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ゲーム世界に三年居た俺は女剣士に見下されました③

「……くっそ。完全に夜じゃねぇかよ」


 アカムレッド地方の東側。一面草原のフィールドを歩くこと数時間。完全に日が暮れた。あたりはまさに闇と化してる。夜はモンスターの数が増えるからフィールドに出ないのが一般常識なんだけど。


「モンスターに見つからないから別にいいじゃないの」


 お前は相変わらず俺の脳内にツッコみを入れるな。

 確かに、俺たちは今インビジルリアで姿を消してるからモンスターに気づかれないけどさ。


「インビジルリアで俺のSPめっちゃ消費してるけど?」

「別に無くならないでしょ?」

「……うん」


 俺のチートぶりを恨むぞ。


 さて、ここまでの経緯を話そう。

 現世界で夕飯を食べた後。晃は「ギャルゲーの発売日を忘れてた!?」と夜の商店街へ。遅い時間だけど、最近のゲームショップは日付が変わるぐらいまでやってる所も多い。そして瞳姉は約束があるらしく、友達の家へ出かけた。

 残された俺たちは……明日が休みということもあり、ゲーム世界へと飛んだんだ。

 ぶっちゃけ、俺は大人しく寝たかったけどな。アマノが行くって聞かなかったんだ。

 ……だったらショッピングモールなんて行かないでさっさと行きゃよかったのに。


「サニーはすっかり寝ちまってるしよ……」


 サニーは俺の背中で寝息を立てている。ちらっと寝顔を見ると、思わず顔が綻びそうな、純粋な可愛らしさ全開。

 ……言っておくが、俺の言う可愛いは純粋に子供としてだからな? 変な方向に考えるなよ?


 まぁ時間的にもう遅いからな……子供にはきついか。


「……私がおんぶしてもいいわよ?」

「お前は邪な心があるから駄目」

「……」


 睨むな。本当のことだろうが。すでにサニーの寝顔でめっちゃ顔緩んでるじゃん。おんぶなんてさせたら、その顔どうなるんだよ。


「お?」


 完全に闇と化していたフィールドに、光が戻ってきた。

 と言っても、朝になってきたわけじゃない。その光は朝日の物ではなく、真っ赤な夕日だった。


「……やっと着いたか」


 遠くに見える、真っ赤な夕焼けに包まれた町。

 あれが【サンセット】だ。






ミ☆






「……なんなのここ? なんで夜なのに夕方なの?」


 時間的には深夜。なのにサンセットの町は夕焼け空だった。

 俺も初めて来たときは驚いたけどな。これはこの地方の特色だ。


「サンセットの周辺はな、朝昼夜関係なく、ずっと夕焼け空なんだよ。だからサンセットって言うんだ」

「……サンセットって日が沈むことじゃないの?」

「聞こえんな。ゲームにそんな細かい指摘は無意味だ」


 俺も深い理由は知らん。


 サンセットはそんなにでかい町じゃねぇけど、町の南にある【夕日森】で取れる【夕焼け草】目当てに行商人がけっこう集まる。夕焼け草はいろんな薬に使える万能薬ってやつだ。

 つっても、夕焼け空とはいえ、時間は深夜だ。さすがに町中に人の姿は見えない。

 サニーもお眠だし、今日はさっさと宿に行こう。俺もいい加減眠いし。


「ヒロユキ」

「あん?」

「アカムレッドクレープ」

「……こんな深夜に店なんかやってねぇよ」


 お前、そればっかだな。

 つーかサンセットにもあったか? あれってアカムレッド城下町限定だった気がするんだけど。


 ……アマノを手なずける新しい餌を考えないとな。


 えっと、宿屋は確か広場の西側だったかな? 俺も前に来たのはずいぶん前だからうろ覚えだ。不満そうな顔をしているアマノだけど無視。さっさと宿屋へと向かう。


 その途中で。


「……ん?」


 道の反対側から歩いてくる、人影が見えた。


(……女?)


 夕焼けに染まる町の中を歩いてくるそいつは、腰に二本の剣を持って、軽装の鎧を着ている長い黒髪の女だった。

 剣を二本もってるところを見ると、双剣士か?

 夕日でちょっと顔が見づらいけど、それでもわかるぐらい美人だな。アマノと良い勝負だ。

 いや、アマノより大人びた顔してる。それに……胸は完全にあっちの勝ちだ。圧勝だ。完封負けだ。どうあがいても勝てっこない。


「あんた、今変なこと考えなかった?」

「……気のせいです」


 その本気の敵意向けるのやめれ。


「……」


 すれ違いざまに、女の顔をちら見。

 ……なんか無表情だな。クール美人? そんなタイプだ。たぶん、友達とか少なそうな感じがする。見た目で人を判断するのは失礼かもしれんが。


「おい」

「へっ?」


 完全にすれ違ってから、女が声をかけてきた。

 振り向いて目が合ったことで……やっぱり美人だと見惚れる。でも、やっぱり俺を見るその目は、どこか冷たい。射抜かれるような感覚だ。

 ……そしてやっぱり胸でかい。瞳姉と同じぐらいあるんじゃねぇか?


「私の顔になにか付いているか?」


 あ、さっきちら見してたことに気づかれてたっぽい。今もがっつり見てたし。


「いや、別に。こんな深夜に女一人だから珍しいなと思っただけ」

「……」


 女は無言で、手を腰の剣にかけた。そして抜刀。

 え? なんで?


「【ソニックブレイド】!」

「うわっ」


 いきなり、剣士のスキル【ソニックブレイド】をかましてきた。帯刀状態から抜刀して、斬撃を飛ばすスキルだ。攻撃モーションが速くて、回避しにくい。

 完全な不意打ちだったことと、ある理由で俺は直撃を受けて吹っ飛んだ。攻撃モーションが速いスキルだってことをふまえても、かなりの速さだ。こいつ、けっこうレベル高いな。


「ヒロユキ!?」


 珍しく心配した表情でアマノが駆け寄って来る。その顔、けっこうグッジョブ。

 あぁ……アマノが俺を心配してくれるなんて。俺は今、猛烈に感動している。


「サニーは平気なの!?」


 ……。

 ……心配だったのはサニーかよ。

 いや、わかってたよ。だから悲しくないもん。ちくしょう。


 サニーはもちろん大丈夫だ。俺が吹っ飛んだ衝撃で起きちまったみてぇだけど。寝ぼけ顔で目を擦ってキョロキョロと首を動かしてる。


「……あれぇ? ここどこ?」

「大丈夫!? 怪我してない! 痛いところない!?」

「ふえ? 大丈夫だよー」


 状況がわかっていないサニーをアマノが抱きしめる。抱きしめる必要はないんじゃないですかね? 絶対に抱きしめたかっただけですよね? そもそも攻撃食らったの俺なんだけど。俺も抱きしめて。


「……違うか」


 そして俺にスキルをぶっ放した張本人は、どこか期待外れ感を出した顔で、俺を見下していた。

 この女。どういうつもりだ? いきなり町中でスキルぶっ放すとか普通じゃねぇぞ。いくら美人でもやっていいことと悪いことがあんだろうが。


「おいコラ。お前なんなんだよ? いきなり初対面でスキル撃ってきやがってよ」

「ステータスを非表示にしているということは、それなりの強者なのかと思ったが、今のを回避できないようではたかが知れている。あぁ……いきなり攻撃したことは謝ろう」


 女は剣を鞘に納めた。これ以上攻撃をしてくる気はないみたいだ。

 謝って済むなら警察はいらないんだけど? つーか実際俺じゃなかったらけっこう致命傷だったかもよ? まぁちなみにダメージは0だったけど。


「ということは、単に低すぎる自分のレベルを見せたくないから、ステータスを非表示にしているだけか。まぁ弱さの証を晒すのが嫌なのはわかるが……それでは誤解を生む。気をつけたほうがいいぞ」

「はぁ?」


 なに言ってんのこいつ?

 確かにステータスを非表示にするのは、今こいつが言った二つが主な理由だけどさ。なんかすげぇいろいろと言われてる。


 その中でも、だ。

 こいつ今……俺のこと弱いって言ったよな?


 カッチーン。


「俺が弱いってんなら確かめて――」

「では失礼する。私の忠告はちゃんと聞いておいたほうがいいぞ。この町には今……血の気の多い連中が集まっているからな」


 ナイスシカト。


 女は俺のことなんか見向きもせず、夕日の町に消えて行った。


 ……なんか身構えた俺が馬鹿みたいなんだけど。






ミ☆






「うぐぐぐ……」


 俺は宿の部屋で悔しさのあまり、唸っていた。

 あの女……今度会ったら目に物見せてやる。


「いつまで唸ってるのよ?」

「うぐぐぐ……」

「聞こえてないねー」

「うぐぐぐ……」

「……うざい」

「つめてっ!?」


 アマノが俺の頭にウォタルを撃ち込みやがった。


「しょうがないでしょ。実際あんたやられてたし」

「言っておくけどなぁ! 俺はあえてスキル受けたんだぞ! だってあの時は――」

「わかってるわよ。背中にいたサニーを庇ったんでしょ?」

「……」


 なんか人に悟られると、荒れてた自分が急に恥ずかしくなる。

 あのとき、背中にサニーをおぶってたから、俺は回避しなかった。へたに避けてサニーに攻撃あたったら、俺はノーダメージでも、サニーはそうはいかない。それにアマノに殺される(マジで)。だから正面から攻撃を受けたんだ。


「ユッキー、やられたの? さっきの女の人に?」

「サニー。そこだけ強調しないでくれ。また我を失う」


 今度は唸るだけじゃなくて、床を転がるぞ?


「……さっきの奴も、四角を倒すためにこの町に来たのかしらね?」

「どうだかな。この町はアカムレッド地方とクロック地方の間にある町だし、夕日森もあるからそれなりに人は集まるし。全部が全部そのために来てるわけじゃねぇだろ。つーかあんな女のこと知らん」

「……あんた、意外と根に持つのね」


 意外とってなんだ? 俺は根っからそんな奴だ。ゲーム世界で俺を馬鹿にした奴は一泡吹かせるまで絶対に忘れないぞ。


「私たちも町長の所に行かないとねー」

「明日な。今日はもう深夜だし。疲れた。それにさっさと寝て、あの女のこと忘れたい」

「……頭冷えるように、もう一発ウォタル撃っとく?」

「やめてください」


 杖を構えたアマノから逃げるように、俺はさっさとベッドにもぐりこんだ。でもアマノとサニーはまだベッドに入ろうとしない。


「私たちはお風呂入って来るから」

「ん? 現世界で入ったじゃん」

「外歩いて汗かいちゃったからもう一回入るの」

「……あっそ」


 女ってのは綺麗好きだな。俺からすれば、風呂なんて一日一回で充分だ。もう一回入ろうなんて考えない。朝風呂? 顔洗うだけで充分だろ。


「ユッキーも一緒に入る?」

「うん」

「……」

「冗談っす」


 アマノが修羅の顔で俺を見てた。

 うん。あれはマジで殺る気の顔だった。ていうか冗談に決まってるだろ。






ミ☆






 翌朝、俺たちは起きてすぐに町長の家に行った。朝でも、この町は夕焼け空だから時間感覚狂うな。昨日着いたときと全く景色が変わらない。人通りが増えたぐらいだ。


 町長の家に着いて、まず、ちょっと驚いた。

 もう少し、家の外とか人で賑わってると思ったんだけど……人っ子一人いない。


「……町長が強者を集めてるんじゃないの?」

「俺を見るな。国王がそう言ってたんだから」


 冒険者なんて一人もいねぇけど。


 家の中に入ると、やっぱり強者なんて一人もいない。大柄で貫禄のあるじいちゃんが窓から外を眺めてるだけだった。

 ……相変わらずたくましいな。サンセットの町長。この人がある意味強者だけど。


「ん? 誰だね。君たちは」

「あ、えっと……この町で冒険者を集めてるって聞いて来たんですけど」

「……君たちのような子供がかね?」


 町長は俺たち三人をじっと見てから、唸った。なにか悩んでる。

 まぁ確かに、十代の男女に、完全に子供な女の子の三人組だからそんな反応するのも無理はねぇけど。


「しかし、少し遅かったな」

「は?」

「冒険者の中から集めた強者たちは……今日の明け方、夕日森に向かってしまった」


 あらら。確かに一足遅かったか。

 まぁでも別に問題ない。


「別に俺ら一緒に行かなくてもいいですよ。夕日森ですよね? ていうか、けっきょく四角がなにを探してるかわかったんですか?」

「いや……全く見当がつかんのだよ。四角の一人【紅炎】を筆頭に、奴らは夕日森を荒らしている。これ以上好き勝手にされては……夕日森がどうなってしまうかわからない」


 ……紅炎。

 ていうことはあいつか。


 うーん。俺、あいつ苦手なんだけどな。


「そもそも四角ってなんなの?」

「私もよく知らないよー?」


 アマノとサニーが俺をじっと見てくる。説明しろってことですね。すっかり説明役になっちまってるな、俺。


「魔王軍の中で、魔王直属の四人のことだ。それぞれ【紅炎】【氷刃】【疾風】【雷鳴】の異名を持ってる。まぁようは……魔王に次いで強い奴らってことだ」

「……けっこう凄い相手じゃないの?」

「だろうな」


 正直、先に夕日森に行った奴らが勝てるかどうかわからねぇぞ。

 四角はレベルの高さはもちろん、戦闘知識と戦闘慣れが半端じゃない。俺も前に戦ったときは、一人ずつ相手するのがやっとだった。


「町長さん。先に行った人たちって何人ぐらいいたのー?」

「二十人ほどだったと思うが……皆、腕に自信のある冒険者ばかりだ。きっと四角を倒してくれるだろう」


 最低でもレベル100超えじゃないと無理だと思うけど。


 それにしても……やっぱりおかしいな。


 まだ四角を相手にするような時期じゃない。俺が前に戦ったときは、かなりクエストを進めてからだった。

 顔合わせで戦闘無しとか? ゲームではよくあるけど。出会うけど戦わないでその場は終わるってパターンが。


「君たちも参加するなら止めないが……どうするんだね?」

「行きますよ。その為に来ましたからね」

「そうか。夕日森は町から南の方角だ。しかし、無理はしないでくれ」


 町長に挨拶をして、外に出ようとしたときだった。


「む?」


 一人の女が町長の家に入ってきた。


 ……おい。つーかこの女。


「あ、昨日の人だー」


 サニーがひらひらと手を振る。手なんか振らないでよろしい。

 昨日、初対面の俺に対してスキルをぶっ放してきた、失礼女だ。ここで会ったが百年目。昨日の恨みをここでたっぷりと……。


「……」


 女は俺の顔を見た。

 残念そうな、哀れそうな目で。完全に見下してる目で。

 ……うん。その目がなにを言ってるのか俺にはわかるぞ。


 弱いのに四角討伐に参加するなんて、こいつは本気か? って言ってるだろ。


「町長。四角討伐の件はどうなっている?」

「ん? 君もかね? 若者ばかり来るな……。集めた冒険者たちはもう夕日森に行ってしまったよ。君も向かうならこの子たちと一緒に……」

「いや。けっこうだ。足手まといはいらない」


 足手まとい? それは俺たちの……俺のことですか?


 はっはっは!


 ……上等だコラ。


「足手まといだって言うなら確かめて――」

「では行ってくる。町長、四角は私が必ず倒してくる。紅炎は、珍しい剣を使うみたいだからな。【呪剣】と関係があるかもしれない」


 ナイスシカト。


 女は俺たちの横を通り抜け、さっさと出て行ってしまった。もう視界には俺たちが映ってないもよう。

 呪剣だって? なんだそりゃ。まぁそれは今はいいか。

 ……ステータスを見てやれ。


【ラナフィス=ルミナシア】 職・双剣士

Lv71

力   180

体力   80

素早さ  70

知力   15

技    60


武器  フラムベルジュ×2 攻撃力 450×2

防具  聖騎士の鎧     防御力 300

装飾品 パワーリング    攻撃力+20%


 へー。まぁまぁのレベルじゃん。

 俺の十分の一以下だけど。けっ! こいつが十人いても俺が勝つけど!

 名前からしてゲーム世界の奴だな。現世界から来た奴ならセカンドネームは付かない。


「……まてよ」


 あの女と俺たちの目的は同じだ。

 ということは……。

 あの女に、目に物見せる大チャンスじゃねぇか。

 あいつよりも先に四角をぶっ倒せば……。


 先に四角撃破→俺つえぇ→あの女が俺にひれ伏す→俺気分最高。


「ユッキー。なんか笑ってるよ?」

「……ヒロユキ。あんた気持ち悪いわよ?」

「ぐふふふ……」


 やってやるぜ。

 あの女よりも早く四角を倒して……。


 今度は俺が上から見下してやる!




【クエスト 夕焼けの竜 開始】










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『おまけショートチャット』


「サニーを庇ったのはわかったけどさ、あんたでも攻撃受ければ吹っ飛ぶのね」

「違う。剣士のソニックブレイドにはノックバック効果があるから吹っ飛んだんだよ」

「ノックバック? 後ろに吹っ飛ぶってこと?」

「そうだよ。レベル差もステータス差も関係ない。当たれば吹っ飛ぶ。そういう効果だ」

「まぁサニーが無事ならなんでもいいんだけどね。あんたが何百メートル吹っ飛ぼうと」

「……あのとき、俺が何百メートルも吹っ飛んでたら、さすがにサニーも無事ではなかったぞ」

「そうしたらあんたをぶっ飛ばすだけよ」

「俺に慈悲はないの?」

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