ゲーム世界に三年居た俺は女剣士に見下されました②
朝一でゲーム世界に飛んで、ひたすらにレベルを上げること二時間ほど。
【アマノ】 職・マジックユーザー
Lv18
力 1
体力 1
素早さ 1
知力 87
技 50
武器 紅玉の杖 魔法攻撃力 60
防具 紅玉の魔服 防御力 40
装飾品 紅玉ピアス 魔法攻撃力+10%
【サニー=アカムレッド】 職・ヒーラー
Lv16
力 1
体力 1
素早さ 1
知力 67
技 60
武器 レッドロッド・改 魔法攻撃力 50
防具 ホワイトワンピース 防御力 40
装飾品 十字架のリボン 回復魔法の効果アップ
こんな感じ。
まぁ二時間じゃこんなもんか……これでもけっこうハイペースでモンスターを狩ったんだ。追い込み時の俺にはまだ程遠い効率だけど。
「なんでいちいちレベル上げとかするのよ?」
「次の町に行く前にレベルを上げるのはRPGの基本だ」
「あーるぴーじー?」
「……サニーはあんまり気にしないで良い」
いちいち文句の多い奴だな。
新しい町に行けば、モンスターは強くなる。だからこそ、レベルを少し上げてから進むのが当たり前だ。基本だ。レベル上げないで突っ走る奴もいるにはいるけど。それはゲームだから、例え死んでもやり直しができる。でもゲーム世界ではそうはいかない。だからこそ、万全に、安全に行動しなきゃ駄目だ。
まぁそうは言っても……レベル上げばっかりやってて、サンセットまでまだまだなんだけどな。
「そういえば、なんでサンセットに行くんだっけ?」
あぁ……そういえばサニーに目的はまだ話してなかったっけ?
「魔王軍の四角の一人がサンセットを襲撃して、近くの夕日森でなんか探してるらしいんだ。それで町長が冒険者から強者を募って、その四角を倒そうとしてる。俺らもその募られた冒険者に混ざって四角を潰す」
「おー……けっこう大きな目的だったんだね」
「……あとは、その募られた冒険者の中に、アマノの姉ちゃんがいないかの確認だな」
ぶっちゃけ、そっちが本当の目的なんだけどな。そのことはサニーにも話してある。俺たちがこの世界に来た理由を。魔王を倒すってのは、あくまでクエストを進めるうえで目指さなきゃいけない目的だ。
「アマノンのお姉ちゃんってどういう人なの?」
「……えっと」
アマノが少し照れたような顔をした。
こいつ。なんでこういう表情のときは劇的に可愛く見えるんだろうな? いや、いつも可愛いは可愛いんだけど。性格的に可愛くない。ギャップ萌え?
「優しいわ。自分のことより、私のことをずっと気にしてくれてて……。すごく綺麗な黒髪で、美人な人よ」
「大好きなんだねー」
「うん。大好き」
言い切るあたり、心の底からの本音か。
まぁ大好きでなきゃ、こんな危険なゲーム世界まで探しに来ないよな。
……あれ? 黒髪……?
アマノの髪は桜色だけど……父親と母親の血どっちが強く出てるか出てないかの違いかな?
まぁいいか。
「……そろそろ戻るか。遅れると瞳姉になに言われるかわからねぇ」
「ユッキーはさ? お姉ちゃんが好き?」
……突然なにを言いだすのこの子?
「……なんで?」
そういうことをはっきり言うには恥ずかしいお年頃なんだけど。
「だって美人だし。おっぱい大きいし。優しいじゃない?」
……胸関係あんの?
ていうか、そこをツッコむと、俺はまずどつかれるんだけど。
それから基本的に優しいのは君たちにだけです。
「……」
まぁ……それでも、俺にとっては、現在唯一の家族だ。
俺の面倒を見てくれてるし。怒ると怖いけど、恐怖でしかないけど。
「大好きだよ」
胸を張ってそう言えた。
ミ☆
……俺は現世界に帰ってきて早々。さっきの言葉を撤回したくなってきた。
俺のうちから車で三十分ほどの所にある大型ショッピングモール。そこで……女どもが暴走を始めた。
「これサニーちゃんに似合いそう~。買って行こうっと」
「先生! これもどうですか? サニーに最高にマッチしそうですよ」
「お菓子がいっぱいあるねー」
「猫耳……これをサニーちゃんが付けたら、私、萌え死ぬかもしれないわ……」
「尻尾も付けて『にゃあ』とか言ってもらったら最高ですよね……」
「アイスってこんなに種類あるんだー。ゴリゴリ君? あはは! 変な名前ー」
「……ゴスロリメイド服」
「……いきましょう」
いきましょう。じゃねぇよ。
そして荷物を全部俺に押し付けるんじゃねぇよ。
つーか怪しい物ばっかり買うんじゃねぇよ。
サニーも食べものばっかり見てないで、自分の身の危険に気づきなさい。完全に着せ替え人形にするつもりだぞ。あの二人は。
……お姉ちゃん大好き?
なにそれ? 俺そんなこと言ったっけ?
そして……。
「女の子の買い物って長くて激しいらしいからねー。ここは男の我慢どころかな?」
なんで晃がいるんだよ。
ショッピングモールの入り口でたまたまばったりと遭遇。その後ニヤニヤしながらくっ付いてきやがるんだ。
「……お前、どうせいるなら荷物少しは持てよ」
「僕、ゲーム機より重い物持ったことないからね」
いつだかギャルゲーを山のように買って、軽々と持ってたじゃねぇか。
女どもの買い物の間、暇だから晃に今までの経緯を説明した。つーかしねぇと、いい加減に天乃との関係を誤解されそうだし。
「浩之がまたゲーム世界にかぁ……正直驚いた」
「は?」
「もう絶対に行かないって言ってたからね」
「……まぁな」
たぶん。俺のことをよく知ってるのは、瞳姉の他には晃だろう。
だからこそ、俺がまたゲーム世界に行ったことに驚いてるみたいだな。
……まぁ自分で言うのもあれだけど、当時、ゲーム世界から戻ってきた俺は酷い有様だったからな。
それなりに立ち直れたのは、瞳姉と晃のおかげだと言っても過言じゃない。
だとしたら少しどころか、かなり感謝してもいいんだろうけど。
「……それにしても、ゲーム世界の王女様か。惜しい。もう少し年齢が上なら守備範囲だったのに」
……素直にそう思えないのはなんでだろう?
「……ロリもありかな?」
あぁ。こいつの性格のせいか。
……どいつもこいつも。
「でもさ、浩之」
「ん?」
晃が少し真面目な顔で俺を見てきた。
「前みたいに三年も帰ってこないのはやめてね?」
……そんな顔すんなよ。
俺だってもう御免だ。
三年もこっちに戻れないなんてな。
「……あぁ」
「浩之がいないと、僕のギャルゲー批評を聞いてくれる人がいなくなるからね」
「……あ、なんか帰ってきたくなくなったぞ」
三年と言わず、十年ぐらい帰ってこなくてもいいかも。
「ちょっとお金おろして来るわね」
さらに追加された俺への荷物。腕が折れる。服ってこんなに重かったか? このズッシリ感……何着入ってるんですかね?
それだけの量を買ったっていうのに、瞳姉は財布の中を確認して、ATMを探していた。追加の軍資金を求めて。
「……来る前におろしてなかったっけ?」
「もうなくなっちゃった」
あれ? 確か万札がそれなりに見えたんだけど。あれが全部なくなったの? どんだけ買ったの? てかそろそろ暴走やめない?
「先生。ATMなら一階ですよ」
「えー……一階? 面倒ねぇ」
晃がATMの場所を教えると、瞳姉はエレベーターで下りて行った。はぁ……とりあえずの小休止。持ちきれなくなった荷物を、空いていたベンチに投げる。
瞳姉がいない間、残された女二人。俺はこいつらを見張らなきゃいかんわけで……。
……。
……あれ? もういないんですけど。
「おい。あの二人どこ行った?」
「あそこ」
うろうろすんなよ。コラ。見張ろうとした瞬間にもう消えてるとか、行動力無限かお前ら。行動力を少しは温存しろ。
天乃とサニーは、服売り場から少し離れた電化製品売り場の所にいた。サニーが興味津々に電化製品を見てる。
「これなに?」
「テレビよ」
「てれび?」
「配信されてる映像が映る機械よ」
「……?」
「わからないわよね……」
説明はいい。戻ってこい。テレビなら家で見せてやるから。
全く……こんな人混みの中で、勝手な行動をするんじゃない。瞳姉がなんだかんだ言っても制御役だったのに。いなくなった瞬間にこれか。仕方ねぇな……と、俺が二人を連れ戻しに行こうとしたときだった。
「君、可愛いねぇ~」
「……は?」
天乃に声をかける、見るからにチャラチャラした男。
……え? またこの展開ですか? もういいよ。同じ展開の使い回しは。
「暇? 俺と遊ばない?」
「……気安く声かけないで。エレベータの扉に挟まれて死ね」
それは死ぬかどうか微妙だぞ?
じゃなくて……またやってやがる。無駄に相手を威嚇するなって言っただろうが。そんなこと言ったら、また相手の怒りを買うじゃねぇかよ。
「うおぉ! 強気発言。俺、このぐらい気の強い子が好みなんだよね~。もっと罵倒して」
あ、残念。今度の奴は特殊な趣味の変態だった。あれはあれでやばい。意味がだいぶ違うけど。
「……なにこの人?」
「相手しちゃ駄目よ。社会のクズだから」
「おっほ! いいね~……その鋭い声!」
「……毒蛇に全身噛まれて死ね」
「うおっほぉ!」
駄目だあいつ。早くなんとかしないと。見てるこっちが寒気してきた。
「天乃」
俺は天乃と男の間に割って入った。
「うろうろすんな。瞳姉戻って来るまで大人しくしてろ」
「私は子供じゃないんだけど?」
「サニーもいるだろ」
「私も子供じゃ……子供だっけ?」
お前は子供だ。七歳は完全な子供だ。子供と言わずなんと言う。
「この社会のクズは放っておいて、あっちの椅子で大人しく……」
「おいコラ。誰が社会のクズだ?」
しまった!? 心の声が素直に出ちまった!
つーか俺が言うのは駄目なの? 天乃が言ったときはあんなに喜んでたのに。
男の怒り感情を背中に浴びながら、恐る恐る……後ろを振り返る。
「いっで!?」
振り向きざまに、男の拳が俺の左頬をおもいっきり貫いた。
いてぇ。普通にいてぇ……。
こういう奴らはすぐに手を出してくるから嫌だ嫌だ。暴力反対。
尻餅をついて、若干頭がフラフラしてる俺に、サニーのきつい一言。
「ユッキー。なにやってんの? ユッキーならあんな人ちゃちゃっと倒せるんじゃないの?」
……それ、ゲーム世界での話ですよね?
「……サニー。覚えておけ」
この際だから、はっきり言っておこう。左頬を押えながら、俺は声を大にして言い放つ。
「俺はこっちの世界では雑魚だ!(ドヤ顔)」
「死ね。獣と間違えられて猟銃で撃たれて死ね」
「なんでやねん!?」
せっかく良い顔で言ったのに! 台無しだ!
ビシッとツッコミを入れた俺に、天乃の冷たいお言葉。
「その顔がナチュラルにむかついた」
なるほど。俺の顔は自然に気に食わないってことですね。ナチュラルってのは主に自然って意味です。わざわざ英語で言うあたり刺々しいよ?
「男はどうでもいい。俺はそっちの子に用があんだよ。さっさと消えないと裸に剥いて階段から吊るして『私は変態です』って書いた紙貼るぞ?」
そんなマニアックな脅し言うんじゃねぇよ。
それから変態はお前だろ。
「ん?」
男が肩をちょんちょんと叩かれた。
振り返って、そしてすぐに青ざめる。
自分に向けられてた、あまりにも強い殺気に。
「私の可愛い弟になにしてるの?」
瞳姉がニッコリと微笑んでいた。
後ろで晃がグッドサインをしてこっちを見ている。あぁ、晃が瞳姉を連れてきたのか。
ナイスだけど……。
うん。こいつ死んだな。
ここで一つ補足説明をしておこうか?
瞳姉は昔から趣味で、あらゆる武術を習ってる。しかも、全部を極めてる。つまりは……人間としての戦闘能力が半端じゃないってことだ。
「え?」
青ざめていた男の顔が、さらに引き攣った。
……冥福だけは祈ってやるよ。
ミ☆
そして夕方。
家に帰ってきて、俺はやっと荷物持ちの任務から解放された。腕いてぇ……。明日絶対に筋肉痛だ。荷物持ちで筋肉痛なんて普通はあり得んぞ。
「大量大量!」
ドサドサと玄関に戦利品を投げ放つ瞳姉。荷物を積んでた車から何往復したのかってぐらいの……いやマジで。この量……。
いくら使ったんですか? 聞くのが怖い。あの後、もう一回お金おろしに行ってたし。
「天乃ちゃんと晃君。夕飯ぐらい食べて行ったら?」
「え?」
「お言葉に甘えます!」
少し遠慮気味な反応をした天乃に対して、晃は即答。図々しい奴め。
……いや、ていうかそもそも。
「お前、なんでまだいるの?」
「電車代節約さ」
すっげぇ良い顔でせこい事言ってるし。
晃はちゃっかりと、車に同乗してきやがった。その節約した金がギャルゲー代に回されると思うと腹が立つ。
「えっと……私は……」
「いいからいいから! 今日はみんなの食べたい物作るからね! サニーちゃん、なに食べたい?」
「ハンバーグ!」
「了解!」
この二人、なんか息が合ってんだけど。
天乃はまだ戸惑っている表情だったけど、サニーに手を引かれて家の中に入って行った。
……まぁ、ちゃんと笑顔になってたから嫌なわけじゃないだろ。飯ぐらいでそんなに遠慮する必要もない。晃みたいに即答は腹立つけど。
「……浩之。虎上院さんとこんなに仲良くなってたなんて……クラスの男子が知ったら半殺しだね」
「今日のどこに、仲良くなんて思える光景があった?」
「はっはっは!」
笑ってるし。
実際、俺は天乃に毒舌吐かれて荷物持ちにされてただけじゃねぇかよ。これで半殺しにされたら割に合わねぇっての。どうせ半殺しにされるなら、もっと良い目にあってからにしてくれ。
「さてと、じゃあ僕もお邪魔しようかな」
「今からでも帰っていいぞ?」
「先生の好意を踏みにじるなんて、僕にはできないなぁ」
めっちゃ乗り気なくせに。
リビングに行くと、瞳姉はさっそくキッチンに、天乃とサニーはテレビを見ていた。電化製品売り場でめっちゃ見てたからな。気になってたんだろ。
「本当だぁ! この箱の中で人が動いてる!」
「人が動いてるっていうか……ただの映像なんだけどね」
「えいぞう?」
「……まぁ無理に理解しないでもいいわ」
ゲーム世界に電化製品なんてないから、サニーにとっては全部が全部珍しく見えるらしい。そもそも車に乗る時も「これ馬車?」とか言ってたしな。車の走るスピードに本気でビビってたし。時速何十キロなんて乗り物。ゲーム世界には存在しないからな。
「サニーちゃん。これやってみる?」
「なにそれー?」
晃が携帯ゲーム機をサニーに見せた。
「ゲーム機だよ。こんなに小さいのに、これでゲームができるんだ」
「げーむって……私の世界みたいなやつ?」
ゲーム世界について少し説明したからな。サニーにとって、ゲームっていったらあんな感じなんだろうけど。
……でもこいつの言ってるゲームは全然ちげぇぞ。
「美少女をどれだけ物にできるかをシミュレーションして、美少女をとっかえひっかえしていく。いわゆるギャルゲーっていう――」
「……」
「晃。やめろ。命が惜しかったらな」
天乃がめっちゃ睨んでるから。無垢な女の子に余計なこと教えるなって、目がギンギンに言ってるから。
「……アッキーって女たらし?」
「うん。二次元限定だけどね」
「否定しろよ」
サニーはそんな言葉をどこで覚えたんだ? 意外と言葉知ってるよな。
ていうか晃。アッキーにはツッコまないんだな。それと、七歳の女の子に二次元限定とか言うな。
「つーか……今日はもうゲーム世界行かないだろ?」
「……ご飯食べたらでも」
「いや、向こうだって夜になってるし。あんまりできることねぇぞ? 夜はモンスターの動きが活発になるからレベル上げには向かない。それに明日学校だしな」
「……浩之? なに言ってんのさ」
晃が少し呆れを混ぜた目で見てくる。
なんでだよ? 俺はなにか変なこと言ったのか?
「なんだよ」
「まぁ虎上院さんは知らなくても無理ないけど、明日はさ……学校の創立記念日で休みだよ?」
「……」
忘れてた。
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『おまけショートチャット』
「ユッキーはこっちの世界では雑魚なの?」
「うん。雑魚中の雑魚。レベルで言ったら1だな」
「……マイナス10ぐらいでしょ?」
「マイナスって概念がレベルにあるんですかっ!?」




