ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します③
問題ない相手でしたね。
所詮はブルーアの闘技大会です。そこまでの強敵となる相手はいないでしょう。
神器の回収も大事ですが……あんな子供を奴隷に。しかも大会の賞品にするなんて……。
ゴルディオという男。噂には聞いてましたが、それ以上に腐った人間のようですね。
魔王様も懸念されていました。人間が大好きなお方ですから……奴隷という制度は、決して気分が良いものではないでしょう。
早く優勝して、獣人の子を助けないと……いえ、それだけでは足りませんね。
ゴルディオには、然るべき制裁を与えるべきです。
「よっ」
……私に声をかけてくるなんて。一人しか居ませんね。
振り返ると、いつも通りヘラヘラと笑いながら歩み寄ってくるライトが居ました。
なんでよりによって、サポート役がこの人なんでしょうか。
でも、仕方ありません。私は魔力持たず。
魔力を感じることができませんからね。
「……ずいぶんと楽しんでいるみたいですね」
「え?」
「出店で買い食いをしていたのでしょう?」
観客席で大量の食べ物を持っているのが見えました。
しかも、女性に言い寄っているように見えましたし。
この人はなにをしに来たんですか?
サポート役で来ているのなら、せめてそれに沿って動いてほしいものですね。
全く……私たちがこうしている間にも、奴隷の人達がどんな目にあっているか……。
ちゃんとわかっているんですか?
ちょっと睨みつけてやりましょう。
「まぁまぁ……これお土産」
「!?」
リ、リンゴ飴……。
……睨みつけるのはやめてあげましょう。
甘い香りが……恥ずかしくて買いに行けなかったのですが……リンゴ飴が目の前に……。
た、食べたいです……。
「……し、仕方ないですね。これからは自重してくだされば問題ありません」
リンゴ飴を受け取り、一舐め……あぁ~~~甘いです!
飴を食べ終わった後の、少し甘さが抑えられたように感じられるリンゴを食べるのも……良いのですよね。
「相変わらず甘い物好きだよな。まぁそこが可愛いんだけどな。オリビアちゃんは~」
「……あなたは誰にでも可愛いと言いますから、全然嬉しくありません」
全く……もう少し節操というものを持ってほしいですね。
女性と見れば誰にでも言い寄る癖はどうにかならないのでしょうか?
「そんなに睨むなって。大丈夫。ちゃんとアンテナは広げてるからさ」
「……なにか気になる所はありましたか?」
そうですよ。それが、あなたが私と一緒に来た理由なのですからね。
アンテナを広げるという意味は、私にはわかりませんが……。
私は魔力を感じたことがありませんからね。
「今の所は、特にって感じだな。一人だけ……気になる男が居たけどよ。あの包帯グルグル巻きの奴。でも、本当に気になる程度だ。まだわからない」
……あの男ですか。
確かに、かなりの実力者に見えましたが。私にはそれ以外に確認のしようがありません。
悔しいですが、神器の魔力探知は、ライトに任せるしかないでしょう。
神器は優勝すればもらえる。というルールにはなっていますが……。
ゴルディオのことです。なにを企んでいるかわかりません。
素直に渡すかどうか、怪しいものです。
それに、魔王様の予想が当たっていれば……。
ブルーア国王が持っていた神器は、周囲の人間に影響を与えてしまうかもしれません。
フィリアがクロックから持ち帰ってきた、神の種。
それと対になる神器ですからね。
間違いなく、神の核となる物です。それゆえに、力が強いのでしょう。
だからこそ……魔力に敏感に、慎重に行動しなければ……。
「引き続き、異様な魔力を感じたら教えてくださいね。周囲にも警戒してください」
「オッケー。任せとけって。オリビアちゃんがチューしてくれたらもっとやる気だしちゃうんだけどな」
「しません!!!」
そういうところですよ!!!
軽い口と軽い気持ちは女性に失礼です!!! 次言ったら叩きますよ!!!
「さっきの試合も、もう少し動き回ってくれたらパンチラが……」
「はい? 何か言いましたか!」
「なんでもない。決してなんでもない(下手なこと言ったらスカートやめそうだし)」
はぁ……ライトと話していると疲れますね。
しかし、ガンマやフィリアと一緒だともっと疲れます。我慢するしかないでしょうね。
「……それと、賞品になっている獣人の子ですが」
「ああ。心配するなって。弱ってるけどな。オリビアちゃんが優勝するまでは全然大丈夫そうだ」
「そうですか。これからも様子を見るようにお願いします。あなたなら簡単に忍び込めるでしょう。ウインドランを使えば」
「了解了解。オリビアちゃんがチューしてくれればもっとやる気がいだっ!?」
叩いてやりました。
二回目はさすがにアウトです。次言ったらもっと強めに叩きます。
全く……本当に、ライトとの会話は疲れますね。
……そういえば。
「ライト。さきほど一緒におられた方々は……例の?」
「ん? ああ。そうだ。ガンマとフィリアちゃんが戦り合った冒険者だ」
「……強いらしいですね」
さきほど試合にも出ていましたが、あんな子供が?
私と同じ大剣を使っていましたが、色魔法も使っていました。ただの大剣士ではないようでしたね。
動きを見る限り……かなり戦い慣れています。子供とは思えません……。
それにあの大剣……なにかの本で見たことがあるような……。
「……子供でも、ガンマとフィリアが負けた相手。私は容赦しません」
「子供? ああいや……あれはだな。色魔法で……」
「ライト! 私は次の試合まで休んでいます。なにかあったら知らせてください」
「あ……まぁいっか。了解了解」
次の試合が来るまで、それなりに時間があるでしょう。
別に疲れてはいませんが、精神統一して、備えるとしましょう。
……それにしても、あの子供。遠目で見ただけですが。
似ていますね。
私が前の世界で負けた。あの男に。
ミ☆
「よっと」
「ぎゃあっ!?」
『それまで! 勝者ヒロユキ!』
「ほいっと」
「ぶぐっ!?」
『そ、それまで! 勝者ヒロユキ!』
「ていっ」
「あがっ!?」
『そ……それまで! 勝者ヒロユキ!』
「とうっ」
「ぎゃあっ!?」
『あ。次の試合行きますか』
おいコラ。実況適当になってんぞ。
司会が実況する必要性すら無いと感じるほど、俺は圧倒的に試合を勝ち進んだ。
まぁどいつもこいつも、レベル100にも届かない奴らばっかりだ。
最初の試合はそれなりに気を引き締めてたけどな。
こうなるともう作業だ。
試合開始と同時に突っ込んで、相手を場外に吹っ飛ばすゲームみたいなもん。
完全に無双状態。
俺の相手になる奴なんて居ない。
まぁ俺だけじゃなくて、オリビアも似たようなもんだけどな。
試合開始と同時に、一撃で決める。
観客はただ呆然とするしかない。俺とオリビアと……あともう一人。その強さに。
あの包帯グルグル巻きの男だ。
俺たちと同じで、全部の試合を一撃で決めてる。
レベルは大したことないのに、何者だ? あの男。
盛り上がってるよ。大会は。
ただし、望んだ形かどうかは知らないけどな!
「ヒロユキ様強すぎるよぉ! 惚れ直しちゃった!」
「会長。狭いんですから動き回らないでください」
観客席に戻ると、アマノたちは完全に三時のおやつ状態だった。
ポップコーン(ゲーム世界で売ってんのかよ!)とジュースをほおばりながら俺を迎える。
映画館かよ。ここは。
……人が試合してるときになにやってんの? 君たちは。
そんな中でも、ポップコーンに手を付けず……。
マムはサニーにしがみ付いたまま、じっと闘技場を見つめてる。
怯えた目で。
言ってしまえば、これは人間同士の欲がぶつかってる戦いだからな。
獣人のマムは、そんな感情を感じやすいんだ。動物的な本能で。
「サニー。マムが嫌だったら、宿屋に戻っててもいいんだぞ?」
「私もそう言ったんだけど……ここに居るんだってー」
見ていたくはない。でも、姉が近くに居るのに、ここから動きたくないって気持ちのほうが強いんだな。
まぁ、もう大会もけっこう終盤だ。次は準決勝だしな。
もう少しの辛抱だ。頑張れ。マム。
「ていうかさ。あんたって今いちおう、レベル100程度なんでしょ?」
「それがどうした?」
「それにしては、いつもとあんまり戦い方が変わらない気がするんだけど」
それは、いつもの手を抜いてる感じと変わらないってことですか?
仕方ないだろ。もうこの大会のレベルがどんなもんかわかったし。初戦はインパクト強くするためにかなり力を入れて動いたけど。
もうそんなことする必要もない。
まぁだから結論から言えば……完全に手を抜いてるけどさ。
「それは当然だ。アマノ。レベルは確かに十分の一かもしれないが、ヒロユキが他の参加者と圧倒的に違う部分がある」
「なにそれ?」
「経験だ。死に物狂いでレベルを上げて強敵を倒してきたという経験の差だ。これは決定的な強さになる」
おぉ……別に俺はそこまで考えてなかったけど。
そう言われると照れるな。
確かに、三年間ぶっつづけでゲーム世界に居るなんて経験。俺しかしてないだろうからな。
まぁぶっちゃけ。スキルレベルはそのままだから、本気でやったらレベル200~250超えぐらいの実力は出せるけどな。
「お。やってんな」
また来たよ。ライト。
しばらくどっか行ってたと思ったら、今度は何しにきやがった?
普通に俺たちの仲間みたいに混ざってくるんじゃないよ。
「お前の席はもうないぞ」
「いらないっての。ちょっと気になるからな……立ってよく見たいんだよ」
「は?」
闘技大会も終盤。
それを踏まえても……観客から大きな歓声が上がった。
俺も思わず立ち上がって、闘技場に目を向ける。
次の準決勝試合。対戦カードは……。
オリビア=アムノークス VS バルドル
ここまでの試合を、どっちも一撃で決めてきた者同士の試合だ。
すごい戦いになる。観客たちはそう期待してるんだろう。
……でも、正直にはっきり言うぞ?
実力は完全にオリビアが上だ。
だから……観客たちが想像してるような展開にはならないと思うけどな。
『さぁて……大会もいよいよ準決勝! 激戦を勝ち抜いてきた強者の二人が、いまここでぶつかり合う!』
なぁにが激戦だ。
ほとんど、俺たちの一撃KO試合だったじゃねぇか。
ここぞとばかりに力を入れて実況するんじゃないよ。さっきまで実況する気失せてたくせに。
『ここまで圧倒的な強さを見せつけてきた、可憐な女剣士オリビア! 対するは、こちらも同じく相手を寄せ付けない力で勝ち抜いてきた魔法剣士バルドル! さぁ……決勝に勝ち進むのはどちらなのか!』
オリビアだっての。
あのバルドルって奴も得体が知れないけど。オリビアの実力の前じゃそんなの関係ない。
『さぁ……それでは初めてもらいましょう!!! 準決勝第一試合。始めてください!!!』
開始の合図と同時に、オリビアが先手必勝。
さっきまでの試合と同じパターンだ。
上段から大剣を斜めに振り下ろす。
相手はガードするか避けるしかない。でも、避けられるほどの速さじゃない。
だから自分の武器で受けるしかない。でも、受けると……。
「――!?」
ああやって、そのまま場外に力任せに吹っ飛ばされる。
オリビアの勝ちパターンだ。これでもう決まったな。
俺でさえ、そう思ったんだ。でも……。
「なっ!?」
バルドルは、場外に出るギリギリで踏ん張った。
……今の攻撃を受けて、衝撃に押し切られないだって?
完全に決まったと思ったのに。
「……あいつ。やっぱりなんか変だな」
魔法を使った様子もなかったし。単純に、体術で踏みとどまったように見えた。
実力差的に、あり得ない。
……準決勝。少しだけ荒れるかもな。
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『おまけショートチャット』
「オリビアちゃん。もっと叩いて」
「本気で叩きますけど? 全力で」
「むしろドンと来い!」




