ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します④
【バルドル(奴隷) Lv71】
バルドルのレベルは71。上級職に就いて間もない感じだ。
それに対して。オリビア。
【オリビア=アムノークス Lv201】
レベルは約三倍の差がある。
しかも、オリビアは魔力持たずのステータス補正があるから、実質、レベル300程度みたいなもんだ。
レベル70ちょいの奴が、レベル300の攻撃を耐え切る?
オリビアは手を抜いたようには見えなかった。
真面目すぎる真面目だ。相手に敬意を払って。手を抜くなんてことはしない。
どういうことだ?
それに、神眼で見たバルドルのレベル表示……。
なんで【奴隷】なんて入ってるんだ?
でもバルドルが本当に奴隷だったとしても、名前に表示なんてされないはずだ。
まるでモンスター扱いだ。
神眼が……そう判断したってことか?
奴隷がなんで奴隷を獲得するための闘技大会に?
わからないことだらけだ……。
「はぁっ!」
オリビアは大剣を構え直して、バルドルに向かって走る。
もう一回攻撃して、場外に確実に弾き飛ばすつもりだ。
バルドルは闘技場の端。もう一撃入れられれば、さすがに耐え切れない。
でも、そんなことはバルドルもわかっていることだった。オリビアの攻撃が届く前に、色魔法の詠唱に入った。
「メガフェルノス」
「!?」
闘技場一体を、炎の嵐が吹き荒れた。
熱気が観客席まで届くほどの魔力だった。
どう考えても、レベル71の魔力じゃないし、メガフェルノスは大火球を撃ち出す魔法だ。なんだよ。今の炎の嵐は?
……改造色魔法?
いや。ダークマターの魔力なんて感じない。
改造色魔法って言うよりも、魔力が溢れ出て暴走して、火球にならないで嵐になったみたいな感じに見えた。
オリビアも予想外に範囲が大きかった炎に不意を突かれて、直撃を食らいそうになったけど。
身体能力の高さが、ここで改めて秀でてくる。
後ろにバックステップして炎の嵐を避けて、着地した反動のまま、すぐに跳躍。
「はあぁぁっ!」
大剣を横なぎに振りぬくと、その風圧で炎の嵐がかき消された。
スキルじゃないぞ? 単純に、力任せの突風起こしだ。
普通はできない。良い子は真似するなよ? 無駄な努力で終わるから。
オリビアは落下の勢いのまま、大剣を上段に構えて、バルドルに向かって振り下ろした。
「……」
ぼそぼそと、なにかを呟くような素振りを見せたバルドル。それと同時に。
「!?」
持っていた剣に、炎が纏われた。
魔法剣だ。上位魔法剣士はみんな使う戦闘手段だけど。
レベル70程度のなりたて魔法剣士じゃ、魔法剣なんて扱えないはずだぞ。
サンセット森林でアカムと戦ったときに、俺がラナの剣に魔力を込めたのと同じだ。ガンマの魔法剣に比べると劣化版だけど。
それは亜種が使うときならって話だ。人間が使う分には全然強い。
特性色の色じゃないと、魔法剣は作れない。あいつの特性色は赤色か。
「ぐっ!?」
オリビアの大剣が、魔法剣から溢れ出る炎に弾き返された。
かなりの魔力が込められてるぞ。オリビアの攻撃が弾かれるなんて。
訳が分からなくなってきた……なんなんだ? あのバルドルって奴はよ。
レベルが低いのに、オリビアの攻撃を凌いでやがる。
オリビアが着地したのと同時に、バルドルは初めて前に出てきた。
魔法剣を振りかざして、オリビアに斬りかかる。
「やあぁぁっ!」
接近戦は、大剣よりも片手剣のほうが有利だ。
おまけに、バルドルの魔法剣は刃を避けても、炎の斬撃が飛んでくる。オリビアじゃなければ、とっくに食らってるぞ。
バルドルの斬撃を受け切って、一回後ろに下がったオリビア。息をつかせる間もなく、バルドルが色魔法で追撃してくる。
「【ギガフェルノス】」
今度は赤色上級色魔法のギガフェルノスだ。これは元々、炎の嵐を起こす魔法。
……どうなるんだ? メガフェルノスみたいに、暴走した感じになるとしたら……?
「きゃあっ!?」
「きゃうっ!?」
アマノたちが思わず悲鳴をあげた。
闘技場全体……いや、観客席にまで広がってきた炎の嵐。
観客席にはクリアシールドと同じ効力のある魔法道具が展開されてるから、被害はなかったけど、明らかに、異常だぞ。今の魔力は。
オリビアは……?
一瞬、まさかオリビアがと思ったけど、それは杞憂だった。
炎に包まれた闘技場の舞台。その中心を走り抜ける。一つの影が見えた。
「てやぁぁぁ!」
大剣を構えて、一回転。大剣を振った風圧で、竜巻が起こった。
スキルじゃないよ? オリビアが普通じゃないだけだからね? 真似するなよ? できないから!
竜巻が炎の嵐を吹き飛ばして、視界が晴れる。
バルドルの異常な魔力もそうだけど……オリビアもやっぱり、でたらめな身体能力だな。
改めて、昔の俺はよく勝ったよ。本当に。
俺の予想に反して、試合は互角の戦いだった。
オリビアと互角……そこまで強かったのか。あの野郎。
まだオリビアが本気じゃないとしてもだ。それにしても俺はここまで想像してなかった。
「……おい。ヒロユキ、だったよな?」
「あん?」
珍しく真面目な顔で試合を見てたライトが、俺に話をふってきた。
「お前。あいつの変な魔力に気づいてるか?」
「……当たり前だ」
バルドルから感じられる、違和感のある魔力。
普通じゃない。人間から感じられる魔力じゃないんだ。
……なるほど。目の前で見て感じて、はっきりとわかった。
俺は……この魔力を知ってる……。
「神器だな。あの野郎。神器を使ってる」
「やっぱりかよ。でも、神器を持ってる感じではねぇよな」
「ああ。だからはっきりと感じられなくて違和感があったんだ。あいつの中に、神器と同じ魔力があるんだ。理由まではわからないけどな」
オリビアと互角に戦うほどの魔力も、それなら説明がつく。
賞品になってる神器が無関係とは思えない。バルドルが奴隷ってのもあるし……ゴルディオの野郎。なにか企んでるのは間違いないな。
ライトもあいつの魔力に気が付いてたのか。なるほど……ライトがオリビアにくっ付いてきてたのは、神器の魔力を感じ取る為か。
やっぱり、ゴルディオを真っ向から信用する奴なんていないよな。
神器の動向を確認する為のサポート役だったんだ。
神器が関係してるとなると……オリビア。のんびりと戦ってる場合じゃねぇぞ。
俺も神器については詳しくわからないからな。なにが起こるかわからない。
「……」
オリビアもそれがわかったみたいだな。
魔力を感じられなくても、戦いの本能で。
……出るな。あれが。
「【ソードブレイカー】」
オリビアの大剣が、白い光に覆われる。
オリビアがゆういつ、使えるスキル【ソードブレイカー】だ。
「え? ちょっと……あれって魔法剣ってやつじゃないの? 魔力0なのになんで使えるのよ?」
「違う。あれは魔力じゃない。オリビアの生命エネルギーが剣に集められてるんだ」
見た目は似てるけどな。根本は全然違う。
「魔力を込めるだけの魔法剣は、使用者に害はない。魔力の調整が難しいけどな。でも、生命力を剣に込めるソードブレイカーは、使用中、ずっと体力を消耗していくんだ」
生命力を媒介にするから、使用時のSP消費が少ない。
だから、オリビアのSPでも使える数少ないスキルだ。
と言うか……ぶっちゃけ、オリビアの為にあるようなスキルだと俺は思う。
「普通は体力の消耗が激しいから、長時間は使えない。でも、魔力持たずのオリビアはステータス補正で長時間の使用が可能なんだ。おまけに……生命力の媒介になってる武器にまでダメージがある。使いすぎると武器がぶっ壊れる」
だから、ソードブレイカーを使ってる奴はほとんどいない。
使うためには、かなり条件が絞られるからな。
そしてオリビアは、その条件を全部満たしてる。
激しい体力消耗に耐えるステータス。少なくとも、体力が200超えじゃないと話にならない。
そして、壊れない武器。
オリビアの大剣【聖剣エクスセイバー】は、【絶対に壊れない】って特性がある。
ソードブレイカーをいくら使っても、壊れることはないんだ。
そして、条件さえ揃えば……その強化性能は……魔法剣を超える。
「はあぁぁぁぁぁ!!!」
地面を一蹴りで、一気にバルドルとの間合いを詰める。
ソードブレイカー状態のエクスセイバーを横に一線。バルドルは魔法剣で受け止めようとした。けど、
「!?」
完全に力負けして、体ごと吹っ飛ばされた。
さっきみたいに体勢を整えて耐え切る余裕もなく、激しく体を闘技舞台に打ち付ける。
おぉう……けっこうマジで攻撃したな。オリビアの奴。バルドルの右足が、変に折れ曲がってる。完全に骨が逝ったな。
……さすがに決まったかな。あれじゃさすがにもう動けないだろ。
あとは場外に吹っ飛ばすか、あいつが降参すれば、試合は終わりだ。
……と、思ってたけど。バルドルが予想外の行動に出た。
「なっ……!?」
オリビアの顔が引き攣る。
そりゃそうだ。たぶん、観客全員がそんな顔をしてると思う。
バルドルは……折れた足を引きずりながら、オリビアに向かってきたんだ。
おいおい……あんな怪我じゃ、普通は激痛で動けないぞ。
まるで、痛みを感じてないみたいだ。
あいつの体……一体どうなってやがるんだよ。
自分の体の状態もわからず、ただ、敵に向かって行く、人形みたいだ。
「……試合を止めたほうがいいかもな」
「はぁ? なに言ってんのよ」
「あの野郎。普通じゃねぇ。これ以上戦ると、観客に被害が出るかもしれない」
魔法道具で守られてるけど、そんなの関係ない。
得体の知れない『何者か』の。あいつにはな。
「……」
オリビアは深呼吸して、向かってくるバルドルを見据える。
試合を止めるつもりはない。目でわかる。
真面目すぎる真面目は……。
きっちりと、決着を着けるつもりだ。
「ラナ。いちおう警戒しといてくれ。オリビアがマジな攻撃をするつもりだ」
「……ああ」
オリビアの体から……生命力が溢れ出てる。
次の一撃で……どういう形にしろ。試合は終わる。
オリビア……まさか……。
あいつを殺すつもりか?
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『おまけショートチャット』
「なんで魔王を倒す側のあんたが魔剣を使ってて、魔王側の奴が聖剣使ってるのよ?」
「常識に縛られない質なんだよ」




