ゲーム世界に三年居た俺は美少女に罵倒されました⑤
「……なんであんたがまたいるわけ?」
色洞窟の前にいたアマノは、顔を合わせるなり嫌そうな顔をした。
本当に、心の底から嫌そうな顔を。いい加減泣くぞコラ。
「お前がいなきゃ俺は帰れないんだよ」
「……」
ナイスシカト。
アマノは洞窟の中を伺いながら、スモールソードを握りしめている。
うーん。とりあえずだな。
「お前、武器ぐらい新しいの買えよ」
「そんなお金ないわよ」
そりゃそうか。レベル2だもんな。金なんかないか。
「じゃあレベル上げながら金溜めてからでもいいだろ?」
「……そんな無駄な時間使いたくない」
無駄じゃねぇよ。RPGゲームの基本だっての。
せめてプログナの武器屋で売ってた【ロングソード】ぐらい買えばいいのに。攻撃力がスモールソードの倍だから、かなり戦闘が楽になるぞ。贅沢を言えば【強化戦闘服】もほしい。装飾品は別にまだなくてもいいけど。
「……あんた、さっきと格好違うわね」
俺の装備を、アマノはじっと怪しみの目で見てきた。
こいつ、どんな目で見ても俺のこと馬鹿にしてる感じだよな?
「預け所に寄っただけだ。気にするな」
「……預け所? まぁでもそうね。どうでもいいわ」
「おい。ちょっとは気にしろ」
素直に受け入れるんじゃねぇよ。そこはもう少しツッコんで聞いてくれよ。
俺から完全に意識を洞窟に戻し、アマノは警戒しながら中に入って行った。
……本当に行っちまったよ。あのレベルと装備で。
レベル的には最低5ぐらいあった方がいいと思うけどな。まぁ言っても聞かないだろうからもう言わんけど。俺が疲れるだけだから。
俺もアマノの後に続いて、色洞窟の中に入った。
ミ☆
群がる蝙蝠たちにめちゃくちゃにスモールソードを振り、アマノは無理やり突破した。
力づくすぎるだろ。
明らかに敵の強さに自分のレベルが追いついてない。
おまけに俺にはやっぱり「手を出すな」ときたもんだ。
しかもこいつ、アイテムすらなにも買ってないだろ。無謀にもほどがある。
「おい。お前……なんでそんなに焦ってんだ?」
「……」
アマノは答えない。
ゲームに慣れてないとか、そんな次元の話じゃない。アマノは異様なほど焦り、早くゲームを進めようとしている。そのせいでこんな無茶ばかりしてるんだ。
「早く進めなきゃいけない理由でもあんのかよ?」
「……あんたには関係ない」
ですよねー。
じゃねぇよ。この野郎……意地はってる場合かよ。
間違いなく。あのままじゃアマノは死ぬ。
「……」
もう放っておきたいところだが、そうもいかない。アマノがいないと俺は現世界に帰れないんだ。
洞窟の中を進んでたら、少し大きな広間に出た。道が無数に分かれてる。その一つ一つの通路には、それぞれ色の違う炎が壁になって道を塞いでいた。
「なによこれ!? 通れないじゃないの!」
「ちげぇよ。そもそも俺らは試練を受けに来たんだぞ? こっからが試練だ」
こいつ、本当に人の話聞いてないよな。村長が言ってただろうが、試練に望む者によって試練が変わるって。
「……」
じっと、何も言わずにアマノが俺を睨んでいる。怖いからやめろ。その目。
「この世界には【色魔法】っていう魔法があるんだよ。赤色。青色。緑色。黄色。白色。黒色。それぞれが色に系統されて、属性の違う魔法だ。色の儀っていうのは、自分の特性色を学ぶための儀式だ」
「……特性色?」
「自分の一番得意な色ってことだ。その系統色の魔法を使うと威力が1.5倍になる」
それぞれの通路にある炎はその基本六色の魔法を示してるんだ。
つまり、この通路の中から自分の特性色の通路が通行可能になる。その通路を進んで、特性色を学ぶための試練をクリアするのが色の儀だ。
「……あんた、なんでそんなに詳しいの」
「気にするな」
「……そうね。どうでもいいわ」
「おいコラ」
だからもっとツッコめっての。
やがて一つの通路にある炎が揺らめき始めた。その色は青色。炎は小さくなっていき、完全に消えた。
「ほれ。進めるぞ。お前の特性色は青色だ」
「……」
横目で俺を睨みながら、アマノは炎が消えた青色の通路に歩いて行った。
つーか、今の横目の睨み、怖いから。
ミ☆
青い岩で、少しだけ人工的な造りをしている通路をひたすらに進むこと、かなり時間が経った。
途中、蝙蝠やら蛇やらのモンスターに襲われたけど……まぁそこはアマノがまた「手を出すな」って言って俺はみーてーるーだーけー。
モンスターが落とした傷薬を体に塗りながら(俺が促したらしぶしぶ使った)、アマノは足を止めることなく歩く。
【アマノ】 職・初心者
Lv3
力 56
体力 1
素早さ 1
知力 1
技 6
武器 スモールソード 攻撃力5
防具 厚めの戦闘服 防御力3
装飾品 木の腕輪 防御力+2
あ、何気にレベル3に上がってたんだな。装飾品もいつの間にか拾ってやがる。ちゃんと技にも振ってるじゃねぇか。
それでもまだ力不足だけどな。この洞窟のモンスターをまともに相手できないし。
「……お前さ。なんでこのゲームに参加しようって思ったの?」
「……」
ナイスシカト。でも俺はめげない。今度はさらに質問をする。
「お前みたいなゲームに慣れてない奴が、わざわざ参加してるってことは……別にゲームクリアが目的じゃないだろ? つーかできないだろ?」
アマノの足が初めて止まった。振り返り、俺をじっと睨んでくる。
「……うるさい」
「クリアが目的じゃないなら。なんでそんなに急いでるんだ? 別にもっとのんびりゆったりやればいいだろ? それじゃお前本当に――」
「のんびりなんてしてられない!」
アマノの声がまた感情的になった。さっきと同じだ。
こいつの地雷はどこにあるんだ? 俺はなんかこいつの気に障ることを言ったか?
「……なんでのんびりしてられないんだよ」
「……お姉ちゃんが、一年前からこっちの世界で行方不明になってる」
アマノの目が少し潤んでるように見えた。けど、すぐに俺から目線を逸らしたからわからない。
「一緒にこっちで冒険してた人に聞いても、知らない、わからない、それしか言わない。そんな訳ある? 一緒に冒険してたのに! お姉ちゃんを探してって言っても全然探してくれないし! 他人は信用できない……だから私がお姉ちゃんを見つけるの! 邪魔しないでよ!」
アマノは走って洞窟の奥へと行ってしまった。
なるほど。こいつの地雷はそれだったか。
私は助けなんかいらない。他人は信用できない。そういやそんなこと言ってたな。
身内がこっちの世界で行方不明。それで探すためにゲームに参加した。
クリアが目的じゃなくて、人探しが目的。
「……まいったな」
なんでそんなに似てるんだよ。
昔の俺と。
ミ☆
洞窟の最深部に到着した。さっきの広間と同じぐらいの大きさで、祭壇がある場所だ。
祭壇には青い玉が置かれている。それ以外は別に変ったところはない。モンスターもいないしな。
「……あれを取ればいいの?」
「あれを取ると、お前の特性色が解放される。一つだけ、その色の魔法が使えるようになるぞ。でも……取る前にちょっと休んだほうがいい。その玉を取ると……って、おい」
俺に意見を求めたかと思ったら、指示を無視して、アマノは祭壇にある青い玉に手を伸ばしていた。
あーあ。知らねぇぞ。その玉を取るとだな……。
「……!?」
青い玉を取ると、玉が水のように溶けて消えてしまう。そしてアマノの体が青い光に包まれた。
【アマノは青色魔法・ウォタルを覚えた】
メッセージウィンドウの文字が表示された。その直後だった。
地震のような振動が広間を揺らす。そして祭壇の奥にあった壁が砕かれた。
覚えておけ。RPGではな。こういうアイテムを取った後は、
『グギャァァァァ!』
ボス戦なんだよ。
【試練の竜・青色 ブルードラゴン出現】
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『おまけショートチャット』
「このダンジョンは、レベル5ぐらいないときついと思うぞ」
「……2だろうと5だろうと、そんなの誤差でしょうが」
「いや。初期はレベル一つで戦闘効率の差が段違いなんだけど」
「二本指を折られようと、五本指を折られようと、もう指が折れてるんだから変わんないでしょ。それと同じよ」
「え? なにその例え。怖い」