ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します⑨
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃおぉぉぉぉぉぉ!!!」
もはや人間の声じゃない。
声帯から出てるとは思えないな。あー耳がいてぇ。
まぁバルドルの意識は、完全に俺とオリビアに向いてる。周りのモンスターたちにも、逃げる観客たちにも全然興味がなさそうだ。
本能的にわかってるのかもしれないな。
目の前に居る二人が、この場で最も強いって。
「殺さないでくださいよ」
「わかってるけどさ。場合によるぞ。殺さない方が難しい」
バルドルは神の水で無理やり体が変化してるだけ。
モンスターとは違う。人間だ。
そう簡単に殺して終わりってわけにはいかない。
アカムのときもそうだったけど、俺にとって、殺さないのが一番難しいんだ。
「ぎゃおぉぉぉぉっ!!!」
バルドルが大口を開けて、メガフェルノスみたいな火球を吐き出してきた。
さっきみたいに、魔力が暴走した感じではない。
……神の水の魔力が定着してるってことなのか? あの姿は、それも意味してるのかも。
「はあっ!」
オリビアがエクスセイバーを一線。火球を真っ二つに切り裂いた。
相変わらず、力任せだなぁ。それで強いんだから恐れ入る。
さてと……俺も少し様子を見るか。
「よっと」
バルドルの左後方に回って、後頭部に蹴りを一撃。
そこそこの力で蹴ったんだけど、バルドルは体を少し揺らしただけで、すぐに構え直す。
おぉ。俺の蹴りを食らっても倒れないなんてな。褒めてやるぞ。
「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」
大木みたいに太い腕を伸ばして、体を回転させるバルドル。
なんだこりゃ。竜巻なんちゃら脚みたいなつもりか?
まぁあんな腕で殴られたら、それだけで致命傷になっちまうだろうな。
でも残念。下ががら空きだ。
「ていっ」
俗に言う、足払いってやつだ。
回転する腕を潜り抜けて、軸になってる足を蹴る。
バランスを崩したバルドルが、腕の回転を止めて、仰向けに倒れる。
「はあぁぁぁ!!!」
オリビアが下段からエクスセイバーを振り上げた衝撃で、真空破が巻き起こる。
舞台の床を抉りながら、バルドルの体を吹き飛ばした。
まるでソニックブレイドだな……こいつ、スキル使えなくてもスキル使ってるみたいだもんな。
「ぎゃおん!!」
吹き飛びながら、空中で体勢を整えて、着地したバルドル。
巨体に似合わず、身軽だな。
普通、あんな体形だと、自重で振り回されるもんだけどな。
「ぎゃああああ!!!」
また巨体に似合わない動きで、ズシズシと足音をたてながらオリビアに向かって走ってくる。
足音と動きが合ってない。あの巨体で速く動くってのは、怖いもんだな。
「――!」
まぁ。オリビアのほうが速いけど。
振り下ろされたバルドルの拳をかわして、エクスセイバーの刀身腹部分で、顔面に一撃。
うわっ。痛そう……。
バルドルはそのままひっくり返……。
「――!?」
らなかった。
足で無理やりバランスを直して、グルリと体を起こす。
まだ攻撃の直後だったオリビアは、反応できずにそのまま腕を掴まれる。
「うっ!?」
エクスセイバーを持ってたほうの腕を掴まれた。あれじゃ反撃もできない。
オリビアを掴んだのと逆の腕を振りかざすバルドル。
あっ。やばいなあれは。拳をまともに食らうぞ。
仕方ない。悪く思うなよ。
「ソニックブレイド」
斬撃を飛ばして、バルドルの左腕を斬り飛ばした。
力の抜けた腕から脱出したオリビアが、俺のことを睨むように見てくる。
いや。なにが言いたいのかわかるけどさ。
「正当防衛だ。仕方ないだろ」
「……わかっています。助けてくれたのですから、そこまで文句は言いません。ありがとうございます」
いちいち礼を言わなくてもいいけど。ほんとに真面目だな。
しっかし、やっぱり殺さないってのは難しい……ていうか面倒だな。
アカムのときは、ほとんど俺のカラフリアブレードの魔力で威嚇する感じで動きを止めたけど。
自我がぶっ飛んでて獣みたいな今のバルドルに、威嚇なんて意味ないだろうな。
「ぎゃ……ぐぎゃああああ!!!」
「げっ」
俺が斬り落とした左腕。血が溢れ出てた傷口が光りだしたかと思うと……。
メキョメキョ音をたてながら、新しい腕が生えてきた。
再生能力? そういえば、準決勝で折れてた足も、すぐに治ってたな。
これも神の水のせい? 一体どんな神器なんだよ。
「おい。オリビアは神の水のことを知ってるんだよな? どんな効果を持った神器なんだ?」
「……簡単に言えば、神の器を成長させるための水です。神器の中でも、膨大な魔力を持っています。あの人の体は今、神器の魔力が循環し、体を蝕まれている状態です。おそらく、ほとんどのダメージは魔力が補って回復してしまうのでしょう」
また出たな。神の器。
いまいちわからないけど、とにかく、神器の中でもやばいぐらいの魔力を持ってるってことだよな?
その魔力のせいで、ダメージを受けてもすぐに回復しちまうってわけか。回復魔法が自動でかかるみたいなもんだな。
「ぎゃあああおぉぉぉぉぉん!!!」
両腕を振り上げたバルドル。それと同時に、体から炎が巻き起こる。
特性色が赤色っぽかったからな。さっきから炎を使ってくるのは、その影響か。
巻き起こった炎が、嵐になって俺たちに向かって覆いかぶさるように迫ってくる。
まるでギガフェルノスみたいだな。避けるのも面倒だ。
「おい。動くなよ」
「はい?」
「クリアシールド」
クリアシールドを展開して、炎を防ぐ。
威力はなかなかだな。あんまりレベルを落とすと破られそうだ。
「ありがとうございます――!」
礼を言いながら、オリビアは真正面から、バルドルに突っ込んでいった。
エクスセイバーが光を帯びてる。おいおい……ソードブレイカーを使ったのか。
体力の限界だってのに、無茶しやがる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
素早い動きでバルドルの懐に入った。
その構えは、さっきまでの攻撃とは違う。
致命傷を与えるつもりの、攻撃を放つつもりだ。
「―――――!?」
横に一線されたエクスセイバーが、バルドルの腹部を切り裂いた。
上半身と下半身が分かれて、普通なら絶対に絶命するダメージだ。
オリビアもそれがわかっていての攻撃だったんだろう。あれだけ、殺さないことに拘ってたのに。
でも、確かめるためには仕方ない。
「ぎゃああああおぉぉぉぉん!!!」
それでも、バルドルは絶命しないってことをな。
斬られて分かれたはずの上半身と下半身。傷口から光が溢れて、互いを繋ぐように結ばれる。
次の瞬間には、何事もなかったかのように、元通りに回復していた。
「回復が速すぎます――!?」
思っていた以上の回復速度に、オリビアの判断が一瞬遅れた。
バックステップで回避しようとしたけど、バルドルの拳を避けきれなかった。
「きゃうっ!?」
直撃……とはいかなかったか。ギリギリ、体を逸らして直撃は避けたみたいだ。
それでも、まともにバルドルの拳を受けたオリビアは吹き飛ばされた。
大口を開けたバルドルが、追撃の火球を吐き出す。
ちっ……あれだけの傷でも死なないのかよ!
「クリアシールド」
吹き飛ばされたオリビアを先回りして、その体を受け止める。そしてすぐに、クリアシールドで火球を防いだ。
……だったらこれでどうだ?
オリビアを抱いたまま、空中で色魔法を詠唱。
「エレカミヴォルト!」
それなりにレベルを上げたエレカミヴォルトだ。
雷撃がバルドルの体を焼き、全身が黒焦げになった。これも、普通なら完全に死んでもおかしくない。
でも、バルドルの体は瞬時に、光に包まれて回復した。
おいおい……なんど攻撃しても新品になるな。どこぞの魔人かよ。
「……いつまで抱えてるつもりですか?」
「あ。忘れてた」
「それとどこを触ってるんですか!! 破廉恥ですよ! 助けてくれてありがとうございます!」
怒ってるの? 感謝してるの?
確かに、仮にも女の子相手に密着しすぎだったけどさ。仕方ないじゃん。非常時だもん。
さてと……直接攻撃も魔法攻撃も、耐性は同じ。すぐに回復しちまう。
殺さない限り。これじゃキリがない。
どうするか……。
「なぁ。まだ殺さないでとか考えてる?」
「当たり前です」
さすが真面目すぎる真面目。
これだけ面倒な状況でも、まだ殺さないつもりだ。
「殺すより、殺さない方が難しいぞ? 大体、どうやればあいつを元に戻せるかもわからないし」
「わかります」
わかるのかいっ!? それを先に言えよ!
神の水のことを知ってるオリビアだ。だったら、確かにその対処法も知ってるんだろうけど。
「どうすりゃいいんだ? これ以上、無意味な攻撃するのもだるいぞ」
「簡単なことです。あの人の体を蝕む、神器の魔力を消せばいいのです。幸い、体内に入った神の水は少量のようです。体にある魔力が無くなれば、元に戻せるはずです」
……………………………。
何が簡単なの? 魔力を消す?
そんな方法、俺だって聞いたことがないぞ。殺さないで、どうやって魔力だけを消すって言うんだ?
「無理じゃね? 魔力だけを消すなんて」
「できます。私とあなたの剣があれば」
剣……?
エクスキューショナーとエクスセイバーのことか?
意味がわからないぞ。この二つの剣があればどうなるって言うんだ。
「さっき言いましたよね。聖剣エクスセイバーと魔剣エクスキューショナーは、対をなす武器だと」
ああ。そういえばそんなこと言ってたな。
でも、それと魔力を消すってのとどう繋がるんだよ。
「元々、この二つの剣は……神の創造した【神具】の一つ、【神剣エクスウェポン】という武器だったのです。力が強すぎる為、二つの剣に分離させ、表世界と裏魔界に分けて安置されていたのです。この二つの剣を……もう一度一つに戻します」
ちょ……え? なに? いきなりの設定出てきたぞ?
この魔剣。そんなにすごい武器だったの?
裏魔界に安置……なるほど、それを魔人が勝手に持ち出して使ってたってことか。
それを俺がボッコボコにして奪ったと……。
「……でも、戻したところでどうなるんだよ? 殺さないんだろ?」
「エクスウェポンは、魔力だけを斬る特徴を持っています。つまり、魔力相手には敵なしです。どんな最上級魔法も、エクスウェポンの一振りでかき消えます」
なにそのチート武器?
アマノ。俺のことをチートチート言うけどな。これが本当のチート能力だぞ。
魔力だけを斬る……なるほどな。
バルドルの体にある、神器の魔力だけをぶった切って消すってことか。
でもな……一つ不満がある。
……一つに戻しちゃうの?
「せっかく魔人をボコボコにして奪ったのに。気に入ってたのに。俺の魔力に耐える武器ってなかなかないんだぞ?」
「心配ありません。神でないと、完全に一つに戻すことはできません。融合させたとしても、数分が限度でしょう」
なんだ。それならなにも問題ない。
それにしても、さっきから神神当たり前のように言ってるけど。
やっぱり、神は存在してるんだな。今まで半信半疑だったけど、それを確信した。
さてと……やることは決まった。だったらさっさと行動だ。
「じゃあ頼んだ」
「あ……ちょ、ちょっと!」
オリビアにエクスキューショナーを投げ渡す。
「俺は融合のやり方知らんし。俺が適当にあいつを食い止めてるから、よろしく」
「……素手で戦うというのですか?」
「余裕だけど?」
「そ、そうですか」
むしろ素手のほうが殺しちまう可能性がぐっと減る。
色魔法で適当に相手をしてやろう。
あれだけの回復能力だ。そうそうは死にはしないだろ。
さぁてと……遊んでやるか。
「エレカミランス」
雷の槍を具現化して、バルドルに接近。
振り回される腕をかいくぐって、その腕をエレカミランスで吹き飛ばす。
ついでに体も感電。バルドルは動きを止めた。
まぁすぐに再生するだろうけど。
予想通り、吹き飛ばした腕がすぐに再生。そして怒り狂ったように、連続で拳を振り下ろしてくる。
相変わらず、巨体にも関わらず速い攻撃だな。
まぁ、俺にとっては遅いけど。
「メガフブザド」
中級青色氷魔法で、バルドルの全身を凍らせて足止め。
クロックでフィリアが街を凍らせたりしてたけど、魔力を一点集中させれば、一つの物体だけを凍らせられる。
体が凍り付いて、ギギギギ……と動きが鈍る。
でも、本当に足止めにしかならないだろうな。
バルドルの特性色は赤色だ。たぶん、
「ぎゃおぉぉぉぉっ!!!」
ほらな。体から炎が出て、氷が完全に溶けちまった。
炎の勢いは止まらず、俺に向かって伸びるように迫ってくる。
「クリアシールド」
クリアシールドで防ぎつつ、色魔法で反撃。
「カラフリア」
もちろん。最低レベルで撃ってる。
あんまりレベルを上げすぎると殺しちまうからな。
全色魔力玉を腹部に食らったバルドルは、ダメージが大きかったのか、さすがに膝をついた。
傷はすぐに回復するけど、体力はそうはいかないか。だんだん、反撃の速度が鈍ってきてる。
☆★☆★
あの人……本当に素手で戦ってますね……。
何者なんでしょうか。あの異常ともいえる強さ……。
いえ。見ている場合ではありません。
私は……剣の融合に集中しないと……。
魔王様に聞いた話では、元の姿に戻すだけならば、そんなに難しくないはずです。
聖剣エクスセイバー。魔剣エクスキューショナー。
二つの剣を持って、意識を集中……。
使用者の意思に従って、二つの剣は自ら、その身を一つに戻してくれるはず……。
……………………え?
なんですかこれは……ソードブレイカーを使っているときみたいに……私の生命力が奪われているような……。
うぐ……でも、やめるわけにはいきません……。
あの人を……必ず救わなければ!!!
剣が光を帯びて、交わり始めました。
あと……少しで……。
☆★☆★
しかし、ほんっとうにタフだな。
俺の色魔法をこれだけ受けて立っていられるとか。(めっちゃ手加減してるけど)
……でも、そろそろ限界がきてるみたいだ。
体のあちこちが、溶けて崩れだしてきてる。
神器の魔力に、体が耐えられなくなってきたんだ。
やばいぞ。オリビア。このままだと、時間切れだ。
…………………………………………………お?
眩い光。そして、俺でも少し気圧されるような威圧感。
光の中で……。
オリビアが、一本の大剣を天に向けて掲げていた。
表現するには、俺の言葉の引き出しが無さ過ぎて、適正な言葉が出てこないけど。
神々しい。とでも言うのか。
見てるだけで圧倒される。力を感じる。
すっげぇ……あれが、神剣ってやつか?
「どいてくださいっ!!!」
オリビアの叫び声に、俺はバルドルから距離を取った。
その直後、神剣エクスウェポンを振り下ろした。
「――――!?」
エクスウェポンから伸びる、光の翼みたいな斬撃が……。
バルドルの体を、縦に一刀両断した。
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『おまけショートチャット』
「……胸に手が当たってました」
「ん? なにか言ったか?」
「なんでもありません」




