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ゲーム世界に三年居た俺は水着イベントフラグが立ちました④

 サニーはどこに行ったんだ!? 波打ち際のほうには見当たらない。まさか……!?


「ヒロユキ! あそこだ!」


 ラナが叫びながら指さす。サニーは……居た! 沖の方に流されてる! やばいぞ。あんな所だと、サニーは足が届かない! なんとか顔を海面に出そうと、必死にもがいてる。


「サニー! 今行くからね!」


 天乃がバシャバシャと水をかきながら、サニーの所まで向かう。やっとサニーの所までたどり着いたときには……天乃でも、ほとんど足が届かないような深さになってたみたいだ。サニーの体を抱きかかえたはいいが、天乃も苦しそうにもがいてる。


 ……ていうか、サニーの所に行くまで、泳いで行ったほうが早いにも関わらず、天乃は泳いでなかったよな? そういえば……天乃が泳いでるのを、今日一度も見てない。


 ……まさか。


「天乃! お前まさか泳げないんじゃ……!」


 俺の予想は的中していた。サニーを抱えてこっちに泳いでくる様子はなく、ただただ、もがいてるだけだった。ダブルでやばいじゃねぇか! こんな所で見てる場合じゃない!


「ラナ! カンナさんの所で待っててくれ!」

「わ、わかった」


 ラナを波打ち際まで避難させて、俺は泳いで天乃たちの所まで向かった。うおっ!? 深っ! ちょっと奥に行っただけで、こんなに深くなるのかよ!


「天乃! お前、泳げないならそう言っとけよな!」

「あぷっ!? お、泳げるなんて誰が言ったのよ!」


 それはそうだけどさ。偉そうに言うんじゃないよ!


「とにかくサニーは俺に掴まれ! 浅い所まで行くぞ!」

「ユッキー! 足が着かないよぉ!」


 サニーは若干のパニック。半泣きで俺に抱き付いてきた。サニーぐらいなら、抱き付かれたままでもなんとか泳げるか……?


 でも、そんな考えは甘かった。


「ぐえっ!?」


 天乃まで、俺に抱き付いてきた。


 まてまてっ! サニーを受け取れば、天乃は一人でも大丈夫だって計算だったのに。これじゃさすがに俺もきつくなるぞ!


「ちょっ……天乃はギリギリ足が着くだろ!?」

「足が……攣っちゃった……」


 なんでこのタイミングでっ!? 準備体操をしないからそういうことになるんだぞ!


 やばい……さすがに二人抱えて泳ぐのは……俺は一般的な高校生並みなんだぞ。身体能力が。


 ……くそっ! こうなりゃ俺の秘めたるパワーを開放してやる!!!(そんなものはない)


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 天乃とサニーにしがみつかれながら、全力で水をかく。死ぬ思いで(いやマジで)、なんとか浅瀬まで戻った。ここなら……サニーも足が着くだろ……。


「ぜぇ……ぜぇ……サニー……怪我とかしてないか?」

「うん……私は大丈夫だけど、ユッキー……大丈夫?」


 あんまり大丈夫じゃないです。呼吸困難でフラフラです。少し休まないと、今度は俺が溺れる。


「……天乃。もう余裕で足が着くぞ。まだ足攣ってんのか?」


 天乃が、俺から離れようとしない。いつまで抱き付いてるんだよ? 必死だったからそんなこと考えてられなかったけど、今更恥ずかしくなってきたぞ。


「……」

「……」

「……」

「……俺の話聞いてる?」


 天乃が、俺にぴったりと体をくっつけたまま、マジで離れない。おいコラ……いくら大きくないとはいえ、そんなにガッツリとくっつけられると、柔らかさがダイレクトに伝わってくるんだよ。小さいけど、意外と柔らかい感覚がよ。


 ていうかこいつ。なんでこんなに顔赤くなってるの? 足が攣って恥ずかしかったのか?


「……ぎ」

「あ?」

「……上の水着……流されちゃった……」

「……」


 ウエノミズギ? それって……ブラのことですか……?


 …………………。


 え? ちょっとまって……じゃあさっきから俺の腕に感じてるこの柔らかい感触って……文字通り……ダイレクト……。


「ぶぐっ!?」

「ちょ、ちょっと! 離れないでよ! 周りに見られちゃうじゃないのよ!」


 離れないでよじゃないよ!? より密着してくるんじゃないよ!? 鼻の奥が熱い……やばい……鼻血が……。


「浩之。天乃ちゃんどうしたのよ?」

「ひ、瞳姉!! 緊急事態!! 緊急クエスト!! 天乃の水着を探せが発生した!!」

「大声で言わないでよ!?」


 その後、瞳姉が水着を見つけてくるまで、俺は天乃に引っ付かれてた。





ミ☆





「……」


 どっと疲れて、俺はパラソルの下でぐったり倒れる。

 貧血……けっきょく鼻血が出て、ただいま鼻栓中。あぁ……日陰……最高……。


「浩之。生きてんの? 若いくせに、このぐらいでへばってるんじゃないわよ」


 若さ関係ない。むしろ、若いからこその耐性の無さです。


「まぁいっか。そろそろお昼ご飯買ってくるわ。あっちでいろいろ売ってるみたいだから」

「買い出しなら手伝おう。ヒトミさん」

「あ。私も行きます」

「男手が必要だと思うので、僕も行きますよ」


 瞳姉。ラナ。カンナさん。晃が、海の家の周りで展開されてる出店に、昼飯の買い出しに行った。晃は上手いこと言って、くっ付いていきたかっただけだろうけど。


 ……とりあえず、横で膝抱えて顔真っ赤にしてるこいつをなんとかしてくれないか?


「……言っておくけど。さっきのは不可抗力だぞ? むしろくっ付いてきたのはお前だ」

「わかってるわよ。思い出させるんじゃない。砂に体を埋められて太陽光で干からびて死ね」


 めちゃくちゃご立腹じゃねぇか。しばらく放っておこう。


「ユッキー。大丈夫?」

「サニーが撫で撫でしてくれたら元気になるかも」

「……」

「いや。冗談ですよ?」


 サニーが黙り込んだから、慌てて撤回する。冗談だったんだけど、伝わらなかった? と思ったら……違った。


 サニーが見ていたのは……浜辺を楽しそうに歩く、母親と女の子。元気になってきてたサニーだったけど、また……寂しそうな表情になる。


 ……七歳だもんな。まだまだ、母親に甘えたい年頃だ。


 ………………。


 サニーを元気づける方法をずっと考えてたけど。


 こういうとき、変に考えすぎない方がいいのかもしれない。俺が……俺の思うことを……伝えればそれでいいんじゃないか? そう思った。


「サニー」

「……なにー?」


 少し恥ずかしいから、寝ころんだまま、サニーの顔を見ないまま、言葉を伝える。


「……サニーには、今……俺たちが居る。でも、母親ってのはやっぱり、特別なんだ。それはわかる。俺も小さい頃に親が死んじまってるからな」

「……」

「……王家の宝は、俺が見つけてやる」

「え?」


 見つかるかどうかわからない。サニーがパーティに入ったとき、そんなことを言ってたけど。


「サニーのお母さんは、俺が生き返らせてやる。だから……もうそんな顔すんな」


 絶対に見つけてやる。


 俺はいつの間にか、そう決心していた。


 王家の宝が、神器の一つなら……クエストを進めて行けば、絶対に見つけられる。


 それでサニーが笑顔になってくれるなら。


「……うん! ユッキーを信じてるよー」


 いくらでも大口をたたいてやる。


 そしてたたいた以上は、実現してやる。


「任せろ。俺はゲーム世界では最強だからな」

「こっちの世界では雑魚だけどね」

「良い場面で横槍入れるんじゃねぇよ」

「二人は仲良しだねー」

「「仲良くない!!」」


 うおっ……起き上がった反動で鼻栓が……くそっ! 鼻血がまた……。


「……お前のせいでこうなってるんだ。責任取れよ」

「もっと悪化させてあげましょうか?」

「え? またくっ付ける気か?」

「顔面にグーパンよ」


 止め刺す気か。


 鼻栓を付け直して、また寝っ転がる。しばらく安静にしないと……午後から動けなくなる。せっかく海に来たのに、それは嫌だ。


 ……王家の宝、か。


 けっきょく、神器がなんなのか、はっきりしないままだったな。神器を集める目的は、神に関係するなにか。俺はそう睨んでるけど。


 神器を探しに行ったミソラさんが、現世界に戻ってこなかったってのもあるし、俺が昔進めてたクエストとは、難易度が全然違う。出てくる敵も、俺が居なかったら無理ゲーレベルだし。


 ……何気に、四角と二連戦してるしな。何千何万人って数のプレイヤーが居るんだぞ? なんで俺たちのパーティが、魔王直属の部下と二連戦なんだよ。確率的におかしくね?


 ……そろそろ、本格的に天乃とサニーを上級職にしないと、これから先の敵相手に、戦えないかもしれない。俺が全部倒せばいいんだけど。自分でもある程度は戦えたほうがいいに決まってる。今、ブルーアに居るし……レベル上げには丁度いい。次のクエストが始まる前に、レベルを上げるか。


「お待たせしました」


 カンナさんが先に戻ってきた。焼きそばとたこ焼きを持って、パタパタと走ってくる。


「きゃあっ!?」


 あ。転んだ。


 って、やべぇ!? 焼きそばとたこ焼きがっ!!


「おっとっとっ!?」


 なんとか二つともキャッチ。俺の反射神経も捨てたもんじゃない。パックに入って無かったら中身ぶちまけて大変なことになってたけど。


「ご、ごめんなさい……」

「いや。大丈夫だけど。カンナさんこそ大丈夫? まだ全快じゃないでしょ」


 本当はもう少し行く日をずらそうと思ったんだけど、カンナさんが大丈夫だから気を使わないでくれって言ったんだ。むしろ……俺たちに気を使いすぎてるのはカンナさんだと思うけどな。


「いえ。ヒロユキさんにもらった薬が効いたので、もう大丈夫で……きゃあっ!?」


 あ。また転んだ。

 ていうかそのコースは……ちょっ……俺に激突するっ!?


「むぎゅっ!?」


 カンナさんが転んだ勢いのまま、俺に覆いかぶさってくるようにダイブしてきた。

 ……胸が顔面に当たってます。カンナさんってけっこうドジッ子? これ以上、俺にダメージ与えないでください。鼻血で失血死するから。


「ごめんなさいっ!! だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫よ。カンナさん。嬉しそうだから」

「嬉しそう?」


 否定はしないが、その冷めた目で見るのやめろ。


 ていうかさっきから俺、ラッキースケベが過ぎないか? ラブコメじゃないんだ。リアルでラッキースケベ連続発生は、なかなかに神経すり減るぞ。


「あうぅ……明日からみなさんのお世話をするのに、こんなことでは駄目ですね……もっとしっかりしないと! 私はみなさんよりお姉さんなんですから!」


 年上とは思えない、危なっかしさと可愛さがあるけどな。


 カンナさんはエルフだから、耳を見られると厄介なことになる。だから麦わら帽子と髪で隠してるんだけど。大丈夫かな? ただでさえ、容姿で(可愛いから)注目されてるから、ヒヤヒヤする。天乃。ラナ。瞳姉も周りの視線を集めてるし。ぶっちゃけ見てくる人の目はめちゃくちゃ多いんだ。


「カンナさん。メイドの話はよかったの? 嫌なら嫌って言ってくれていいよ」

「え? いえ……むしろありがたいお話ですよ? 身寄りのない私を……置いてくれるなんて……」


 まぁそうなんだけど……瞳姉は、カンナさんにメイド服着せたいだけだと思うけど。元々メイド服を着てたカンナさんには、何の抵抗もないんだろうな。本人が嫌じゃないなら、俺が口を出すことじゃないけど。実際、助かるし。


「みなさんは、また向こうの世界に行かれるのですよね?」

「うん。いろいろやることができたからね」

「私は……行っても邪魔になると思うので、お待ちしています。頑張ってくださいね」


 潜在魔力はなかなかのものだと思うけど、メイドさんだもんな……。戦闘に巻き込むのはやめたほうがいい。一緒に行くって言われても、断るつもりでいた。


 ……どうでもいいけど、カンナさんに笑顔で頑張ってと言われると、やる気出てくる。


「……鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ」

「伸ばしてない。カンナさんの笑顔と水着に見惚れてただけだ」

「それが伸ばしてるって言うのよ」

「お二人は、仲が良いですね」

「「良くないです!!!」」


 サニーといいカンナさんといい……どこをどう見たら仲良しに見えるの?


「浩之。青春してるね」

「すっげぇむかつく笑顔だな」


 飲み物を俺に手渡しながら、晃がすっげぇ笑顔。すっげぇむかつく。面白がってるだけじゃん。


「ヒロユキ。もう大丈夫なのか?」

「鼻血はまだ止まらないけど、腹減ったからとりあえず食う」


 ラナが追加の食べ物を大量に持ってきた。おぉ……海鮮焼きだ。めちゃくちゃ種類がある。豪華な昼飯になってきた。


「さぁ! みんな飲むわよ!」

「カンナさん以外未成年だし。ていうか瞳姉っ!? あんた運転あるから飲んじゃ駄目だよ!」

「ノンアルコールビールよ」


 なんだ……びっくりした。個人的にノンアル飲料って、アルコール入ってないなら飲む意味なくね? って思うけど。アルコールで酔うのがいいんじゃないの? 味が好きって人居るの? 経験が無いからわからないけど。


昼飯が出そろって、一息つくための昼食タイムが始まった。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『おまけショートチャット』


「まさか天乃が泳げないなんてな。頭が良いから勝手に運動神経も良いと思ってたけど、そういえばお前が運動で優れてるところは見たことねぇや」

「人間は魚じゃないんだから。泳ぐ必要皆無でしょ。意味ないでしょ」

「海に来ることを根本から否定するんじゃない。お前は海に何しに来たんだよ?」

「サニーの水着姿を見に」

「はっきり言い切ったな。おい」

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