ゲーム世界に三年居た俺は期末テストが最大の敵でした⑥
家に戻ってから、瞳姉とラナに天乃の親父のことを話した。
このまま放っておけば……天乃とサニーは確実に危ないってことも。
「……それでも父親なの? 呆れて物も言えないわね……お金持ちってみんなそうなのかしら?」
「それで? どうするんだ? けいさつとやらに連絡するのか?」
「……家族でもない俺たちが連絡しても相手にしてもらえないんじゃねぇか?」
それに、警察が誘拐犯を捕まえられるかって言ったら、微妙だし。大概は金だけとられて人質は戻ってこないパターンだ。
天乃と俺が学校で別れてから、サニーと合流してクレープ屋……どこで誘拐されたのかわからないけど、時間的にそんなに遠くには行ってないはずだけどな。
「お金の引き渡しの場所はどこかわからないの?」
「聞こうかとも思ったけど、そもそも金がないから無駄だと思った。引き渡し場所には万全の準備で来るだろうし……天乃とサニーだけ助けるのはちょっと無理だと思う」
「……誘拐者たちのアジトを突きとめて、奇襲をかけるのがいいんじゃないか?」
とんでもない意見をさらりと言うラナ。
奇襲って……あっちが何人いるかもわからないのに?
「……俺たちだけで?」
「あぁ」
「……俺、ただの高校生だけど?」
「なにを言っている? ヒロユキならそんな奴らぐらい……っと、すまない。こっちの世界では雑魚だったな」
うん。そうなんだけど……雑魚ってはっきり言われると傷つく。
「でもそもそも……犯人たちのアジトがどこかわからないのよね……」
「……」
その通りだ。
これなら引き渡し場所だけでも聞いとけばよかったな……その場所から後をつけるとか、色々作戦はあったのに。
途方に暮れる俺たち。
くっそ……どうすることもできねぇのかよ。
「あ」
スマホが鳴った。
画面を見ると……この番号は……。
「……天乃だ!」
「え? だってスマホ……犯人に取られちゃったんでしょ?」
「あいつ、スマホ二つ持ってるんだよ! お姉さんのスマホを! 念のため番号を教えてもらってたんだ!」
お姉さんのスマホはもしかしたら、犯人に見つからなかったのかもしれない。俺は急いで通話ボタンを押した。
「もしもし!」
『……浩之?』
やっぱり天乃だった。小声で話してるのは犯人に見つからないためだろう。
「お前、大丈夫かよ? サニーは?」
『……状況はやっぱりわかってるのね?』
「お前の親父さんに会ってきたからな」
『サニーは泣き疲れて寝ちゃってるわ。大丈夫よ。サニーだけはなんとか逃がすから』
「……は?」
サニーだけは? その言葉の意味がわからない。
自分はどうするつもりだよ。
『……お父さん。身代金なんて用意する気ないんでしょ? 引き渡しは今日の夜十時って言ってた。でもお父さんは……なにも対応してないんでしょ?』
「……」
俺はなにも言えなかった。
『私のためにお金なんて……出すわけがないもん』
諦め。
電話越しでもその心が伝わってきた。
いつもの天乃の強い口調が全く感じられない。弱々しくて、今にも泣きそうな声だ。
『会ったならわかるでしょ? お父さんが私のことをなんとも思ってないって』
「……そうだな。お前の言うとおりだった」
『だからいいの。私を心配してくれる人なんていないから。私はどうなっても』
心配してくれる人なんていない?
なに言ってんだ? 馬鹿野郎。
「お前を心配してる奴なら、ここに三人もいる」
『え?』
「お前、今どこにいるんだ? 場所を教えろ。助けに行ってやる」
『な、なに言ってるのよ……危ないから来たら駄目よ! サニーだけは逃がすから、あんたまで危険な目に合うこと――』
「自分だけ犠牲になろうとしてんじゃねぇぞ!」
天乃は最初、自宅にじゃなくて俺に電話してきた。
それは少なからず……俺を信用して、俺に助けを求めたからだ。
だったらそれに答えてやる。
「人をゲーム世界に無理やり巻き込んでおいて、勝手に自分を犠牲にしようとすんじゃねぇ!? 俺が言いたいことは一つだけだ! 絶対に助けに行ってやる! 黙ってそこで待ってろ! だから場所を教えろ!」
『……』
無言のままだった天乃が、やがて小さく呟いた。
『……茂野蔵町って言ってた。知ってる?』
「茂野蔵? 隣町だ。やっぱり、そんなに遠くじゃなかったんだな」
『その町の……廃港の中にある倉庫……』
「よっしゃ。瞳姉の車でぶっ飛ばせばすぐに着く。大人しく待ってろよ? 絶対に無茶するな」
『……うん』
あんまり長く話してると犯人に見つかる。最低限のことだけ聞いて、俺は通話を切った。
時間がねぇ。天乃の話では、引き渡しは夜の十時。それまでに二人を助けねぇと。金を用意する気がねぇってわかったら、二人がなにをされるかわからない。
「……浩之。説明」
「うん」
天乃との会話でわかったことを説明する。
天乃とサニーがいるのは隣町の廃港にある倉庫。金の引き渡しは夜十時。天乃はサニーだけを逃がそうとしてたけど、それを辞めさせたってことも。そんなの許すか。
「……さっきの会話」
「え?」
瞳姉が俺をじっと見てきた。
いつもの睨みと別の意味で怖い。
「……な、なに?」
「絶対に助けに行ってやる! ……なんて、さすが我が弟! 惚れ直したわ!」
「いでぇ!?」
思い切り抱きしめられた。
死ぬ! 骨折れる! いやマジで!
つーか、姉に惚れられても困るんだけど。
それに、助けに行ってやるとは言ったけど、正直作戦とかはない。こっそりと二人を連れ出せればいいんだけど……相手が何人かもわからないし、人質のいる所なんて見張りが絶対にいるし、難しいだろうな。
「さてと、じゃあ準備しなきゃね」
……準備? なんの?
つーかあの目。
瞳姉がめっちゃ戦る気なんだけど。
「瞳さん。私は二刀のほうが使いやすいんだが」
「そうねぇ……だったら竹刀よりも、こっちのほうがいいんじゃない?」
木刀を二本、ラナに渡す瞳姉。確かにラナは双剣士だから二本のほうが使いやすいだろうけど。そういうことじゃなくて……あの……もしもし?
「うーん……やっぱり使いやすいのはメリケンよね」
メリケン? あの拳に付けるやつ? あれで瞳姉が殴るの?
……怖すぎて想像したくねぇ。
そもそもなんでそんなの持ってるんだ?
「浩之はこれ持ってく?」
「……なにこれ?」
「私特製の大木刀」
瞳姉が俺に渡してきたのはでっかくて太い木刀。つまり、大剣みたいな木刀なんだけど……ちょっと待って。いろいろと待って。
「なんで俺がこれ?」
「ゲーム世界で大剣使ってるんでしょ? 似てるじゃない」
すいません。ゲーム世界みたいに振り回せません。つーか重てぇ。
「……なんでこんなの作ったの?」
「訓練用によ?」
なんの訓練だよ。
いや、そもそもの話……なんで完全武装なの?
まさかこの人たち……。
正面突破するつもりですか?
「瞳姉……もしかして正面突破するの?」
「当たり前じゃない?」
「それが一番手っ取り早いだろう?」
この二人の思考には慎重にという言葉がないのか?
「作戦なし?」
「誘拐犯なんて、所詮金目当ての下級犯罪者よ。そんなのに私が負けると思ってるの?」
その自信がすごいよ。
……確かに、瞳姉が負ける姿とか想像できないけど。
それに、一緒に生活しててわかったけど、ラナはゲーム世界とあんまり変わらない体スペックみたいだから、確かに正面突破は可能かもしれない。そう考えるとサニーもそうなんだろうけど、子供だし、ヒーラーだし、体スペックが元々高くないだけなんだろうな。
やべぇ……なんかめっちゃ頼りになる。
……今のパーティをゲーム世界的に表すとこんな感じ。
【瞳】 職・最強の高校教師
Lv200
力 300
体力 250
素早さ 250
知力 250
技 200
武器 メリケン 攻撃力 600
防具 お気に入りの私服 防御力 100
装飾品 なし
【ラナフィス=ルミナシア】 職・双木刀士?
Lv73
力 190
体力 90
素早さ 70
知力 15
技 60
武器 木刀×2 攻撃力 200×2
防具 ジャージ 防御力 50
装飾品 なし
【浩之】 職・ただの高校生
Lv1
力 3
体力 5
素早さ 3
知力 1
技 2
武器 大木刀 攻撃力 300
防具 高校の制服 防御力 50
装飾品 なし
俺……弱すぎる。
知力1って……。
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『おまけショートチャット』
「この大木刀……どうやって作ったの?」
「自分で木を切って、自分で加工したの」
「瞳姉はなんでもありだな」
「先生はなんでもできるものよ?」
「普通の先生は木を切って木刀は作らないと思うよ」




