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ゲーム世界に三年居た俺は性悪女王にケンカ売られました③

「あれ? ミソラさん……じゃないんですか?」

「違う。私はラナフィスだ」


 カンナ。と名乗ったメイドさんは、ラナをもう一度見直して、勘違いだとわかったらしく、慌てて謝罪してきた。


「ご、ごめんなさい……良く似ていたので……確かに、少し雰囲気が違いますね」


 ラナとミソラって人を見間違える。


 アマノが言うには、ラナとアマノの姉ちゃんはそっくり似ているらしい。つまり……カンナさんが言っているミソラって人は……。


「あなた……お姉ちゃんがどこに居るか知ってるの!?」

「え? お姉ちゃん……?」


 ゲーム世界に来て、初めて聞いた姉の情報に、アマノは焦りの表情だ。情報を逃がすわけにはいかないみたいに。カンナさんの肩を押さえて、詰め寄るように聞いた。


「アマノ。落ち着け」


 カンナさんが戸惑ってるだろ。ちゃんと順を追って説明しないと。


 カンナさんの言っている『ミソラ』という人物。それがアマノの姉である可能性は大だ。それを説明して、詳しく話を聞くことにした。


「ミソラさんは、一年前にクロックを訪れたんですけど……冒険者としての力を信用されて、女王様にある物を探すように頼まれたみたいなんです。それでホワイトシロンに行ったんですけど……それ以来、クロックに戻ってきていないので……ごめんなさい。今、ミソラさんがどこに居るかは私もわからないんです……」

「ある物?」

「なにか重要な物らしいんですけど、私はお城の一メイドなので、聞かされていません」


 ホワイトシロンか……。たぶん、クロックの人間がホワイトシロンをうろついてるだけで、攻撃対象になる。だから冒険者パーティに依頼したってところだろうな。黒の女王に見込まれるってことは、ミソラさんは相当な冒険者だったみたいだな。


 問題は、その『ある物』ってのがなにかってことだけど。


「……姉ちゃんが行方不明になったのって、一年前だったよな?」

「……そうよ」


 同じ時期。となると、ホワイトシロンでなにかあった。って考えるのが普通だけど。確かアマノが前に、ミソラさんとパーティを組んでた人たちに話を聞いても、なにも教えてくれなかった。そして探そうともしてくれなかったって言ってたな。


 なにがあったのかわからないけど……これは、クロックの城に行く理由が増えたな。


 ミソラさんに、一体なにを探すように頼んだのか。それはかなりの手がかりになる。


「……カンナさん。俺たちを城に入れるように手配できる?」

「え? えっと……みなさん、検問所は問題なく通られたんですよね? それならば大丈夫だと思いますけど……女王様がお会いになってくれるかどうかは……」

「大丈夫。たぶん、城に入れば向こうから会おうって言ってくるから」

「……? わかりました。頼んでみます」


 向こうの出方を見つつ、慎重に行こう。後はそれこそ、出方次第だな。警戒はしておいたほうがいい。


 カンナさんはこのまま城に戻るらしいから、一緒に城に行くことになった。町の中に居るだけで、ある程度善良冒険者扱いだ。検問が厳重だからな。城に入ること自体は問題ないと思う。そもそも向こうからむしろ来いぐらいの対応をされてるんだ。入っちまえば女王に会うのも難しくない。


「サニー」


 でも、城に行くのは……。


「お前はラナと一緒に宿屋で待ってるんだ」


 俺とアマノだけだ。


「え? だ、大丈夫だよ! 私も行くよ!」

「……サニー」


 膝をついて、サニーの目をまっすぐに見て、諭す。


「サニーは子供なんだ。嫌なことは嫌って言っていいんだぞ? 強がらなくていいんだ。無理させてサニーを苦しめるような真似はしたくない」

「……」


 黒の女王に直接会うんだ。サニーを連れて行くリスクは大きい。

 サニーの精神的にも、やっぱり連れて行かないほうがいい。俺はそう判断した。


「……子供扱いしないでよー」


 ほっぺをぷーっと膨らませて不満そうなサニー。七歳は子供だっての。


「……でも、うんわかった。私も……やっぱり、クロックの女王様には会いたくない……」

「……うん。それでいい」


 サニーの頭を撫でて、ラナに目を向ける。


「ラナ。サニーのことを頼んだぞ」

「わかった。任せてくれ」


 ラナが一緒なら安全だろう。そんなに遠くに行くわけじゃないし。いざとなったら俺もすぐに駆けつけられる。


 宿の場所をカンナさんに聞いて、俺とアマノはクロック城に、ラナとサニーは宿屋に、それぞれ向かった。





ミ☆





 カンナさんと一緒にクロック城に入ると、思った通り、すぐに大臣から声をかけられた。そのまま応接間に通される。謁見の間に通されないところを見ると、どういう話をされるのか目に見えてるな。


「……」


 大きなテーブルを挟んで、俺とアマノは女王が座るであろう豪華な造りの椅子の反対側に座らされる。入口には数人の兵士。武器は装備欄から外したから、見た目は丸腰だ。いざとなれば装備し直せばいい。


「……ヒロユキ。大丈夫なの?」


 黒の女王の話を、俺とラナから少しだけ聞いてたアマノは、少し不安そうな顔をした。まぁ……どう見ても歓迎ムードではないからな。逃がさないし、なにもさせない。そんな空気だ。


「大丈夫だ。俺がその気になれば城ごと吹っ飛ばせるぞ」

「……それは別の意味で大丈夫じゃないと思うけど」


 例えばの話だよ。向こうの出方次第では最悪そうするってことだ。俺もできれば穏便に話をしたいし。


 兵士に見張られながら待つこと数分。応接間の扉が開かれた。大臣に続いて、数人の兵士に取り囲まれながら入ってきたのは……。


「ようこそ。クロックへ。童がクロック女王……アルトニア=クロックだ」


 黒髪のショートカットの女性。瞳は……黒すぎる黒で底が見えない。美人だけど、妖艶で少し気味の悪さがある。腰には一振りの【黒剣】。黒剣は魔力を留めやすい性質があって、マジックユーザーが扱う武器だ。肌の露出が多い黒ドレスだからわかるけど、スタイル抜群。女王のする格好ではないと思うけどな。


 椅子に座った女王は、俺とアマノを交互に見てから、ニヤッと笑う。うおぅ……悪寒がした。美人に見られてるのに、なんで俺はこんなに気持ち悪いんだ?


「ずいぶんと可愛らしいお客人だな。童に何か用か?」

「……隠さないでいいですよ。俺たちにちょっかい出してるのはわかってますから」


 色人形の襲撃。検問所でのスルー。白々しい態度だ。完全にからかわれてる。ガキだと思って舐めてんじゃねぇぞ。


「……ははは! やはり、四角のガンマを撃退したという噂は本当だったか。童の色人形も簡単に消してしまったしな」


 笑ったかと思うと、次の瞬間には……俺に鋭く射抜くような目線を向けてきた。魔力でばれてんな。ガンマを倒した張本人が俺だって。ステータスを非表示にしても、魔法に長けてる奴には魔力である程度の実力はばれる。


「俺たちにちょっかい出した理由は?」

「童を前にしても、その堂々とした態度……気にいったぞ。率直に言おう。童の下で働いてみる気はないか?」

「お断りします」


 予想通りの誘い。俺の返答もすでに決まっている。誰がそんな申し入れを受け入れるか。


「……あんた。女王様相手にはっきり言うわね」

「嫌なことは嫌ってはっきり言った方がいいんだよ」


 さっきサニーに同じこと言ったな。


 クロックの薄汚いやり方はわかり切ってる。手を貸す気なんで微塵もない。すっげぇ上から目線だし。いやまぁ、立場は向こうが完全に上なんだけど。俺たちはただの一冒険者だし。


「……はっはっは! 即答か。悪くない話だと思うのだがな。クロックに付けば、良い暮らしをさせてやるぞ? まぁいい……この話は一度置いておこう」


 いや。一度じゃなくて永遠に置いておけ。二度とすんな。


 腕を組んで、今度は質問を受ける側としての態度を見せてくる。それでも偉そうなのは変わらないけど。


「それでは、お前たちが童を訪ねた目的を聞こうか? まさか童に、わざわざ手を出したことの苦情を言いに来たわけではあるまい」


 別に苦情を言うだけでもよかったんだけどな。そうもいかない。問い詰めたいことがいろいろとある。


「まず一つ目。ホワイトシロンと戦争をまた起こそうとしてる話は本当ですか?」

「ほう。もう噂になっているのか」


 その言い方は、本当みたいだな。

 三国大戦で散々お互いに疲弊したくせに、まだ懲りてないのかよ。くだらない戦争を簡単に起こすんじゃねぇ。


「……理由は?」

「……童はな。全てを自分の物にしなければ気が済まないのだ」


 手を口に当てて、小さく笑う。普通、美人がそんな仕草をすれば絵になると言うか、男にとっては少しドキッとするはずなんだけど。


 ……胸糞悪い笑い方だ。戦争の話をしてるときに、そんな笑い方をするんじゃねぇよ。


 やべぇな。俺……めっちゃムカついてる。落ち着け。冷静に話を進めろ。


「人間も国も……この世界の全ての存在を、童の物にする。ホワイトシロンを落とすことは……その第一歩なのだ。クロックと並ぶ大国だからな。そうすれば……他の国もおのずと従う」


 はっ! べらべらとよく喋るな。好戦的で独占欲が強い。ここまで噂通りだと、逆に関心する。そのせいで……三年前にアカムレッドは巻き添えを食ったっていうのによ。


「全てを……ね。神にでもなるつもりですか?」


 皮肉で言ったつもりだった。でも、黒の女王は……ニヤリ、と口元だけ大きく笑いを見せた。不快な笑いに、俺は思わず眉をひそめる。


「神……そうだな。神でさえも、いずれは私の思い通りにする」

「……?」


 なに言ってんだこいつ?


 神なんて本当に存在するかもわからないのに。頭逝ってんのか? ガンマと別の方向に。


 戦争をやめてくれ。なんて言ってもどうせ聞かないだろう。俺は早々にこの話を切り上げることにした。国の様子を見る限り、すぐにホワイトシロンと戦争を始める感じじゃない。もう少し様子を見よう。


「じゃあこの話はとりあえず終わりです。もう一つ聞きたいことがあります」


 俺らの最終目的と言ってもいい。その手がかりがやっと見つかったんだ。そのことを、黒の女王に直接聞かなきゃいけない。


「一年前、冒険者のパーティに、探し物の依頼をしましたよね? その詳細を教えてください。その冒険者の中に、ミソラって人はいませんでしたか?」

「……? なぜ、お前たちがそんなことを気にするのだ?」

「私の……お姉ちゃんなんです」


 初めて黒の女王との対話に参加したアマノ。姉の話になって、黙っていられなかったんだろうな。

 カンナさんの話からして、女王がミソラさんが居たパーティに依頼をしてるのは間違いないはずだ。


「ミソラ……か。神器を探してくれと依頼したパーティのリーダーが。確かその名前だったな」

「……神器?」


 また出てきた。神器。

 黒の女王が……ミソラさんに探してくれと頼んだ物が神器? おいおい……神器を探してるのは、魔王軍だけじゃなかったのか。面倒な話になってきたな。


「ホワイトシロンにある神器を、探してきてほしいと頼んだのは事実だ。なかなかに実力のある冒険者たちだったのでな」

「お姉ちゃんは……お姉ちゃんは今どこに居るんですか!」

「さぁな。私は頼んだだけだ。ホワイトシロンに向かったその冒険者たちは……戻ってくることはなかった。その後どうしたのかは童も知らん」


 嘘は言ってないみたいだな。カンナさんの話と一致するし、大体は俺の考察と同じだ。


 ホワイトシロンでなにかあった。そして、なぜかパーティの中で、ミソラさんだけが現世界に戻ってこなかった。


 探してた神器が関係してるのか……それとも、ホワイトシロンがなにか関係してるのか……次の目的地は決まったな。


 ホワイトシロンだ。ホワイトシロンに行けば、なにかわかるかもしれない。


 それにしても……一つ気になることがある。


 黒の女王は、ずいぶんと簡単に神器のことを俺たちに話したな。別に、探してる物を俺たちにわざわざ教える必要はない。


 魔王軍も探してる、神器。俺も前のクエストでは聞いたことがない。重要なアイテムのはずだ。それを……初見の冒険者にほいほいと話すか?


「……神器ってのは、なんなんですか?」


 こうなったらとことん聞いてやる。魔王軍と、黒の女王が同じ物を探してる。それだけで、充分に不吉な予感がする。


「……その名の通りだ。神が創造した器のアイテム。神が宿るためのな」

「……?」

「さて、本題に入ろうか」


 本題? なにを言ってるのかわからないでいると……兵士たちが俺とアマノに剣を向けてきた。


「お前たちの持っている、神器を渡してもらおうか?」










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『おまけショートチャット』


「カンナさん。ちょっとちょっと」

「はい?」

「……ミソラさんって、胸大きかったですか?(小声)」

「……? ああ! ミソラさんの特徴ってことですか? そうですよね。みなさんの仰るミソラさんと、私の知ってるミソラさんが同じ人か確認しなきゃですよね。えぇっと……けっこう大きかったと思いますよ」

「ほう……じゃあやっぱり、姉妹なのになんでアマノは……(悪寒)」

「自分で死にに走るなんて馬鹿な奴ね。遺言はあるかしら?」

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