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ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します⑧

 なにしに来やがった? ゴルディオの奴。

 不快な笑みを浮かべながら、俺とオリビアの所まで歩いてくる。

 とりあえず、良い所だったのに邪魔しやがって。

 お前の顔見ると気分最悪になるんだ。引っ込んでろよ。


「……試合中だぞ。邪魔だからすぐに降りろ」

「いえいえ。その試合なんですが……私から提案があります。どうでしょう? 二人とも優勝、ということにしては」


 あ? なに言ってんだこいつ。

 いきなり介入してきて勝手なこと言いやがって。

 なにが二人とも優勝だ。言ってる意味がわからない。


「これだけお強いお二人のどちらかだけが優勝だなんてもったいない。賞品は二人で山分け、ということにしてはどうでしょう? 獣人の奴隷とは別に、お好きな奴隷をさし上げます。王からの褒賞品はどちらにも贈呈させていただきますよ」


 ……ずいぶんと支離滅裂なこと言ってやがるな。

 絶対になにか企んでるじゃねぇか。そんなもん、開催側にメリットがなにもない。

 メリットがなにもないことを、ゴルディオが提案してくるなんてあり得ない。

 自分の利益と地位のことしか考えてない奴だぞ?

 俺たち二人の強さに感銘を受けるとか、そんな感情は持ってるわけがない。

 オリビアと目を合わせる。同じ考えみたいだな。

 だったら、やることは決まってる。


「さっさと降りろ」


 ゴルディオにエクスキューショナーの切っ先を突きつけた。


「な、なにを……」

「降りろって言ったんだ。邪魔なんだよ」

「わ、私は大会の主催者だぞ? 私にこんな真似をして、ただで済むと思っているのか!」


 はっ! どうやらこいつはめちゃくちゃに勘違いしてるみたいだな。

 俺とオリビアにとって、そんなのどうでもいいんだよ。


「言っておくけどな、お前らのルールに乗っかってやってるだけありがたいと思えよ? こっちは別に、力づくでお前から賞品を奪ってもいいんだ。俺たちの力はわかってるだろ?」

「うぐ……」


 俺が大会に参加したのは、ただのオリビアへの対抗心。

 オリビアは真面目な正攻法で賞品を手に入れようとしただけ。

 そんなもんは、ゴルディオが変な真似に出たら、すぐにでも放棄していいんだ。


 俺たちの威圧感に、ゴルディオは気圧されたのか、数歩下がる。

 別に護衛の強面野郎たちを呼んでもいいんだぞ? その瞬間、闘技大会は終了だけどな。

 力づくで全部奪って行くから。


 今すぐにでもその面を殴りたいんだ。とっとと見えない所まで移動して……。


「!?」


 舞台の下。試合中なら場外に当たる所に……異常な魔力を放ってる奴が居た。


 バルドルだ。いつの間に。


 何をしに来たんだ? ゴルディオみたいな主催者ならともかく、試合をする選手以外、立ち入り禁止のはずだ。

 オリビアとの戦いと、ゴルディオへのムカつきのせいで、近くに居たのに全く気が付かなかった。


「き、貴様! なにをしている! 失敗作は引っ込んでいろ!」


 ゴルディオが、バルドルに向かって叫んだ言葉。


 ……失敗作? どういう意味だ?


 それを詮索する前に……。


「うぅ……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」


 バルドルの体に異変が起きた。


 ぐるぐる巻きだった包帯が破れ、現になった肌はどす黒い色をしていた。

 人の肌とは思えないほど、腐っている。

 そして……その肌がボコボコと沸騰するようにうごめいた。

 魔力が渦巻くみたいに、強くなっていく。

 同時に……バルドルの体が巨大化していく。


「……おいおい。なんだありゃ?」


 【オーガ】って言う、鬼の角がある巨人モンスターが居るけど。

 見た目だけなら、そいつに似てる。

 黒い肌。真っ赤な目。筋肉の塊みたいな全身。

 軽く五メートル以上はあるな。

 さっきまで人間だった原型は、全く無くなった。

 完全な、化け物だ。

 ……どうなってんだ? バルドルになにが起こったんだ?

 神眼で確認してみるか。


【堕ちた神の使徒 レベル300】


 レベル300……元のバルドルからは考えられないレベルになってる。

 堕ちた神の使徒……?

 神……やっぱりこいつは……神器の……。


『おぉっと!? な、なにが起こっているのでしょうか……準決勝で敗退したはずのバルドルがいきなり乱入したかと思うと、化け物へと姿を変えてしまいましたぁ!』


 仕事熱心で関心だけど、解説してる場合じゃないぞ。

 こいつはやばい。闘技場に居る観客はすぐに逃げたほうがいい。


「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 バルドルが、まるで地獄の亡者みたいな奇声で叫んだ。

 気持ち悪い声だな……思わず耳を塞ぎたくなる。

 しかもただの声じゃない。微量だけど、魔力がこもってる。

 サンセットドラゴンの咆哮みたいな感じだな。


「おい司会! 観客をすぐに逃がせ! お前らも一緒に逃げろ!」

『え? いやしかし……』

「死にたいなら別だけどな! 別に止めないぞ!」

『わ、わかりました! 死にたくありません!』


 司会の男が会場の警備をしていた男たちに指示をして、観客を逃がそうとした、その瞬間。


「ヒロユキ! あれ見てよ!」


 観客席から、アマノが叫びながら、選手入場入り口を指差した。

 扉が……内側から無理やりにこじ開けられようとしている。


 ……ああくそ! この非常事態に、さらに面倒ごとかよ!


 壊された扉から、無数のモンスターたちが、なだれ込むようにして、闘技場に溢れ出てきた。


「ま、まさか!? なぜだ! 魔法檻に閉じ込めていたはずのモンスターたちがなぜ逃げ出しているのだ!」


 このゴルディオの反応。

 なるほど、普段、闘技場で戦わされてるモンスターたちか。

 たぶん、さっきのバルドルの叫び声のせいだ。

 微量に込められた魔力のせいで、モンスターたちを捕まえてある魔法檻の鍵が誤作動して外れちまったんだ。


『みなさん! すぐに会場の外へ避難してくださいぃ!!!』


 悲鳴をあげながら逃げ惑う観客たち。

 モンスターたちは広がって、闘技場を破壊し始めた。早く逃がさないと、被害が出るな。

 とりあえず、一つずつ片付けて行くしかないな。


「ゴルディオ! お前、バルドルになにしやがった?」

「……わ、私は知らん!」

「嘘つけ。失敗作とか口走ったくせによ! 無関係とは言わせねぇぞ! バルドルはお前が所持してた奴隷だろ! とぼけんな!」


 こっちはある程度の確信をもって質問してんだ。

 無駄に隠し事するんじゃねぇよ! 時間がねぇんだよ!

 バルドルはゴルディオが所持してた奴隷。それは間違いない。

 問題は……ゴルディオは、バルドルに一体なにをしたんだってことだ。


「お前に言う必要はない!」

「……ほほう? じゃあお前の頭と体が今すぐさよならすることになるけど仕方ないなぁ」

「な、なにぃ!?」

「……悪い顔ですね。完全に悪人の顔ですよ」


 悪人に脅しかけるんだからこれぐらいで丁度いいんだよ。

 俺が殺気満々で(わざと出してる)エクスキューショナーを突きつけると、本気で命の危機を感じたゴルディオは観念して、喋り出した。


「こ、国王にもらった【神の水】を飲ませた。人間の体を細胞から変化させて強化し、自我を壊す水だ。実験体としてな……」


 神の水……?

 なるほど、それが神器で間違いないな。

 バルドルの体から神器の魔力を感じてたのもそのせいか。


「なんてことを……神の水はただでさえ、存在するだけで周囲に影響を与えてしまう可能性があるほど強い魔力を持っています! それを飲ませるなんて!」


 人間の体を細胞から変化させて強化する水。

 と言うよりは……神器の魔力のせいで、人間の体が無理やり捻じ曲げられちまう感じか。それを人間側で勝手にそう解釈してたんだろ。

 バルドルの異常な魔力と強さは、そのせいだったんだ。

 カンナさんがかけられた禁魔法。カラーチェンジみたいなもんだ。


 ……なーるほど。ゴルディオの目的がわかったぞ。


「ゴルディオ。お前、俺たち二人に神の水を飲ませるつもりだっただろ?」

「うっ……」


 図星か。ったく……ロクなこと考えないな。

 だから俺たち二人優勝なんて馬鹿なことを言いだしやがったのか。二人まとめて神の水で自我を壊して、自分の思い通りにしようとでも思ったんだろ。

 優勝者。つまり、強い奴に神の水を飲ませる。それでめちゃ強い人間兵器の完成だ。

 この闘技大会の目的は、それだったんだな。


「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!」

「ひ、ひぃぃぃ!」


 バルドルがまた叫び声をあげた。ぎょろりと、俺たちに向き直ってくる。

 俺たちを獲物。と認識したみたいだな。自我が壊れてるせいか、行動が獣みたいだ。

 ゴルディオは舞台を降りて、一目散に逃げて行った。

 あの野郎……逃がしてたまるかよ!


「アマノ! ハス! ゴルディオを追ってくれ! 絶対逃がすな!」

「命令しないでよ! 言われないでも行くわよ!」

「わかったよ! ヒロユキ様!」


 本当なら俺が追いたいところだけど、バルドルを放っておくわけにもいかない。

 レベルがレベルだ。俺とオリビアしかこいつを食い止められないしな。


「ラナはサニーとマムを守りながらモンスターを倒してくれ! 大したレベルの奴はいない! 守ること優先でな!」

「わかった!」


 闘技場には冒険者もかなりの数が居る。モンスターの数は多いけど、これなら全部討伐されるのは時間の問題だ。

 ラナなら苦戦するようなモンスターはいない。サニーとマムを守ることに専念してもらおう。


「お、お姉ちゃんが……」

「ユッキー! マムちゃんのお姉ちゃんが危ないよ!」


 あっ!? そうだった……どこに捕まってるのかわからないけど、これだけモンスターが溢れかえってるんだ。襲われちまってもおかしくない!

 くそ……ラナに二人を守りながら探してもらうか? でも、それで間に合うかどうか……。


「……お姉ちゃん、とは誰のことですか?」

「賞品にされてた獣人の子だよ。あの子の姉ちゃんなんだ」

「……」


 話を聞いたオリビアが、観客席に居たライトに向かって叫んだ。


「ライト! 話は聞いていましたね! あなたは獣人の女の子を守ってください! あなたなら捕らえられている場所がわかるでしょう!」

「お? 俺しか頼りにできる奴が居ないってか? オリビアちゃんがチューしてくれるなら「早く行きなさい!」わ、わかったよ……冗談だっての……」


 マムの姉ちゃんは、ライトが守ってくれるみたいだ。

 ふざけた奴だけど、その実力は信用できる。

 ライトならウインドランとウインドスカイで機動力もあるしな。任せれば大丈夫だ。


「ありがとうな」

「お礼を言われることではありません。私も元々、あの子のことは助けるつもりでしたから」

「はいはい……」


 さぁてと……これで目の前のことに集中できるな。


「ソードブレイカーの使いすぎでバテてるだろ? 休んでてもいいんだぜ」

「なにを言ってるんですか? あなたこそ。隠れててもいいんですよ」


【堕ちた神の使徒 出現】









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『おまけショートチャット』


「頭と体がさよならってどういう意味ー?」

「首をはねるってことだろう?」

「ラナ。もう少しオブラートに包んで言ってよ……」

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