ゲーム世界に三年居た俺は美少女に罵倒されました④
俺の意識が覚醒すると……そこは。
「……」
和な草原。春の風とかが吹きそうな、どこからどう見ても和な。本当に和としか言いようがない、絵に描いたような草原。
【アカムレッド地方・プログナ草原】
「……はぁ」
来ちゃったよ。ゲーム世界。
俺は自分の格好を確認して、ため息をついた。
腰には小ぶりの片手剣。冒険者が着る為の分厚い生地で造られた戦闘服。RPGで良く見る格好だ。明らかにさっきまでの学校の制服とは違う。
「……初心者装備か」
俺は装備画面を開いた。
【ヒロユキ】
武器 スモールソード 攻撃力5
防具 厚めの戦闘服 防御力3
装飾品 なし
あぁ、ちなみに上に表示されてるのはプレイヤー名。現世界での名前をカタカナにしただけだけどな。
ここは最初の村の近くにある草原みたいだな。ゲーム世界の冒険はここから始まる。つまり、始まりの地ってわけだ。
とにかく、俺はここに飛ばされる元凶となった女を探した。
「おいコラ」
虎上院改め、プレイヤー名、アマノは俺のすぐ近くにいた。
「……なんであんたまでいるわけ?」
「コントローラーは半径五メートル以内にいる奴全員に効果がかかるんだよ。ちゃんと説明聞いとけ」
「……」
謝罪の言葉はなし。俺の顔をじっと見て、アマノは吐き捨てるように言った。
「じゃあさっさと戻れば?」
「戻るにはコントローラーを発動したお前が一緒じゃないと無理だ」
「……」
俺を無視して、アマノは草原を歩き始めた。
なるほど、戻る気はないってことですね。こんちくしょう。
アマノの装備は俺と同じ装備だ。ついでにステータス画面も確認してやれ。
【アマノ】 職・初心者
Lv2
力 56
体力 1
素早さ 1
知力 1
技 1
武器 スモールソード 攻撃力5
防具 厚めの戦闘服 防御力3
装飾品 なし
こいつ、レベル2じゃねぇか。始めたばっかじゃねぇか。
よく考えれば、俺と同じ所にいた時点でそうか。コントローラーを発動した人間に関係なく、本来はそれぞれ前回進めた場所に転移するはずだからな。
「おい。お前、次どこに行くとかわかってるの?」
「うっさいわね。近くの村に行くのよ」
いちいちうるさいって言わなきゃ、人と会話できねぇのかこいつ。
草原を抜けた先には小さな見張り台がある。あのさらに先にある村が最初の目的地だ。
……と、そんなこと言ってるうちに敵が出てきた。
アマノがスモールソードを構える。敵は小さな狼が二体だ。
あ、ちなみにゲーム世界では現世界での身体能力は全く関係ない。身体能力はレベルとステータスで全て決まる。つまりは普通のゲームと同じで、レベルが上がれば上がるほど強くなるわけだ。
アマノの攻撃。
ミス。
狼の攻撃。
アマノが体当たりで吹き飛ばされた。
アマノの攻撃。
ミス。
狼の攻撃。
アマノが体当たりで吹き飛ばされた。
……おいコラ待て。
「全然あたんねぇじゃねぇか!?」
「うっさい! あんたは手を出さないで!」
次の攻撃でやっとアマノのスモールソードが狼を切り裂いた。当たれば一撃。まぁそりゃ序盤も序盤。最序盤の敵だからな。
残り一体の狼も、アマノはミスを繰り返しながらも、なんとか……本当になんとか倒していた。
戦闘が終わり、アマノがその場に座り込んだ。おい。一回の戦闘でもうボロボロじゃねぇか。
「……お前、絶対ゲームとかやったことないだろ?」
「話しかけるな」
「ステポイント全部【力】に振っただろ? 【技】も上げないと攻撃あたんねぇぞ? 力を上げれば強くなると思ってるところがゲーム初心者っぽいんだよ」
【力】【体力】【素早さ】【知力】【技】。
力は攻撃力。体力は防御力。素早さは動きの速さ。知力は魔法能力。技は打撃攻撃とスキル攻撃の命中確率と魔法の詠唱速度。それぞれが関係してくる。
つまり、力だけに振ったって、攻撃が外れやすい。ちゃんと技にもそれなりに振って命中確率を上げないとな。
ゲーム開始時に50ポイント。そしてレベルが上がるごとに5ポイント。ステポイントはもらえる。それを上手く振るのが強さに繋がるわけだ。
「……」
余計なお世話だと言わんばかりに、アマノは俺を睨んでいる。
……なんで俺はあんな目で見られるんだ? 親切に助言してやってるのに。
やがてアマノは立ち上がり、【傷薬】を使う様子もなく歩き出した。傷薬は回復アイテムだ。あいつ……あのまま行く気か?
死ぬぞ。あいつマジで。
ミ☆
【アカムレッド地方・始まりの村プログナ】
ようやく村に着いた。
ちなみに俺は一回も戦闘していない。アマノに手を出すなって言われたからだ。
アマノはボロボロ。当たり前だ。力ばっかり高くて攻撃当たらないし、防御力低いからダメージガンガン食らうし。
「宿屋泊まったほうがいいんじゃね?」
「……」
ナイスシカト。
アマノは村の中をズンズンと歩いて行く。なんであんなに偉そうに歩けるんだ? レベル2のくせに。
俺は近くにいた村人に声をかけた。ゲーム世界とはいえ、普通の人間と変わらない。普通のゲームみたいに決められた台詞しか言えないなんてことはない。
「あの、村長の家って北西ですよね?」
「え? そうだけど……君も村長に用? 【色の儀】を受けに来たのかい?」
主婦らしい女性は、俺の格好を上から下まで観察して、ため息をついた。
「最近、そんな人ばっかりなのよねぇ。それこそ何千人……ううん。何万人って来てるかも。みんなそんなに魔王討伐の旅に出たいのかね?」
うん。現世界の何万何千人っていうゲーム廃人が来てますからね。
さて、村長の家に行くか。どうせアマノも行ったんだろ。あいつ、情報収集とかだけは上手そうだからな。
プログナは本当に和な村だ。畑仕事をしている農夫と、餌を夢中で食べてる家畜があちこちに見える。むしろそれしか見えない。他にはなにもない。
現代風に言えば、田舎だ。
まぁ俺はうるさい都会よりは、田舎のほうが好きだけど。
北西にある一際大きな家が村長の家だ。俺が中に入ろうとすると……アマノが飛び出してきた。一目散に村の出口へと走って行く。
「……」
あいつ。装備初期のままじゃん。あのまま試練に行くつもりか?
俺も中に入ると、禿げ頭のデフォルト容姿の村長がため息をついていた。そのため息は俺に、ではない。たぶん、突っ走って行ったあの女にだろう。
「ん? また色の儀を受けに来た旅人か?」
「あー……うん、まぁそうです」
あんまりやる気はしないが、とりあえずその方向で話を進めておこう。
「色の儀とは、村の東にある【色洞窟】の奥にある試練を受けることじゃ。どんな試練が待っているかは望む者で変わる。その試練を乗り越えれば、魔王討伐の旅に出る証を授ける。……簡単じゃがこれでわかるじゃろ? もう最近は色の儀を望む輩ばかりで説明し疲れてしもうたわい」
うん。すいませんね。現世界の輩が何万人と来てますから。同じ台詞を繰り返すってのを、リアルでやるとこうなるんだ。
「……ところで、さっき女が来てましたよね?」
俺は村長がため息をついた原因となるアマノのことを聞いた。
「ん? 知り合いか? あんな装備で色の儀に行くのは危険だからやめなさいと言ったのだが、聞かんで行ってしまったわい。もう少しレベルを上げて……この村で装備を整えればいいものを」
最初のダンジョンに挑む前に、最初の村周辺でレベルを上げて装備を整えるのはRPGの基本だ。
あいつ……やっぱりゲームやったことねぇな。そんなことも知らないなんて。
……それとも、なにか急がないといけない理由でもあるのか? なんかさっきの戦闘といい、あいつ……焦ってる気がするんだよな。
「おぬし、さっきの女子の知り合いなら止めに行ってくれんか? 若い命を無駄にするものではない」
「……まぁ俺も同じ装備ですけどね」
俺ならこの装備で突っ込むような無茶はしないけどな。
……仕方ねぇな。俺が現世界に帰るにはあいつも一緒に連れ帰らないといけない。死なれたら困る。
村長に挨拶をし、俺も色の洞窟へと向かった。
あ、その前に道具預け所に寄って行くか。
【クエスト 色の儀 開始】
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『おまけショートチャット』
「お前さ。コントローラーもらったとき、説明書とかもらわなかったの?」
「うっさい。黙れ」
「……もらったなら読んどけ。コントローラーは関係ない奴まで巻き込む可能性あるからな。見通しの良い場所で誰も居ないの確認してから使うのが基本だ。次から気を付けろ」
「うっさい。黙れ」
「……(これ。会話になってますか?)」




