ゲーム世界に三年居た俺はボス狩り癖になりました①
体を優しく揺らされる感覚で目が覚める。
……あれ? 朝か……?
なんか久しぶりに穏やかな朝な気がする。
いつもサニーの枕ダイブで起こされてたからなぁ……。
ていうか……ん? こんなに優しく俺のことを起こしてくれてるのは一体誰だ……?
「ヒロユキさん。朝ですよ。朝食ができています」
……考えるまでもなかった。
俺のことをこんなに優しく扱ってくれる人なんて。この家に一人しか居ないじゃん。
「……あ。おはよう。カンナさん」
基本的に扱いが悪い俺だけど。
ああ……この優しさ……なんか泣けてくる……。
「この優しさ。なんか泣けてくる」
「え? ど、どうしたんですか?」
あ。やべ。声に出てた。
メイド服の綺麗な女の人に起こしてもらうとか、贅沢すぎる。ちょっとお坊ちゃま気分。
「みなさん食堂に集まっていますので、ヒロユキさんもどうぞ」
「うん」
ニッコリと笑顔のカンナさん。
やべぇ。メイドさんの破壊力半端ねぇ。あの人可愛いなおい。
……思春期とはいえ、朝から欲情してる場合じゃない。
えぇっと……ていうか俺、いつの間に寝たんだっけ? あんまり記憶にないんだけど。
確か……ゲーム世界から戻ってきて……時間が遅かったから蓮を家に送って……。
……………覚えてない。部屋に戻ってからの記憶がマジでない。
完全に寝落ちしたじゃん。俺。
何気にかなりの間ゲーム世界に居たからな。
いろいろあったし。体力的にも思考的にもかなり消耗した。
ゲーム世界では疲労とか感じなかったけど。現世界に来てから一気にきたんだろうな。
……今日って何日だ?
日付もわからなくなるとか、ゲーム世界ボケって天乃に言っておいて、俺も同じ状態になってる。
……八月三日。八月になってたのか。
ふあぁ……まだ眠い……んん? まだけっこう早い時間だな。
学校に登校しても間に合う時間じゃん。
カンナさん……なんでこんな時間に起こしたんだろう?
みんなで朝食食べましょう的な?
食堂に行くと、俺以外の全員はすでに朝食を食べ始めていた。
「おはよう! ユッキー!」
「おはよう……」
「眠そうだな。ヒロユキ」
むしろ。君たちは全然元気そうだね。
俺はゲーム世界と現世界で体のスペックが違いすぎて、戻ってきてからの負担のかかり具合が段違いなんだよな。あー……だるい……。
「……あれ? 天乃。なんで制服着てるんだ? ゲーム世界ボケ?」
「死ね。パンを喉に詰まらせて死ね」
俺の喉はそんなに弱くないやい。
「ていうか、あんたこそ何言ってんの?」
「は?」
「今日は夏期講習で登校日でしょ」
登校日……………?
………………………………あ。
そういえば……昨日、蓮がそんなこと言ってた気がする……。
明日また学校で。みたいなことを。
「……えぇ? 今時登校日なんてあるのうちの学校。去年あったっけ……」
「ボケてんのはあんたでしょ」
反論できない。
まぁいいや……夏期講習なんて、別に強制参加じゃないし。午前中で終わるだろうし……別に行かなくても……。
「まさかサボろうなんて思ってないわよね?」
……ものすごい威圧感を背中から感じた。
俺の心を読んだかのように、先回りの言葉で威圧してる瞳姉。
こ、怖い……笑顔だけどめっちゃ怖い……。
「……行きます」
「よし」
蓮にもまた明日学校でって言われたし。仕方ない……行くか。
しかし……カンナさんが作った朝食美味そうだな。
朝からこんなに本格的な朝食が食えるなんて。メイドさん……いいじゃないか!
朝はそんなに食欲がないのが普通だけど、あまりにも美味しかったからあっという間に食べちまった。これは昼食と夕食にも期待が高まるってもんだ。
「さっさと着替えてきなさいよ。置いて行くわよ」
「いいよ。別に置いて行っても」
「……来ないつもりでしょ?」
図星をつかれて、ギクリ。とする。
瞳姉と天乃が行った後なら、行かなくてもばれないんじゃないかとか思ってたけど。
どっちにしろばれるか。瞳姉はうちのクラス担任だし。なにより、天乃が瞳姉にちくりそうだ。
はぁ……仕方ない。諦めて行くしかないか。
部屋に戻って着替えて、天乃に急かされながら学校の準備をした。
ミ☆
夏期講習。
わざわざ夏休み中に学校に来て、先生の授業を受けるという、物好きが参加する行事。
ちなみに、強制ではありません。別に行かなくてもいいのです。
……担任が姉と言う、特別待遇の俺は来てるわけなんだが。
「……終わったぁ」
午前の長い夏期講習が終わった。
参加する奴なんていないと思ってたけど、けっこう集まってるな。
まぁ部活でほとんど毎日学校来てる奴とかからすると、あんまり変わらないのかもしれないけど。
「みんな虎上院さんに会えると思って来たんじゃないの?」
「俺の心を読むな。久しぶりだなこれ」
晃も当たり前のように来てるし。
瞳姉と天乃に言われてしぶしぶ来る俺を見たかっただけらしいが。ちくしょう。
まぁ確かに、相変わらず天乃はクラスで注目を集めてる。
美少女ってだけでこれなんだから。
天乃の性格の詳細も知らないで……。
天乃は別に性格を着飾ってるわけじゃないけどな。どうでもいい奴とは絡まないから、性悪がばれないってだけで。
「ヒロユキ。この後はどうするの? 虎上院さんとデート?」
「しねぇから。クラスの男子に闇討ちされるからでかい声でそんな嘘言うんじゃない」
もう闇討ちは二度と御免だ。
「ていうか帰るに決まってるだろ。夏休みにわざわざ学校に来てるんだ。即宅する」
「僕はこれからギャルゲーを買いに店を梯子さ。店舗限定特典を集めないとね」
……それで同じゲームを何個も買うんだよな?
理解できない。いくら後で売ると言っても、同じゲームを買うなんて。
晃の行動をいちいち理解しようとしてたら、思考がどんだけ働いても足りないけど。
「さっさと行け。夏休みにまでお前の顔を見てたくない」
「照れ隠しだね」
「うるせぇ。ちげーよ。純粋に面倒なんだよ」
晃を追い払って、一息。
まだ疲れが抜けてないからな。あいつの相手をいつまでもしてられるか。
「……終わった?」
俺と晃の会話が終わるまで待ってた天乃が、めっちゃ睨んでた。
「別に会話に参加すればよかっただろ」
「あいつの話。よくわからないんだもん」
それは否定しないけどさ。一般人には理解しがたい話内容だ。
「早く帰るわよ」
「え? まさか……今日もゲーム世界に行くとか言うんじゃ……?」
「行きたいなら行くけど?」
「今日は勘弁してください」
ゲーム世界に行きたいから早く帰りたいわけではないのか。
まぁ早く帰ろうってのは同意だ。暑いし。さっさと冷房がきいた部屋に籠りたい。
……なにより。天乃と一緒に居ると、クラスの男子共の視線が気持ち悪いし。
廊下に出て、昇降口に行く途中で……数人の生徒が、なにかを取り巻いてるのが見えた。
なんだあれ? アイドルでも居るの?
生徒の取り巻き。その中心に……。
「じゃあお願いします。この書類は私が目を通しておきますから」
「会長。二学期の行事なんですけど……」
「そうですね。それでいいと思います。先生にも相談しましょう」
「会長! 部活の予算なんですけど!」
「わかりました。話を通しておきます」
蓮こと……朝比奈生徒会長が居た。
取り巻いてる生徒は……生徒会の人達か。
なんかいろいろ話してるけど、俺には難しすぎてわからない。
……しっかし、マジでゲーム世界とは別人だな。
あんな真面目な顔してると……改めて、美人だよなぁ。
「……会長。完全に学校モードね」
「学校モード? ああ……」
学校で演じてる優等生だっけか? 天乃に話だけは聞いたけど……。
なるほど。初めて会った時は学校モードだったってわけね。
忙しそうだし。邪魔しないでおこう。
俺と天乃は横をすっと通り抜けた。その直後……。
「赤柳君」
朝比奈会長に呼び止められた。
学校モードのときは、あえて会長って呼ぶけど……。
振り返ると、朝比奈会長が俺のことを笑顔で見てた。
「な、なんですか?」
「お話があるので、生徒会室に来てもらえますか?」
あ、あの……なんか俺に問題があるから会長に呼び出し食らってるみたいな感じになってるんですけど……。
俺、今日は真面目に学校に来たし。なにもしてないですよ?
とりあえず、会長にそう言われて、俺に拒否権なんてあるわけがない。
「わ、わかりました……」
「ではみなさん。よろしくお願いしますね」
その一言で、取り巻いてた生徒会面子が一斉に散らばった。
それぞれの仕事に戻って行ったらしい。どんな統制?
「行きましょうか」
「……はい」
連行される形で、俺は生徒会室に連れて行かれた。
ミ☆
生徒会室に入って、朝比奈会長が扉に鍵をかける。
その瞬間……。
「浩之様ぁ! 会いたかったよぉ!」
学校モード解除。一瞬で蓮に戻った。
さっきまでの真面目会長はどこへ行ったんだ? いつもの笑顔を向けてくる。
欲望のままに俺に抱き付こうとした蓮を……天乃が額を押さえて止める。
なんか、天乃の奴……蓮を止めるのに慣れてきてない?
「会長。ここは学校です。もう少し感情を抑えてください」
「だから鍵閉めたんだよ! ていうか、なんで虎上院さんも来てるの?」
俺と蓮にくっついて、天乃も生徒会室に来ていた。
確かに、別に天乃は呼ばれてないけど。
俺的には助かったけどな。蓮と二人きりだと我が身が危ない。(マジで)
基本的に、女の子からのスキンシップはウェルカムだけど。蓮は激しいからさすがに精神に毒だ。
それにしても……会いたかったって……。
「……そもそも、昨日の夜別れたばっかりじゃん? 会いたかったってほどじゃないでしょ」
「一晩会えなかっただけで……浩之様成分が不足したんだよ!」
天乃と同じこと言ってるよ。
天乃もサニー成分とか言ってたもんな。
この二人。案外思考が似てるじゃん。
ていうか……まさか、俺に会いたかったってだけで呼んだの?
絶対に。さっきの連行で、俺問題児って生徒会の中で思われたと思うけど。
……まぁ元々。遅刻とさぼりで問題児だけど。
「じゃあ無事俺成分を補充できたってことで。じゃあ」
「まだ抱き付いてないよ!!!」
抱き付かないと補充できないのかよ!?
じりじりと……俺に迫ってくる蓮。
やばい……完全に獲物だ。た、食べられる……。
「会長。そんなことよりも……せっかくですから、聞きたいことがあるんですけど」
「そんなことってなに! 浩之様成分はそんなことじゃないよ!!!」
「……会長。妹さんが居たりします?」
「……え?」
天乃がそれを聞いた途端。
笑顔だった蓮の顔が、少しだけ悲しそうになったように見えた。
言わんとしてることが、わかったみたいに。
俺をじりじりと追い詰めてた蓮が、動きを止めたぞ。それだけの質問だったってこと?
でも、俺には全く理解できない。
「なに? どういうこと?」
「あんたは黙ってて」
「……はい」
よくわからんけど、口を出すと殺られる。そんな威嚇をされた。
黙って傍観してよう。それが一番安全だ。
蓮は少し考えてから、ふぅ……と息を吐いた。
そして、話し始める。
「……正確には、居た、だけどね」
こんなに悲しそうに喋る蓮は、初めて見た。
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『おまけショートチャット』
「俺成分とか、サニー成分とか、どういう意味?」
「「幸福感」」
「……(意味わからんけど、どうやら同じ意味らしい)」




