ゲーム世界に三年居た俺は水着イベンドフラグが立ちました⑤
スイカ割り。ビーチバレー。砂に埋められる。ナンパ野郎どもを、瞳姉とラナが撃退。もちろん、泳ぎの特訓もした(とくに天乃)。浅瀬で波に揺られてゆったりもした。
定番の遊びをやりまくって、気が付けば夕方。さすがにくたびれた……。
「綺麗だねー」
「サンセットの夕日には劣るけどな」
夕日が海を照らして、なかなかに絵になってる光景。夕方で気温も下がってきて、心地良い風が吹いてて……シャワーを浴びた後の体には気持ち良い。
「ラナさん。夕日の海をバックに一枚撮ってもいいですか?」
「……? 私だけでいいのか?」
「むしろ。ラナさんでお願いします!」
晃……いくらラナが二次元から出てきたような設定の女子だからって。あんまりガツガツするんじゃないぞ? ラナは天然だから、お前の煩悩に気が付かないんだから。
瞳姉とカンナさんが、いろいろ海の家で借りた物を返しに行ってる間……今日と言う日を噛み締めていた。
……こんな気分は久しぶりだな。ゲーム世界から帰ってきてから、無気力で生きてたからなぁ……遊びでこんなに楽しかったのは、何年ぶりだろうな。
「……」
そう考えると、天乃にゲーム世界でパーティを組もうと言われたことは、俺にとっても……転機だったのかもしれない。
少しは感謝してもいいのかも。
「……なにジロジロ見てんのよ? 視線が気持ち悪い」
……前言撤回。絶対に感謝してやらねぇ。
「……次にゲーム世界に行ったら、とりあえずレベル上げるからな。上級職に転職すれば、使える魔法も増えるし、装備できる物も増える。ホワイトシロンはモンスターのレベルが高いからな。それまでに転職するぞ」
「私はなにに転職できるのよ?」
「マジックユーザーは基本的には【マジックマスター】になるのが一般的。剣士と槍士もレベル60まで上げれば、魔法剣士と魔法槍士になれるけど……天乃はマジックマスターが合ってる。最初みたいに、突っ込まれても困るしな」
ゲーム世界に来たばっかりの天乃は……見てられなかったからな。なにも考えずに、とにかくモンスターに突っ込んでいく。あのままクエスト進めてたら……どうなってたんだか。
「私も上級職になるのー?」
「サニーは【クレリック】だな。サポート系の魔法も増えるし、なによりヒールの回復性能が上がる。段違いの性能になるぞ」
二人が上級職になれば、俺を別に考えても、パーティの戦力としてはだいぶ硬くなる。前衛。後衛。サポート。バランスも良いし。
まぁ贅沢を言えば……もう一人、中衛の銃士系が居ればもっといいけど。
「お待たせ。返してきたわ」
瞳姉とカンナさんが戻ってきた。さぁて……そろそろお開きの時間か。充分遊んだし。夏休みは始まったばっかりなのに、すでに充実感に満ちてる。
「先生。最後にみんなで写真を撮りませんか?」
「あら。いいわね~」
晃の提案で、夕日をバックに、全員で記念写真を撮ることにした。
「タイマーをセットするから。みんな並んでてください。浩之。君の隣は僕の物だよ?」
「気持ち悪いこと言ってないで。早くしろ」
俺たちの関係が、いつまで続くのかわからないけど。
「みんな~。はい! チーズ!」
できればずっとこのままで居たい。そう思った。
ミ☆
「楽しかったわ~~~。なんか若くなったみたい」
「……瞳姉もまだ二十前半でしょ」
「十代と二十代じゃえらい違いなのよ」
帰りの車の中。助手席から後ろの席を除くと……小型ゲーム機でギャルゲーをやってる晃以外、全員が眠っていた。疲れたんだろうな。
「……ありがとうね。瞳姉」
「なによ? いきなり」
「良い気分転換になったから。サニーも元気になったみたいだし」
「まぁ、みんなが居なければ、私も海に行こうなんて言わなかったしね。みんな本当に良い子ばっかりだし」
確かに、天乃たちが居なければ、こんなイベントは発生しなかっただろうな。天乃が良い子かどうかは置いておいて。
「でも……サニーちゃんたちはゲーム世界の子なのよね?」
「……? うん。それがどうかした?」
「……そもそも、ゲーム世界をクリアしようとしてるのって、ゲーム世界の存在が消えるかもしれないからって話じゃなかった?」
「……」
世界の政府がコントローラーを量産して、ゲーム世界にプレイヤーを送ってる目的。
それは……ゲーム世界のクリアだ。現世界は、ゲーム世界にどんどん存在を食われてるから、ゲームをクリアすれば……ゲーム世界が消滅して、現世界は助かるんじゃないかって予想をして。
「だとしたら……誰かがゲームをクリアしたら……ゲーム世界の人達はどうなっちゃうのかしらね?」
瞳姉の言うことは……確かに最もだった。
ゲーム世界をクリアして、仮に……ゲーム世界が消えるんだとしたら……。
サニー。ラナ。カンナさん。ゲーム世界の人達はどうなっちまうんだ?
ゲーム世界の人達だって、俺たちとなにも変わらない人間なのに。
「……まぁ、それも勝手な予想だし。本当にゲーム世界が消えるかなんてわからないしね」
「ふ~ん?」
魔王が倒されたら、ゲームクリアになる。
魔王が倒される心配は……今の所はなさそうだけど。
これは……いくら俺が魔王を余裕で倒せるとしても、なにも考えずに倒すわけにはいかなくなったな。
ミ☆
「……」
寝る前の時間。俺は……さっき瞳姉と話したことを、もう一度考えていた。
ゲーム世界が消える……それを、今までなんとも思ってなかったけど。
それは……サニーたちにとって、帰る世界が消えるってことなんだ。帰るべき世界が消えたら……サニーたちだってどうなるかわからない。
仮にそれで現世界が助かったとしても、それは本当の意味で……ハッピーエンドと言えるのか?
まぁ……ゲームをクリアして、ゲーム世界が消えるかどうかも、まだわからないんだけどさ。確信もなく、ゲームクリアをするわけにはいかなくなってきたぞ。
俺たちの目的は、あくまで探し物だけど……クエストを進めて行けば、もちろんゲームクリアに近づいていくってことだ。
……うぅん。
まぁ、今考えても仕方ないか。とりあえず……魔王がすぐに倒されることは無いだろうし。現世界もすぐに存在を食われちまうわけじゃないし。時間はあるはずだ。
……場合によっては、考えないといけないかも。
現世界と、ゲーム世界の両方を救う方法を。
「……ねみぃ」
思考を使ったら眠くなってきた。疲れたし……今日はもう寝るか。明日からまた、ゲーム世界に行くわけだしな。
「ん?」
部屋の扉がノックされた。誰だ? もうそれなりに遅い時間だぞ。
扉を開けると……。
「……サニー?」
「よかったー。まだ起きてたねー」
パジャマ姿で、いつものツインテールを解いたラフスタイルのサニーが立っていた。なぜか、枕を両手で抱えてる。こんな時間にどうしたんだ?
「どうした? 子供は寝る時間だぞ。今日は疲れただろうし、早く寝ないと明日に響くぞ?」
「……えぇっとね。約束……したよね?」
……約束?
なんのことだ? サニーとなんか約束したっけ? したとしても、こんな時間に果たすような約束なの?
「……一緒に寝てくれるって」
「……あ」
……した。クロックに行く船の中で、確かにそんな約束をした。
今度は俺一人で一緒に寝てやるから、って。
えぇっと……俺的にはいいんだけどね……ちょっと、それを実行するには……怖い奴がいるんだけど……。
「……天乃はなんて言ってた?」
いつもは天乃がサニーと一緒に寝てる。その約束をしたときも……あいつは殺すって言ってたんだぞ。後が怖い。
「アマノンにも言ってあるよー。お願いしたら許してくれたんだー。一言……『手を出したらマジで殺す』って伝言を頼まれたよー」
歯を食いしばりながら、泣く泣く許可してる天乃の顔が目に浮かぶ。手を出したらってなんだよ。子供に変なことするわけないだろうが。どんだけ信用されてないんだよ俺は。
まぁいっか。天乃の許可が出てるんだったら、俺には断る理由はない。
「よし。じゃあ一緒に寝るか」
「うん!」
丁度俺も寝るところだったし。
ベッドの上を軽く整えて、サニーを呼ぶ。ピョンとベッドに飛び乗ったサニーは、俺の枕の隣に、自分の枕を並べる。
「アマノンとも、毎日こうやって寝てるんだー」
「……天乃に変なことされてないか?」
むしろ、俺の方が心配になる。
「……? うん。ぎゅっとされながら寝てるだけだよー」
抱き付くだけで満足してるらしい。なら大丈夫か。
サニーが枕にうつ伏せで倒れ込むと、すでに少しウトウトしてる。眠いのに、天乃に頼み込んだんだろうな。俺と寝ることを。そう考えると……俺も嬉しくなる。変な意味じゃなくて。純粋に、好かれてることが。
「よっと」
俺もベッドに入って、掛布団をサニーにかけてやりながら横になる。あぁ……体がすごく喜んでる。横になるって素晴らしい。なんだかんだ言って、人間、寝るときが一番幸せだよなぁ。
「えへへー」
俺の腕にぎゅっとしがみ付いてくるサニー。満面の笑みで。
……天乃。お前の気持ちが今……少しわかったぞ。
なに? この思わず愛でたくなる可愛い生き物は?
「寝るまでお話しようよー」
「早く寝ないと明日に……まぁいっか」
たまには、こんな夜更かしもいいだろ。
眠気で意識が途切れるまで、俺とサニーはいろいろなことを話しながら、眠りについた。
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『おまけショートチャット』
「晃。ラナの写真撮りすぎじゃね?」
「今度、女剣士のコスプレしてもらってもいいかな……?」
「……コスプレってか、本物の女剣士だけどな」
「仕入れてくるよ! だから浩之! ラナさんに頼んでおいて!」
「俺が頼むのかよっ!?」




