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ゲーム世界に三年居た俺は生徒会長に告白されました⑥

【四角・疾風のライト Lv109】


 レベルは俺が戦った時より低いけど……見た目はやっぱり同じだな。間違いなく、俺が戦ったライトだ。


 こいつはな……性格的には、四角の中ではマシな方だ。ただ、


「お前。ちょっとそこ代われ。なんだそのハーレム状態? 可愛い子に囲まれやがって。羨ましい。俺にも一人ぐらい分けてくれ」


 すっげぇ女好き野郎だけどな。


 ライトがアマノに近づいて、跪く。なにをしてくるのかと、アマノは警戒して後ずさる。俺は別に助けには入らない。なぜかっていうと……。


「アマノ。心配するな。そいつは女の子には危害を加えない」

「んん? なんだお前。俺のこと知ってんのか? 俺はお前なんか知らないぞ」


 説明は面倒だからしねぇ。どうせ俺のこと覚えてないなら、説明しても無駄だし。

 ライトは女好きで、女の子は大事にする。絶対に危害を加えない。種族年齢関係なく、な。


 ライトはアマノの手を取って……甲にキスをしようとして……振り払われる。当たり前だ。お前は誰の手を取ってると思ってるんだ? アマノだぞ?


「なにしてんのよ。毒リンゴを白雪姫に口移しされて死ね」

「おぉう……そんな死に方ならしてみたい。ていうか君の声……めっちゃぞくぞくするわ~」


 まぁ間違いなく、変態なんだけどな。そこは他の四角と変わらない。変態の方向が、他の四角よりもマシってだけだ。

 

 アマノに冷たく罵倒されたライトは、ハスにヒールをかけてるサニーと、その横で心配そうに見てるマムの所に歩いて行った。え……まさか……幼女にも言い寄る気じゃないだろうな? そこまで変態だったのかこいつ。


「……リヴァイアサンにやられたのか。女の子を傷つけやがって……今度見つけたら八つ裂きにしてやる。しっかりヒールかけてあげてくれよ? 傷が残ったら大変だ」

「え? う、うん……」

「よし。頼んだぜ。可愛い嬢ちゃん」


 サニーの頭をポンと一撫でして、マムをちらっと見てから、俺の所に戻ってきたライト。サニーに触ったもんだから、アマノがギラギラ睨んでるぞ。SP残ってたら絶対に魔法が飛んでた。


「……あの獣人の子。奴隷か? お前が買ったのか? 鬼畜野郎」

「ちっげぇよ。奴隷として連れて行かれたあの子の姉ちゃんを助けに、ブルーアの首都に行くところだ」

「え? お前らも首都に行くのかよ」


 お前らも……?

 おいおい。こいつも首都に行くってのか? まーた四角と目的が同じかよ。これでもかってぐらい、四角と関わり合うクエストだな。


「……奴隷を、しかも獣人を助けるのか?」

「なんだよ?」

「獣人ってのは、基本的に人間に嫌われてる。お前ら……あの子と一緒に居てなんとも思わないのか?」


 自分の頭にある、耳を触りながら俺を一睨みしてくる。

 ライトも、獣人だ。しかも希少な……パンダの獣人。ボサボサの無造作な髪の上にちょんとある、丸くて黒い耳は、パンダそのもの。目もどこかパンダっぽい形の緑色の目だ(パンダの目とかあんま知らんけど)。まるで狩人みたいな格好も、前に会ったときと変わらないな。腰には……二丁のハンドガン。愛銃の【熊ノ手】も健在か。


「……って、言ってるけど、お前らどう思う?」


 あえて、アマノたちに話を振ってみる。答えは大体わかるけど。


「何言ってんのよ。あの耳が可愛いんじゃないの」

「可愛いよねー」

「ああ。可愛いな」


 はい。満場一致。


 この世界に染みついた、獣人だから、亜種だから、そんなもん、俺たちには関係ない。くだらねぇ。種族の違いをぐだぐだ言うなんてよ。


「……変わってるな。お前ら」

「お前には言われたくねぇ」

「はっ! まぁいいや。せっかく会ったんだ……一戦やっとくか? もちろん、お前だけ」


 人を指さすな。別にやりたくはない。


 まぁでも……ちょっと聞きたいこともある。一発ぶっ飛ばして、聞きだすのもいいかもな。


「三分だけ付き合ってやる」

「おいおい……上から目線だな? もう俺に勝った気か?」

「うん」

「……逆に気持ち良いな。そこまで言い切るのは……よぉ!」


 ライトが、ウインドスカイを詠唱した。風が周囲に舞い上がって、空中に飛ぶ。そして、普通の

奴なら目で追うのが精一杯な速度で走る。

 ライトの特性色は緑色だ。ウインドスカイは、特性色の奴が使うと、SP消費が無くなって、速度も格段に上がる。ウインドスカイで空中を風みたいに走りながらの攻撃。こいつの疾風って異名は、ここから来てると言っていい。


「おらぁ!」


 まぁ、俺は普通じゃないから全然見えるけど。


「とう」

「ぐおっ!」


 俺の背後に回って、腰から抜いた熊ノ手を鈍器みたいに扱って、俺の首筋を狙ってきたライト。その攻撃が俺に届く前に、ひじ打ちをお見舞いする。

 ただのひじ打ちだったけど、力1110のひじ打ちだ。ライトはめちゃくちゃに吹っ飛んだ。ウインドスカイでなんとか体勢を立て直して、俺を改めて見てくる。


「……お前、レベルいくつだよ? 適当な攻撃だったくせに、めっちゃ痛かったぞ」

「適当な攻撃だってわかるだけマシだな。レベルは……お前の十倍」

「嘘つけ。そんな奴居るかっての」


 嘘じゃねぇんだな。これが。


 聞きたいことがあるから、殺さないように手加減してんだ。とは言え……こいつの緑色魔法と銃士のスキルの合わせ技は面倒なんだよな。


「……はっ! だったらこれはどうだぁ!」


 魔力を強めて加速しながら、熊ノ手を二丁構える。熊ノ手は、ライトのオリジナル装備で、まるでパンダの手みたいな形と色をしてるハンドガン。なんで熊ノ手って名前? ってツッコミはいらないぞ。俺も知らん。パンダも熊だろ。形は単純にライトの趣味だ。


「【ラピッドファイア】!」


 トリガーを引くんじゃなくて、魔力で具現化した弾丸を自動連続で撃ち出してくるラピッドファイアか。銃士は、このスキルだけで充分に戦えるってぐらいのスキルだ。だから、銃士は知力と技の二極ステがほとんどだ。弓装備で使えるチャージショットの連打バージョンだ。ただし、ラピッドファイアは仲間から魔力を分けてもらえないけどな。威力よりも、手数のスキルだ。


 ウインドスカイで高速移動しながらのラピッドファイア。普通の銃でこれをやると、速度のせいで全く狙いが定まらない。でも熊ノ手は、緑色魔力の風で、照準と弾道を補正できるように造られてる。だからライトの銃弾は、あり得ないぐらいに正確に飛んでくるんだ。本当か知らないけど、本人が言うには数百メートル離れててもいけるらしい。


 空中から雨みたいに降ってくる弾丸を避けるのは、めちゃくちゃに困難だ。


「よっと」


 エクスキューショナーを盾にして防ぎながら、魔法を詠唱。


 避けるのは困難……というか、面倒だ。避けようと思えば俺は余裕で避けられるけど、あんまり動きたくないし、動き回るとアマノたちに被害が出るかもしれない。まぁライトのことだから、絶対にそんなことはしないかもだけど。


 だから速攻で……本人を撃ち落とす。


「エレカミヴォルト」

「あぎゃっ!?」


 エレカミヴォルトでライトを一撃。普通、あの速度で移動する奴に、単体魔法は当てられないけど、ステータスの差があるから、俺には当てられる。それなりにレベル上げた一撃だったから、今ので決まっただろ。今日はもう一戦やってるから、エコな戦いをしないとな。


 失速して落ちて行くライト。先回りして、胸倉を掴んでキャッチ。きっちり三分経過だ。


 さぁてと……質問に答えてもらうとしますかね。


「お前が首都に行く目的は?」

「おま……体が痺れてる相手に容赦ねぇな……」


 うるせぇ。お前が男には容赦ねぇのと同じだ。なんで俺だけお前に容赦しなきゃいけねぇんだよ。


 最初は答えることをしぶってたライトだったけど、今の戦いで、さすがに俺には敵わないと悟ったのか、へらへらしながら喋り始めた。


「……首都で開かれる奴隷争奪の闘技大会に、ウチの可愛い子ちゃんが出るから、そのサポートだよ」

「可愛い子ちゃん? なんで闘技大会に出るんだよ? 奴隷がもらえるだけだろ」

「それだけじゃねぇよ。言わないけどな」


 こいつ……自分の立場わかってんのか? 俺がきゅっと力を込めるだけで、お前の命を摘めるんだぞ。それこそ赤子の手をひねる様なもんだぞ。今の俺にとっては。


 まぁいいや。ここは穏便に喋ってもらおうじゃないか。こいつの性格はわかってる。


「答えてくれたら、アマノがもっと罵倒してくれるぞ」

「マジでかっ!?」

「勝手なこと言ってんじゃないわよ。二人まとめてウインドスカイで止まれず壁に激突して死ね」


 デフォルトで罵倒してんじゃねぇか。それがライトにとっては充分にご褒美なんだよ。なんか俺も一緒に罵倒されてんのはどういうこと?


「……まぁいいか。どうせ言ったところで、お前らも大体目的同じなんだろ? お前、魔力感知がすげぇって聞いてるし。遅かれ早かれわかることだ」


 アマノの罵倒に満足したのか、それとも観念したのか、ライトが両手を挙げて降参のポーズを取った。遅かれ早かれわかること? 魔力感知がなんか関係あるのかよ。闘技大会には、奴隷がもらえる他にもなにかあんのか?


「……闘技大会の賞品に、神器があるらしいぜ」

「は?」

「もちろん、周りは神器って認識してるわけじゃねぇけどな。ブルーアの国王が、ゴルディオに褒美として渡したもんらしいぜ。それを、ウチの可愛い子ちゃんが取りに行ってるんだ」


 やっぱり出たな。神器。俺たちのクエストは神器に関係するクエストだ。どっかで出てくるとは思ってたけど……闘技大会の賞品に神器があるとはな。だから、遅かれ早かれ俺には神器があるってわかったってことか。神器は特殊な魔力を発してるからな。


 ていうか、ライトの言ってる可愛い子ちゃんってのが誰だか知らないけど……魔王軍のくせに、俺は違和感を覚える。


「力づくで奪えばいいじゃねぇか。魔王軍のくせに」

「クソ真面目な可愛い子ちゃんなんだよ。正攻法で取りにいくことに拘ってるんだ。あの子に真っ直ぐな目で言われたら……なにも言えなくなるぜ?」


 クソ真面目……?

 おい。まさかその可愛い子ちゃんってのは……。


「おりゃあっ!?」

「あ」


 ライトがウインドスカイで、俺の手から逃れやがった。くそ……その可愛い子ちゃんの話で、『あいつ』の顔が思い浮かんでたせいで、油断してた。


「へーん! ばーかばーか! 次はこうはいかねぇからな! お前の母ちゃんでーべそ! 次は絶対に勝つからな!」


 子供の悪口かよ。見苦しい。そしてお前が俺に勝てることは永遠にない。


 まぁいいや。聞きたいことは聞けた。こいつはここで倒しておく必要もないし。深追いすることはないか。


「ばーかばーか! アホー! 腑抜け顔ー! ボサ髪ー! ハーレム野郎ー!」


 ……やっぱ撃ち落とすか? ボサ髪はお前に言われたくねぇんだけど。ハーレム野郎って悪口か? 悪口言ってるのに、ツッコミどころが半端ない。


 子供みたいにあっかんべーをしながら悪口を連呼してたけど、


「……お前、どっかで会ったことあったか?」

「あ?」


 いきなり、真面目な顔でそんなことを言ってきたライト。

 ……なんとなく、俺との記憶がちらついてるのか? ガンマも俺を見ると熱くなるとか言ってたし。でも、さっきも思った通り、面倒だから説明はしない。


「……お前が覚えてないなら、初対面だろ」

「……あっそ。まぁ野郎との出会いなんてどうでもいいか」


 言ってくれるな。お前から話ふったくせに。どうでもいいだと?

 この野郎。と思って、ソードブーメランで落とそうとしたら、俺の後ろを顎で示してくるライト。


「俺に構ってる暇があったら、その子を早く宿に連れて行ってやれよ。死にかけたんだ。休ませた方がいいぜ」

「……お前が俺に突っかかってきたんだろうが」

「はっ! そういやそうだったな。悪かったよ」


 おい……純粋に謝られると、攻撃する気がなくなってくるじゃねぇかよ。

 まぁこいつの言う通りだ。とにかく今は、ハスを早く宿に連れて行って休ませたほうがいいな。宿で休めば、完全に回復する。


「じゃあな。俺は一足先に首都に行くぜ」

「……可愛い子ちゃんによろしくな」

「絶対に伝えねぇからな! これ以上ハーレムにしてたまるかよ!」


 最後にまたあっかんべーをしながら捨て台詞を言って、ライトはウインドスカイで海底大青洞を抜けて行った。


 ……ライトが言ってた、可愛い子ちゃんがあいつだとしたら……ずいぶんと早い再会になるな。もう少し終盤でもよかったのに。


「……ユッキー」

「ん?」


 ハスの治療をしながら、サニーが自分の頭に手を置いた。

 さっき、ライトに撫でられた頭を。


「……四角って、悪い人なんだよね?」

「……」


 その質問に、俺はすぐに答えられなかった。


 魔王軍。一般的なイメージは……もちろん、悪者だ。ガンマもフィリアも、善人とは言えない。魔王だって……俺は会ったことがないけど……兄貴を殺した張本人だ。


 でも、少なくとも……。


「あいつは良い奴だぞ。特に、女の子には」


 前に戦ったとき……。


 ライトは……俺を庇って死んだからな。










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『おまけショートチャット』


「パンダ……あいつ、パンダだったわよね?」

「そうだぞ。ライトはパンダの獣人だ」

「……尻尾…………」

「は?」

「尻尾……尻尾もパンダなのか確認したかったわ。マムちゃんの猫尻尾みたいに」

「今度会ったとき言ってみろ。喜んで見せてくれるから」

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