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ゲーム世界に三年居た俺は水着イベントフラグが立ちました②

 夜になって、カンナさんが目を覚ました。


 俺は現世界で魔力を感知できないけど……カラーチェンジの魔力が、上手く消えてくれたみたいだな。まだ体力が戻ってないけど、軽い食事をとれるぐらいまで回復してる。


「……すいません。みなさんにご迷惑をかけてしまったみたいで」

「違うわよ。カンナさん。私たちがカンナさんを巻き込んじゃったの。ごめんなさい……」


 天乃の言う通りだ。結果的に、俺たちがカンナさんを巻き込んだ形になっちまった。謝らなきゃいけないのは俺たちだ。


「カンナさん。ありがとうございます。カンナさんが自力でカラーチェンジを解除しなかったら、黒の女王の思う壺だったし、助かりました」

「正直……あんまりよく覚えていないんですけど。黒の女王様に、みなさんのことをお願いしに行ったところから、記憶が曖昧で……」


 カラーチェンジの後遺症だろうな。記憶が混乱してるみたいだ。恥ずかしそうに、短い白髪を触って顔を伏せる。白髪に白目ってことは……もしかして……。


「カンナさんは、【ホワイトエルフ】なのか? 耳も尖っているようだが」

「……はい。そうです」


 ラナも俺と同じ疑問を持ったみたいだ。やっぱりな。髪に隠れてあんまり目立たないけど、耳が少し尖がってる。エルフ族の証拠だ。


「……ホワイトエルフってなによ?」

「ホワイトシロンの【白銀の森】で暮らしてるエルフ族だよ。ダークエルフとは違って、人間に友好的な種族だ」


 なるほどな。ホワイトエルフの潜在魔力は高い。カラーチェンジを自力で解けたのも、頷ける。カラーチェンジが完全に成功してなかったこともあると思うけど。


「……でも、なんでホワイトエルフがクロックに住んでたんですか?」

「いえ……あのその……」


 困ったように視線を外すカンナさん。あんまり言いたくないことだったのかな? だったら、悪いことを聞いた。

 ただ、ホワイトエルフは基本的に、森以外では暮らさない種族だから、珍しいなと思ったんだ。絶対ってわけじゃないけど。


「まぁとりあえず、明日になったらゲーム世界に送って行きますから」

「……みなさんのお話も、正直、まだ戸惑っているのですが……嘘ではないとわかります。ここが別の世界だってことも。色魔力を感じませんから」


 エルフ族は、俺のカラフルナイトみたいに、魔力感知に敏感なんだ。それだけで言えば、たぶん、俺よりも上だ。ゲーム世界では当たり前にある、大陸から感じる色魔力を感じられないことで、ここが別の世界だって信じたみたいだな。


「大丈夫です。すぐに帰れますから。家族も心配するでしょうしね。明日すぐにでも……」

「家族はいません」


 思わず「え?」と声が出てしまう。

 カンナさんは、少し寂しそうな顔で、精一杯の笑みを浮かべていた。


「私は……小さい頃に、クロックで両親に捨てられたんです。それからずっとクロックの孤児院で生活していました。孤児院を出てからは、お城のメイドの仕事に就いて生活していましたから……白銀の森のことを、あんまり覚えていないんですよね」


 おぉっと……俺、地雷を踏んじまった。


 カンナさんにそんな過去があったなんて。知らなかったじゃ済まないぞ。とりあえず、謝ろう。


「ごめんなさい!」

「土下座しなさいよ」

「なんでお前が偉そうに言うんだよ!」

「ふふっ……気にしないでください」


 今度はちゃんと笑ってくれたカンナさん。ほっと胸を撫で下ろす。笑うと可愛いな。見た感じ、俺より年上に見えるけど、エルフは寿命が人間より長くて、見た目が変わらないからな。何歳なんだろうな……。


「なので……正直、すぐに帰らないといけない理由はないんです。クロック城のメイドも……クビになってると思いますし」

「……」


 俺たちのせいでもある。罪悪感を感じちまうな……。


「それに、アマノさんに……ミソラさんのお話を聞きたいですし」

「え?」


 ミソラさんの話。それを聞いて、天乃がぱぁ~っと嬉しそうな顔になる。姉の話になると、わかりやすいよな。こいつ。


「うん! いっぱいお話したい! ゲーム世界でのお姉ちゃんのことも聞きたいし!」


 まぁ、別に俺たちにも、カンナさんをすぐにゲーム世界に帰さなきゃいけない理由はない。むしろ、現世界に居たほうが安全だとも言える。


 でも、ゲーム世界に戻らないとなると……やっぱり、流れ的には……。


「立ち聞きしちゃった。てへっ。だったら、うちにしばらくの間居ればいいんじゃないの?」


 立ち聞きしちゃったじゃねぇよ。てへっじゃねぇよ。いきなり入ってきてツッコミどころ満載だよ。


 やっぱり、その流れか……まぁ恩人を無下にできないから、俺は異論ないけど。


「その代わり……カンナちゃんだっけ? うちでメイドやらない?」


 なに言ってんの? この教師。

 ていうか……その手に持ってるのって……メイド服じゃ……。


「え? あの……」

「うちに置いてあげる代わりに、メイドさんとして家事をやってもらえると助かるな~と思って。うち、無駄に広いから、掃除が大変なのよね……私も普段は忙しいから、浩之の面倒見れないし」

「瞳姉。俺もう高校生」


 面倒見てもらうほど子供じゃないから。


「……いいんでしょうか?」

「むしろお願い!」

「……わかりました! 家事ならお任せください!」

「やったぁ! 可愛いメイドさんゲットォ!」


 それが本音か。


 まぁ別にいいけどさ。掃除が大変なのは事実だし。月一で瞳姉と大掃除してるけど、その度に引っ越そうかと思うぐらい大変なんだ。カンナさんがそれを担ってくれるなら、かなり助かる。


「フリフリのメイド服~~~カンナちゃん絶対似合うわねぇ……」

「……なんでそんなの持ってんの?」

「天乃ちゃんかラナちゃんに着せようと思って買っておいたの」

「「え?」」


 天乃とラナがびっくり仰天してるぞ。いつの間にそんな計画が進んでたんだよ。


 それにしても、瞳姉がここに居るってことは……サニーは今一人ってことか? 大丈夫かな……。


「瞳姉。サニーは?」

「……さっきよりは、私の言葉に反応してくれるようになったわね。時間が経てば元気になってくれると思うけど。時間がなによりの薬よ」


 確かに、瞳姉の言う通りだ。心の傷ってのはすぐに治るもんじゃない。時間が自然と回復してくれるのを待つってのも、一つの手だ。


「でも……それを促進するために! 海に行くんじゃないのよ!」


 ああ……そうえいばそうだったね。


 夏休みに入る前にも、天乃がサニーを連れて行きたいって言ってたし。海に行けば、サニーも元気になるかもしれない。


「新しい水着買わなきゃ……明日早速ショッピングモールに行くわよ!」

「先生! サニーの水着は私が選びます!」


 またこの展開? 俺、また荷物持ち確定じゃん。


 いやいやまてまて……水着を買うだけなら、そんなに荷物は多くないはず! この前みたいなことにはなるまい。


「ついでにカンナちゃんに似合いそうなメイド服を数着買おうかしらね? 他にも必要な物もあるだろうし」

「あの……私のことはお構いなく……」

「駄目よ! うちで働いてもらうからには、いろいろ揃えてあげなきゃ!」


 ああ……駄目だ……これはまた俺の腕が悲鳴をあげるフラグだ……。


「……ヒロユキ。みずぎ……とはなんだ?」

「あれ? ラナ知らないのか? ゲーム世界にも水着はあるだろ?」

「……海に入るときに、着る物なのか?」


 あんまりよくわかってないみたいだな。ゲーム世界にも、水着はあったはずだけど……ラナはあんまり海とかに遊びに行ってなさそうだし。知らないのも無理はないかも。


「……まぁ。明日嫌でも知ると思うから、俺からはあえて説明しない」

「……?」


 瞳姉の着せ替え人形にされるラナが目に浮かぶ。


 あんまり騒ぐとカンナさんの体に響く。俺たちも疲れてるし、今日は早めに寝ることにした。


 ……俺の場合、明日の荷物持ちに備えて。





ミ☆





 ショッピングモール開店と同時に、店内に駆け込む瞳姉と天乃。そんなに急がなくても、誰も取らないから。


「さぁてと……まずはスタンダートなのから見ようかしら。最近の水着はいろいろ種類があるのよねぇ~」

「先生。サニーにはやっぱり赤い水着が良くないですか?」

「逆に髪の赤色に対して白ってのもありだと思うわ。いろいろ着せてみましょう!」

「はい!」


 張り切りすぎて怖いよ。この二人。目がギラギラで不審すぎて、周りの視線が痛いよ。


「……やっぱり大きいねー」


 サニーがショッピングモールに来るのは二回目だ。それでも、やっぱり目新しい物が多いのか、キョロキョロと周りを見渡す。一日経ったことで、少し落ち着いたみたいだな。


「後でレストランで昼飯食べるか。好きな物食べて良いぞ」

「ユッキー。こっちの世界ではあんまりお金持ってないんじゃないのー?」

「……サニー。女の子に奢る分程度は持ってるから安心しろ」


 ゲーム世界みたいに莫大には無いけど、それなりにはあるから。デートに行って女の子に割り勘を迫るような男じゃないぞ。俺は。


「……うん! 楽しみにしてるねー」


 久々に見た、サニーの純粋な笑顔。なんだろう……すごく嬉しい。

 デザートにパフェも食べさせてやろう。気分が高揚していると、瞳姉と天乃がサニーを手招きした。


「サニーちゃん! まずはこれを!」

「着てみましょう!」


 興奮しすぎだ。そこの二人。そろそろ通報しますよ?


「うん。着てみるー」


 ああ……純粋な少女が、汚れた大人に遊ばれる。それがわかってるのに、俺は止められない。許せサニー。嫌だったら嫌って言っていいぞ。


「……カンナさん。大丈夫か?」

「はい。もうだいぶ良くなったので」


 カンナさんに気を使ったラナが、空いているベンチに座らせる。少しだけ、顔色が良くないように見えるな。まだ病み上がりだし。無理もないけど。

 本当は留守番してもらおうと思ってたけど、そうすると、誰か看病で残らなきゃいけない。そこで俺が看病を買って出たんだけど(荷物持ちから逃げられるから)、即却下。なんでやねん! そしたらカンナさんが、こっちの世界の店を見たいって言ったから、連れてきたんだけど……やっぱり、俺が残って看病するべきだったんじゃないか? 荷物持ちとかは別として。うん。別としてだよ?


「ツンデレ。幼女。女剣士。そしてエルフ……浩之。ギャルゲーの主人公でも目指してるの?」

「誰が目指すか」

「だって、ちょっとしたハーレム状態じゃないの。親友として羨ましいよ。このこの!」


 そしてなんで晃が居るんだよ。こいつ、この前ショッピングモールに来たときもばったり会ったし。狙ってね? 明らかに。


「浩之は自分の水着選ばないの?」

「本気出せば三分で選べる。ていうか、なんで女たちはあんなに水着にこだわるんだ?」


 そんなの適当でいいだろって、俺は思うんだけど。


「男へのアピールじゃないの? どうせなら可愛いと思われたいっていう女心だよ」

「……あの二人はそんなつもりじゃないぞ。絶対」


 天乃と瞳姉は、サニーの可愛い姿を愛でたいだけだぞ。


 大体……下着姿は恥ずかしいのに、なんで水着は恥ずかしくないんだ? 布面積的には同じじゃん。女って本当わからない。


「ラナちゃん! これ着てみて!」


 今度は、瞳姉がラナを呼んだ。着せ替え人形タイムの始まりだ。


「いや……私は……」

「ラナ。カンナさんは俺が見てるから。行って来いよ。瞳姉。このために来たようなもんだし」

「……わかった。頼んだぞ」


 むしろ、瞳姉に付き合ってもらってごめんなさいぐらいの気持ちだけど。


 それから二時間ぐらい。瞳姉たちの水着選びは終わらなかった。





ミ☆





「……」


 やっと水着選びが終わったと思ったら、今度はカンナさんのメイド服かよ。ていうか、メイド服って普通に売ってるんだ。知らなかった……。そもそも、メイド服って数着も居る?


「浩之。明日は何時集合?」

「知るか。瞳姉に聞け」

「デジカメ持って行ってもいい?」

「いいけど。余計なもん撮って捕まっても俺は知らないぞ」

「僕は二次元にしか興味ないよ」

「胸張って言うな。あと嘘つくな」


 三次元でも可愛い女の子にはそれなりに興味津々だろ。


 俺はこうやって晃に付き合うしかないこの時間……待つだけってのは、なによりも苦痛だな。ゲーセンでも行ってこようかな……くそっ。この荷物さえなければ!


「……賑やかですね。この世界は」


 カンナさんが、行き交う人を見て、ぽつりと呟く。

 賑やかって言うか……ごちゃごちゃしてるだけだけど。


「まぁそう言えなくもないですけど」

「……あの、気になってたんですけど」

「はい?」


 カンナさんが俺の顔をじっと見てきた。え? 気になってたって俺関連?


「なんで私には敬語なんですか?」

「え?」


 突拍子のないことを言われて、ちょっと戸惑う。


「だって年上ですし……」

「ラナさんも、ヒロユキさんより年上ですよね? なんで私だけ敬語なんですか?」


 う……痛い所を突かれた。


 確かに、ラナも俺より年上だけど……出会いが出会いだったから、初対面からため口だったからな。それが流れでって感じで……逆にカンナさんは、出会いから敬語で喋ってたから、その流れでって感じ。深い意味はないんだけど、カンナさんは気にしてたみたいだ。


「……駄目?」

「はい。駄目です。みなさんと同じように接してください。そうしないといじけちゃいますよ?」


 いじけちゃいますよって……可愛いこと言ってるなこの人。


 まぁそう言われるなら、俺としては、別に敬語に拘る必要はない。


「……わかったよ。カンナさん」

「はい。これで一歩、仲良くなれましたね」


 やべっ。ドキッとした。いちいち可愛くない? この人。


 顔が赤くなってるのを誤魔化したくて、瞳姉たちに目を向ける。


「さすがにカンナさんを着せ替え人形にするつもりはなさそうだけど……いつまで選んでるんだろうな……って、あれ?」


 瞳姉の所に、誰か居るぞ? 親し気に話してるけど……誰だ? あれ。俺たちと同い年ぐらいの……女の子? うちの学校の生徒かな?


「晃。あれは誰だ?」

「浩之……本気? うちの学校の生徒会長、朝比奈蓮さんだよ。三年C組。出席番号11番。弓道部所属で二年生から生徒会長に抜擢。得意な科目は国語で、期末テストは学年一位の秀才。スポーツ万能でまさに非の打ち所の無い才色兼備。スリーサイズは……」

「詳しすぎて怖いんだよ」


 こいつ。マジでストーカーじゃないだろうな? 二次元の話を現実に持ってきて事件を起こすんじゃないぞ。そうなったら交友関係を改める必要がある。


 ……あれ? 瞳姉が俺を手招きして呼んでる。えぇ……なんか面倒そう。でも呼ばれたからには無視できない。晃にカンナさんを任せて、瞳姉と生徒会長に駆け寄る。


「私の弟よ。親戚の、だけどね」

「……どーも初めまして。赤柳浩之です」


 生徒会長か……そういえば、終業式でなんか挨拶してた気がする。半分寝てたから記憶が曖昧だけど。周りの男子は、天乃が転校してきたときと同じような反応をしてた気がする。人気者なんだろうな。


 ストレートな青い髪。柔らかい印象の、青くて丸い瞳。整った顔立ち……偏見かもしれないけど、生徒会長ってだけあって、美人だな。俺のことを見て、笑顔で挨拶してくる。


「こんにちは。赤柳浩之君ですよね? 噂は聞いています」

「噂?」

「はい。サボり癖がすごいと」


 初対面で言うね。この人。事実だからぐうの音も出ないけど。

 生徒会長をするような真面目生徒と、サボり魔の俺とじゃ真逆だ。決して相容れない存在だと思う。オーラが眩しいよ。優等生オーラが。


「それに、最近は転校生の虎上院さんと仲が良いと聞きましたけど、お二人は付き合ってるんですか?」

「は?」


 いやいや。まぁ噂にはなってるかもしれないけど……俺と天乃はそんな素敵関係じゃ――。


「違いますからっ!!!! こいつとは全然なんでもありませんから!!!!」


 俺が否定する前に、サニーと別の売り場に居た天乃が、ダッシュで割って入って、真っ向から否定してきた。そこまで断固否定しなくてもいいじゃん。


「違うんですか? 毎日一緒に帰ってると聞きましたが」

「それはゲーム世界――っと……えぇっと、帰る方向が同じだけです!」


 ゲーム世界って言いかけて、踏みとどまった天乃。あんまり周りに言いふらすことじゃないからな。めっちゃ不自然だけど。どう見ても怪しいけど。


 でも、生徒会長はそんな天乃を怪しむことなく、むしろ……どこか嬉しそうに。


「そうですか。じゃあ私がもらってしまってもいいですか?」


 なんかとんでもないことを言ってきた。


「「……え?」」

「冗談ですよ」


 俺と天乃が合わせてきょとんとしてると、生徒会長は悪戯っ子みたいに笑って、瞳姉に挨拶をした。


「それじゃあ瞳先生。また夏期講習の日に」

「はぁい。またねー」


 何事もなかったかのように、生徒会長は笑顔で去って行った。


 ……あれ? 俺、からかわれた? 初対面なのに?


 なんだろう……なんか、あの人苦手かもしれない。





ミ☆





「……やっぱり、覚えてないか。【学校モード】で話しちゃったけど……先生も居たし」


 二年ぐらい前の話だもんね。しかも、一度会ったっきり……。


 でも、私は覚えてる。


 ゲーム世界で……私を助けてくれたときのことを。


 学校で始めて見たときはまさかと思ったけど……瞳先生の弟だったなんて。


「……近くで見ると……やっぱり……格好良いなぁ……」


 浩之様……私の……騎士様……………。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『おまけショートチャット』


「カンナさんって、何歳なんですか?」

「えっと……この間、二十歳になりました」

「あれ?」

「なによ?」

「いや……(エルフは見た目がある程度成長したら変わらなくなるから、もう少し年上かと思ってたら、案外普通だった)」

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