ゲーム世界に三年居た俺は闘技大会で無双します②
ざわつく会場。俺はクールを装って闘技場を出る。
心の中ではめっちゃニヤニヤしてるけどな。見たか? 司会の呆然とした顔。
あースカッとした。
魔力だけで判断できるわけじゃないけど、この会場に、俺の相手になるような奴はいない。たとえドレルチ状態でもな。
魔力が関係ない、あいつは別だけど。
「ヒロユキ様ぁ~!」
「わっ!?」
アマノたちの所に戻ったら、ハスに後ろから抱き付かれた。
強く抱き付きすぎ……良い匂いと柔らかさがダブルでキテルから!
胸当たってるし!(当ててるんだっけ?)
こういうとき、アマノが止めてくれてたから助かってたんだけど。
「……はぁ」
いろいろと諦めがきてるみたいだ。
さっき、騒いでるハスを鎮めるのにかなりお疲れみたいだな。
お前が諦めちゃったら、誰がハスの暴走を止めるんだよ。俺の心臓に悪いんだぞ。
「ユッキー。お疲れさま~」
「問題ない相手だったな。次の試合まで休むといい」
別に全く疲れてないけどな。ぶっちゃけ、今ハスに抱き付かれてるほうが体力使う。
参加者が多いからな。一回試合をやればしばらくは回ってこないだろ。お呼びがかかるまで、のんびり観戦でもしてるか。
「……マムは大丈夫か?」
いろいろと気疲れしたのか、マムはサニーに寄りかかって、小さな寝息をたててる。
昨日から、あんまり寝てないみたいだったからな。ずっと姉のことを心配してるみたいだ。
「……まぁ焦っても仕方ない。ヒロユキが優勝するまでの辛抱だ。賞品……と言うのもアレだが、ゴルディオも賞品となる奴隷をこれ以上傷つけはしないだろう」
だといいけどな。
ゴルディオは噂だけ聞いてもクズ野郎だ。
はたして……大人しく賞品を渡すかどうか。怪しい所もある。
まぁそれを今考えてても仕方ない。とにかく、今は優勝することだな。
「ヒロユキ。あんた手を抜きすぎて負けるんじゃないわよ」
「またその心配かよ。心配するなっての。ドレルチ状態だからそこまで手を抜いてられないからな」
「ドレルチ状態? ああ。だからお前この前よりちっこいのか」
……ん?
おい。なんでお前がちゃっかりと俺達の輪の中に居るんだよ。ライト。
しかも、闘技会場にある出店の食べ物をめちゃくちゃ買い込んでるし。お前、いちおう魔王の命令で来てるんじゃないのかよ。全力で楽しんでるじゃねぇか。
「あいかわらずのハーレム状態だな。おい。ちょっとそこ代われ。弓使いのお嬢さん。そんな奴より俺のほうが抱き心地最高だぜ? なんなら……俺が抱いてあげてもいいんだぜ?」
「へ? 私、ヒロユキ様以外興味ないよ」
「……」
一刀両断。すっげぇ肩を落としてる。落ち込みすぎだろ。
確かに、すっげぇ良い顔で格好つけてたのに、全く興味示してくれなかったからな。
落ち込んだ体勢(膝を曲げて肩を下げた状態)のまま、トボトボと俺達の隣に座る。
おい。誰がそこに座っていいって許可を出した? いちおう。お前は俺たちの敵だろ。
「黒髪が綺麗でおっぱいが大きい彼女。リンゴ飴食べるかい?」
「いらん」
また一刀両断。ラナはライトに見向きもせずに、差し出されたリンゴ飴を押し返した。
黒髪はともかく、胸を褒めてるあたりは欲望がそのまま言葉に出てるじゃねぇか。
……気持ちはわかるけど!
しかしこいつ……顔は悪くないくせに、女の子にモテないよな。
喋ると三枚目の典型的パターンだ。
「じゃあ……控えめなスタイルの可愛い彼女……」
「とりあえず死ね」
ああ……アマノがとりあえず死ねっていうときは、本気で面倒だと思ってるときだぞ。
ていうかアマノにスタイルの話は厳禁だから。
全員に撃沈して(アマノの罵倒は嬉しそうな顔してたけど)、最終的にライトが行きついたのは……。
「……お嬢ちゃん。リンゴ飴食べる?」
「食べるー」
無垢な幼女のところ。
サニーは喜んでリンゴ飴を受け取った。その様子を見て、ライトがほっこりと笑顔になる。傷付いた心を、幼女で癒すんじゃない。
「いいねぇ……子供は無邪気で……荒んだ心が洗われる……」
「……お前、何しに来たんだよ?」
「応援に決まってるだろ? うちの可愛い子ちゃんの」
闘技場の方を視線で示すライト。同時に、観客たちの歓声が一斉に響く。
……出てきたな。相変わらず、眉間にシワ寄せたままの表情だな。
真面目すぎるほど真面目顔で、前にゲーム世界に居たとき、俺が一番苦戦した相手。
オリビア=アムノークス。
金髪をツインテールに縛って、シワが寄った眉間に合わない、綺麗な青い瞳。
ラナと同じ、動きやすさを優先した軽装鎧。守るべきところだけを最低限守ってる。
短パンのラナと違って、黒いスカート。動き回ると下着丸見えでマジ目のやり場に困るんだよな。
そして背中には……大剣。
オリビアは大剣士だ。それも、俺がオリビアが苦手な理由。
大剣同士だと、戦い方が似てくるからやりづらいんだよな。
「ひゅー!!! 大将! 今日も可愛いね! 俺がついてるぜ! 負けるわけねぇよな!」
ライトが周りが引くぐらいのでかい声でオリビアに呼びかける。
あ。顔真っ赤にしてライトを睨みつけてる。黙ってて! と目で言ってる。
……やっぱり、俺が知ってるオリビアそのものだな。
だとしたら、やっぱり……あの特性もそのままか。
「……誰よ? あいつ」
「俺たち四角を束ねる大将さ。魔王の側近。まぁ早い話が、魔王軍のナンバー2だ」
「……あいつが? 本当に? 全然魔力を感じないけど」
お。アマノも魔力をだいぶ感じれるようになってきたな。
でも、オリビアから魔力を感じないのは当然だぞ。
「それは当然さ。なんたってうちの可愛い子ちゃんは……」
「魔力0だからな。特性色も持ってない。オリビアから魔力を感じれなくて当然だ」
「おい。なんでお前がそんなこと知ってるんだよ? ていうか俺の台詞取るんじゃねぇ」
うるせぇな。別にお前に説明を求めてないんだよ。
知ってて当然だ。俺は嫌ってほど、オリビアの特性に苦しめられたからな。
「魔力が0だと……まさか『魔力持たず』か?」
「ああ。そうだ」
さすがラナ。魔力持たずの存在を知ってたか。
魔力持たず。
これは、すごく特殊な特性なんだ。
「なによ? 魔力持たずって」
「普通は色の義で、自分の特性色を授かる。これは知ってるよな? でも、めっちゃくちゃ稀に、特性色を持たない人間が居るんだ。つまり、生まれながらにして魔力が0ってこと」
黒色特性の魔力よりも、もっと希少だ。
俺が知る限り。オリビア以外に、この特性を持ってる奴はいない。
「特性色を持たない、魔力持たずはな……知力以外のステータスポイントがデフォルトでプラス100されるんだよ」
「はぁっ!? なによそれ! ずるいじゃないのよ!」
「ずるくない。その代わり、色魔法は一切使えないし、もちろん、魔法系統の職には就けない。転職する職が限られちまうんだよ」
普通は魔法系統の職じゃなくても、特性色の色魔法なら、中級まで使える。それもなしだ。
そしてなにより、魔力持たずの欠点は……。
「知力は0。レベルアップしてもポイントをふれない。これがどういうことかわかるか?」
「わかるわけないでしょ。もったいぶってないで教えなさいよ。会長に抱きしめられたまま呼吸困難になって死ね」
ハスを死因に加えるな。わからないなら、大人しく教えてくださいぐらい言えないの?
まぁいい。わかりやすく言うとだな……。
「SP。スキルポイントな。色魔法を始め、スキルを使うためには絶対に必要不可欠だ。初期ポイントから、レベルアップの補正と、知力を上げることで増える。でも、魔力持たずは知力にポイントをふれず、レベルアップ補正もない」
「……え? ちょっとそれって……」
さすがにアマノもわかったみたいだな。
そうだ。つまり……魔力持たずは初期ポイントからSPが増えない。
SPの初期ポイントを上回るスキルを使えないんだ。
例えば、一般的なSPの初期ポイントは……。
魔法系統職で大体20~30。
それ以外で大体10~15だ。
オリビアも、たぶんその程度。
例えば、大剣士のスキル、ドラゴンファングの消費SPは25だ。
な? どうやっても使えない。
装備補正で増やそうとしても、無理だ。
魔力持たずは、知力に関係する補正が全部無効になっちまうからな。
だから、魔力持たずは初期ポイント以下のSP消費スキルしか使えない。
そんなスキルは限られてくる。
「……詳しいねぇ。説明の必要がなくて嬉しいぜ」
めっちゃ拗ねてんじゃねぇか。そんなに説明したかったのかよ。
別にお前のことじゃないのに、ドヤ顔で説明しようとしてたんだろ? 目に浮かぶ。
「……え? じゃああいつ弱いの?」
「ところがどっこい。見てろ」
確かに、今の説明だけ聞くと、デメリットしかなくて、弱いのかって発想になるのも無理はない。
でも、俺が一番苦戦したってだけのことはあるぞ。
なにせ……。
『い、一撃っ!? 一撃で決まったぁ!』
試合開始から数秒。オリビアが先手必勝の一撃を繰り出して、相手はそれを受け止めようとしたけど……。
力任せに、そのまま場外に吹っ飛ばされた。あっという間に決着だ。
「今話した全部をひっくり返すほど、身体能力が異常に高い。力。体力。素早さ。技。ステータスポイントプラス100ってだけで、レベルで言うと80ぶんだからな。簡単に言えば、素の攻撃で充分強いってことだ」
「けっきょくどっちなのよ? もったいぶらないで早く言え」
「……めちゃくちゃ強いです」
なんで説明してあげてる俺が睨まれるんだ? 理不尽だ。
一撃で試合を決めたオリビアは、一礼して、闘技場を後にした。さすが真面目すぎる真面目。倒した相手にも礼儀を忘れない。
闘技場から出て行く途中で……。
「……」
「……」
オリビアと目が合った。
……どうせあいつも俺のことを覚えてないんだろ。こっちがどんだけ苦しめられたかも知らないで。
正直言って、当時の俺は身体能力では完全に負けてた。
だから色魔法重視で戦って、なんとか勝てたんだ。
……思い出したくねぇ。マジでトラウマだからな。オリビアとの闘いは。
マジで殺されると思ったんだからな。
オリビアが俺を殺すつもりだったか、今となっちゃわからないけど。
「どうだ? つえぇだろ。うちの大将は」
「うちのユッキーも強いもん!」
「お? じゃあどっちが勝つか勝負するか? 嬢ちゃん」
「いいよー。じゃあ負けたら私のおやつあげるね!」
「おう。約束だぞ」
勝手に人を使って勝負するんじゃない。
ていうかライト……お前、普通に俺らの中に溶け込むなよ。サニーも普通に話してるし。
まぁ……わかってたことだけど。
この大会。俺とオリビアの二強勝負になりそうだな。
あいつと当たるまで、お互いの無双状態が続きそうだ。
なんて思ってたんだけど。
『決まったぁ! これもまた一撃で決めてしまった! 魔法剣士のバルドル!』
次の試合で、相手を一撃で気絶させた魔法剣士の男。
オリビアと違って、倒した相手に微塵の興味も見せない。
顔も含めて、全身包帯グルグル巻きで、全く表情が読めない。気味の悪い奴だ。
それに……なんだあいつ?
なんか……体から妙な魔力を感じるな。
あいつ自身の魔力じゃなくて……なんか、別の存在みたいな……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『おまけショートチャット』
「フィリアちゃんに『ツインテールでスカートだと動きが速くなるのよぉ』って言われて、信じちゃってるんだぜ? だからあのスタイルなんだ」
「教えてやれよ。嘘だって」
「ばっか! ツインテールだぞ? パンチラだぞ? 最高だろうが!」
「お前のそういうところ嫌いじゃないけど、周りに女の子が居るときはもう少し考えて発言しろ」




