ゲーム世界に三年居た俺は性悪女王にケンカ売られました①
期末テストという強敵に打ち勝ってから(いや、ある意味負けたんだけどさ)一週間。
世間の学生たちは夏休み真っ盛り。楽しい楽しい夏休み。
部活に勤しむ奴。遊びまわる奴。趣味に全力で取り組む奴。そして青春する奴……。
その中で俺は……。
「……ゲーム世界に来てるわけなんだが」
夕日を浴びながら、俺はしみじみと一人で呟いた。
……今回クエストを終わらせれば、海が俺を待ってる。
……最大の目的はアマノの姉ちゃんを探すことなんだけどな。忘れてないぞ? 当然。
ちなみに夕日と言っても、別に夕方じゃない。ここはいつでも夕焼け空な町、サンセットだ。そういやサンセットの町で終わってたんだったな。久々だから忘れてた。
「あんた、一人でなにぼーっとしてんのよ?」
「……夏休み初日ぐらいは寝てたかったっていう願望を一人寂しく呟いてたんだよ」
「安心して。寝てたら叩き殺すから」
「叩き起すじゃないの!?」
「あ、間違えたわ」
こいつ、素で間違えやがった。恐ろしい奴……。
俺はゆっくりと朝寝てることもできないのか? 夏休みなのに……。
「次はクロック地方に渡るために、ここからさらに東にある【紅葉港レッドツリー】に行って、そこから船に乗る。そしてクロックの首都へ……だったな?」
さすがラナ。言った俺ですら忘れてた目的内容をしっかりと覚えてる。
……なんかいつの間にかプリン食べてるけど。サニーと二人で。
「あ、ちょっとなによそのプリン!」
「サンセットの名物【夕焼けプリン】だ。真っ赤な色に似合わず、すごく甘い」
「美味しいよー」
「私も食べたい!」
ラナが持っていた籠から夕焼けプリンを強奪して、アマノもスプーン片手にテーブルに着く。強奪する姿がすごくお似合いです。
「……革命だわ」
「お前、甘けりゃなんでもいいんだろ?」
「甘い物は正義よ」
「……あっそ。ラナ、俺にもくれ」
なんだろう。いつの間にか三時のおやつタイムになってる。まだ朝なのに。ゲーム世界に来て早々、こんなにのんびりしてていいのか?
……せっかくだ。ここで全員のステータスを確認しておくか。
【ヒロユキ】 職・カラフルナイト
Lv1000
力 1110
体力 1110
素早さ 1110
知力 1110
技 1110
武器 魔剣エクスキューショナー 攻撃力15000
防具 無色の宝衣 防御力12000
装飾品 限界突破の腕輪 ステータスオール+100
【アマノ】 職・マジックユーザー
Lv26
力 1
体力 10
素早さ 1
知力 100
技 68
武器 紅玉の杖 魔法攻撃力 60
防具 紅玉の魔服 防御力 40
装飾品 紅玉ピアス 魔法攻撃力+10%
【サニー=アカムレッド】 職・ヒーラー
Lv23
力 1
体力 1
素早さ 1
知力 77
技 85
武器 レッドロッド・改 魔法攻撃力 50
防具 ホワイトワンピース 防御力 40
装飾品 十字架のリボン 回復魔法の効果アップ
【ラナフィス=ルミナシア】 職・双剣士
Lv73
力 185
体力 85
素早さ 70
知力 10
技 60
武器 フラムベルジュ×2 攻撃力 450×2
防具 聖騎士の鎧 防御力 300
装飾品 パワーリング 攻撃力+20%
職のバランス的にはなかなか良いパーティだよな。前衛、後衛、支援に分かれてる。
俺は別として。
「きゅー」
「お前はいいんだよ」
「ぎゅー!」
唸られた。
こいつ、俺にだけは懐かないよな。
うーん……ここらへんの敵ならラナが居ればそれだけで充分だけど。アマノとサニーのレベルも本格的に上げて行かないとな。
というのも……今回のゲーム世界、俺がやってた頃となにかが違うんだ。
クエスト進行を無視して、レベルの高い敵がどんどん出てくる。俺がいなきゃ無理ゲーだぞ。これ。
それに……なぜか俺たちがゲーム世界から現世界に戻ると、パーティに加えたゲーム世界の人間も、現世界に一緒に来ちまう変な仕様がくっ付いてる。
そんな仕様は聞いたことがない。現世界に戻れるのは、元々現世界の人間だけのはずなのに。
どうなってんだ? 現世界の存在がゲーム世界に食われてる影響なのか? でも、ネットで少し調べてみたけど、そんな事例の報告も、噂もなかった。
「……まぁ、今考えても仕方ねぇか」
けっきょく、俺たちはクエストを進めるしかないんだ。
アマノの姉ちゃん以外にも、探す物も増えてきたし……。
「おい。おやつタイムはそこまでだ。さっさとレッドツリーに行くぞ」
「慌ててんじゃないわよ。甘い物はゆっくり味わうものよ。全く……」
「もう一個食べたいー。ユッキー、ちょっとぐらい待ってよー」
「せっかちな奴だ」
……。
なに? 俺が悪いの?
納得いかん……。
ミ☆
「はぁ!」
ラナの双剣がデスグリズリー(熊みたいな奴)を切り裂いた。
ズシャリとデスグリズリーの体が地面に崩れ落ちると、後方にいたキラー・ビー(でかい蜂みたいな奴)二匹が左右からラナへと向かって来た。でかい針を突き出して、かなりの速さだ。
「ウォタル!」
「セイントオーブ!」
後方から詠唱されたアマノとサニーの魔法がキラー・ビーを撃ち落とす。水弾と光弾の直撃を食らったキラー・ビーはピクピクと体を動かすだけで、もう飛ぶ力は残ってない。
そして残ったもう一体のデスグリズリーを、
「とう」
俺が蹴り一発で吹っ飛ばした。
【魔物の群れを倒した】
「……なんか約一名、すごく適当な奴がいるんだけど」
「ん? 誰だ? 戦闘を適当にやってると死ぬぞ?」
「あんたよあんた!」
失敬な。俺はいたって大真面目だ。大真面目にやっても、これが手加減の限界だ。デコピンよりはちゃんとやってるだろうが。
「……これほどの実力が、なぜ現世界では錆びるんだ?」
「あっちでは雑魚なのに、こっちでは最強だもんねー」
サニー、言い方。そろそろ本気で泣くぞ。
だってさぁ。正直俺いらないじゃん? 手伝ってるだけでも動いてる方だよ?
敵弱すぎて、三人だけで充分だし。素手じゃないとやり過ぎちゃうし。ボス以外の奴は目をつむってても倒せる。
……なんだかんだ言って、ガンマはそれなりに遊べた相手だったな。
なんかこうなると、もう一回オリビアと戦り合って――。
「いやいや、それは嫌だ」
あいつ、ガンマと別の意味で苦手だもん。
もし会ったら俺は逃げるぞ。ガチで。全速力で。脱兎のごとく。
「あんた、なに一人でぶつぶつ言ってるの? さっきから頭大丈夫?」
「……」
すっげぇ可哀相な奴を見る目。最近、こんな目で見られてばっかりだ。悔しい。
それから約半日。モンスターを倒してレベルを上げながら、紅葉港レッドツリーを目指してると……やっとサンセットの気候から離れて、普通の青空が見えてきた。
……と思ったのもつかの間、今度は本当の夕日が空を包みだした。
「……暗くなる前にレッドツリーに着かないとな」
「大丈夫だ。見えてきた」
ラナが指差した先には……天まで届くほど大きな、大樹が見えた。
あの、まるで空までそびえたつ柱のような大樹が……紅葉港レッドツリーだ。大樹の中を町として使っている、珍しい町だ。根本にはアカムレッドゆういつの港がある。大樹の葉は一年中、紅葉だ。それが町の名前の由来。
「綺麗だねー!」
「……赤い。もしかして、葉っぱが甘いなんてことないかしら」
アマノ。お前、赤ければ甘いと思ってるだろ? 優等生の思考とは思えねぇから。
「……」
さてと……じゃあ町に入る前に、片付けるべきことを片付けるか。
「三人とも、先に町まで行ってろ」
「は? ヒロユキはどうすんのよ?」
「俺はやることがある」
「……一人でおやつ食べるのー?」
サニー。俺を何だと思ってるの?
「……行くぞ。二人とも」
一人だけ空気を読んだラナが、アマノとサニーの手を引っ張った。
「ちょ、ちょっとラナ!?」
「ユッキー置いて行っちゃうの?」
「きゅーきゅー」
アカムコラてめぇ。俺を置いて行くって言ったら嬉しそうな声出しやがったな。
……空気を読んだっていうより、たぶん、ラナも気づいてたんだな。
この嫌な気配に。
「……出てこいよ」
三人の姿が見えなくなったのを確認して、俺は振り返った。
夕日で赤く染まる草原。その一角に、
「……」
黒いマントを着た【なにか】が姿を現した。
なにか。なんて言うのは……わかってるからだ。
こいつが人間じゃないことが。
この気配は……魔力? だとしたら。
「【色人形】か? お前の主人は誰だ? なんで俺達の後をつける?」
色人形は色魔法の一種だ。
自分の魔力を具現化して、動く人形を造りだす。そしてその色は使用者の特性色になる。魔力が強ければ強いほど、色人形の力は強くなる。
「……」
「だんまりか。まぁでも別にお前の主人に興味があるわけじゃねぇ。ただ後ろをこそこそついてこられるとうざいから……消えろ」
俺が一瞬、魔力を集中させると……それを敏感に感じ取った色人形が、音もなく、一瞬で接近してきた。
速い。かなりのスピードだ。
うん。でも遅い。
「よっと」
魔力が込められた右拳が黒いオーラを纏っている。額に向けて打ちだされたそれを回避して、すれ違いざまに、色人形の顔を隠していたフードを払い落とした。
色人形の顔は、使用者本人のコピーだ。だから顔を見ればある程度の正体は……。
「……おぉ」
色人形の顔は……女だった。
うん。かなりの美人。
じゃねぇよ。つーかこの顔……なんかどっかで見たことある。
「わっ」
どこで見たのか思い出そうとしてると、色人形が黒いオーラを纏った拳を連続で突き出してきた。俺はひょいひょいと回避しながら、思考を巡らせる。
この色人形の色は黒。つまり、特性色が黒色の奴がこいつを造って、俺たちの後をつけさせた。
特性色が黒色ってのも珍しいんだよな。亜種には珍しくもないけど、人間では。
「……まぁいいや」
とりあえず、消す。
コマンドを開いて、色魔法を選択した。
近距離で行くぞー。
「【エレカミランス(雷撃槍)】」
黄色魔法中級派生の【エレカミランス】。
その名のとおり、雷撃の槍を造りだして攻撃する色魔法。一撃としての威力だけなら、エレカミヴォルトを上回る。
……まぁおなじみ、すっげぇ手加減はしてるけど。本気で撃ったら、色人形だけじゃなくて、草原が吹っ飛ぶし。
「!?」
エレカミランスに腹を貫かれて、色人形は行動を停止した。同時に、エレカミランスが大きく放電する。
色人形を停止させるのは簡単だ。構成されている魔力以上の魔力をぶつけるだけ。それで構成されてる魔力は簡単に失う。
色人形はその場に倒れて、構成されていた魔力が、その姿と共に霧になって消えて行った。
消えていく瞬間まで……色人形の顔を見て、どこで見たことがあるのか、やっと思い出した。
あの顔は……。
「……狙われてるのか? 俺たち」
まぁ四角のガンマとやり合ったんだから、魔王軍に目を付けられてもおかしくはないんだけど……今の魔力の感じは、どっちかっていうと、亜種じゃなくて、人間の魔力っぽかった。
俺からすれば大したことないけど、色人形には相当強い魔力が込められていた。それは使用者の魔力の高さを意味する。
四角はもちろん、魔王軍にあれだけ高い魔力の黒色魔法を持ってる奴はいない。
俺の知る限りでは、だけど。
だとすれば……考えられるのは……。
「……とりあえず、アマノたちを追うか」
色人形の顔。イコール。色人形の主。つまり……。
俺の予想が外れてることを祈って、アマノたちを追ってレッドツリーへと向かった。
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『おまけショートチャット』
「ユッキー。一人でなに言ってたのー?」
「気にするな。昔の嫌な記憶がフラッシュバックしてるだけだから」
「期末テストに思考を使いすぎてさらに馬鹿になったのかと思ったわ」
「元々馬鹿みたいに言うな。俺は馬鹿じゃない。勉強が嫌いなだけだ(ドヤァ)」
「そうだぞアマノ。ヒロユキは知力が1110あるんだ。馬鹿ではないだろう」
「ラナ。そのフォローの仕方は微妙だぞ」




