ゲーム世界に三年居た俺は生徒会長に告白されました⑦
海底大青洞を抜けた先にある、周りを海に囲まれた小さな島。ここに、ブルーアの首都がある。ただでさえ海に囲まれたブルーア大陸で、その中心に孤島があるんだ。大昔、わざわざ大陸に海の水を引き込んで造った島だって聞いたことあるけど、詳しくは知らない。だから海って言っても、人工の海になるのかな?
「見えたぞ。あれがブルーア首都だ」
「クロックみたいに警備が厳重だったりするの?」
「あれはクロックだけだ。いちおう、見張りの兵士が居るけど、相当怪しくない限りは止められない」
「じゃああんた危ないじゃないのよ」
どういう意味だよ。俺が全力で怪しいってのか?
そろそろ陽が落ち始めてきた。リヴァイアサンとライトのせいで余計に時間を食ったからな。でもなんとか暗くなる前に着いてよかった。
「ん……」
俺の背中で、ハスが声をあげる。目を覚ましたみたいだな。怪我はもう治ってると思うけど、万全を期すために、宿で休ませないとな。
「起きたか? どっか痛いところとかない?」
「……ヒロユキ……様……?」
半分寝ぼけてる。まぁ死にかけたんだから、まだ体力は全然回復してないだろ。無理もない。
しばらくして、今の状況がわかったのか……なぜか歓喜の声をあげる。
「あれ? 私、なんでヒロユキ様におんぶしてもらってるの? やばい……嬉しすぎて死んでもいいかも……」
「死にかけた後にそれを言うと冗談に聞こえないからやめてくれ」
「死にかけた……? あ……そういえば……」
なにがあったのか、ゆっくりと思い出してきたのか。俺にギュッと抱き付いてきた。ちょっ……密着しすぎ……ただでさえ、胸の感触が背中にあったのに……それがさらに……。
「またヒロユキ様に会えるなんて思わなかった……痛かったよぉ……怖かったよぉ……うぇぇぇん……」
恐怖が蘇ってきたのか、泣き始めてしまったハス。あわわ……背中で泣かないでくれ。あと顔をスリスリするのもやめて。やべぇ。女の子に泣かれるとすっげぇ焦る。
俺があわあわとしてると、アマノが微妙な表情でハスに近づいてきた。微妙な表情ってのは……怒ってんのか心配そうにしてるのか、どっちかわからないような感じだからだ。
「朝比奈会長……」
「ぐす……あ……虎上院さん。無事だったんだね。よかったねぇ」
「よくないですよ。会長!」
怒ってたみたいです。ハスに詰め寄るアマノ。
えぇ……また言い争いが始まるの? もう勘弁してほしいんだけどな。病み上がりなんだから、少し抑えてほしい。
「自分は死んでもいいなんて、もう言わないでください! 私たちを守って死んで、会長は満足かもしれないですけどね! 残されたほうの身にもなってくださいよ! 無事でよかったです! ありがとうございました!」
……と思ってたら、予想とは違う言葉。
文句を言いながら、お礼も言ってる。いろんな感情混ざりすぎだろ。しかも早口。もうちょっと整理してから言えって。
「ご、ごめんね……」
「謝らないでください! 謝るのは私です! 私のせいで会長は死にかけたんですから! ごめんなさい!」
今度は謝ってるよ。ハスはどうすればいいんだよ? どう返事するのが正解なんだよ? お前、傍から見ると情緒不安定だぞ。
呆気に取られてたハスだったけど、本気でアマノが心配してたってことがわかったのか、申し訳なさそうに小さく笑った。
「あはは……虎上院さん。私のことそんなに心配してくれたんだ? 嫌われてると思ってたのに」
「好きではないですよ! 勘違いしないでくださいね!」
「うん……それでも、嬉しいかも……」
……俺たちが居ない間に何があったのか知らないけど(ハスがアマノを庇ったってことしか知らない)、二人の距離が少し縮まってる? あのままギスギスしてたらパーティ内の空気最悪だったから、良かったけど。……あ。ハスは別にパーティに入ってないか。
「そうだね……残された方の身も考えて……本当にそうだよね……」
「……?」
なんだ? ハスは自分に戒めるみたいに、何度も呟いた。まるで、前にも似たようなことがあったみたいな感じだな。顔は見えないけど、声がすごく寂しそうだった。まだハスにことをあんまり知らないけど、こんな声を出すのは初めてだ。ちょっと戸惑う。
「……あれ?」
今度はハスがきょとんとした声を出した。その理由は……俺にもコマンドが見えたからすぐにわかった。
【『森の熊さん』パーティから加入要請が来ました。加入しますか?】
おぉ……アマノがハスにパーティ加入要請を……。
あれだけ頑なにハスをパーティに入れることを嫌がってたのに、どういう心境の変化だ? マジで、俺たちが居ない間に何があったんだ?
「い、嫌なら断ってくれていいんですからね!」
「……可愛いパーティ名だね」
「うるさいですよ!」
「あはは……うん。私でいいなら……よろしくお願いします……」
「問題を起こしたらすぐに強制退去ですからね!」
パーティ加入要請を受けたハス。アマノはなぜかプリプリ怒りながらだけど、さっきほどの嫌悪感は消えてるみたいだな。
まぁ……終わりよければ全て良し。かな? 終わりが良いなら……どうやってこうなったかの経緯なんて別にいいか。詮索する意味もないし。仲良くなったなら、それいい。
「ヒロユキ様……できればお姫様抱っこがいいなぁ……」
「駄目です。怪我人がなに欲望丸だしにしてるんですか? おんぶで充分です」
「いいじゃん……別に虎上院さんがするんじゃないんだし……」
「別にこのまま置いていってもいいんですよ!!!」
……仲良くなった、のかな?
ミ☆
【ブルーア首都】
ブルーアの首都に入って、町の様子を見る前にまずは宿を取った。闘技大会のせいか、すげぇ町が賑わってたから、宿の部屋もかなり埋まってたけど……運良く、町外れの宿で一部屋だけ空いてたから、とりあえずハスを休ませることにした。一部屋だけしか取れなかったけど……ベッドが二つあるからなんとかなるか。俺はその辺で寝ればいいし。
「よし。じゃあみんなはハスのこと見ててくれ。俺は町の様子を見ながら、闘技大会の詳細を確認してくる」
「私も行くわよ」
「お前は喧嘩っ早いから駄目」
「誰が喧嘩っ早いのよ!?」
お前だよお前。ここで騒ぎを起こしちまうと、後々面倒だ。クロックほど警備が厳重じゃないにしても、首都だ。闘技大会で人も多いから、兵士の数は多い。ハスもまだ全快してないし、町に居られなくなったら困る。今度こそ、少し自重して行動する必要があるんだよ。つまり、口よりも手が先に出るアマノは宿で大人しくしてろ。
「じゃあ私が行くー」
「ぎゅー!」
「……アカムがとても不服みたいだけど? お前一人で行けよばりの威嚇声だったけど?」
ていうかアカムの奴、ゲーム世界に来てから姿を見ないなと思ったら、サニーの鞄でずっと寝てやがったらしい。呑気なもんだ。寝てばっかりで、完全にペットじゃねぇか。起きたと思ったらうるせぇし。
「サニーはマムと遊んでてやってくれ。別に俺一人で大丈夫だ。すぐに戻ってくるから。ラナ。みんなを頼んだぞ」
「ああ。わかった」
正直、ブルーア首都はあんまり大勢で歩き回る町じゃない。ゴンサほどじゃないにしろ、ブルーア国は基本的に奴隷売買のせいで治安最悪。女子供を連れ回るには危ない。闘技大会の開催日程とかを確認するだけだし。俺一人のほうが動きやすい。
「お土産よろしくねー」
「サニー。俺は遊びに行くんじゃないんだぞ?」
「クレープでいいわ」
「……ブルーアにそんなものは無い」
俺をパシリと勘違いしてない? 俺の扱い相変わらず酷いな。
ミ☆
思った通り、町中は物騒な連中で溢れかえってた。闘技大会があるせいか、普段よりもゴツイ重装備連中が多い気がする。ゴンサよりも、町の中に奴隷の人たちが多い。ゴルディオの本拠地だからな。値段がつかなそうな奴隷は、扱いが酷い。町中に放置されて、食べ物なんて自分でなんとかしろって感じだ。やっぱり……居心地の悪い町だな。首都のくせに。国自体が腐ってやがる。
えぇっと……闘技場は確か町の中心だったな。普段はモンスターと人間の戦いを観戦する施設だ。モンスターが勝つか、人間が勝つか賭けるんだ。たまに……奴隷を無理やり戦わせることもある。ああー! 胸糞悪いな! 考えれば考えるほど!
遠目で見る感じ、まだ闘技大会は開催されてる感じはしないけど……そんなに人が集まってない。とりあえず闘技場の入り口まで行くと、でかでかと張り紙がされていた。
【明後日より、闘技大会を開催予定! 参加者募集中。】
【優勝賞品:獣人奴隷 特別褒賞品】
獣人奴隷……マムの姉ちゃんか? メスって書き方が気に食わないな。動物みてぇに扱いやがって。特別褒賞品ってのが、神器のことか? 今のところ……神器の魔力は感じないけどな。
「おい。明後日の闘技大会賞品の奴隷が、お披露目されるらしいぜ」
「広場だ。行ってみようぜ」
町人のそんな会話が聞こえてきた。お披露目……? 賞品を公開して、参加者のやる気を出させようって魂胆か? まぁいいや。好都合だ。マムの姉ちゃんがどうか、確認できる。
闘技場の北西にある広場に行くと、人がめちゃくちゃに集まってた。闘技場に人が居なかったのは、こっちに集まってたからか。屈強な男たちが周りを威嚇してる。俺から見れば、大したことなさそうな奴ばっかりだけど。
そんな男たちの中心に……太った身なりの良いハゲ頭の男。あいつがゴルディオだ。相変わらず悪そうな顔してやがる。葉巻なんか加えやがって。護衛の兵士が数人居るし。扱いがまるで王族だ。それを見てるだけでムカついてくる。不敵な笑みを浮かべながら、大声で喋り始めた。
「腕に覚えのある強者たちよ! 明後日開催される闘技大会の賞品となる奴隷を公開しよう! 希少な獣人の奴隷だ! 普通に買えば数百万ゴールドはくだわない! 召使として使うもよし! 愛玩具奴隷にするもよし! 獲得した者は好きに扱ってほしい!」
なーにが好きに扱ってほしい、だ。人間をなんだと思ってやがる。こんなことを白昼堂々、町人が行き交う町中で発言してるんだ。やっぱり、あの野郎は狂ってるな。
高い土台に乗った檻に入れられて、首輪を着けられた、獣人の女の子。虚ろな目で、ボロボロの白い服。身なりは他の奴隷とあんまり変わらない。自分が奴隷だって認識させるためだな。特別扱いはしない。値段以外、奴隷はみんな平等に扱うって聞いたことがある。
頭には猫耳。見た目、十二~三歳に見える。髪の色と、瞳の色が、マムと同じで、なによりも、めちゃくちゃに似てる。
ほぼ間違いないな。マムの姉ちゃんだろう。あとでマムに確認してもらうために【カラウツル(色写真)】で姿を写しておくか。一回きりだけど、自分で見た光景を、あとで色魔力で再現できる魔法だ。
見た目が可愛い獣人の女の子だ。ゴルディオにとって、これとないぐらいの商品ってところだろ。それを餌に冒険者を集めて、町の経済効果アップを狙ってやがるんだ。そうすれば、また国王から褒美が出るんだろ。自分の地位を上げることしか考えてないクズ野郎だな。
……あの子がマムの姉ちゃんってこと前提で、賞品にされてるってことは、プラスに考えれば、闘技大会が終わるまで、誰かに売られちまうことはないってことだ。
「……一回戻るか」
どう動くべきか。帰って相談しよう。早くマムに姉ちゃんだって確認してもらいたいし。
ミ☆
「お姉ちゃんだ! お姉ちゃんだよ!」
カラウツルで投影された写真を見て、マムは興奮を隠せなかった。これで、明後日の闘技大会で賞品にされてるのはマムの姉ちゃんだってことが確実になった。それならそれで、動き方も決まってくる。
「どうする? 殴りこんで奪い返すか?」
「それが手っ取り早いけどな。それよりも……ちょっと考えたことがある」
ライトが言ってた。可愛い子ちゃん。
闘技大会に参加して、正攻法で神器を手に入れるって言ってた。
魔王軍が真っ向から手に入れに行ってるのに、俺が殴り込みなんて頭の悪い方法を取るのは、なんか悔しい。
だったら……結論は決まってる。なによりも、確実にマムの姉ちゃんを助けられる方法がある。
「俺が闘技大会に出場して、優勝すればいいだけの話だ。それでマムの姉ちゃんを助けられる。そしてついでに……神器も手に入れてやる」
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『おまけショートチャット』
「ハス……くっ付きすぎじゃない?」
「くっ付かないと落ちちゃうもん」
「だってあの……あんまりくっ付くと……胸が……」
「当ててるんだよ?」
「会長。それ以上無駄にくっ付いたらラナにおぶってもらいますからね!」




