ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します⑦
オリビアの弱点を一つあげるとすれば。
スキルをほとんど使えないから、どうしても直線的な真正面からの攻撃になることだ。
まぁ、ステータス差があると、さっきの俺みたいにそれでも押されちまうんだけどな。
「はあっ!」
でも今回は違うぞ。
俺の方がステータスが圧倒的に上だ。
そうなると、オリビアの直線的な攻撃は……。
「よっ」
びっくりするぐらい簡単に止められる。
ソードブレイカー状態だろうと、もう俺にはそんなの関係ない。
さっきまでは俺と弾き飛ばしてた攻撃が、簡単に止められたことに、オリビアは動揺を隠せなかった。
「――たあぁぁぁ!!!」
動揺をかき消そうとするような、オリビアの連続攻撃。
大剣は普通、接近しながらの連続攻撃には向かないけど、半端ないなこいつ。あの細腕でめっちゃ細かく振り回してくる。
まぁ関係ないけど。
「よっ。ほっ。はっ」
オリビアの連続攻撃を、全部防いだ。
片手で持ったエクスキューショナーでな。
驚きと……怒り? が混じったような顔で、オリビアは一回距離を取った。
あまりにも俺が適当にいなしてるからかな? やっぱりちょっと怒ってるよな。真面目だから、顔に出やすいんだ。
よし……じゃあついでにちょっとからかってやるか。
ウインドスカイを詠唱して、上空に飛ぶ。そして、オリビアに向かって手招き。
完全な挑発だ。我ながらすっげぇ嫌な奴。
オリビアの身体能力なら、ここまで跳躍してくるなんて簡単だろう。
「てやあぁぁぁ!!!」
予想通り。オリビアは舞台を一蹴りで、俺が居る高さまで飛んできた。
挑発成功。けっこう怒ってる顔だ。
飛んだ勢いのまま、エクスセイバーを振り上げてくる。
「ていっ」
さっきみたいに、剣先を足で踏んで受け止める。でも、今度はそれだけじゃないぞ。
そのままエクスセイバーを踏み返して、オリビアを落とした。
「――!?」
オリビアは体を反転させて着地。そしてまた跳躍。
足だけで落とされたのが相当堪えたのか。すごく悔しそうな顔してます。
エクスセイバーの光がさらに輝きを増した。生命力をさらに込めてきたな。
よーし。来るなら来い。
「はあぁぁぁぁ!!!」
「よっと。おっと。ていっ。あらよっと」
空中で、落下しながら大剣同士の打ち合い。
速い攻撃だ。間違いなく、ゲーム世界でトップクラスの力。
けど、相手が悪かったな。
俺はドレルチを解除してから、初めて、エクスキューショナーを両手で持った。
「ちょっと強めに行くぞ」
「え?」
打ち合いの中の一瞬の隙。その隙をついて、少しだけ強めの一撃をお見舞いする。
さすがの反応で攻撃を受け止めたオリビアだったけど、衝撃に耐え切れずに吹っ飛ばされる。
「あぐっ!?」
初めて、オリビアが舞台に背中を着けた。
今まで、どんな攻撃を受けても膝すらつかなかったからな。
ウインドスカイを解除して、オリビアが起き上がるのを待つ。俺が両手で攻撃したからな。見た目よりも、ダメージは大きいはずだ。
痛みで顔を歪めながら、ゆっくりと起き上がったオリビア。
おぉおぉ……俺を睨みつけてくる。さっきよりも悔しそうな顔だ。
「……ここまでの実力差はなかったはず……どうして……一体なにが……」
「言ったじゃん。強くてもう一回最初からって」
「……」
黙るなよ。俺の言葉をスルーしないでください。
これだから真面目は。二回目は触れてもくれない。寂しいじゃないかこの野郎!
エクスセイバーの光が、少し弱まってきてる。
もう、ソードブレイカー状態をかなり長く続けてるからな。
さすがのオリビアも、そろそろ体力的にソードブレイカーの維持は難しいだろう。
「どうする? まだやるか?」
「当たり前です!!!」
おぉ。良い声だ。まだまだ戦る気満々って感じだな。
よぉし……だったら俺も。
久々に、戦いをするとするかぁ!
━━━━━
ヒロユキとオリビアは同時に踏み込んだ。
大剣と大剣がぶつかり合い、激しい金属音と、その衝撃で舞台が震える。
お互いに弾かれ、お互いにすぐに体勢を整えて次の攻撃に出る。
オリビアの鋭い突き。ヒロユキはそれをかわし、さっきのお返しと言わんばかりに、柄部分でオリビアの腹部を一撃した。
後ろに下がったオリビアは、エクスセイバーを構え直して、再びヒロユキに突っ込む。
腕の力だけではなく、体の捻りも勢いに変え、速く重い、横なぎの斬撃。
避けず、それをあえて受け止めるヒロユキ。それを合図に、激しい打ち合いが始まる。
受けては返し。弾いては弾かれるの繰り返し。
同じ武器同士。攻撃もパターンが似ている。だからこその、打ち合い。
次の攻撃がどうくるのかがわかるからこその、攻撃と防御。
ヒロユキはあえて色魔法を使わなかった。
使おうと考えもしなかった。
それよりも、真正面からぶつかり合いたいという気持ちの方が大きかった。
お互いに体を一回転させての回転斬り。
刀身同士がぶつかり合って止まっても、真空破の斬撃が周囲に風を巻き起こす。
一瞬、体勢が崩れたオリビア。隙を逃さず、ヒロユキの追撃。
下段から斜めに振り抜かれたエクスキューショナーが、エクスセイバーを弾き飛ばした。
武器を失い無防備になったオリビア。
しかし、慌てる様子も見せない。ヒロユキの返し刃での下段からの追撃を見据える。
さっきヒロユキがやったように、足で切っ先を踏みつけ、宙返りで回避する。
そのまま弾き飛ばされたエクスセイバーの所まで跳躍して、体勢を整えながら拾う。
普通ならば一度間合いを取ったまま様子を見るところだが……。
オリビアは下がらず、ヒロユキに向かって走る。
ヒロユキも、一歩も下がらない。
オリビアがエクスセイバーを振り上げ、縦に一線。
それを真っ向から受け止める。
刃同士がぶつかり、力の押し合い。そのまましばしの静止。
呼吸を整える暇さえない攻防。ここで初めて、オリビアは息を整えた。
全く呼吸が乱れていないヒロユキを、遺憾に思いながらも。
同時に、少しの嬉しさも感じていた。
その静止を解いたのは、オリビアの方からだった。
わざと力を抜き、ヒロユキが力の余り、前のめりになったところを、エクスセイバーで上空に弾き飛ばす。
それを追いかける形で、跳躍したオリビア。
エクスセイバーを後ろに引いた状態で構え、跳躍の勢いのままに、ヒロユキに斬撃を繰り出す。
だが、ヒロユキはその斬撃を、小さな最低限の動作で弾く。
それによって、同時にオリビアへの反撃が可能になった。
上からエクスキューショナーを振り下ろして、オリビアを舞台へと叩き落とした。
叩きつけられる寸前で、オリビアは体を一回転させて着地。
それとほぼ同時に、ヒロユキも着地した。
「……なんだ? 嬉しそうだな」
「あなたこそ、なにをニヤニヤしているんですか?」
「いやぁ。久々に戦いになってるからな。ぶっちゃけ楽しいんだよ」
「……変な人ですね。私も……もしかしたら楽しんでいるのかもしれません」
お互いに笑い合った二人。
すぐに顔を引き締めたオリビアは、エクスセイバーに、自身の生命力を込める。
残った生命力を、ほとんど込める勢いで。
弱まっていたエクスセイバーの光が、再び輝きを増す。
さっきよりも、眩い光になっていく。
それを見て、ヒロユキも色魔法の詠唱に入る。
「カラフリアブレード」
全色魔力によって具現化された巨大な剣。
エクスセイバーから溢れる光も、巨大な剣のようになっていく。
巨大な剣が二つ。
観客たちが確認できるのは、それだけだった。
その二つの剣が……振り下ろされた瞬間。
魔力と生命力の爆発が、闘技場全体に広がった――。
━━━━━
『ど、どうなったのでしょうか……光の爆発が起こった後、舞台の様子が全く見えなくなりました……というか、途中から正直言いまして、なにが起こっているのかわからなかったのですが……』
俺とオリビアの動きを視認できてる奴なんて、ラナとライトぐらいじゃないのか?
カラフリアブレードとオリビアの斬撃がぶつかった衝撃で、魔力と生命力の爆発が起こったからな。
いや。さすがに俺もびびった。
圧倒的。じゃなくて、かなり近い力同士がぶつかったってことだからな。
『み、見えてきました! えぇっと……立っているのは……』
まぁもちろん、俺は全力で撃ってないけど。
今ので五割ぐらいかな? 俺に半分も力を出させるなんてな。
『ヒロユキ! 立っているのはヒロユキです! オリビアは膝をついています!』
あの衝撃で、膝をつくだけかよ。どんだけタフなんだよあいつ。
でも、さすがに生命力を使いすぎたみたいだな。肩で息をしてる。
これ以上ソードブレイカーを使うと、命に関わってくるぞ。
「はぁ……はぁ……」
「もうやめとけ。それ以上は死ぬぞ?」
「まだ……まだです!」
えぇ……立っちゃったよこいつ。フラフラだけど立っちゃったよ。
エクスセイバーにはもう光が残ってない。
ソードブレイカーは解除されてるけど、そんなにすぐに体力は回復しない。
もう動くのもしんどいだろ。立てたのが信じられない。
「……やっぱお前強いわ。正直、ここまで戦り合えるとは思ってなかった」
「……上から目線ですね」
「上だもん」
「……ふふっ。そこまではっきり言われると、逆に気持ち良いものですね」
オリビアが……笑った。
初めて見た。笑ったところを。
真面目に眉間にシワを寄せてるところしか見たことないもん。
……おいおい。元々顔は整ってると思ってたけど。
可愛いじゃねぇかよ。
「別に俺たちの目的は似たようなもんだし、どっちが勝ってもいいだろ?」
「あなたに……神器は渡せませんから」
ああ。そっか。俺たちはマムの姉ちゃんを助けるのがメインだけど。
オリビアたちはそもそも、神器の回収が目的だったな。
だとしたら簡単には諦めないか?
かと言って、ソードブレイカーの使いすぎでヘロヘロのオリビアをこれ以上痛めつけるのもな……。
「いやぁ。お見事お見事」
試合中にも関わらず。拍手をしながら、舞台に上がってくる、一人の男。
試合をしてるときは、舞台に立ち入り禁止だ。
それなのに途中介入。そんなことができるのは、一人しかいない。
この闘技大会の主催者……。
ゴルディオだ。
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『おまけショートチャット』
「やばい……オリビアちゃんが動きすぎて……パンチラ回数が半端ない……」
「ぱんちらってなにー?」
「サニー。覚えなくていいのよ。こんなゴミクズの言葉なんか」




