ゲーム世界に三年居た俺は家出王女にあだ名で呼ばれました⑦
ディアボロスをぶっ倒して、城に戻ってすぐ、俺とアマノは国王の部屋に呼ばれた。
「……あの、大丈夫なんすか?」
呼ばれてきたはいいが、国王はどう見ても重傷だ。ベッドに横になり、周りにはヒーラーやメイドの姿が見える。白色魔法で治療してたんだろうけど、魔力値の高い色魔法ほど、そのダメージを完全に治療するのは難しくなる。完全に治すには時間がかかりそうだな。
「気にするでない。それよりも……感謝する。二人には助けられたな」
「私は私のやるべきことをやっただけです」
……倒したの俺なんだけど?
なんでお前がそんな決め台詞みたいなこと言ってるの?
「しかし……黒い惨劇の元凶を物ともしないとは……相当な実力者のようだな」
レベルカンストしてますから。
うーん。やっぱりちょっとやりすぎたかな? あんまり強いところ見せて噂が広がると面倒なんだけどな。
でもあいつ、むかついたんだもん。つい感情的になっちゃったんだもん。
「それから娘が迷惑をかけた。すまなかった」
「いえ、全然大丈夫ですから。むしろもっと一緒にいたいです」
お前、ちょっと黙れ。国王の前でよ。
「……サニーは大丈夫なんですかね?」
サニーは今この場にいない。部屋に籠ってるのか? まだショックから立ち直ってないのかもな。
「大丈夫だ。少し混乱しているようだが……すぐに現実を受け入れるだろう」
現実……か。
自分が国を危険に晒して、母親も生き返らないっていう現実。
……本当に大丈夫か? サニーの奴。
「……実を言うとな、王家の宝は……本当にあるんだ」
「え?」
そうなの? でも、王家の墓地にそれらしき物は見当たらなかったぞ。サニーの見た古代本によれば、王家の墓地にあるはずなんだけど。
「王家の墓地に……ですか?」
「元々は……な。だが黒い惨劇の際……城の家臣の一人が王家の宝を持って姿をくらませてしまったのだ。それ以来、行方不明なのだ。おそらくはまだ……この世界にあると思うのだが……」
つまり、どこにあるかはわからないってことか。
……まてよ? ということは……黒い惨劇は、王家の宝を奪うために、誰かが仕掛けたって線も出てきたな。
「黒い惨劇の後、祭壇に残っていた王家の宝の魔力で、少しでも封印を強めようと、媒介の石造を安置したのだ。王家は代々、その封印を見守ってきたわけだ」
なるほど。祭られてる場所が魔力を帯びるなんて、王家の宝ってのは、本当に特殊なアイテムみたいだな。願いが叶うってのも、本当の話でもおかしくない。
「アルファが死んで以来……王家の宝を見つけようと世界中を探しているのだが、いまだ発見できていない」
「……国王様も、王家の宝で王妃様を生き返らせようとしてるんですか?」
「……」
口をつぐむ国王。これは当たりか。
「……人を生き返らせようなどという行い、自然の摂理に背いたことだとわかっているのだが……感情を抑えられんのだ。アルファが死んだ日のことを思い出すたびに……」
アルファ=アカムレッド。
王妃の名前だ。
俺がその名前を知ったのは……すでに王妃が殺された後だった。
……切なかったな。あのときは。
「……軽蔑してくれても構わない」
「いえ……わかりますよ。その気持ち。痛いぐらいに」
俺も知っている。
大事な人が目の前で死ぬことの苦しさを。
「……」
俺の横でアマノは少し顔を下に向けた。
……アマノはまだ失ったとは限らないからな。不安になったんだろう。
「……二人はすぐにこの国を出るのか?」
「そうですね。明日の朝には」
「なにか手伝えることがあれば言ってくれ。もしや二人は魔王討伐の旅の途中か?」
……いちおう、そういうことにしておくか。間違ってはいないし。
「はい」
「ならばここから東の方角にある【サンセット】という町に行ってみるといい。最近、魔王軍の【四角】の一人から襲撃を受けたと町長から連絡があった。我が城からも兵士が警備にあたっているが、今……冒険者の中から強者を募っているらしい」
「え?」
「……? どうかしたかね?」
思わず声が出た。四角だって?
「あ、いえ……なんでも」
「そうか? 話を戻すが……町を襲撃した四角は町の近くにある【夕日森】でなにかを探しているらしい。おそらくは魔王の指示だろう。なにかを企んでいるとすれば……それを未然に防がねばいかん。その為に強者を募っているのだ」
強者を募っている、か。ならアマノの姉さんが来てる可能性もあるな。
行ってみる価値は充分にある。たぶん、それが次のクエストだろうし。
「……わかりました。行ってみます」
「うむ。頼んだぞ。君たちが行ってくれるのなら、私も安心だ」
……それにしても、四角。
その話が本当なら……どういうことだ?
四角は……前に俺が全部倒したはずだぞ。
ミ☆
「なんでサンセットって町に行くの?」
「強者を募ってるなら、お前の姉さんがいるかもしれないだろ」
「……ふーん」
なんだよ、ふーんって。お前の目的のために俺が行先を決めてやったのに。
「つーか、お前って意外と人見知り?」
「はぁ?」
「さっき、二回ぐらいしか発言してねぇじゃん」
しかも気取った決め台詞と危ない発言しかしてねぇだろ。
「……」
「……なんだよ?」
アマノが俺を一瞬睨んで、すぐに目を逸らした。
「……王様となんて初めて会ったから、ちょっと緊張しただけよ」
「……あっそ」
もじもじすんな。不覚にも可愛いと思っちまうから。
こいつでも緊張するんだな。緊張の字なんて全く知らない心臓を持ってると思ってた。
「国王にもらった装備、ちゃんと装備しとけよ?」
「わかってるわよ」
国王に褒美として、新しい装備一式をもらったんだ。
……俺は断ったけど。最強装備だからこれ以上の装備ねぇし。
【アマノ】 職・マジックユーザー
Lv15
力 1
体力 1
素早さ 1
知力 77
技 45
武器 紅玉の杖 魔法攻撃力 60
防具 紅玉の魔服 防御力 40
装飾品 紅玉ピアス 魔法攻撃力+10%
アマノはディアボロスを倒したときに、それなりにレベルが上がってる。俺とパーティを組んでるから、アマノにも経験値が入ったんだ。
レベル80にしては経験値が少なかった気がするけど。モンスターのレベルと取得経験値は必ずしも一致しないから、そこはどうとも言えない。
そもそもあのディアボロス……どう考えても序盤のクエストで出てくるボスじゃない。
俺がいたから?
いや、パーティのリーダーはアマノだし。俺自身のクエストもリセットされてるからそれはないか。
……なんかおかしいな。
それに四角が復活してるってのも気になる。
「二人ともー……いる?」
お? サニーの声だ。ディアボロスを倒してから音沙汰なかったから、心配してたけど。とりあえず、声はいつも通りに聞こえる。
「いいわよ。入って」
「……はやっ」
今の状況を説明しようか?
部屋の入り口と真逆のソファーに座っていたアマノが、一瞬で、入口の扉を開けてサニーを迎え入れていた。
「……」
サニーは風呂上りなのか、パジャマで髪を下ろしてる。さすがにまだいつもの元気は無く、表情も少し沈んで見える。すっげぇ静かだ。ちょっと調子狂う。
……水を得た魚のように、アマノがウキウキとサニーをソファーに座らせる。お前、少しは空気読めよ? サニーは今そういうテンションじゃないんだから。
「……どうかしたのか?」
「んっと……」
なにか言いたそうだけど、なかなか言い出せない。そんな感じだな。
俺とアマノは、サニーが口を開くのをゆっくりと待った。こういうときは、自分のタイミングで、落ち着いてから喋らせたほうがいい。
「……二人はこれから、サンセットに行くんだよね? その後も……いろんな所に行くんだよね?」
「……? それがどうした?」
やっと口を開いたかと思ったら、意図がよくわからない質問だった。
なんだ? サニーは一体、俺たちになにを……。
「私も行く!」
……いきなりなに言ってんのこの子?
「いいわよ」
「即答すんな。話をもうちょっと聞いて、もうちょっと考えてからにしろ」
お前はただ連れて行きたいだけだろ。自分の欲望のままに選択してるだけだろ。
「王家の宝……本当はあるんでしょ?」
「……」
聞いてたのか? 国王と俺たちの話を。
だったら隠しても無駄か。俺は観念して頷いた。
「お父さんも……探してるんでしょ? お母さんを生き返らせようとしてるんでしょ? だから私が王家の宝を見つけるの。だから連れてって!」
「……国王にその話はしたのか?」
さすがに、俺たちが勝手に連れて行くわけにはいかない。
一国の王女だし。国王がサニーを大事に想ってるのは、めっちゃ伝わってきてたからな。旅に出るって言うなら、必ず危険が付き纏う。心配するに決まってる。
「うん。最初は駄目だって言われたんだけど……じゃあもう一緒にお風呂入ってあげないって言ったら、泣きながら良いって言ってくれたよ?」
……。
国王……泣く程一緒に風呂に入りたかったのか?
大丈夫か? この国。
「……旅の途中で死ぬかもしれないぞ? 俺たちは魔王を倒しに行くんだ」
「大丈夫だよー。ディアボロスを簡単に倒しちゃったユッキーがいるもん!」
他力本願かい。
いや、うん、ぶっちゃけ百パー大丈夫だけどさ。
「……(ギロリ)」
そしてさっきからアマノの視線が痛い。激痛だ。殺気満々だ。
断ったら殺す。視線がそう語っている。
……断る理由はとくにないけどさ。
「……まぁいいけど。王家の宝が見つかるかどうかはわからないぞ?」
「うん! よろしくお願いします!」
無邪気な笑顔。やっといつもの調子に戻ったな。
……もっと落ち込んでるかと思ったけど、大丈夫そうだな。
「さってと! 明日の朝出発だよね! 準備して二人の部屋に来るから待っててね!」
ソファーから飛び降りて、トテトテ(この効果音がマジでマッチ)と部屋を出て行くサニー。一度振り返って、笑顔で手を振ってきた。
……アマノの顔が物凄く緩んでいる。確かに可愛いけどさ。
「……天使だわ」
「……お前、個人的にサニーと一緒にいたいだけだろ」
姉を探すって言う目的を忘れるんじゃねぇぞ。
「……とりあえず、一回現世界に戻ろうぜ?」
「え? なんでよ」
「……なんでじゃねぇよ。もう丸一日戻ってねぇだろ」
「……王族の豪華なベッドで寝たかったのに」
そんな理由は認めません。
「ったく……お前だって心配する家族がいるだろ?」
「……」
……ん?
なんかアマノの表情が変わった気がするけど、なんだ?
「……いないわよ。心配する家族なんて」
「は?」
「なんでもないわよ」
それ以上、アマノはなにも言わなかった。
……まぁいっか。
「とりあえず戻るぞ? 明日の朝戻ってくればいいだろ?」
「……わかったわよ」
そして俺は瞳姉に対しての言い訳を考えなきゃいかん。
……殺されないように。なるべく穏便に済むように。
コントローラーを取り出し、俺たちは現世界へと戻った。
ミ☆
「……当たり前だけどすっかり夜だな」
意識が覚醒すると、俺とアマノは学校の近くにある公園にいた。そういや、ここからゲーム世界に行ったんだったな。
「送ってくぞ? 夜道に女一人じゃ危ないだろ」
「余計なお世話」
「……そうですか」
人の好意を踏みにじる天才だな。こいつ。
スマホで時間を確認すると、夜の九時を回ってる。良い子はもう寝てる時間だ。それぐらい遅い時間……つまり……。
……瞳姉、帰ってきてるな。
……。
……怖い。素で怖い。
「なぁ」
「なによ?」
「家まで一緒に来てくれねぇ?」
「……」
やめて。その軽蔑の目。
わかってるよ! 情けないことは重々承知だよ! でも怖いんだよ! お前がいればもしかしたらほんのちょっとだけでも怒りが弱くなるかもしれないんだよ!
「……あれー?」
……ん?
今の声……まさか……聞こえちゃいけない声だった気が……。
「……ここどこ? 私、確か自分の部屋に戻る途中だったんだけど」
俺とアマノは同時に振り返った。
そこには……キョロキョロと公園を見渡すサニーがいた。
なんで? なんでサニーが現世界に?
「……二人とも、なにその格好?」
……。
学校の制服です。
つーか……。
「なにこれ?」
状況に困惑していた俺たち三人は、しばらくの間、公園で立ち尽くしていた。
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『おまけショートチャット』
「トテトテ。って足音、可愛いわよね」
「は?」
「サニーの足音よ。子供ならではの、少し不安定な歩み……だからこそ奏でられる足音だわ。可愛い……」
「……奏でるってなんだよ? 子供の歩き方を見てそんな風に思ってるのはお前だけだよ」
「あんたの足音は、あんたらしいマヌケな音だけどね。聞いてるだけで不快だわ」
「なに? この差? 俺の足音って、人を不快にさせるの?」




