ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します⑪
なにこれ………………。
黒い霧が、人の形になったかと思うと、ラナとパンダが武器を構えた。
その直後……黒い霧の『なにか』が、天を仰いで、声のない叫びを出した。
それだけだったのに……。
「……なんで、みんなやられちゃってるの……?」
ラナ。パンダ。私たちを庇った朝比奈会長まで……黒い霧から発生してきた衝撃波で、吹っ飛ばされた。
会長のおかげで、私とサニー。マムちゃんたちは無事だけど。
部屋は粉々に崩れ落ちて、地下だったはずなのに、上から外の光が差してきてる。
牢屋も全部崩壊しちゃったみたい。まだ奴隷の人達もいたのに……。
「……#%○▽□ZAΩ!!!」
黒い霧。まるで燃えるみたいに揺れる人型のそれは、理解できない、意味不明な言葉を出してる。
頭に響いてくる、嫌な感じの声。
いや……これは声なの?
頭が痛くなってくる……。
あれが……ゴルディオだって言うの?
ダークマターを体に埋め込んだ瞬間。ゴルディオだった人間が、姿形が全く変貌しちゃってた。
そういえば、ヒロユキが言ってたわね。
魔界出身の亜種じゃないと、魔界の魔力を受け切れなくて、体に影響が出るって。
その影響がこれ……?
とにかく、危ない感じしかしない。
サニーとマムちゃんたちを逃がさないと……。
「……サニー。立てる?」
「う、うん……私はなんとか……でも……」
魔力に少し耐性のあるサニーはともかく、マムちゃんたちは……本能的に、黒い霧を怖がって、体が竦んじゃってるみたい。
……守らないと!
「ウォタル……バブル!」
魔力を振り絞って、ウォタルバブルを詠唱したけど……。
水弾が黒い霧に触れた瞬間、吸い込まれるみたいに消えて行った。
ど、どういうこと? 効果がないとか、そういう感じじゃなかったわ。
まるで、吸収されたみたいに……。
「アマノン……なんか……フラフラするよー……」
サニーが頭を押さえてる。顔色も少し悪いかしら……。
気のせいじゃなかったのね。
私も、さっきから体の力が抜ける感じがしてたの。
前にも感じたことあるわね。会長に……魔力を渡したとき。
魔力がほとんどなくなっちゃったときよ。
こいつ……まさか……。
「気を付けろ! こいつ……魔力を吸収してやがるぞ!」
叫びながら、瓦礫からパンダが飛び出してきた。
ウインドスカイで空中を移動しながら銃を構えてる。でも……。
体中、傷だらけじゃないの! さっきの攻撃のせいだわ。
動けてるのが不思議なくらいの怪我じゃないの!
「【バーストショット】!」
何発かの弾丸が黒い霧に当たった瞬間、爆発を起こした。
魔力……じゃないわね。純粋な、爆発だったわ。そういうスキルみたいね。
それよりも、パンダが今言ってたこと……魔力を吸収する……?
じゃあさっきの私の魔法も、吸収されたってこと?
じゃあ、魔力なしの今の攻撃なら……。
「……ちっ! 駄目か……」
爆発で、一度は体が飛散した黒い霧だったけど、すぐに元に戻っちゃったわ。
全く、ダメージはないみたい。
「ツイン・ソードクイック!」
瓦礫を吹き飛ばして、ラナが双剣を構えながら出てきたわ。
よかった……ラナも無事だったみたい。
スキルを使いながら、黒い霧に斬りかかって行く。確かあれは、攻撃速度を上げるスキルね。
私なんかじゃほとんど見えないような速さの連続攻撃。
黒い霧は細切れになって、その形を完全に崩したわ。でも……。
「……くそっ!? 全く、手ごたえがない!」
すぐに、元の人型に戻っちゃう。
なにこれ……どうしようもないじゃないのよ!
どういう生物なのよ! あいつは!
「アマノ。ハスは大丈夫か?」
「……うん。怪我が酷いけど、生きてるわ」
私たちを庇ったせいで、会長も体中が傷だらけになってる。
この人はもう……なんで自分の体を二の次に考えちゃうのよ!
「サニー。回復魔法使える?」
「頑張るよー!」
魔力を吸収されてるから、あんまり魔法を使うのは良くないけど……会長が危ないわ。
少しでも回復させないと……色の雫は、私は持ってないし……。
でも……このままだと、どっちにしろ全員……。
「……アマノ。ヒロユキを呼んできてくれ」
「……ラナ」
私もそれしかないと思ったけど……。
でも、みんなを置いていくなんて……。
「おぉ。ついでにオリビアちゃんも連れて来てくれ。残念だけどな……こいつの相手、俺たちだけじゃきついみたいだ」
……選択肢は他にないみたいね。
「わかった」
魔力が減ってきたから、少しふらつくけど、そんなの関係ないわ!
周りが完全に崩れちゃってるからわかりにくいけど、方向は大体わかる。闘技場舞台に行けば、あの二人が居るはず!
「……#%○▽□ZAΩ!!!」
黒い霧……ゴルディオが、また意味不明な言葉を出してきた。
それに、強い魔力が体をビシビシと刺すように感じてくる。
攻撃がくる!? まずいわ……またさっきのをやられたら……。
「ツイン・ソニックブレイド!」
攻撃を止めるために、ラナの二連続斬撃が、ゴルディオの体を切り裂いた。
また人型に戻る時間を与えないように、パンダが続いて、弾丸を撃ち込んでいく。
「【レインショット】!」
二つの銃から、まるで雨みたいに無数の弾丸が広範囲で撃ち出されていく。
ゴルディオの体を散り散りにして、攻撃の隙を与えない。
今のうちに……。
「……#%○▽□ZAΩ!!!」
その声だけが、響いた。
直後……私の右足に痛みが走った。
「いったっ――!?」
思わず、そのまま勢いよく転んでしまう。
なに……? なにこれ……?
黒い槍みたいな物が、私の右足に刺さってた。
……ラナ! パンダ!
ゴルディオが細かく飛散した体を、槍に変化させて、周囲を無差別に攻撃したみたい。
ラナとパンダは体にいくつも槍が刺さって、膝をついてる。
……サニー? サニーとマムちゃんたちは……。
「痛いよぉ……」
「サニー!」
倒れてる会長を庇って、サニーの肩にも、槍が一本刺さってしまっていたわ。
マムちゃんたちは離れた所に居たから、なんとか大丈夫みたい。
「アマノ! サニー! 逃げろ!」
ゴルディオが、私とサニーに向かって、その体を波状にして覆いかぶさるように、広がりながら迫ってくる。
私よりも、サニーの方が近い! 危ないわ!
サニーを守ろうとしたけど、足の痛みで立ち上がれない。
やめて!!! サニー!!!
「女の子に手を出すんじゃねぇ!!!」
ゴルディオの体がサニーに届く寸前に、パンダが間に割って入った。
黒い霧は体を拘束するようにうねって絞られる。
そのまま……体を黒に侵食していく。
「パンダ!」
「パンダの人!」
「ラ、ライトだから……名前ぐらい覚えてくれ……」
それは今はどうでもいいでしょ!
パンダの体が、どんどん黒い霧に侵食されていく。
あのままじゃ……黒い霧の一部にされちゃう!
「アマノ! 今のうちだ! 逃げろ!」
自分も立っているのがやっとなのに、ラナが私に向かって叫んでくる。
そうよ……私は、ヒロユキを呼んでこないと……。
足は痛むけど、なんとか動ける。
でも……ラナたちは……。
「行くんだ! アマノ!!!」
ラナの言葉で、迷いが吹っ切れた。
行かないと……私が行くことが、みんなの一番の助けになる!!
足の痛みをこらえながら、走り出そうとして……。
……やめたわ。
「ア、アマノ! なにをやっているんだ! 早く行くんだ!」
「……嫌よ」
「なにを言っているんだ! 早くヒロユキを……」
「必要なくなったもん」
もう。私が呼びに行く必要がなくなったから。
パンダの体を侵食しようとしてた、黒い霧が……拡散して消えて行った。
ミ☆
状況把握にすっげぇ苦労しそうなんだけど。
とりあえず、オリビアがライトを襲ってた黒いやつをぶった切ったけど。そもそもなにあれ?
さすがオリビア。ライトを傷つけず、黒いのだけを綺麗に斬ってる。
でも、黒い……霧? は、生き物みたいにうごめいて集まって行く。
……人型になったな。なんだありゃ?
「ライト。無事ですか?」
「いやぁ……瀕死も瀕死。オリビアちゃんがチューしてくれたら元気になるかも」
「大丈夫そうですね」
「あだっ!?」
ライトを地面に投げ捨てたオリビア。ひでぇ……。自業自得だけどさ。
とりあえず……全員生きてるみたいだな。
急展開すぎるぞ。俺的には、バルドルを止めてこのクエストは終わりだと思ってたのに。
「アマノ。状況説明頼む」
「……あの黒い霧はゴルディオよ」
は?
まてまてまて……ゴルディオ?
ただの黒い霧が人型になってるだけだけど。あれがゴルディオ?
「……アマノ。状況説明頼む」
「なんで二回言うのよ。雪の中に裸でダイブして死ね」
いや。今のじゃ全く理解不能だったんだよ。
ていうか、調子に乗ってなんか良い動画でも撮ろうとして死んだ間抜け野郎みたいに言うな。
「ダークマターだ……ダークマターを、ゴルディオが体に取り込んだんだ……」
「ラ、ラナ……ボロボロじゃねぇかよ」
体中が傷だらけだ。黒い槍みたいなのが何本も刺さってるし。
これだけボロボロのラナは久しぶりに見た。初めて会ったとき、ガンマにやられてたとき以来じゃないか?
……ラナとライトの二人がかりでも駄目だったってことか。
こいつ。ゴルディオだとしたら……レベルはどうなってんだ?
神眼で見てみるか。
【魔界生物:マジックイーター Lv195】
魔界生物……? もうゴルディオって認識もされてないな。
ゴルディオがダークマターを体に取り込んだなら、全身を魔界魔力に侵食されて、もう体としての機能は失ってる。
馬鹿野郎め……亜種以外はダークマターが体に適合しないってのに。
でも、こんな生物は俺も初めて見た。人間がダークマターを体に取り込んだ例も、今まで聞いたことがない。
「ヒロユキ……気を付けろ……こいつは……魔力を吸収するらしい……うぐっ……」
「わかった。いいから休んでろラナ。色の雫がまだ何個か残ってる。みんなに飲ませてくれ」
ラナに手持ちの色の雫を渡してから、前に出る。
魔力を吸収……なるほど。それでマジックイーターか。
【魔界生物:マジックイーター Lv196】
レベルが上がってる……。
魔力を吸収して、自分のレベルを上げてるってことか?
魔界の魔力は、表の世界では考えられない力を発揮するからな。
亜種が使う改造色魔法。それだけでも厄介だってのに。
人間がダークマターを使うと、こんな生物が生まれるなんてな。
……これは、放置できないな。
かと言って、ダークマターは生物の心臓と融合しちまう。
一度融合したら、外すことはできない。
人間がダークマターを使った例も、今までにない。
………………………。
オリビアは嫌がるかもしれないけどな。
「オリビア」
「……なんですか?」
「悪いけど。こいつは殺すぞ」
助けようがない。
このまま放置しておくと、魔力を吸収してどんどんレベルを上げて行く。
殺すしか、ない。
「……わかっています。仕方がありません」
オリビアは少し悔しそうな顔をした。
こんな極悪人でも、助けたいって思うんだな。真面目すぎる真面目め。
「……カラフリア」
せめて……。
一思いに消してやるよ。
普通の色魔法だと、全部吸収されちまう。
でも、全色魔法は、普通の色魔法とは威力自体が別格だ。
吸収の限界を超えれば、ダメージになるはずだ。
吸収できるもんならやってみろ。
俺、けっこう怒ってるからな。
ちょっとだけ本気で撃ってやるからよ!!!
「女の子に手を出してるんじゃねぇよ!!!」
【魔界生物:マジックイーターを倒した】
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『おまけショートチャット』
「オリビアちゃん。立てないからおんぶして」
「足持って引きずってあげますよ」




