ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します⑫
闘技場は、あちこちが壊れて、その機能を完全に失った。
まぁそもそも、闘技場管理者のゴルディオが死んじまったんだ。
もう、闘技場なんて意味がないだろうな。
闘技場の地下に捕まってた奴隷の人達は、なんとか無事だった。
奴隷が逃げ出さないように、牢屋が頑丈に造られてたのが幸いしたな。
アマノたちも、色の雫で怪我は回復した。
マムの姉ちゃんも、無事に助け出した。
予定してたのとだいぶ変わっちまったけど……とりあえず、これでひと段落だな。
「いやぁ。だいぶ波乱の大会だったな。まぁその分、可愛い子たちと出会えたから、俺にとっては充分プラスだけどよ」
「肩に手を回すな。何回も言うけど、俺たちは別に味方じゃないからな?」
「お? 敵とは言わないんだな」
……普通に言っちまった。
まぁいいや。別に、俺も完全にオリビアとライトのことを敵とは思ってないし。
でも、いちおう冒険者と魔王軍だ。味方ではないぞ。
「パンダの人……怪我大丈夫?」
「だーいじょうぶだって。何回も言っただろ? パンダはタフな生物なんだってば」
自分を庇って死にそうになったってことで、サニーはずっとライトのことを心配してる。
パンダはタフな生物とか、別に聞いたことないけど。こいつがタフなのは確かだ。だから別に心配する必要はないぞ。サニー。
「そんな顔するなって。サニーちゃんは笑ってる方が可愛いぜ?」
「……うん!」
サニーとライトは、気が合うのか、けっこう仲良くなってるっぽいな。
俺的には別にいいんだけど……。
「うぎゅー……」
「……」
アマノとアカムがすっげぇ睨んでる。
完全に嫉妬じゃん。
ていうかアカムの野郎。最近、ゲーム世界に来るとサニーの鞄で寝てばっかりじゃねぇか。役に立たねぇな。
……神器が近くにあることが関係してるのかもしれないけどな。
アカムも神器の一つだ。同じ魔力に、嫌悪感でも抱いてるのかもしれない。
「ヒロユキ様! マムちゃんたちはどうしようか?」
すっかり回復したハス。マムとコロナにまともな服を買ってあげる為に、町に行ってたんだ。
「とりあえず、この国に置いておけないしな。アカムレッド国王に世話を頼んでみようと思ってる。他の奴隷の人達も含めてな」
「全員助けてあげるんだね。さすがヒロユキ様!」
「いちいち抱き付くのやめない?」
距離が近いぞ距離が。
全員……って言っていいのかわからないけどな。
あくまで、俺が保護しようとしてるのは、ブルーア首都に居た奴隷の人達だけだ。
ブルーアには、まだまだ奴隷の人達がいっぱい居るからな。
全員を助けるには……やっぱり……。
「あの……」
ハスの選んだ服を着て、すっかり普通の女の子になったコロナとマム。
ボサボサだった髪も、綺麗に整えられてる。着せ替え人形みたいにされたんだろうな……。
こうして改めて見ると、美人姉妹だな。
二人は俺たちにペコリとお辞儀をしてきた。
「ありがとうございます。みなさんのおかげで……またマムと会うことができました」
「ありがとう! お兄ちゃん! お姉ちゃんたち!」
姉妹がまた一緒に居られる。
それだけで、充分に幸せなことなんだな。
これからは、穏やかに生活できると思う。アカムレッドなら治安も良いしな。国王も良い人だし。
「気にするな。俺は俺のやりたいようにやっただけだし」
「そうよ。こいつがもっと早く本気になってれば、もう少しコロナちゃんを楽に助けてあげられたのに」
そこをツッコむな。
結果オーライだろ! 確かにオリビアに対抗心持たなければもっと力づくですぐにでもコロナのことを助けられたけどさ!
文句ならあの真面目すぎる真面目に言ってくれ!
「アカムレッドでお父さんにちゃんとお願いするからねー! マムちゃん! アカムレッドに戻ったときは、一緒に遊ぼうね!」
「うん!」
すっかり仲良し姉妹みたいなサニーとマム。
前にも同じ表現をしたかもしれないけど、これが一番しっくりする表現だから仕方ないだろ。
…………………お? オリビアが遠くからこっちをじっと見てる。
この輪の中に入れとは言わないけど、もっとライトみたいに会話に参加すりゃいいのに。
「……ライト。オリビアが呼んでるぞ」
「ん? おっと、そろそろ退散かな?」
ライトがオリビアの所まで嬉しそうに走って行って、一度戻ってきた。さっきまでの嬉しそうな顔とは正反対の面白くなさそうな顔をしてる。
「……呼んだのはお前だとよ」
「俺?」
……俺になんの用があるんだ?
まぁいいや。せっかくだし。
けっきょく試合はどっちが勝ったかわからないドロー試合になったけど、俺もいろいろ聞きたいことがあったからな。
ミ☆
人通りのない裏路地。
オリビアは俺をそこまで強引に引っ張って行く。
「なんだ? 愛の告白?」
「な、なにを言ってるんですか! そんなわけないでしょう! なんで私があなたに……愛の告白など……」
冗談だよ。いちいち真に受けるな。
真面目は本当に冗談が通用しないからな。
オリビアは鞄の中から、ガラスの瓶に入った水を取り出した。
ゴルディオの部下たちをとっちめて奪った神器、神の水だ。
不思議な瓶だよな。ぶん投げても叩いても全く割れない。特殊な魔力でコーティングされてるんだろう。
「……本当に、私がもらっていいんですか?」
「何度も言っただろ。俺はいらないって」
「あなたも神器が目的で闘技大会に出たのではないのですか?」
まぁ、それはついでの目的であって。
俺の目的は、コロナを助けることだったからな。
正直、神器はどうでもよかったんだ。
「お前たちが神器を集めて何しようとしてるのか知らないけど、神器ってのは全部集まらないと、その目的を果たせないんだろ? だったら、うちには赤いトカゲが居るからな。あいつだけ確保してれば、とりあえずは安心ってことだ」
「……わかりました。ありがたく頂戴します」
まぁ、その上でアカムも渡せってんなら話は別だけど。
オリビアはそんな強硬手段には出ないだろ。俺の強さもわかってるだろうし。
オリビアの要件はこれだったんだろうけど、まだ話が終わった感じではない。
今度は、俺の言葉を待ってるみたいだ。
「……俺の質問に答えてくれるのか?」
「実質、あの試合は私の負けでした。当然でしょう」
ああ。だから神器も自分が持って行っていいのかとか考えてたんだろうな。
それなら遠慮することはない。いろいろと聞くとするか。
「まず一つ目、魔王が人間を殺すことがあり得ないってのはどういうことだ?」
試合の前に、俺の兄貴が魔王に殺されたって話をしたら。
オリビアは、それはあり得ないって話をしてた。
それがどういう意味なのか。それが聞きたい。
「簡単な話です。魔王様は……」
ゴクリ……とオリビアの言葉を待つ。
魔王が人間を殺すはずがない。その理由。めちゃくちゃに複雑な事情でもあるのか。
あんまり面倒な話は聞きたくないけどな。なんて思ってたら。
「人間が大好きだからです」
めちゃくちゃに簡単な理由だった。
「……は?」
「だから、魔王様は人間が大好きだからです。この前だって、人間たちの間で流行っている食べ物を買ってきて『これで私も人間の仲間に入れるかなぁ?』と嬉しそうに語っていました。人間たちが戦争を起こす度に、『また戦争? だ、大丈夫かな? 人間がたくさん死んじゃうなんて嫌だ!』と心を痛めているほどです。そんな彼女が、人間を殺すと思いますか?」
魔王のイメージが崩れて行くんだけど。
人間が大好き???
一般的に、世界を征服しようとしてる魔王が???
ていうかまてまて……今、彼女って言った?
「え? 魔王って……女なの?」
「……? それがなにか?」
……混乱してきた。
俺たち冒険者は、魔王を倒せばゲームクリアだと思って、現世界から来てるんだ。
オリビアが嘘をつくとは思えないし。その話は本当なんだろう。
だとしたら、俺たちは……誰を倒せばいいんだ?
「……いちおう聞くけど、魔王って世界征服とか考えてたりする?」
「はい? 魔王様はそんなことに興味はありません。むしろ、人間たちと仲良くなりたいとずっと思っています」
なにそれ? なんか魔王が可愛く思えてきたんだけど。
「……こちらもいちおう言っておきますが、あなたのお兄さんを殺したのは、四角の誰かでもないと思います。四角は基本的に、魔王城での警備などしませんから。する必要もありませんから」
する必要もない……。
それだけ、魔王の実力を信頼してるってことね。
魔王が冒険者に負けるわけがないって確信してるんだな。
まぁ。兄貴を殺したのが四角とオリビアじゃないってことは俺もわかってた。
兄貴が死んでたのを見つけたのは……俺が四角とオリビアと戦った後だからな。
かと言って、魔王城の雑魚モンスターにやられたとは思えない。
あの傷はな。
じゃあ……一体……。
兄貴は誰に殺されたんだよ。
「……もちろん、魔王様を倒しに来る冒険者はたくさんいます。身を守るために、最低限の攻撃で追い返しはしますが、ちょっと怪我をさせただけでも『やりすぎちゃった……後で傷薬持って行ってあげなきゃ』と、心配するようなお方ですよ」
魔王。優しすぎんだろ。
……まぁいいや。この件については、俺の中でも整理が必要だ。
じゃあ次の質問だ。
「……オリビアは俺のことを覚えてるんだよな?」
「はい」
「じゃあ……俺が倒したはずのガンマたちが生き返ってる理由も知ってるのか?」
「……」
四角は全員俺が倒した。
確かに殺した。ライトは俺が殺したわけじゃないけど。
オリビアにしたって、俺との戦いの後、生きてるとは思えなかったぞ。
戦いで崩壊した大地に、飲み込まれていったんだからな。
「……言ったところで、理解はできないかもしれませんよ」
「ああ。知ってるなら教えてくれ」
この言い方。やっぱりオリビアは何かしらの事情を知ってるみたいだな。
俺が前に居たゲーム世界と、今のゲーム世界。
同じ世界のはずなのに、どこか違う世界みたいに感じる理由を。
「……【リセット】です」
「……リセット?」
「この世界は……一度リセットされたのです」
一度リセットされた?
……………………………。
え? なにそれ? どういうこと?
「ちょ、ちょっとまて。リセット? それって……やり直した的な意味の?」
「そうです。世界は一度リセットされて、四角と私の死は、なかったことにされたのです」
理解が追い付かない。
ぶっちゃけ混乱してる。
つまり……えっと……。
俺がゲーム世界を去った後に、この世界は……一度リセット……やり直しをしてるってことか?
誰が? なんのために? どうやって?
「詳しい原因は私にもわかりません。魔王様の見解ですと……神の死が関係してるとのことです」
神の死……?
神器と一緒に何度も存在を確認できるような話を聞いてきたけど。
その神が……もう死んでるだって?
「神の死と、世界のリセット。その因果関係を確かめる為。そして……魔王様の約束の為。私たちは……神を復活させる為に、神器を集めています」
神を復活させる……?
死んでると思ったら復活の話かよ。
魔王軍は、その為に神器を集めてるのか。
神器と神の復活がどう結ばれてるのかはわからないけど……。
そういえば、黒の女王も……いずれは神でさえも思い通りにするとか言ってたな。
馬鹿なこと言ってやがるとあの時は思ってたけど。
……神器を集めて神を復活させるのと、何か関係があるのかもしれない。
ていうかさ……。
「聞いておいてあれだけど。お前、俺にそこまで話していいのか?」
「あ……」
わっかりやすい。つい言ってしまったって感じが顔全面に出てる。
めっちゃ魔王軍の目的について語ってたけどな。そこまで話してよかったのかよ。
「……も、問題ありません!」
「いや。めっちゃ焦ってたじゃん」
「いくらあなたが強いとはいえ、魔王様には勝てると思えませんから」
へぇ……つまり、どっちにしろ神器は魔王軍が全部集めるからってことか。
「それはどうかな?」
「……」
ぶっちゃけ、俺は魔王だろうとなんだろうと負けるつもりはないけどな。
つまり……結論から言うとこういうことか。
「世界がリセットされたって事実はわかってるけど、その原因まではわからないってことか」
「……はい」
「じゃあさ、なんでオリビアは俺のこと覚えてるんだ? 四角たちは俺のことを覚えてなかったぞ」
世界がリセットされたって言うなら、四角たちが俺のことを忘れてても不思議じゃないけど。
なんで、オリビアだけは俺のことを覚えてるんだ?
いや。ここまでの話になると……リセットされる前の世界のことを、覚えてる奴なんて他に居るのか?
「それは……わかりません。私と、魔王様だけが、リセットされる前の世界での記憶が残っていました。あ……なるほど。あなたが言っていた『俺のことを覚えてるのか?』とは、そういう意味だったのですね」
まだまだ謎だらけってことか。
とにかく、魔王の見解だと……世界のリセットと神の死はイコールで繋がってる。
神を復活させれば、なにかがわかるかもしれないと。
……話が壮大になってきたなぁ。
ゲームってことを考えると、魔王とか神とかテンプレ登場人物だけど。
リアルの話だと、マジで気が遠くなるな。
「ん?」
裏路地の上空に、大きな鳥……じゃないな。あれは……【ワイバーン】か。
ドラゴンの一種で、飛行に特化した種族だ。飛竜ってやつだな。移動用に飼いならされてることが多いけど。あのワイバーンもそうみたいだな。
「オリビアちゃーん! 招集だ招集! 魔王ちゃんが呼んでるぜ!」
ワイバーンに乗ってたのはライトだった。
魔王軍で移動に使ってるワイバーンか。レベルもけっこう高そうだな。
オリビアは建物を駆け上がって行き、ワイバーンに飛び乗った。
「……次に会うときは、あなたに勝ちますから!」
「無理だと思うぞー」
「絶対に!!! 勝ちますからね!!!」
わ、わかったわかった。そんなに怒鳴らなくてもいいだろ……。
まぁせいぜい努力してみろよ。
ライトが手綱を引くと、ワイバーンは高く上昇。翼を羽ばたかせて、あっという間に空の彼方へと消えて行った。
……オリビア、か。
あいつなら、マジでそのうち俺と対等ぐらいになりそうで怖いな。
さてと……いろいろわかったけど、同時にいろいろ謎も増えた。
世界のリセット。そして神の死。
神器は……それを解明する鍵ってことになる。
神の復活……。
アマノの姉。ミソラさんも、神器を探しに行って行方がわからなくなった。
全部……神器で繋がってる感じがするな。
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『おまけショートチャット』
「ところでお前、色の雫って激レアアイテムだけど、なんでそんなに持ってんだよ?」
「裏ダンジョンでめちゃくちゃ拾ったから」




