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ゲーム世界に三年居た俺は期末テストが最大の敵でした⑤

「ゆうかい?」

「あぁ。簡単に言うと、天乃とサニーが連れ去られたってことだ」


 くっそ。さっきの電話だけじゃ情報が少なすぎる。かけ直しても通話中だし。


 なんかないか……なんか!


「……そうだ!」


 誘拐犯はこう言ってた。


 自宅にかけろって言っただろ! って。

 つまり、天乃の家に電話が行ってるはずだ。どうせ身代金目当ての誘拐だろうし。だから通話中なんだろう。


 だとしたら……身代金さえ渡せば二人は返してもらえる。天乃の家は虎上院財閥だ。身代金ぐらいぽんと出せるだろ。娘のためなら。


 よし。ならとりあえず……。


「おい! どこに行くんだ?」

「天乃の家だ! ちょっとは状況がわかるかもしれねぇ!」

「アマノの家を知っているのか?」


 ラナの指摘に、俺は足を止めた。思考をぐるぐると回らせる。


 そういえば俺……天乃の家知らねぇや。


「……知らないんだな」

「うぐ……」


 あんな勢いよく走り出したのに、すっげぇ恥ずかしい。

 ……どうしましょ?


「ヒトミさんに連絡してみたらどうだ? がっこうのせんせい……なんだろ? 教え子の住んでる場所ぐらい知っているんじゃないか?」

「そ、そうか!」


 瞳姉に連絡すれば住所ぐらいはすぐにわかる!

 さっそくスマホで瞳姉に電話した。コール音のあと、瞳姉の気の抜けた声が聞こえてきた。やる気ねぇなこの人。仕事中だろいちおう。


『浩之? なによ~私、これから職員会議なんだけど?』

「瞳姉! 天乃の家の住所わかる!?」

『……は?』

「家の住所だよ! 早く!」

『は? え?』


 状況がわからない瞳姉は、しばらく戸惑っていた。でも、俺の必死な声にただごとじゃないと思ったらしい。さっきとは打って変わって真面目な声で、俺を制止した。


『落ち着きなさい! ……理由を教えなさい。そうしないと教えないわ』

「……」


 深呼吸してから、俺は瞳姉に全部話した。


『……マジなの? それ』

「マジもマジ、大マジだよ! だから家の住所! 早く!」

『……わかったわよ。それから、私も行く』

「……え? 職員会議じゃないの?」

『そんなのどうでもいいわ。先に行ってなさい。私もすぐに行くから』


 どうでもよくはないんじゃ……まぁいいや。


 瞳姉に住所を聞くと、町の外れだった。あんまり行ったことないけど、なんとかわかる。走れば十五分ぐらいだ。


「うおぉぉぉっ!?」


 全力で走る。現世界での人生でこれだけ全力で走ったことはないってぐらいの全速力だ。なのに、


「待て、私も行くぞ」

「わっ!?」


 ラナは軽く追いついてきた。必死な俺の顔に対して、涼しい顔で。体のスペックが違いすぎる。


「……? ヒロユキ。もっと全力で走っていいぞ? 私に遠慮することはない」

「い、いや……めっちゃ全力なんだけど……」


 むしろあなたが俺に合わせてください。






ミ☆






「ぐはぁ……ぜぇぜぇ……がっふ……」

「……生きてるか?」


 呼吸が止まる寸前です。

 全速力で十五分はきついって……一般高校生の体力舐めるなよ?


「……でっけ」

 

 呼吸を整えながら目前にそびえ立つ門を見上げる。

 門がすでにでけぇよ。学校の門の何倍あるんだよ。周りをこれまたでけぇ塀で囲まれてるし。監視カメラがあちこちにある。絶対に侵入不可能だ。


「……でっけ」


 うん。二回目。

 門の奥に見える、あり得ないぐらいでかい家。

 城かよ。マジで。いや、マジで。それに門から家まで遠いっつーの。庭広すぎだろ。庭の中を車で移動とかしてるんじゃないかって思うぐらいだ。


 ……インターホンとかあんのかな? どうやって入れてもらえばいいんだ?


「なにか用かね?」


 どうしようかと門の前をうろうろしてたら、警備員っぽい人に呼び止められた。もしかして、家の周りを警備してるの? さすが金持ちの家。


「あ、あの……虎上院天乃さんのクラスメイトなんですけど」

「お嬢様の? お嬢様はいま留守のようだが……」


 留守? 留守っていうか……家出して誘拐されてんだよ。

 とりあえず、天乃の親父さんに会わないとなにもわからないな。会ってくれりゃいいけど……財閥の主が、こんな高校生に。


「……天乃さんのお父さんに会えないでしょうか?」

「むぅ……旦那様はこれから取引で出かけると言っていたから時間がないと思うが、いちおう聞いてみよう。あぁ、念のため学生証はあるかな?」


 学生証を見せると、警備員はスマホで誰かと会話していた。

 それにしても……なんだこの違和感?

 なんか……落ち着きすぎじゃないか? お嬢様が誘拐されたんだぞ? まだ電話来てねぇのかな? そもそも……天乃が家出してることも知らないみてぇじゃねぇか。

 会話を終えた警備員が、俺とラナを交互に見てきた。


「時間はあまり取れないようだが、会ってくれるそうだ。ただし……君だけになるけど」

「あぁ……」


 ラナは学生証なんて持ってないからな。身元のわからない奴は入れられないってことか。


「ヒロユキ、行って来い。私はここで待っている」

「あぁ。悪いな」


 ラナを門の前に残して、俺は警備員に案内されて家の中に入った。






ミ☆






「……」


 落ち着かねぇ。

 なんだよこの広い部屋。応接間? 学校の教室が四つ分ぐらいあるんだけど。

 俺の家も元民宿だからでかいほうだけど、レベルが違う。これが本物の金持ちか。


 部屋をキョロキョロと見てると、扉がノックされた。無駄にビクンとする。


「お待たせいたしました」


 執事っぽい年配の人が俺に挨拶をして、その後ろから……高そうなスーツに身を包んだ男の人が入ってきた。白髪交じりの髪に、貫禄のある髭を生やしてる。一目見てわかった。この人が社長だって。


「……天乃のクラスメイトが、私になんの用かね?」


 低い、どこか重みのある声。聞くだけで、なんか重圧がかかる。

 財閥の社長だけあって、そこにいるだけで存在感がある。普通の高校生が前にするにはきつい相手だな。

 それに……やっぱり落ち着いてる。まだ誘拐犯から電話が来てないみたいだな。さっきの通話中は別の理由だったのか? だったら教えてやらないと!


「あの! まだ知らないかもしれませんけど、天乃さんが――」

「誘拐。だろう?」


 俺は目を見開いた。そして親父さんの顔を見る。


 知っていた? 知ってるのに……この人はこんなに落ち着いてるのか?


 娘が誘拐されてるのに?


「で、電話が来たんですか?」

「娘を返してほしくば、一億円よこせと言ってきた。引き渡し場所と時間も指定されている」

「……じゃあお金を払うんですね」


 警察も呼んでないし、身代金を大人しく払って天乃を返してもらう。俺はそうするもんだと思って、ちょっと安心した。けど、


「払うつもりはない」


 俺は耳を疑った。


 払うつもりはない? どういうことだ? 娘を返してもらうための金だぞ?


「な、なんでですか!? 一億ぐらい、虎上院財閥ならすぐに……」

「確かに一億なんてすぐに用意できる。しかし、無駄なことに金を使うほど愚かな行為を私はしたくない」

「……無駄?」


 娘のために金を払うのが無駄だって?

 なに言ってんだこいつ?

 それだけ有意義な金の使い方はねぇぞ。


「だったらせめて警察を呼んで誘拐犯を捕まえてもらうべきなんじゃないんですか!」

「虎上院家が警察の世話になったなど、イメージが悪くなるだろう?」


 そんな世間体気にしてるのか? こんなときに……。

 殺されちまうかもしれないんだぞ? 天乃とサニーは……。


「……じゃあ天乃はどうするんですか?」

「どうするもなにもない。放っておく」

「……どうして?」


 こいつの口から出てくる言葉の一つ一つが信じられない。


 本当に……天乃の親なのか?


「どうして? おかしなことを聞くな。必要ないからだ。私の後継者には長男の海人がいる。そもそも女に私の会社を継がせる気もないしな。だから……金は払わん。誘拐犯なんぞの思い通りにさせてなるものか」


 なんだこいつ?

 温かみの欠片もねぇ目だ。

 本当に……天乃のことをなんとも思ってない。


 ふざけんな。


「後継者だとかそうじゃないとか以前に……天乃はあんたの娘じゃないのかよ!?」


 堪えきれず、俺は叫びながらテーブルを叩いて立ち上がった。

 後継者じゃないからなんだっていうんだ? 血の繋がった家族だぞ? その家族のことをなんとも思ってないなんて……それでも親かよ!?


 でも、そんな俺の声も、


「……家族の情か? そんな物が、私になんの利益を生むと言うのだね?」


 届かなかった。


 冷たい。この馬鹿野郎の心には。


 自分の子供に全く関心がない親なんて、本当にいるのかと思った。


 天乃があれだけ親を嫌うなんて……その気持ちがわからなかった。


 でも、今わかった。


 こいつは天乃のことを全く見ていない。

 娘としてどころか……一人の人としても。


 これ以上話してても無駄だ。


「話は終わりかね?」

「……あぁ。もう話すことはねぇよ」


 こいつの顔はもう見たくねぇ。さっさと扉を開けて部屋を出ようとして、一つだけ言い忘れたことがあったのを思い出した。


「一つだけ、言っておく」

「なんだね?」

「……天乃は今、俺の家にいる。家出したんだ。あんたのせいで」

「ふむ。そうか」


 どうでもいいって声だな。ちくしょう。


「……あんたが天乃のことを見るまで、天乃はここに帰さない」

「好きにしたまえ」


 部屋の扉をおもいっきり閉めて、俺はそのまま虎上院家を出た。






ミ☆






「ヒロユキ」


 門から出てきた俺に、ラナが駆け寄ってきた。


「……ヒロユキ。珍しく怒っているな? なにがあった?」


 俺の表情を読んだラナが、状況の説明を求めてきた。怒ってるように見えるのか? 俺。

 確かに、今の俺はちょっと感情的だな。ちょっと落ち着こう。


「ラナ。俺をぎゅっとしてくれ」

「……こうか?」

「いや、ほんとにやんなくていいから」


 別の意味で感情が高ぶるから。


「浩之!」


 軽自動車が門の前に停まった。中から顔を出してきたのは、瞳姉だ。


「どうなったの? 天乃ちゃんのお父さん、どうするつもりなの? なんか……やけに静かだけど」


 瞳姉も俺と同じことを思ったらしい。

 娘が誘拐されたのに……屋敷が静かすぎる。落ち着きすぎている。

 そりゃそうだ。誘拐に対して……なにも手を打ってないんだからな。


「……家に帰ってから話す。とりあえず、もうこの家見たくないから」


 この家見てると、あのクソ冷徹親父の顔が浮かんでくるからな。


 瞳姉の車に乗って、とりあえず家に戻った。










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『おまけショートチャット』


「ヒロユキ。それで全力なのか?」

「ぜ、全力も全力……死ぬ気で走ってるけど……」

「ウインドランを使ったらどうだ?」

「ここは現世界です……」

「ならば私がおぶって走ってやろう。トレーニングにもなる」

「いろいろとやばいからやめておく……ていうかごめん……話しかけないで……呼吸が……」

「倒れたら私が人工呼吸してやる。心配するな」

「……(一瞬。倒れようかと迷った)」

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