ゲーム世界に三年居た俺は生徒会長に告白されました⑤
「エレカミヴォルト!」
見た感じとスキルを考えると、明らかに青色属性だわ。そう思って、先手でエレカミヴォルトを撃ちこんだんだけど……。
「ギャオォォン!」
全然、効果があるように見えない。もう! なんなのよ!? レベルが違いすぎるの? それとも、青色属性じゃないの?
「パワーシュート!」
さっき、ポセイドンを簡単に貫いた朝比奈会長のスキルが、リヴァイアサンの額に直撃したけど……衝撃を与えただけで、ダメージはあんまり無さそうね。怯みもしないで、私たちを見下ろしてくる。
「うぅ~ん……鱗が硬いね。さすがボスモンスター。パワーシュートじゃ貫けないかぁ……」
「私の魔法もあんまり効果がないみたいです。あいつ、青色属性じゃないんですか?」
「青色属性だとは思うけど、魔法防御力がすごく高いんだと思うよ。たまに居るんだよね。魔法耐性の高いモンスターが」
こいつもその類ってこと? だったら……私じゃなにもできないじゃないの! 魔法が効かないんじゃ……。
「きゃあっ!?」
リヴァイアサンが、口から水柱を吐き出してきた。アカムのブレスみたいなスキルね。さっきのスキルとは違うみたいだけど、地面が深くえぐられてる。当たったら、たぶん即死ね。
「【バルカンシュート】!」
朝比奈会長が、どうなってるのかわからないぐらいの速度で、矢を連続で撃ちこむ。本当にどうなってるの? スキルにいろいろと言うのもあれだけど、あり得ないぐらいの速度で撃ってるじゃないの! 何十本撃ってるのよ! まるで自動小銃とか機関銃みたい。
矢はリヴァイアサンの腹部の、同じ部分に連続で命中。同じところに当てれば、ダメージがあるかもしれないってことかしら。でも、鱗の硬さに、矢のほうが弾けて壊れてしまってるわ。どれだけ硬いのよ。あの鱗。
「駄目かぁ……どうしようかな」
「会長! とりあえず、引きましょう!」
このまま戦っても、勝ち目はないわ。逃げないと……逃げてヒロユキたちと合流しないと! 左右が高い崖になった狭い通路があるわ。あそこに逃げ込めば……。
「きゃあっ!?」
さっきの水柱をまた口から吐きだしてきたわ。でも……私たちを狙ったんじゃないみたい。私たちが逃げ込もうとしてた……高い崖を水圧で壊されて……。
「……やられたね」
崩れてきた岩で、通路が完全に塞がれたわ。
攻撃じゃなくて、私たちの逃げ道を無くすためだったみたいね。モンスターのくせに……なかなかえげつないじゃないのよ。前に進めなくなったら……後ろにはリヴァイアサン。逃げられなくなったわ。
こうなったら……駄目元で……。
「魔法で崩してみます!」
「待って待って! 魔力を無駄にしないでほしいな」
「え? どういう意味ですか?」
「……一つだけ、あいつを倒せるかもしれないスキルがあるから。虎上院さん、力を貸してくれる?」
魔力を無駄にしないで? 私の魔力が関係するの?
よくわからないけど、倒せる可能性があるなら、朝比奈会長の案に乗るしかないわね。あの巨体だもの。崩れた岩を壊せたところで、逃げきれるかなんてわからないし。
「虎上院さん。私に魔力を注いでくれる?」
「魔力を注ぐって……どうやるんですか?」
「私に向かって魔法を詠唱する感じで、集中してくれればいいよ。そうしたら、私のスキルが勝手に魔力を吸収するから」
魔法を詠唱する感じ……えぇっと、こんな感じかしら?
朝比奈会長に向かって、杖を構えて……詠唱のイメージで魔力を込めてみると……私の体から、魔力が光になって、会長に吸収されていった。
「うん……来てるよ……虎上院さんの熱いのが!」
その言い方。なんか嫌なんだけど。
なんなのこのスキル? 確かに、勝手に私の魔力が会長に注がれてる感じだけど……加減がわからないんだけど、私はずっと魔力を集中してればいいわけ?
「……よし。いけるかな」
朝比奈会長が弓を構えた。でも、矢は持ってないわ。どうするつもり?
と思ってたら……会長が弓の弦を引くのと同時に、光輝く矢が出てきたわ。なにあれ……すごい魔力を感じるんだけど。
「……あ……れ……?」
いきなり、体の力が抜けてきた。思わず、膝を着いちゃった。なにこれ……すごい脱力感が……。
「あ……ごめんね。虎上院さんの魔力、ほとんど吸収しちゃったみたい」
「ちょ……なにしてくれてるんですか……ていうかその矢……なんなんですか?」
「これは自分の魔力と、他の人から分けてもらった魔力で矢を撃ちだす【チャージシュート】だよ。分けてもらう魔力が多ければ多いほど、強くなるの! この矢にはね、虎上院さんの魔力が込められてるんだよ」
私の魔力が、全部あの矢に込められてるの? そのせいで私はこんなに疲労困憊になってるわけ? ちょっと……すごく辛いんだけど……SPをただ消費するのと全然違う感じだわ。
「魔法の耐性は強いみたいだけど、これはあくまで、魔力で強い矢を作ってるだけの物理攻撃だから、通用するはず! 虎上院さん。私の後ろに居てね!」
リヴァイアサンが、空中から私たちに向かって突っ込んできた。それを真っ直ぐに見ながら……朝比奈会長は、光の矢を撃ち放った。
「【チャージシュート】!」
矢は光の帯を描きながら、リヴァイサンに向かって飛んでいく。これが普通の矢じゃないことに感づいたのか、回避しようと体をうねらせたけど、そのときにはもう遅かったわね。リヴァイアサンの体の中心部分を光の矢が貫いて、長い巨体が半分ずつにちぎれた。
「やった! 倒したよ!」
リヴァイアサンの体が力を無くして、その場に自重で落ちていく。泡を口から吹いて、目には光が無くなってる。完全に絶命したみたいね。
「はぁ……」
体が重いわ。魔力が空っぽになったせいね……そのおかげで倒せたなら、まぁいいけど。
「お、お姉ちゃん……私、降りるよ」
マムちゃんが気を使って、ぱたぱたと手足を動かしながら私から降りた。別に、私的にはずっとおぶさってくれててもよかったんだけど。あぁでも……やっぱり疲れたわ。少し休まないと、動けないかも。
「倒せてよかったね。あのままじゃ、私たち全員あいつの胃袋の中だったかもしれないし」
「明るい口調で言うことじゃないですよ。それに、代わりに私の魔力は空っぽですからね」
全くもう……事前に説明してほしかったわ。加減がわからないから、ありったけの魔力を会長にあげちゃったじゃないのよ。前にもSPを使い切ったことはあったけど、魔力を直接渡すと、また違うみたいね。
でもまぁ……朝比奈会長のおかげで倒せたんだし。少しだけ……本当に少しぐらいは感謝してあげてもいいかも。
「……あの、朝比奈会長……いちおう、お礼を言って――」
ふわっと、風が吹いたのを感じて、後ろを振り返ると……。
絶命してたはずのリヴァイアサンの上半身が、単体で動き出して……大口を開けて、私に向かって来てた。うそっ……なんで? 体がちぎれてるのよ? なんで動けるの?
「虎上院さん!?」
突然のことだったのと、魔力が無くなった脱力感で動けなかった私を、朝比奈会長が突き飛ばす。そして代わりに……。
「あぐっ!?」
「会長!?」
朝比奈会長が、リヴァイサンの大口に挟まれた。
私を突き飛ばした右腕と、上半身の半分だけが、なんとか出てるだけの状態の朝比奈会長。うそ……あのままじゃ……食べられちゃうっ!?
「い、いや……いやだよぉ……」
その光景を見て、マムちゃんが首を嫌々するように振りながら、座り込んだ。恐怖心で、体から力が抜けちゃったみたいに。
……そうよ。マムちゃんを守らないといけないのに……それなら、魔力が空っぽの私よりも、会長が助かった方がよかったのに!
「会長! なんで私を庇ったんですか! 魔力が無い私が助かっても、どうにも……」
「駄目……だよ……」
苦痛の表情を浮かべながら、会長はぽつりと、呟くように喋る。
「駄目なの……妹はね……お姉ちゃんが帰ってくるまで……元気で居ないと駄目なんだよ……そうしないと……お姉ちゃんが悲しむから……」
お姉ちゃんが悲しむ……? こんなときになに訳のわからないことを言ってるのよ!
リヴァイアサンの牙が、朝比奈会長の体に食い込んでる。血が出てる。やめてっ!? それ以上やられたら……会長が死んじゃうから! 魔法を詠唱しようとしても、もう魔力が……SPが残ってない……なんて無力なの……私は……。
……うぅん! 魔力が無いなんて関係ないわ!
「会長っ!? 今助けますから!」
こうなったら杖で殴りかかってやるわ! なんでもいい! 会長が逃げ出せる隙を作れれば……。
「……駄目だよ。虎上院さん……それよりも、今のうちにマムちゃんを連れて逃げてよ……全員、ここで死んじゃうことはないんだよ?」
「会長だけ死んでもいいってこともありませんから!」
「私はいいんだ。私は……レンが死んじゃったときも、なにもできなかったから……今度は……虎上院さんたちぐらいは、助けたいんだよ……」
レン? 一体なんのこと?
駄目……会長、死に直面してることで、混乱してるんだわ。
嫌よ……そんなの駄目っ!? 会長を見殺しにするなんて……私を助けたせいで!?
ググググ……と、鈍い音が聞こえる。また牙が強く食い込んでる。会長が、苦しそうに呻いてる……。
「やめて……やめてよ!? お願いだからやめて!? やめてって言ってるでしょっ!?」
私の言葉を、リヴァイサンが聞いてくれるはずもない。会長の口から血が流れ出てる。目も虚ろになってる。死んじゃう……会長が本当に死んじゃうっ!?
「……こ、じょういんさん……ヒロユキ……さまに……つたえて……?……まだ……いってなかったけど……」
掠れる声で、なんとか言葉を発してる会長。
死んじゃう前提で言わないでよ! 伝えたいことがあるなら、自分で伝えてよ! 諦めないでよ!
「……にねんまえ……たすけてくれて……ありがとうって…………」
……伝えてほしいことって、お礼? 自分が死にそうになってるのに……。
それだけ言うと、会長は小さく笑って……目を閉じた…………………。
なにもできないの……? 私は……目の前で人が死にそうになってても……なにも……。
「……ヒロユキ……なにやってんのよ……」
こんなときになにやってんのよ……あいつは……。
「助けてよ……!? ヒロユキの馬鹿ぁ!!!」
自分の無力さが情けなくて、自然に言葉にしたのは……あいつの名前だった。
「呼んだかぁ!」
返事が聞こえるとは、思ってなかったけど。
通路を塞いでいた岩が、一瞬で吹き飛ばされた。その奥から、リヴァイアサンに向かって行く、一つの光。
……遅いのよ。来るのが。
「パワーストライク!」
魔力を帯びたヒロユキの剣が、リヴァイサンの首を吹き飛ばした。ビクンと震えて力が抜けた口から、朝比奈会長が解放される。ウインドスカイで空中を走ったヒロユキが、その体を優しく受け止めた。
「ラナ! 下半身を頼むぞ! 俺は頭に止めを刺す!」
「わかった!」
岩が吹き飛んで開かれた通路から、ラナが剣を構えながら走ってきた。
「ツイン・ソニックブレイド!」
斬撃が、リヴァイアサンの下半身を細切れに切り裂いていく。それと同時に、ヒロユキが剣を振りかぶって、
「【ソードブーメラン】!」
リヴァイアサンの頭に投げつけた。回転しながら飛んで行った剣が、リヴァイアサンの頭を真っ二つに切り裂いた。
ミ☆
はぁ~~~~~~……間に合った。めっちゃギリだったけど。ハスもなんとか生きてるみたいだ。生きてさえいれば、色の雫で一命は取り留められる。
「ハス。飲めるか? 頑張って飲んでくれ」
色の雫をハスに飲ませながら、アマノの所に向かう。アマノもだいぶ疲れてるな。魔力を使いすぎてる。SP空っぽだろ。あいつ。
「ラナ。下半身は大丈夫か?」
「ああ。頭も機能を停止したみたいだな」
リヴァイアサンの厄介なところは、生命力の高さになる。頭を潰さない限り、死なないんだ。しかも、長い巨体はぶった切ると、切った部分から別々に動き始める。殺るときはまず頭だ。それに気が付かないで、こいつにやられる冒険者も多い。
「マムちゃん! 大丈夫だったー?」
「サニーお姉ちゃん!」
マムも無事だったみたいだな。目に涙を浮かべながら、サニーに抱き付く。二人でマムを守ってくれてたらしいな。よくやってくれた。
ハスはなんとか色の雫を飲んでくれた。あとは……サニーに回復魔法をかけてもらえば、とりあえずは大丈夫だろ。
「サニー。ハスの治療を頼む」
「うん! 任せてー」
サニーがハスにヒールをかけている間。座り込んだままで動かないアマノに駆け寄って声をかける。腰でも抜かしてるのか?
「アマノ。お前は大丈夫か?」
「……」
反応なし。
「……生きてるかー?」
「……」
またまた反応なし。
「……アマノの胸は小さい」
「死ね。岩に潰されて死ね」
大丈夫みたいだな。よかったよかった。
「……遅いのよ。来るのが」
「これでも全力で追いかけてたんだぞ? 正直めっちゃ必死だったからな」
「……わかってるわよ。あんなに必死に攻撃してるあんた。初めて見たもん」
ばれてた。さすがの俺も、悠長に攻撃してる場合じゃなかったから、しっかり武器を握って確実な攻撃をしてた。スキル名を叫ぶとき、後ろに『!』付いてたぞ。たぶん。
「会長は……大丈夫?」
「ああ。傷はもうほとんど治ってる。心配するな」
「……よかった」
とは言え、早く安全なところで休ませないとな。必死にアマノたちを追いかけてたおかげで、もう海底大青洞の出口近い。リヴァイアサンも倒したし。さっさと抜けて……。
「……」
と思ってたのに……ああくそ。気のせいじゃなかったか。さっき感じた魔力は。
「……お前ら、俺から離れてろ」
「……? なによ。どうしたのよ」
「俺から離れてれば、アマノたちは大丈夫だ」
男の俺以外は、攻撃される心配はない。あいつは……女には手を出してこないからな。
本当にもう……なんでこんなに遭遇するかな。
「おっと? 可愛い子ちゃんがいっぱいいるなぁ。野郎も一人混ざってるけど」
四角に。
「お前か? ガンマの野郎とフィリアちゃんがやられたって言ってた……四角にケンカ売ってる野郎は」
【四角・疾風のライト 出現】
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『おまけショートチャット』
「助けてよ……!? ヒロユキの馬鹿ぁ!!!」
「誰が馬鹿だっ!」
「ヒロユキ! そこはどうでもいい! 急げ!」
「どうでもよくはないぞ! まぁいいや! (岩を破壊) 呼んだかぁ!」




