ゲーム世界に三年居た俺は生徒会長に告白されました③
首都で開催されてる闘技大会か……。
その賞品にされてるのが、珍しい種族の奴隷。マムの姉も、その一人ってことだ。
「……姉ちゃんが連れて行かれたのは、どのぐらい前の話だ?」
「えっと……三日ぐらい前……」
三日か……闘技大会がどのぐらいの頻度で開かれてるのかしらないけど、早くしないと、賞品で誰かの所有奴隷にされちまう可能性がある。そうなったら、見つけるのが難しくなる。
「お願い……お姉ちゃんを助けて……私にはもうお姉ちゃんしかいないのぉ……」
泣きじゃくるマム。サニーが頭を撫でて落ち着かせようとするけど、涙は止まらない。
「……ヒロユキ。あんたが止めても、私は行くからね」
「わかってるよ。さすがに、ここまでお願いされて、目の前の人間だけ助けるのはとか言わない」
これが今回のクエストみたいだし。まぁクエストだから助けるわけじゃないけど。子供にここまで泣かれてお願いされて無視する奴は、クズ野郎だ。
「……今回のクエストも、神器が絡んでいるのだろうか?」
「それは行ってみないとわからないな。ゴルディオのバックには国王が居る。神器が絡んでてもおかしくはないな」
とにかく、首都まで行ってみるしかない。なるべく急がないとな。
ここから首都に行くには、【海底大青洞】を通って行かないといけない。そんなに長いダンジョンじゃない。攻略に時間はかからないはずだ。
「今から海底大青洞を通って行けば、陽が落ちる前に首都まで行けるだろ。そうしたら状況を確認してみよう」
「ヒロユキは、転移魔法を使えないのか?」
「使えるけど、転移魔法は事前に登録した場所にしか飛べない。俺の登録はとっくにリセットされちまってる」
無色魔法の中でも、使える職が少ない転移魔法【テンワプ(空間転移)】。フィリアにやられた魔法だ。俺も使えるけど、俺が前に登録してた場所は、時間経過でとっくにリセットされてる。だから正直言って、今の所は使い物にならない。
「さっさと行くわよ。これ以上、マムちゃんを泣かせるわけにはいかないわ」
幼女のためとなると、こいつはやる気が違うな。まぁやる気があるのは悪いことじゃないけど。
「ヒロユキ様。私も着いて行っていい?」
「え?」
「駄目」
俺が答える前に、アマノが即答してた。
「なんで虎上院さんが決めるの?」
「私がリーダーだからです」
「じゃあ私は勝手にヒロユキ様に着いていく! それなら虎上院さんの許可はいらないよね?」
「屁理屈も大概にしてください」
「屁理屈も理屈だよ?」
「とにかく駄目です!」
まーた言い争いが始まった。そんな無駄な時間を使ってる場合じゃないんだぞ。
「まぁ、ハスの好きにしていいよ」
「やったぁ!」
「ちょっとヒロユキ!」
「ハスはそれなりのレベルだ。邪魔にはならないと思うぞ。一人で置いていくのも危ないし」
それに、駄目って言っても、勝手に着いて来るだろ。だったら、俺たちと一緒のほうが危険がない。海底大青洞はそんなに高レベルダンジョンじゃないけど、一人だと数で潰される可能性もある。
「私のこと心配してくれるんだ。ヒロユキ様優しい~~~♥。 キスしてもいい?」
「駄目です!」
「虎上院さんには関係ないじゃないの!」
「関係あります! 今はそれどころじゃないので、永久に後にしてくれますか?」
仲良くしてくれないかなぁ。打ち解ける前のアマノとラナみたいだ。いや……あの時よりもバチバチ感が高い。ラナは別にアマノに嫌悪感があったわけじゃないし。この二人は全力でお互い嫌悪感満々だ。
ため息をつきながら、昼飯の後片付けをして、東方向にある海底大青洞に向かった。
ミ☆
【海底大青洞】。
フィールドと同じで、青色属性のモンスターが多く生息するダンジョンだ。名前の通りに海底の中にある大空洞。天井全部が透明で海の中が丸見えになってる。水族館とかで水槽の中を通りながら魚を見る感じだ。仕組みはわからないけど、たぶん、クリアシールドみたいな魔力で構成されてると思う。主に、首都への通り道として使われてるから、それなりに人の手が加わって整備されてる。あちこちに休憩できる場所が設置されてるしな。
「サニー。マムのこと頼むぞ。二人のことは俺たちが守る」
「うん。わかったー」
サニーがマムの手をしっかりと握る。二人に危険が及ぶようなことは、俺がさせないけど。まぁラナも居るし。
「……」
「……」
この犬猿の仲状態の二人は放置でいいだろ。雑魚モンスター相手なら、遅れを取ることもないだろうし。
「よし。行くか」
「珍しいなヒロユキ。最初から剣を抜くのか?」
確かに、ダンジョンの頭から俺がエクスキューショナーを抜くことはあんまり無いな。でもまぁ……今回は別だ。守る対象が増えたし。手抜きで動く意味がない。
「レベル上げが目的じゃないからな。俺も今回は働くぞ。それに……いちおう、ここにはボスモンスターが居るからな」
今回、一番の懸念はそれだな。時間経過で出現するボスモンスターがここには居る。
出会ったところで、倒すのは簡単だけど……あいつは面倒なスキルを使ってくる。前は俺一人だったからあんまり関係なかったけど、今回はパーティだ。パーティだと……大いに関係してくる。
「さっそく出てきたな」
半魚人の群れだ。その名の通り、顔が魚で体は人間みたいなモンスター。このダンジョンで主に出てくるモンスターでもある。
「さぁてと……じゃあ適当に蹴散らしながら――」
「エレカミヴォルト!」
「【スプラッシュシュート】!」
俺とラナが攻撃に移る前に、アマノとハスが同時にスキルを放つ。落雷が半魚人たちを感電させて、撃ち出された数本の矢が広がりながら、半魚人たちの体を貫いた。
「私が倒しました!」
「うぅん! 私が倒したんだよ!」
言い争いながら、アマノとハスは次々と現れる半魚人たちをなぎ倒していく。
……意外と息合って無い? あの二人。
「そういえば……私は銃士をあまり知らないが、弓も扱うんだな」
「銃士って言っても、元々は【射手】って職だったんだ。銃のほうが主流になっていったから、途中で銃士って名前に変わったけどな」
【スプラッシュシュート】は、銃士が弓を装備した状態で使えるスキルだ。数本の矢を同時に撃ち出して、敵全体を一度に攻撃できる。弓は銃に比べると威力は落ちるけど、スキルの数が多いんだ。だから今でも、銃よりも、弓を好んで使う銃士はそれなりに居る。
そういえば……ハスは弓道部で県大会に行ったとか晃が言ってたな。それを活かしての銃士か。
「私たちの出番はあまりなさそうだな」
「だな。サニーとマムの護衛に専念するか」
言い争いながら先行する二人にモンスターのことは任せて、俺とラナは後ろでサニーとマムを守ることにした。
ミ☆
ダンジョンに潜って、一時間ぐらい経ったかな。もう半分は超えてるはずだ。このまま行けば、予定通り、陽が落ちる前に首都に着けそうだ。
マムの体力を考えて、休憩場所で休憩してるときも……。
「ヒロユキ様~。はい。アーン♥」
「しないでください。新妻気分ですか? 残念でした。結婚はあなたの妄想ですから」
「妄想? こんなに愛し合ってる二人を見て、よくそんなことが言えるね~」
「愛し合ってないでしょ! いつ、ヒロユキがあなたを好きって言ったんですか!」
「言われなくてもわかるもんね。ヒロユキ様の愛が♥」
この二人は言い争ってるんだけど……。
戦闘ではなんだかんだ言って、意図せずとも息ぴったりだったのに、なんで口を開くとこんな感じになるのか。ていうかハス。アーンって……それさっき倒した半魚人の身だろ。刺身気分で食べさせようとしないでくれる?
「マムちゃん。疲れてないー?」
「うん。大丈夫だよ」
サニーとマムはすっかり仲良しだ。そこで言い争ってる二人とはえらい違いだ。こうして見ると……姉妹に見えるな。並んでチョコレートを食べる姿が微笑ましい。
本当はウインドランを使った方が速いんだけど、あれはパーティメンバーにしか効果が適当されないから、ハスとマムには適当されない。頑なに、アマノはハスにパーティ加入要請しないし。まぁ、海底の大空洞だけあって、足場がデコボコであんまり良くないから、速くなると言っても、そこまで差が出ないと考えてこのまま進んでる。
「……ヒロユキ。ゴルディオの噂、どこまで聞いている?」
「ん? 奴隷商法の総責任者。ブルーア国王をバックにつけて、やりたい放題のクズ野郎ってことしか知らないけど」
ゴルディオは奴隷の売買についての法律を確立させて、国中に広めたんだ。人間を売るって行為自体、他の国では考えられない。だからこそ、ゴルディオはそれに目をつけて、商売にしたんだ。種族によっては、金持ちが何百万ゴールドって金を出すからな。
「私も似たようなものだ。国王が居るから……誰も手だしできない。この状態を……なんとかできないものだろうか……」
「……」
国と結託しての奴隷商法だからな。堂々と町中で、人間を奴隷として売買してるこの国は……どうかしちまってる。もし、ゴルディオを潰したところで……それが終わるかどうかはわからない。
……終わらせるには、やっぱり…………。
「……!?」
魔力を感じて、立ち上がる。
やべぇ……面倒なことになったぞ。このでかい魔力は……ボスモンスタークラスの魔力だ……。
「どうした? ヒロユキ」
「ラナ! 周囲に警戒だ! どこで出現してくるかわからない!」
くそっ!? よりによって……丁度出現する時間かよ。しかもこの場所に! 出現するまでは、さすがの俺も手の出しようがない。
「アマノ! くだらない言い争いはいいから、サニーとマムを守れ!」
「くだらないってなによ!?」
「あはは! くだらないって言われてる~」
あんたも言い争いの一員だろ。って、そんなのどうでもいい! どこだ……どこに出てくる……海底大青洞のボスモンスター……【リヴァイアサン】!
「……げっ!?」
真下っ!? よりによってのさらによりによってっ!? 長い巨体が、徐々に姿を現してくる。完全に出現するまで、攻撃しても効果がない。俺が攻撃する前に、出現と同時に、真下から水の柱が噴き出してくる。いきなりの、俺が一番面倒だと思ってたスキルを使ってきやがった!
巨大な蛇のボスモンスター。姿的には竜とも言える、リヴァイアサン。そのスキルの一つに、【水柱】ってのがあるんだ。それを発動されると……パーティメンバーがランダムにダンジョン内に飛ばされちまうんだ。
「うわっ!?」
「うあっ!?」
「きゃあっ!?」
「ヒロユキ様っ!?」
次々と水柱に飛ばされる俺たち。レベルは関係ない。発動されれば、問答無用で飛ばされるスキルだ。パーティの分断。これ以上に、面倒なスキルはない。
「マムちゃん!?」
「きゃうっ!?」
飛ばされながらも、サニーがマムの手を握ろうとしたけど……。
その手は届かなかった。
ミ☆
「……!?」
目が覚めると、さっき居た所とは別の場所に飛ばされてた。
くっそ……どこだここは? ダンジョンのどのあたりに飛ばされた? それによっては、進行状況が大きく変わっちまう。
「……ラナ! サニー!」
俺の傍には、気絶してるラナとサニーの姿があった。二人とは同じところに飛ばされたみたいだな。
でも……アマノ。ハス。マムの姿は近くにはなかった。
ミ☆
「……最悪なんだけど」
「こっちの台詞だよ。ヒロユキ様と離れちゃうなんて……私の生きてる意味がぁ……」
そこまで? 相変わらず、頭の中がお花畑ね。本当にムカツクわ。この生徒会長。
よりによって……なんでこいつと同じ場所に飛ばされるわけ? あ~~~~もう! 最悪! 本当に最悪!
「……サニーお姉ちゃん」
まぁマムちゃんも同じ場所に飛ばされたのは良かったけど。一人で飛ばされちゃってたら、すごく危なかったし。
最悪だけど……そんなことばっかり言ってられないわ。早く、ヒロユキたちと合流しなきゃ。
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『おまけショートチャット』
「ラナ。サニー。とりあえず、赤色魔法で服を乾かそう。風邪ひくからな。特にラナは鎧外したら早急に」
「わかったー」
「……? なぜ、私は早急になんだ?」
「……鎧を外すと、濡れてるから下着が透けて見えるんだよ」
「私は気にしない」
「気にしてください。女の子なんだから」




