんでしょ? 協力してあげたい。絶対に生きてると思うから!」

「会長……」


 天乃と蓮がバチバチ火花散らしてたときはどうなるかと思ったけど。

 いつの間にか、上手くまとまってるな。

 これならパーティとしてやっていけるだろう。


 ……だとしたら。ゲーム世界で、まずやるべきことはもう決まってる。


「よし。じゃあちょっと休んだら、ゲーム世界で『あれ』をやろう」

「あれ? 浩之様と愛を育むの?」

「そんなわけないでしょ。欲望を抑えてくださいって言ったじゃないですか」

「抑えてるから抱き付かないんだよ!」

「じゃあ浩之から離れてください。距離が近いです」

「えー……嫌だ」

「……」

「……」


 ……上手くまとまってる。よね?


 はぁ……今はけっこう真面目な話をしようとしてたのに。

 俺たちが……天乃たちがゲーム世界でまずやることって言ったら、決まってる。


「転職だよ」

「……転職?」

「上級職になるってことだ。いつまでも下級職でいられないだろ」


 そろそろ、天乃たちもレベル60になる頃だ。

 60になれば、上級職になれる。

 これから先のクエストのことを考えても、上級職に転職しないとな。


 んでもって、上級職に転職したら……。


「上級職になったらダンジョン装備を集めて、一気にパーティ戦力強化だ。その為に……ダンジョンでボスを倒しまくるぞ」





ミ☆





 学校が終わった後、カンナさんの作った美味しい昼食を食べながら、これからのことを話してた。

 蓮はまだ会長としていろいろ仕事があるから不参加だけど。仕方ない。学校モードの蓮は忙しいからな。


「上級職って……私は何になればいいのよ?」

「マジックユーザーは、【マジックマスター】一択だ。上級魔法が使えるようになって、無色魔法もいろいろ使える」


【マジックマスター】

 マジックユーザーの上級職だ。

 全部の色の上級魔法が使えるようになって、無色魔法も使える。

 その種類は、ほとんど俺のカラフルナイトと変わらないほどだ。

 他にも、魔力強化とかのスキルも増えるから。マジックユーザーとは比べ物にならない火力が出る。


「私はー?」

「ヒーラーも【クレリック】一択だな。回復魔法の種類が段違いに増える」


【クレリック】

 ヒーラーの上級職だ。

 回復魔法もヒールだけじゃなくて、範囲指定の回復魔法とか、範囲指定の支援魔法も使える。

 つまり、サポートの効率が段違いってことだ。

 パーティに一人居れば、安定度がかなり上がるぞ。


 この二人は簡単だ。上級職への転職が一択だからな。


 蓮の銃士は、選択肢が二つあるけど。


 【魔法銃士】

 ライトの職業だな。銃士のときから、魔力で弾丸を造るスキルがあったけど。

 魔法銃士になれば、魔力関連のスキルがもっと増えるし、色魔法も何種類か使えるようになる。それを組み合わせて戦えるんだ。

 ライトがウインドランとウインドスカイを使ってたみたいにな。

 まぁあれは特性色が緑色だからできる技だけど。


 【大銃士】

 これは銃士よりも、大型の銃と弓を使える職業だ。

 簡単に言えば、火力特化。

 銃は重火器って呼ばれる大型銃。

 弓は大型ボウガン。

 スキルも破壊力が高いのが多い。派手にぶっぱなしたい系の職だな。


 正直、好みの問題だ。


 どっちになるかは、蓮に任せるしかないな。


「ダンジョン装備か……どこのボスを倒すんだ?」

「考え中。なるべく俺抜きで倒せるボスにするけど」

「……ていうかさ。あんた、私たちが装備できる武器ぐらい持ってるんじゃないの?」


 なかなかに鋭いところをツッコみやがったな。


 確かにその通りだ。

 ぶっちゃけ、天乃とサニーが装備できるダンジョン装備を、俺はいくらでも持ってる。

 一時期、ボス狩りにはまってたからな。倉庫に山ほどあるぞ。ボスが落とすダンジョン装備が。


 でも……俺はそれを倉庫から出さない。


「俺はあえて渡さないぞ」

「……ケチ」

「ケチとか言うんじゃない!?」


 そんな小さな理由で俺は装備を渡さないんじゃないからな!


「自分で手に入れたほうが達成感あるし、パーティの成長にもなる。ボスとの戦いは何よりも実戦経験になる。俺に頼るのは簡単だけどな。俺抜きでも強敵と戦えるようにしたほうがいい」

「……まぁそうね」


 あれ? 意外とすぐに納得したな。もっと反論されるかと思ったけど。


 ……ゴルディオとの戦いのこともある。

 天乃なりに、思う部分があるのかもしれないな。


「まぁ前衛はラナが居るし。天乃と蓮が火力になれば、そこそこのボスは倒せる。サニーも居るから回復は安心だしな」

「そうだな。ヒロユキを抜きにしても、バランスの良いパーティだ」


 前衛のラナ。後衛の天乃。中衛の蓮。サポートのサニー。


 まさに、理想のパーティバランスだ。

 しかも全員女の子とか、華やかパーティ。(関係ないか)


 今のみんなのレベルってどのぐらいだったんだっけな……。


「それぞれ、自分のレベルを述べよ」

「……なんであんたに述べよとか偉そうに言われなきゃいけないわけ? 口に砂詰め込まれて死ね。窒息死しろ」

「……言ってください」


 いちいちそんな所に反応するな。ちょっとした茶目っ気なんだから。


「……確か、57だったと思うけど」

「私は55だったかなー?」


 海底大青洞の戦いもあったし、闘技場でもモンスターを倒してるしな。

 それにボスともかなり連戦してる。

 本当にあと少しだな。蓮はこの二人よりもレベル高かったし。

 今ブルーアに居るから……海底大青洞に戻って、半魚人倒しまくれば、一日数時間だけでも、二、三日でいけそうだな。半魚人は弱い割に、経験値が高いし。


「ちなみにラナは?」

「私は81だな」


 ラナもレベル80を超えたか。

 もう少しレベルが上がれば、四角ともまともに戦えそうだな。

 実質、フィリアとは格闘で互角以上だったみたいだし。

 身体能力にステータスをほとんど振ってるラナだからこそ、前衛として頼もしい。


「みなさん。またゲーム世界に行かれるのですか?」


 お茶のおかわりを入れてくれながら、カンナさんが話に入ってきた。

 ……ふわりと香るお茶の匂いよりも……カンナさんから香る体臭のほうが気になっちゃった俺は変態なんだろうか?

 しょうがないじゃん! 良い匂いなんだもん! 横から入れてくれたから距離近かったんだもん!


「今日はゆっくりする。次は行ったとしても、レベル上げだからそんなに長くは行かないよ。カンナさんの作るご飯が恋しいし」

「え? も、もうヒロユキさん! 褒めてもなにも出ませんよ!」


 顔真っ赤にしてる。年上だけど、あえて言おう。

 やっべぇ可愛い。

 それに、本音だし。カンナさんのご飯を食べたら、家でちゃんと食べたいって思っちゃうよ。外食なんかよりよっぽど良い。こういう人と結婚したい。


「……なに鼻の下伸ばしてるのよ」

「伸ばしてない。純粋な感想だ」

「その割にはニヤけてたねー」


 サニー。意外と細かく見てるな。


 まぁでも、とにかく、今日はゆっくりする。夜はめっちゃ寝る。

 昨日は寝た記憶がないから、あんまり寝たって感じがしてないし。


「じゃあみなさん。おまつりには行かれるのですか?」

「おまつり?」

「ヒトミさんが言っていましたけど。三日後に、おまつりと言うイベントがあると……みなさんも行かれるのかと思いまして」


 おまつり……お祭り……あ……そういえば……。

 近所の商店街で夏祭りが毎年あるんだよな。それのことか。

 海と同じで、夏休み定番のイベントと言える。

 三日後……八月六日か。もうそんな時期か。


「……別に行くつもりはなかったけど、どうする?」

「なんで私に聞くのよ」

「パーティリーダーの意見をと思って」

「現世界では関係ないわよ」


 ごもっとも。俺もちょっと無理やりこじつけた感じがする。


「おまつりってー?」

「えぇっと……いろんな店があって、出し物もそこそこあって……ああわかりやすく言えば、ブルーアの闘技場で店が出てただろ? あんな感じの遊びイベントだな」

「面白そう! 行ってみたい! パンダの人にもらったリンゴ飴もあるかなー?」


 サニーは乗り気みたいだな。

 そうなってくると、天乃は絶対に断ることはない。サニーの気持ちを無下にするわけないからな。


「……ヒロユキ。そういえば、今朝ヒトミさんが、みんなに着せると言って、服を用意してたぞ」

「服?」

「ユカタ……と言っていたようだが」


 俺たち云々じゃなくて、瞳姉がすでに行く気だった。

 浴衣まで用意してるの……? そこまでガチで行くつもりじゃなかったんだけどな。

 まぁ。俺が着せられることはないだろうから別にいいけど。


「じゃあカンナさんも行こうよ」

「え? 私もですか?」

「お祭り興味ない? ていうかたぶん、瞳姉がカンナさんも連れて行くつもりだと思うけど」


 瞳姉が、カンナさんの浴衣だけ用意してないなんてあり得ない。

 絶対に全員に浴衣を着せて愛でるつもりだぞ。

 目に浮かぶ。デレデレする瞳姉が。


「行ってもいいのでしょうか?」

「……ん? むしろなんで駄目だと思うの?」

「私は……メイドなので……」


 ああ……確かに。

 一般的なメイドってのは、仕える人間と肩を並べるわけには、とか考えて行動しなきゃいけないのかもしれないけど。

 カンナさんは、あくまでカンナさん。

 メイドなんて立場。俺たちには関係ない。別に仕えてもらってるわけじゃないし。

 そもそも、瞳姉が半ば強引に頼んだんだし。


「行こう。むしろ強制です」

「……ヒロユキさん。強引です……」


 まって。その言い方はなんか卑猥に聞こえるから。

 俺が強引にカンナさんになにかしようとしてる感じに聞こえるから。


「変態」

「ちょっとまて!? 聞き捨てならないぞ!! 別に卑猥な会話じゃなかっただろ!!(自分でも卑猥に聞こえると思ったけど) 卑猥に聞こえる奴が変態なんだぞ!!」

「顔がニヤけてたわよ」


 お前ら。細かく見すぎだろ。

 ていうか俺、顔ニヤけすぎだろ。メイドさんに弱すぎだろ。


 まぁいいか……俺も祭りは久々だし。

 女の子に囲まれて夏祭りなんて、ぶっちゃけリア充もいいところだ。世の男どもが羨ましがるぞ。


 やべ。そう考えると楽しみになってきたな。










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『おまけショートチャット』


「……私の体、臭いますか?」

「えっ!? いや全然!!!(やっべ。クンクンしてたのばれた!?) むしろ良い匂いです!!!」

「勢いで何言ってんのよ。この変態」

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