ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します⑤
オリビアの体から溢れ出た生命力の光が、全部エクスセイバーに吸い込まれていく。
魔力とは違う……圧倒的な存在感。
色魔法。色魔力が主流のこのゲーム世界。
ただの斬撃で、あそこまでの力を出せるのは……。
オリビアぐらいのもんだ。(俺は別として)
「――やあぁぁぁぁぁぁ!!!」
両手で握りしめたエクスセイバーを、体を一回転捻ってから、おもいっきり振りかぶる。
エクスセイバーから、具現化された生命力が大きな白い斬撃になって、バルドルを襲う。
まるで、俺のカラフリアブレードの斬撃みたいだ。
スキル無しであれをぶっ放すんだから。本当に人間離れしてる。
俺が言うのもあれだけど。
……あれは死ぬな。
「!?」
当たってれば、だけど。
元より、オリビアはバルドルに当てるつもりはなかったんだろう。
白い斬撃は、闘技場舞台の半分を、袈裟斬り。
衝撃に耐えられなかった舞台は、オリビアが居る半分を残して、崩れて行く。
このままだと落ちる。バルドルは必然的に、オリビアの居るもう半分の舞台に飛ぶしかなかった。
それが、オリビアの狙いだった。
「たあっ!」
バルドルが飛んだ先に先回りして待ち構えていたオリビア。
空中で身動きができないバルドルは、避けようがなかった。
オリビアの強烈な一撃で、舞台の外に弾き出される。
舞台はもう、半分無い状態だ。
今度はどうあがいても、堪え切れない。
バルドルの体は、場外に着いた。
『そ、それまで! 勝者はオリビア! ていうか……あぁっ!? 舞台がぁ!』
ふぅ……どうやら、オリビアは少し手加減したみたいだな。
本気の一撃だったら、闘技場全体が真っ二つになってた。
生命力を多くエクスセイバーに込めたのは、バルドルを威圧する為だったんだ。
確実に避けさせる為にな。
闘技場舞台は悲惨なことになってるけど。
「……」
さすがに疲れを見せるオリビア。
威圧の為とはいえ、かなり生命力を消費したからな。魔力持たずのオリビアでも、ソードブレイカー状態を長く使いすぎたな。
「申し訳ありませんでした。舞台を壊してしまって……修理費はお支払い致しますので」
真面目かっ。
『あ。いえ……これは経費で直しますのでお気にせずに……あ……』
司会が驚愕の表情で、オリビアの後ろを指差す。
場外に落ちたバルドルが……舞台に上がって来てたんだ。
強い殺気をオリビアに向けながら。
決着はもう着いてる。それなのに、あれだけの殺気を。
なにをする気だ? 俺。ラナ。ライトはとっさに武器に手を置いていた。
試合はもう終わってるんだ。これ以上戦るっていうなら、俺たちが手を出しても問題はないだろう。
「……」
オリビアをしばらく見つめたバルドルは、何もせず、そのまま舞台を降りて行った。
……あいつ。折れた足が治ってやがる。
回復魔法? いや……魔法剣士は回復系の白色魔法は使えないはずだ。
使えたところで、こんなにすぐには治らないし。
……今のあいつの目。
完全に、オリビアを殺そうとしてる目だったぞ。
『え、えぇっと……大波乱の準決勝第一試合! 決勝に進んだのはオリビア! すぐに準決勝第二試合を始めたいところですが……舞台の修理がありますので、しばらくお待ちください』
オリビアが舞台をぶっ壊してくれてよかったな。
なんでって? オリビアが休む時間ができる。
疲労したままのあいつと戦っても、フェアじゃないしな。
「……サニー。ちょっとお願いがあるんだけど」
「なにー?」
フェアついでに、サニーに一つ、頼み事をした。
ミ☆
……あの男。
やはり、普通ではありませんでしたね。
ダメージを受けても、全く痛みを感じていないかのようでした。
ソードブレイカーは加減するのが難しいので、場外に落とす以外にありませんでした。
でなければ……殺してしまっていたかもしれません。
さすがに疲れましたね……決勝まで、休むことにしましょう。
「よう」
そう思ったのに、またライトが声をかけてきました。
これでは休めないじゃないですか……。
「……なんですか?」
「いや。純粋に労いに。対戦相手の野郎。普通じゃなかったからな。さっき、もしオリビアちゃんに攻撃してきたら、俺も黙ってないところだったぜ」
そうですね。観客席から、三つほどの武器を構える音が聞こえていましたから。
あれ以上戦うつもりであれば、私も自分の身を守る為に、強行手段を取るしかありませんでした。
普通ではない。やはり、そう感じていたのは私だけではなかったのですね。
だとすれば……その普通ではない理由が気になります。
「……あの男は、なんなのですか?」
「たぶん、神器が関係してる」
やはり……そうなのですか。
だとすれば、あの男はゴルディオの手の者なのでしょうか?
「俺だけじゃない。例の激強野郎も同じ意見だ。オリビアちゃんはここにある神器がなにか知ってるんだろ? 神器を使ってるって言うよりも、あの野郎の中に神器の力がある感じなんだけど、どういうことかわかるか?」
あの男の中に神器の力が……。
本当にそうだとすれば、考えられるのは……。
【神の水】を体内に入れた。としか……。
「こんにちはー」
え? と思って振り返ると……赤い髪の小さくて可愛らしいお嬢さんがちょこんと立っていました。
「あれ? あいつのところのお嬢ちゃんじゃねぇか。どうしたんだ?」
「……お知り合いですか?」
「激強野郎のパーティメンバーだよ。サニーちゃん……だったか?」
パーティメンバー……なんでしょうか。私のことを偵察にでもきたのでしょうか?
「なにか御用ですか?」
「ちょっとしゃがんでもらってもいいー?」
……?
よくわかりませんが、この子に敵意はないようです。むしろ純粋さしかありません。警戒する必要はないでしょう。
言われた通り、しゃがんで目線を同じ高さにしました。
「やっぱり……ユッキーの言った通りだったねー」
「はい?」
「肩! 火傷してるよー」
ああ……これはさっきの戦いで、魔法を少し受けましたからね。
さすがに、あれだけの範囲を避け切るのは無理でした。
「ヒール!」
「え?」
女の子。サニーちゃんでしたか……。
サニーちゃんは、私の肩に触れると、白色魔法を詠唱しました。
魔力が私の肩を包み、火傷を一瞬で治してしまいます。
「ユッキーに頼まれたのー。オリビアさんの怪我を治してあげてって!」
ユッキー……というのは、ガンマとフィリアを倒した、あの子供のことですよね?
どういうつもりでしょうか……準決勝で勝ち進めば、私と当たることになるのですから、こんなことをする意味は……。
「それから伝言ー。『弱った奴と戦ってもつまらないから、さっさと休んで全快してから決勝に来い』だってさー」
……舐められているのでしょうか?
でも、私も同じ気持ちですから、問題ありません。
言われなくても、すぐに体力を回復させますから。
「……ありがとうございます。お嬢さん。それから、伝えてもらえますか?」
その期待には、全力で答えましょう。
「私の怪我を治したこと、後悔させてあげます。と」
ミ☆
「なにっ!? 負けただと!」
「も、申し訳ありませんゴルディオ様……対戦相手は、ものすごく強い女でして……」
ちっ……優勝できればそれでいいと思っていたが。
やはり、所詮はただの奴隷だったか。器が弱すぎる。
まぁいい。所詮はただの実験台だ。
それならば元の計画通り……優勝者に【神の水】を使うだけだ。
強い器ほど、神の水の力に耐えることができる。
「……計画はちゃんと進んでいるな?」
「はい。優勝者が決まり次第、ゴルディオ様の所にお連れします。賞品につられて集まった冒険者たちです。なんの警戒もなく来るでしょう」
ふん。そうでなくては困る。
わざわざ普通に売れば数百万はくだらないメスの獣人奴隷を囮にしたのだ。王からの褒賞品も付けてな。
褒賞品は約束通り、くれてやるさ。
ただし……受け取って自我を保っていられはしないと思うがな!
神の水は体内から生物の細胞自体を変えて、自我を壊す。
強い器ほど……最強の兵器となる。
それがこの闘技大会の……本当の目的だからなぁ!
王もお喜びになるだろう!
ふははははははは!!!
ミ☆
一時間後。舞台の修理が終わって、再開された準決勝。
俺は難なく、一撃で相手を倒した。
準決勝でも、俺の無双は変わらなかったな。
少しの休憩時間の後、いよいよ……決勝が始まった。
【ヒロユキ VS オリビア=アムノークス】
『さぁ……いよいよ始まります! 今大会の決勝戦! 全ての試合を一撃で決めてきた無双子供ヒロユキ! そして準決勝で素晴らしい戦いを見せた可憐な剣士オリビア! 優勝するのはどちらなのか!』
無双子供って呼び方。なんか嫌だなおい。
観客たちの歓声を背中に、舞台に上がる。
反対側からオリビアが上がってくる。めっちゃこっちを見てる。
お互いの声が届く距離まで近づいたところで、オリビアがすぐに口を開いた。
「……ヒロユキ。でしたね?」
「ん?」
「怪我の治療の件。お礼を申し上げます。ありがとうございました」
「……」
「な、なんですか? その呆れた顔は!」
いや……そりゃ呆れ顔にもなるわ。
どんだけ真面目なんだよ。
あれは俺が勝手にサニーに頼んだことだし、別に恩を売ろうとも思ってない。
余計なことするな! ぐらいでいいんだよ。
「ほんっとうにクソ真面目だよな」
「く、くそ真面目……? 汚い言葉を使わないでください!」
いや。別に普通に使う言葉だと思うけど。
いちいちそこに反応されても困るけど。
まぁいいや……どうやら、体力は回復したみたいだし。
俺も全力で(ドレルチ状態でね)戦える。
「……あなたは魔王様を倒そうとしてるのですか?」
「だったら?」
「……ここで倒します。魔王様の脅威となる存在は、私が!」
前に戦ったときも、ずっとそんなこと言ってたな。
魔王……魔王か。
いちおう。魔王を倒す為に冒険してるって形だけどな。
それに、魔王を倒したいのは事実だ。
「俺の兄貴は魔王に殺された」
「え?」
「だから魔王を倒す。それがなにか問題あるか?」
俺がもし魔王を倒すとしたら。
理由は、兄貴の敵を討ちたいからだ。
魔王だって、自分を殺しに来た相手を返り討ちにしただけだ。
それはわかってる。降りかかる火の粉は払わないといけない。
だから、兄貴の死体を見ても、魔王に憎しみはあんまりなかった。
でも、魔王と実際に戦うことになったら……。
さすがに、感情を抑えられないと思うぞ。
「……あり得ません」
「あ?」
「魔王様が人間を殺すなど、あり得ません」
……どういうことだ?
魔王ってのは、世界を征服しようとしてるってのが一般的な話だ。
実際、冒険者は、だからこそ、魔王を倒そうとしてるんだし。
「なんでだよ?」
「……あなたに言う必要はありません」
「まぁ確かにな。敵に必要以上に情報を与える必要はないよな。じゃあ……」
『さぁて……それでは参りましょう!!! 決勝戦!!! 始めぇぇぇ!!!』
「俺が勝ったら話してもらう」
「……負けません。あなたみたいな子供には!」
こいつ。俺をマジな子供だと思ってやがる。
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『おまけショートチャット』
「ユッキー。オリビアさんから伝言ー」
「ん?」
「怪我を治したこと後悔させてあげます。だってさー」
「……じゃあ次は、できるもんならやってみろって伝言を……」
「サニーを伝言係にしてんじゃないわよ」




