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ゲーム世界に三年居た俺は性悪女王にケンカ売られました⑦

 夜になって、インビジルリアを使ってクロック城に侵入。見張りの門番が交代のタイミングを見計らって、開いた門から入った。


 ……なんか夜の城に侵入するって、二回目だな。


 夜の城を、兵士に見つからないように移動する。インビジルリアを使ってるから、普通にしてれば見つかる心配はないけど、警戒するに越したことは無い。


「……ていうか、神器のある場所の見当はついてるわけ?」


 小声でアマノが聞いてきた。姿が見えなくても、声は聞こえるからな。不審に思われて警戒が強まったら面倒だし。良い配慮だ。


「全然全く」

「……」

「ま、まて……冗談だからその睨みはやめろ」


 相変わらず、アマノの睨みは怖い。四角の逝ってる目と良い勝負。


「アマノも気づいてるだろ? アカムの体から感じる特別な魔力」

「……え? これって、アカムの魔力じゃないの?」

「まぁアカムの魔力だけど、それだけじゃない。この世界に存在する色魔法の魔力と全然違うんだよ。つまり……神の器。神器ってやつだけが持ってる、特有の魔力だと俺は思ってる」


 ここまで言えば、アマノも俺がなにを頼りに神器を探しているのかわかるだろ。


「……神器の魔力をたどってるってわけね」

「そういうこと」

「しかし……感じ取れるのか? そんなに遠くにある魔力を」


 ラナの言うことは最もだ。普通は無理。

 でも、俺は普通じゃないから大丈夫だ。


「カラフルナイトは、普通の職よりも魔力感知に長けてるんだ。感じ取るだけなら、数キロ先の魔力も感じ取れるぞ。ましてや、神器みたいな特別な魔力は感じ取りやすい」

「……そういえばあんた。よく魔力を感じるとか言ってるもんね。犬みたい」


 おい。言い方。犬扱いはやめろ。


 さっきからすでに、神器っぽい魔力を感じてる。城の下の方だ。宝物庫でもあるのかもしれないな。とにかく行ってみよう。


「……ユッキー。王家の宝がここにあったら……クロックの女王様は、返してくれるかな?」

「……」


 サニー。その質問の答えはNOだ。


 目的はわからないけど、神器を探してる黒の女王が、元々アカムレッドの物だとしても、大人しく返すとは思えない。


 でも、そんなの関係ない。


「返す返さないの問題じゃないぞ。王家の宝はアカムレッドの物なんだ。了承なんていらない。王家の宝だったら勝手に持って行く」

「泥棒じゃないのよ」

「先に泥棒したのはクロックだろうが」


 盗られた物を回収するだけだ。なんの問題もない。


「……うん。そうだねー」


 弱々しく笑うサニー。さっきから、落ち着きがないな。今、俺に話しかけてきたのも、不安を消す為にって感じだった。


 ……やっぱり、宿に残してきたほうがよかったかな?

 まぁ、今更考えても仕方ないか。ここまで来たら、神器をさっさと見つけて確認するしかない。


 少し、物々しい雰囲気のある、地下への通路。装備が普通の兵士よりも重装備な見張りが居るし、明らかに、なにか隠してますよって感じだ。


 階段を降りると、左右に道が分かれてた。うーん……どっちに行くべきか。神器の魔力は……えぇっと……。


「……右は地下牢だな」

「ラナ。なんでわかるんだ?」

「血と腐臭がする。囚人たちの死体が、放置されているんだろう」


 うえっ。ラナが居てよかった。そんな光景見せたら、アマノとサニーはトラウマになるぞ。ていうか、俺よりラナのほうが犬っぽいじゃん。


 左側の通路を進むと、もっと入り組んでるかと思ったら、一本道だった。壁にある松明以外の灯りはないから暗い。人の気配はないな。神器の魔力が強くなってきた。近いぞ。


 通路の行き止まりに、大きな錠が付いた重々しい扉があった。すごいな……ここまで大事な物が置いてありますよって扉も珍しい。


「鍵がかかってるわよ。どうするのよ?」

「壊す」


 エクスキューショナーで、錠をぶった斬って壊す。別に侵入されたって形跡を残しても問題はない。だったら壊すのが一番楽で早い。


「……あんた。もう鍵とか意味ないのね」

「見張りの兵士も【ネムリプ(睡眠)】で眠らせておいたから、気づかれようもないからな。これが手っ取り早い」

「……(ジー)」

「……別に、ネムリプをお前にかけてどうこうしようなんて考えてないぞ」

「そんなこと思ってないわよ。居眠り運転で事故って死ね。相変わらずチートだわって思っただけよ」


 免許も持ってないのに居眠り運転で事故れるかよ。


 扉を開けて中に入ると……思ってたのと違う光景が目に入ってきた。

 宝物庫みたいな場所を想像してたんだけど……。


「……普通の部屋だな」


 さっき通された応接間に造りは似てるけど、広さが何倍もある。ただの部屋。こんな所に神器が置いてあるのか?


「どこに神器があるのよ?」

「……確かに、ここから魔力を感じるんだけどな」

「探してみるしかないだろう」

「うん! 探そーよ!」


 元気がなかったサニーが、張り切って部屋に中を走り回って、神器を探し始めた。俺たちも続いて神器を探す。とは言っても、形を知らないから、俺の魔力感知だけが頼りになるんだけど。


 おかしいな……さっきまでは感じてた神器の魔力が、急にぼやけ始めた。この部屋に入ってからだな。うぅん……本当に、ここに神器があるのか? なんか引っかかる。


「ちょっと、さぼってないで探しなさいよ」

「さぼってねぇよ。ちょっと考えごとだ」


 俺が少しでも止まってると、さぼってる認定するんじゃない。俺だって、たまには真面目に考えるぞ。


「……ヒロユキ。妙だと思わないか?」

「ん?」

「黒の女王は、神器を集めている。つまり、女王にとって神器は……今現在、なによりも大事な物のはずだ。それを……こんな場所に放置するだろうか?」

「……」


 なるほど。なにか引っかかってたのはそこだったか。


 黒の女王は、魔法結界の媒介ですら、自分で持ち歩くほど、自分以外を信用していない。その女王が……神器を手放しで放置するなんてことは――。






「正解だ」






 声に振り返る。ちっ……罠か。


 黒の女王が、不敵な笑みを浮かべて、部屋の入り口を塞ぐように立っていた。兵士は見えない。こいつ一人か。


「……いつから居たんだ? 俺が気づかなかったってことは、インビジルリアじゃないな?」

「ずっと居たぞ? 改造色魔法で気配を消していたがな」


 改造色魔法だって?

 ダークマターを人間が扱ってるって言うのかよ。そんな例は聞いたことが無いぞ。


「……ダークマターをどこで手に入れたんだ? 魔界にしか存在してないはずだ」

「魔界のダークマターは人間の体には適合しない。このダークマターは……童が生み出したオリジナルだ。人間の体でも、ダークマターの力が適合するようにできている」


 ダークマターは、体に埋め込むことで力を発揮する。亜種ならともかく、人間の体にダークマターを埋め込むと、拒否反応で体が崩壊する。


 ダークマターを生み出しただって……? 信じられないけど、こいつから感じる魔力……確かに、魔界の魔力に似てる。昼間は隠してやがったな。


「神器を探しに来たのだろう? 来ると思ったぞ。童の神器を狙ってな。だからこそ……神器は童が持っていた」


 黒の女王が持っていたのは、小さな木箱。あの中に神器が入ってるのか。くそっ……はめられた。フィリアもグルだったのか。わざと俺たちに神器の情報を流しやがったな。


「四角とまで手を組んだってのか? お前、人間としてのプライドがねぇのかよ」

「……? なんのことだ? 童が四角と手を組むわけなかろう。お前たちが来ると確信していたのは……神器の魔力をわざと感じやすいように放出していたからだ」


 ……? 本当にフィリアのことは知らないみたいだぞ。

 おいおい……混乱してきたな。フィリアが俺たちに神器のことを教えたのは、本当に気まぐれだったのか?


 じゃあ、途中で神器の魔力がぼやけ始めたのは……。


「改造色魔法で、神器の魔力を隠しやがったな」

「インビジルリアにダークマターの力を加えた【ファントムインビジブル(透明な幻】だ。普通のインビジルリアと違い、姿を隠すことはできないが、魔力と気配を幻想で惑わすことができる。仮に、魔力が上の相手でもな」


 なるほど。魔力がぼやけたのはそのせいか。黒の女王の姿が見えなかったのも、その魔法の効果か。攻撃してこなかったところを見ると、使用中は動きに制限があるみたいだな。


「んで? 俺たちを待ち伏せてどうするつもりだったんだ?」

「決まっている。もう一度言うぞ。童の下につけ」


 はぁ……まーたその話かよ。

 面倒くせぇ。俺がそんな話を了承するとでも思ってるのかよ。


「嫌なこった」

「……断れば、貴様らはもうここから出ることはできないぞ。この部屋だけを、空間から切り離したからな。私が許可しない限り、出ることは不可能だ」

「……」


 確かに、さっきから周りに魔力を全く感じないから不自然だと思ってたけど、そういうことだったか。どうやったのか知らないけど、どうせ改造色魔法だろ。ダークマターが加わると、なんでもありだからな。


 こいつの言ってることがマジだとすると……俺が中で暴れても無駄か? だったら、術者を殺すしかないってことになってくる。


 せっかく穏便に済ませてやったのに、仕方ねぇ……俺はエクスキューショナーに手をかけようとした。そのとき、


「ん? そこに居るのは……アカムレッドの王女か」


 黒の女王が、アマノの後ろに隠れていたサニーを見つけた。


「……」

「ほう……どうして王女がこんなところに居るのだ? 王妃の敵でも取りに来たのか?」

「ち、違うよ……」


 掠れる声で、反論するサニー。それでも、黒の女王は構わず続ける。


「敵を討ちたいのなら、構うことは無い。向かってきて良いのだぞ? アカムレッドの王女なら、それなりに魔法は扱えるのだろう? 母を殺した張本人が、目の前に居るのだぞ」

「……え?」


 サニーが目を見開く。


 今、黒の女王は……なにを言ったんだ?


 アカムレッドの王妃を殺したのが……。


「童が、アカムレッド王妃、アルファ=アカムレッドを殺した。敵を討たなくていいのか? 今は童一人だ。絶好の機会だぞ?」

「……」


 言葉が出ないサニー。代わりに出てくるのは……涙だった。


 アカムレッド王妃を殺したのは……黒の女王だったんだ。


 足の力が抜けて、その場に座り込むサニー。アマノが慌てて肩を抱く。


「どうした? いいのか? 母の敵が居るのに、足が竦んだか? まぁ所詮は子供か。憎しみの前に、母を失った悲しみのほうが強く出てしまうようだ」


 涙が止まらないサニーに、黒の女王は残酷な言葉を投げつけ続ける。なんの感情も見えない黒い瞳で。サニーが体を震わせるのも構わず。


「知っているか? 王妃の最期を」

「……?」


 サニーが、顔だけ黒の女王に向ける。


「王妃はな。最期まで……娘の貴様を庇って戦っていたのだ。それを童が痛ぶり、なぶり、殺した。命乞いまでしていたぞ? 自分のではなく、娘の命は助けてくれとな。了承したフリをして、王妃の心臓を一突きにしたがな。無様だな! 命を乞うことしかできないとは!」 


 ……話には聞いたことがある。

 アカムレッド王妃は、当時まだ物ごころが付いたばかりだった王女を、庇って死んだって。その相手が、黒の女王だとは知らなかった。


「本当は娘の貴様も殺そうと思ったのだが、王の邪魔が入ってな。それは叶わなかった。なんなら、この場で……殺しても構わないのだがな」


 それを聞いて、アマノとラナがサニーを庇うように前に出た。ラナは今にでも黒の女王に斬りかかりそうだ。


 でも、その必要はないぞ。


「アカムレッドも馬鹿な国だ。童の邪魔をしなければ、あれだけの打撃を受けることはなかっただろうに。王妃の死は、まさに無駄死にということになるな」

「一つだけ聞くぞ」


 ラナを手で制止して、黒の女王に近づく。


「お前の持ってる神器は、アカムレッドから盗んだもんか?」

「……? なぜそんなことを聞くのかわからんが。アカムレッドではない。これはグリミドで見つけ、代々――」

「あっそ。それだけ聞ければ充分だ」


 すでに、俺はキレてる。


「もういい。お前は殺す」










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『おまけショートチャット』


「……ここの兵士さんは寝てないねー。ウチの兵士さんたちは寝てたのに」

「これが普通の光景だと思うぞ」

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