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ゲーム世界に三年居た俺は美少女に罵倒されました②

「あれ? 浩之。来たの?」


 俺が教室に入るなり、小学校からつるんでる鶴峰晃が、その幼い顔を向けてきた。

 いや、幼いって言っても見た目だけだけど。ちゃんと俺とタメだけど。

 童顔で背が低いし、声もどこか子供っぽい。見た目は小学校……は、行き過ぎでも、中学校上がりたてが頑張っても精いっぱいだ。


「瞳姉に呼び出された」

「瞳先生? 相変わらず仲良いねぇ~」

「……どこの世にチョークを耳に詰め込もうとする仲良しがいるんだ?」


 時間的には五限目が始まる少し前だ。コンビニで買ったサンドイッチを口に放り込みながら、時間割を確認する。


「げっ……瞳姉の授業じゃねぇか」


 五限目は現代文の授業。瞳姉が担当してる教科だ。だからあれだけ来いって言ったのか?


「漢字のテストだよ。範囲覚えてる?」

「……やっぱり、俺今から早退するわ」

「来たばっかりなのに!?」


 これで悪い点でも取った日には、瞳姉になにを言われるかわかったもんじゃない。まぁさぼっても怒られるけど。部屋に鍵をかけて閉じこもろう。そそくさと鞄を掴んで教室を出ようとした俺に、晃が思い出したかのように呟く。


「そういえば、今日転校生が来るんだってさ」

「転校生?」

「そう、五限目から合流するって言ってたよ」

「……中途半端だな」

「家の都合で遅れたんだってさ」


 あぁ。瞳姉がさっき、ちらっと言ってた一大イベントってそれのことか。

 別にどうでもいい。格好良い男が来て女子が「きゃー!」って言うか、可愛い女の子が来て男子が「うおぉー!」って言うか、もしくはブサ顔が来て寂しい拍手で終わるかのどれかだろ。


「――って思ってるでしょ?」

「お前、人の脳内を読むな」


 こいつは変な所で鋭い。いや、俺がわかりやすいのか?


「ふっふっふ……実は僕、職員室で盗み聞きしてきたんだ! 先生たちの会話をね!」

「お前、将来探偵にでもなるの?」

「いや、どちらかっていうと刑事かな?」

「大して変わらん」

「まぁまぁ。それよりも……気にならない? 転校生のこと」


 含みを持たせた言い方だな。こいつがこんな言い方をするときは、なにかを企んでいるときだ。


「気にならない」

「嘘つきなって。浩之だって人並みに女の子に興味はあるはずでしょ?」

「ほう。転校生は女の子なのか?」

「あ」


 こいつに探偵と刑事は無理だな。

 女の子か。まぁ女の子とわかればそこそこ興味はある。さっきはどうでもいいと思ったが、そのどうでもいいの標的が確定すれば見方も変わる。わからないときよりは興味も出る。しかも、こいつがこんなにニヤニヤしてるってことは、


「可愛い女の子だろ?」

「ぐぅ……」


 図星を突かれ、晃は悔しげに眉を曲げた。これはむしろ俺のほうが探偵に向いてるんじゃね?


「写真もあるんだよ。見たい?」

「……隠し撮りか? お前、探偵っていうかストーカー――」

「あぁ! 先生来たよ!」


 誤魔化すように大声をあげ、晃は教室の入り口を指差した。その動作が明らかに不自然だ。俺の指摘をあやふやにしようとする気満々じゃねぇか。

 ていうか、やべっ。晃の話に付き合ってたら逃げそびれた。教室の扉を開け、瞳姉が入ってきちまった。そして俺を一睨み。怖いです。ガチで。もう逃げられない。

 瞳姉はもったいぶるように、コホンとわざとらしく咳払いし、廊下を指差した。


「えーっと、今朝言ったけど……今日からこのクラスに転校生が来ることになったから! みんな仲良くしてあげてね! そこのサボリ魔もね!」


 瞳姉。根に持つタイプだよな。俺は顔を逸らし、その場にいません的な空気を出した。


「じゃあ、入ってきていいわよ」


 瞳姉が促すと、扉をカラリと開け、一人の少女が入ってきた。

 晃に可愛い女の子と聞いていた俺は、それほど驚きは……。


 ……いや、驚いた。


 周りで「うおぉぉぉぉっ!?」と俺の想像を遥かに超えた歓喜の声をあげる男子たちほどではないが、驚いた。


 可愛い。どころではない。


 めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。晃コラ。


 しばしの間、クラスの男子の目は転校生に吸い込まれていた。

 ていうか、見過ぎだ。俺も含めて。中には血走った目で見てる奴。ハァハァと危ない呼吸をしている奴。なにかやばいことを妄想して悶えてる奴。

 ……なんだこのクラスは? こんな変態クラスだったのかここ?

 桜色のスラリと伸びた髪。前髪はくせっ毛なのか、くるくるとカールしている。高級な糸のようなその髪だけでも綺麗なのに、顔にバランスよく配置された宝石みたいな青い瞳がさらに綺麗さを際立たせている。可愛いというか美人系か。そして抜群のスタイル……って、あれ? 胸はけっこう貧相だな。腰はめちゃくちゃ細いけど。むぅ、残念。あれで胸が大きければ神なのに。


「……虎上院天乃です。今日からお世話になります」


 必要最低限のことだけ言い、転校生……虎上院天乃は頭を下げた。表情を変えず、どこか冷たい声に、女子の間からヒソヒソ話が聞こえる。無愛想だ。などと言っているのだろう。しかし残念だったな。むしろ今の態度で火が点いた男子もいるみたいだぞ。周りから「あの冷たい目がたまらん……」って声が聞こえる。


「えっと……虎上院さんの席は……」


 瞳姉の目が、俺で止まった。俺の席は列の一番後ろ。横は空席。この流れはやはり、


「浩之の隣でいっか。面倒見てあげてね?」


(おっしゃあぁぁぁぁぁぁっ!?)


 さっき、クラスの男子が上げた声よりも大きい歓喜の声を、俺は心の中であげた。


「……虎上院さんに変なことしたらダメよ?」


 そして釘も刺された。変なことなんかするか。ちょっと仲良くなりたいだけだ。ていうか、クラス全員の前でそういうことを言うんじゃないよ。そんなに我が弟が信用できないか。


「……」


 後ろの席まで歩いてくる虎上院を凝視し続ける男子。

 虎上院が通ったあとに残る良い匂いを残らず嗅ごうと鼻をクンカクンカさせる男子もいる。まてまて。それはさすがに気持ちわりぃぞ。純粋にドン引きだ。

 そして少なからず、俺への嫉妬心も感じる。それはそうだ。こんなスーパー美少女の隣の席をゲットしたんだからな!


「よろしく。俺、赤柳浩之って言うんだ。浩之って呼んでくれ。あ、ひー君でも可だぜ?」

「……」


 差し出した俺の手をじっと見て、それから俺の顔もじっと見る。手を握り返してくれる気配はない。もしかして……どさくさに紛れて手を握ろうとした下心がばれたのか? いや、これは純粋に親睦の輪を深めようとしているだけで、そんな邪な心は――。


「ニヤけないでよ。この変態。死ね」


 俺は一瞬で凍りついた。心を氷河期が訪れた。耳が凍って腐り落ちるかと思った。

 え? 今の言葉って……この子が言ったの? あの可愛いお口から? あんな汚い言葉が? いやいや……聞き間違いだろう。俺は歓喜のあまり妄想を――。


「必要以上に話しかけないでね。隣の席だからって、仲良くなれると思った? 私はあんたなんか相手にしてる暇ないの。お生憎様だったわね。とりあえず死ね」


 とりあえず死ね!? なんで初対面で二回も死ねって言われなきゃいけないんだよ! ていうかとりあえず死ね!? とりあえず死ねって、そのとりあえずの後にはなにかあるんですかぁ!


「あ、あの……」

「話しかけないでって言ったばっかりよ。それとも、頭の中が鶏以下なのかしら。三歩歩きもしないで忘れるなんて……屋上から飛び降りて死ね」


 具体的に死に方まで指示されちゃってますけど!? 本当に飛ぶぞ? いいのか? 俺は知らないぞ!? 遺書にお前の名前書いてやるぞ!


「全く……隣の席がこんなのだなんて。最悪。死ねばいいのに」


 こんなのって。どんなの? 死ね死ねいいすぎだろ。

 初対面で最悪とか言われるほど、俺はひどい容姿をしているのか? 自分では(晃にも言われたが)ルックスは普通だと思ってる。良くもなく、悪くもなく、だ。それはそれで虚しいが。


 完全に容姿に騙された。

 こいつは天使の面を被った悪魔だ。

 いや、魔王だ。しかも、裏ダンジョンを攻略した後に出てくる真魔王だ。そのうち二形態、三形態って変身していって闇魔法とか使ってくるぞ。世界を破壊するぞ。


「……」


 つーんと俺には目もくれない虎上院。体中から話しかけるな的なオーラを放っている。威圧感が半端ない。

 なにこいつ? 覇○使い? 気迫だけで五万人を倒しちまう人種か?

 目線を黒板に戻し、自己紹介のときに瞳姉が書いた、虎上院天乃という名前の文字を見る。


 うん。俺は出会って数分で悟った。


 俺とこの女は相容れねぇ。




 ……人に向かって死ねとか言っちゃいけないんだぞ!

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