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ゲーム世界に三年居た俺は性悪女王にケンカ売られました⑥

 ラナをあれだけ傷つけやがったからな。思わず力が入っちまった。死んだかな? レベルはまだ確認してないけど、ガンマと同程度だろ。だったら……うぅん。ギリ生きてるかもな。


 氷刃のフィリアか。面倒くせぇな。魔王軍からも追っ手が来るとは思ってたけど、こんなに早く来るなんてな。しかも、四角直々に。


「サニー! ラナ! 大丈夫っ!?」


 アマノが駆け寄って、ラナの腕を見て、眉をひそめる。左腕が完全に凍ってるな。このままじゃまずい。サニーがリカバリーをかけてたみたいだけど、フィリアの魔力で凍ったんだ。そう簡単には治らないな。


「サニー。リカバリーを続けてくれ。治るのに時間かかるかもしれないけど、このままだとラナがやばい。頑張ってくれ。アマノはラナの体を温めろ。体温がこれ以上下がらないように」

「うん。頑張るよ!」

「……あんたに命令されるのは癪だけど。我慢してあげる」


 いちいち反抗しないでくれる? 命令じゃなくてお願いです。


 さぁてと……フィリアはどうなったかな? 死んでないとしても、致命傷だと思うけど。でも……あいつもガンマとは別の方向にやばいんだ。


 ガンマは相手にすると、超面倒な奴。フィリアは……相手にすると……。


「うふふ……痛いわぁ……ゾクゾクしちゃう……」


 超、怖い奴だ。


 勘違いするなよ? 強くて怖いとかじゃない。性格的に、悪寒がする方向に怖いってことだ。


「これだけダメージを受けたのは……久々だわぁ……♥ 血がたくさん出ちゃった……血の臭いがまた強くなった……♥ あはは!!! 最高ねぇ……♥ 痛いって……本当に良いわぁ……!」


 な? 他人を痛ぶるのが大好き。自分が痛いのも大好き。血を見ると興奮する。ドSでドMなド変態野郎だ。見た目は美人だけど、見た目とかそんなのどうでもよくなるほどやばい奴だ。


 嫌だなぁ。もう……四角ってなんでこんな変態ばっかり集まってるんだよ。


「あなたねぇ……ガンマが言ってた……ものすごく強い子は……」

「うん。だから大人しく帰れ。でないと……次は本気でぶった斬るぞ?」


 怖いから。あんまり相手にしたくない。これ以上攻撃してくるようなら、殺す。


「気を付けろヒロユキ……そいつは亜種の吸血鬼だ……血を吸われると……ステータスも奪われるぞ……」

「ああ。知ってる」


 初見だと、回避するのは難しいけどな。俺はもうフィリアのことを知ってる。血を吸われるようなヘマはしない。


 フィリアはめちゃくちゃに怖い笑顔で、俺をじっと見てくる。はぁ……興奮状態だし、諦めてくれねぇかな。だったら戦るしかないか。


「……そうねぇ。今日のところは……大人しく帰ろうかしらねぇ……」


 と、思ったら……予想外に、俺の意見を受け入れた。まぁもう戦う力が大して残ってないってのもあるけど、それにしても、あれだけ興奮状態だったのに、ずいぶんと聞き訳が良いな。


 興奮状態のフィリアは、なにを言っても無駄。相手を痛ぶって、その苦痛の表情を見てさらに興奮。そのまま相手を殺すまで止まらないってのが当たり前だったけどな。


 ……まさか、サニーとラナを襲撃して神器を奪う以外にも、目的があるんじゃないのか? でないと、あれだけ冷静さを保つなんて、フィリアの性格じゃそんなことしない。自分の欲望のままに行動するのがフィリアだ。魔王の命令なら、話は別だけどな。


「あなたの攻撃で、体中が痛いしねぇ……どうせ、戦っても勝てないものねぇ」

「……痛いの大好きなお前が、そんなの気にするとは思えないけどな」

「……? あらぁ? 前に会ったことあるかしらぁ?」

「さぁな」


 面倒だから、説明なんかしない。帰ってくれるってんなら、引き留めないぞ。さっさと帰ってくれ。


「神器はまた次の機会に奪おうかしらねぇ」

「いや。もう来るな。来たら次は殺るぞ?」

「あはは! 望むところよぉ……次はもっと痛くしていいのよぉ?」


 駄目だ。会話が通じない。美人に痛くしていいとか言われると卑猥な話に聞こえるけど、こいつに限っては全然そんな話に聞こえない。うわぁ……寒気してきた。


 フィリアは俺たちに背中を向けて、そのまま立ち去ろうとした。


 ……確かに、俺たちにもう敵意はないか。じゃあ本当にこの場はなにもしてこないみたいだな。他に目的があったってのは、俺の考えすぎか?


「あ。一つだけ……教えてあげるわ」


 あ? 別にお前から教わることなんてなにもないぞ。いいから早く帰れよ。


「クロック女王……黒の女王だったかしらぁ? あの子……神器を集めているのよねぇ」

「……だからなんだよ?」

「すでに一つ、神器を持ってるみたいよ。数百年前にどこかの国から盗んできて、代々管理されてる神器がねぇ」


 ……盗んできた?


 ちょっと待てよ……ということはもしかして……。


「じゃあねぇ。また会いましょう」


 言うことだけ言って、フィリアは翼を広げて、夜空に飛び立って行った。会いたくねぇよ。できればな。


「……」


 盗んできた神器……。


 あーくそ……もうクロックに留まる理由はないと思ってたのに。気になることができちまったな。





ミ☆





 宿屋に戻って、暖炉を火力全開で焚きまくる。ラナの体温を上げるためだ。サニーのリカバリーで、全身が凍り付いてたのは元に戻ったけど、まだ体温が下がったままだ。


「すまない……氷刃を倒しきれなかった」

「いや。四角相手に善戦したんだ。サニーを守ってくれただけで充分だって」


 アマノがもらってきたスープを飲みながら、ラナは自分の不甲斐なさを詫びていた。


 俺的には、ラナは充分に戦ってくれた。フィリアの魔力は、ガンマに次いで高い。亜種だからな。そんな奴を相手に、あれだけふんばってくれたんだ。


「ごめんねラナ……私、見てるだけしかできなかったよ……」

「そう言ったのは私だ。サニーが気にすることではない。サニーに怪我が無くてよかった」

「……」


 ラナの腕にぎゅっとしがみ付くサニー。自分の体温で、少しでもラナを温めようとしてる。そしてそれを羨ましそうに見るアマノ。欲は状況を見て制御しろ。お前は。


「……どうだったんだ? 黒の女王は」

「俺たちに仲間になれって言ってきたけど、もちろん拒否した。んでもって、黒の女王も神器を探してる。だからアカムのことも狙ってた」

「きゅ?」


 当の本人は、なにも知らないでリンゴかじってるけどな。呑気なもんだ。お前のせいでいろいろと大変だってのに。


「アカム……いろんな人に狙われてるんだねー」

「まぁでもそれは別に問題ない。そもそも、それを承知でそいつを連れてるわけだからな」


 アカムが狙われてること。それは大した問題じゃないんだ。俺たちのクエスト上、アカムが神器である以上は、どっちにしても手放すわけにはいかないし。


 それよりも……だ。


「……お姉ちゃんは、黒の女王に神器を探してほしいって頼まれたみたいなの」


 そっちの方が重要だ。


 ミソラさんが、ホワイトシロンに神器を探しに行ったこと。それが、今回一番の収穫だ。


「ホワイトシロンに神器の一つがあって、それをミソラさんのパーティが探しに行って……なにかがあった。それでミソラさんは現世界に戻れなくなった。つまり、次の目的地はホワイトシロンだ。でも、その前に……」


 すぐにホワイトシロンに行きたいところだけど、その前に、一つだけ確認しておかなきゃいけないことができた。


「なによ? なにかあるの?」

「さっき、フィリアが言ってたことだよ。黒の女王が、神器を一つ持ってるって」


 なんでわざわざフィリアが俺たちにそれを教えたのかわからないけどな。


「他の国から盗んできた……そう言っていたな?」

「ああ。そのワードが重要だ。サニー」

「なにー?」


 俺たちの探し物の一つ。アカムレッドの王家の宝。


「王家の宝は、アカムレッドの家臣が持ち出したって、王様は言ってた。つまり……盗まれたってことだ。もしかしたら……黒の女王が持ってる神器が、王家の宝かもしれない」

「!?」


 あくまで、可能性の話だ。


 その家臣が、クロックと繋がってた可能性は充分にある。黒の惨劇のときって言ってたから、二百年ぐらい前か。フィリアの話と一致はしてる。あいつの言ってることを全部信用するわけじゃないけど。


「だから、俺はもう一回城に行って、その神器が王家の宝かどうか確認してくる」

「……もう一回行くって、さっきあれだけやっちゃったのに、簡単に入れないんじゃないの?」

「力づく。と言いたいところだけど……こっそりだな。魔法結界ぶっ壊しておいたから、復帰まで時間がかかる。今なら、インビジルリアで侵入できる」

「……え? いつ壊したのよ?」

「黒の女王に一撃かましたとき」


 黒の女王にソニックブレイドを撃ったときだ。魔法結界の媒介は、魔力を感じ取ればすぐにわかる。黒の女王が、媒介を身に着けてたからな。自分で持ってるのが一番安心だとても思ったのか。だから威嚇でぶっぱなしたついでに、壁を斬るふりして黒の女王が持ってた媒介を壊しておいた。


 だから、クロック城は今、魔法結界が機能してない。すぐに復帰はできないはずだ。媒介の代わりがあっても、魔力を込めるのに時間がかかるからな。


「だから、今夜俺一人で確認に「私も行くよ!」」


 え?


 サニーが、俺の言葉に被せて、予想外のことを言ってきた。


「私も行く! 王家の宝があるかもしれないんでしょ? 待ってるだけなんて嫌だよ!」

「……黒の女王が居るんだぞ? それはわかってるな?」

「うん。それでも……行きたい。ユッキーに任せっきりにできないもん!」


 ……まぁ、インビジルリアで行くから、危険はないと思うけど……。

 大丈夫かな。サニーの精神面が心配だ。母親の敵が近くに居るってだけで、不安になるだろう。でも、サニーの顔は譲らない顔だ。


「サニーが行くなら、私も行くわよ」

「もちろん。私もだ」


 アマノとラナも、サニーの話に乗ってきた。


 ……仕方ねぇな。隠密行動だから、大所帯で行くのはどうかと思うけど。


 『待つだけ』。本人の意思ならともかく、それを無理強いするのも、可哀想か。


「……わかった。じゃあ夜まで休んでおけ。ラナもな。まだ体温が回復してないだろ」

「うん。ありがとー」

「そうだな。これを飲んだらひと眠りしよう」


 少しの不安もあるけど、戦いに行くわけじゃない。俺のインビジルリアなら、俺以上の魔力を持ってる奴じゃないと見破れない。そんな奴はいないし。見つかる心配はないからな。


 周囲に警戒しながら、夜まで体を休めることにした。










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『おまけショートチャット』


「魔法結界の媒介ってどういう仕組みなのよ?」

「魔法結界を発動する魔法陣が組み込まれた魔力石に、魔力を長時間込めると結界が発動する。媒介を壊されない限り、結界は消えない。媒介に魔力を込めた本人だけ魔法が使える。そんな感じだ」

「割と簡単な仕組みなのね」

「聞くだけならな。でも、魔力石を始めとする魔法道具は、完成までの試行錯誤が半端ないんだ。俺たちで言えば、スマホは便利だけど、スマホを作るのにどれだけ大変かなんて俺たちは知らないで使ってるだろ? それと同じだ」

「あんたが理論的なこと言わないでくれる? ムカつくから」

「おい。俺が理論も言えない馬鹿みたいに言うな」

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