ゲーム世界に三年居た俺は家出王女にあだ名で呼ばれました⑤
換気口を抜け、サニーの部屋だと見張りの兵士がいるから移動しづらいことを考えて、適当な廊下の換気口から城の中に侵入。兵士の目を潜り抜けて、さらに地下の牢獄を抜けて、さらにさらに下まで行って、さぁ辿り着きました。
【王家の墓地・入口】
……ていうか、本当に何人かの兵士寝てたな。サボってやがったな。おかげで簡単にここまで来れたぞ。
「……なんかめちゃくちゃ重そうな扉で閉じられてるけど」
アカムレッド国の紋章が刻印された大きな石の扉。どう見ても、普通に開きそうには見えん。この系統の扉は、なにか開けるための条件があるのが定番だけど。
「大丈夫だよ! この扉、王家の人間の血に反応して開くんだ!」
「よく知ってるな」
「王家の宝のことが書いてあった古代本に一緒に載ってたのー」
サニーが扉に近づいて、持っていたナイフで人差し指を少し切った。そして血が滲んだ指で、紋章の中心へと触れる。その直後だった。
「おぉ……」
石の扉がいくつにも分散して、大きな通路が姿を現した。
王家の墓地の開け方が古代本の通りだってことは、本当に王家の宝はあるんだな。正直、少し疑ってたけど。
「よーっし! レッツゴーゴー!」
「……サニー。指貸して」
「え?」
「血が止まってないわ。舐めてあげる」
「うん! ありがとー」
いや、回復魔法か傷薬使えばいいだろ。なんで舐めるんだよ。そんな原始的な方法で治そうとすんじゃねぇよ。つーかお前舐めたいだけだろ。
ミ☆
【王家の墓地】
見たところは普通の地下ダンジョンって感じだ。壁のあちこちにアカムレッドの紋章がある以外は。ダンジョンに入ったら、魔法結界の効果は無くなったみたいだな。これなら戦闘に支障はなさそうだ(俺は別に素手でも充分だけど)。
「ところでなんで王家の墓地って名前なんだ?」
「歴代の国王が一番奥に埋葬されてるみたいだよ。だから王家の墓地って言うんだって」
「……そんな由緒ある場所にモンスターが住みついてるってのも難儀だな」
さっそく、数体の骸骨モンスターが姿を現した。ボロボロの鎧を着けて、錆付いた剣を持っている。墓地にちなんで、アンデット系のモンスターが出るみたいだな。
「……ところでさ、あんたなんで子供のままなの?」
アマノが俺の頭を撫でるように叩いてきた。やめて。頭ポンポンされると照れる。ていうかこんなに優しく扱われたの初めて。
さっき、入口で扉を開けた後に、アマノのドレルチは解除した。でも俺はそのままだ。
「ドレルチ状態だと、ステータスと装備性能が全部十分の一になるんだ。俺には丁度いい」
「丁度いい?」
「素だと敵が弱すぎてつまらねぇ」
【ヒロユキ(幼児化)】 職・カラフルナイト
Lv1000
力 1110→111
体力 1110→111
素早さ 1110→111
知力 1110→111
技 1110→111
武器 魔剣エクスキューショナー 攻撃力 15000→1500
防具 無色の宝衣 防御力 12000→1200
装飾品 限界突破の腕輪 ステータスオール+100→+10
「……手抜き?」
「手抜き言うな。コラ」
まぁ、これでもレベル100相当のステータスと装備だけどな。普通に中級以上の冒険者程度の実力はある。
さて……俺もたまには体を動かすか。デコピン飽きたし。
「【ドラゴンファング】」
エクスキューショナーを背中から引き抜き、そのまま縦に一閃した。刃から闘気が溢れて竜の形に具現化され、骸骨たちに向かって行った。
これはドラゴンファングって言って、上級職、大剣士のスキルだ。カラフルナイトは使ってる武器によって、その系統のスキルが使える。俺は大剣が好きだから大剣使ってるんだ。レベル1000を達成したのも大剣士だったし。
『ギャアァァァァァァ!?』
骸骨たちは具現化された竜に吹き飛ばされて粉々に砕け散った。こいつら、生前あんまり牛乳飲んでなかったな。モロすぎる。
それにしても……最低レベルで撃ってこんなもんか。やっぱり序盤のダンジョンだな。
「……俺、あんまり動かないから適当にやってくれ」
「……あんたって本当にチートよね」
「チート言うな」
「チートってなぁに?」
「子供は知らなくていい。覚える必要ありません」
戦闘はなるべく二人に任せるか。経験にもなるし。レベルも上がる。マジックユーザーとヒーラーのペアなら、バランスはなかなかいいはずだ。
……けっして俺がサボりたいからじゃないからな? 前衛が居ればもっとバランス良いのは確かだけど。
ミ☆
「【フェルノ(火球)】!」
「【セイントオーブ(聖なる宝玉)】!」
アマノとサニーが次々と襲ってくる骸骨やらミイラやらを魔法でなぎ倒す。
サニーの職業、ヒーラーは回復系の白色魔法の他にも、光属性の攻撃系白色魔法も使える。光属性はアンデットモンスターと相性がいいんだ。ちなみに赤色の火属性もな。そのおかげで、軽く無双状態だ。
……俺? 俺は後ろで見守ってるだけ。
いやだってさ? ステータス十分の一になってもここのモンスターとか手加減してもやりすぎちゃうし? だったら俺は大人しく見てるだけのほうがあの二人の成長のためだし?
「ちょっと。仕事しなさいよ。そこのサボリ魔」
瞳姉みてぇな呼び方やめろ!?
「サボってねぇ。ちゃんと後ろを警戒してやってるだろ?」
「欠伸しながら歩いてるだけじゃないのよ」
案外見てやがる。こいつ。
「ユッキー。強いんなら手伝ってよー」
「強い? このか細くて小さい体の俺が? 大剣より重い物持ったことないの~」
「死ね。体中の骨が砕け散ってショック死しろ」
お前の表現、残虐で怖いんだよ。
それにしても、ダンジョンに潜って数時間。もうかなり下まで降りたはずだ。
どこが最下層なんだ? 時間的にもう明け方だからさっさとクエスト終わらせたいんだけど。
「ヒロユキ。あんまり私に近づかないでくれる?」
「はぁ?」
「小さいからスカートの中覗かれそう」
そこまで小さくねぇし。わざわざそんな殺されるフラグ立てねぇよ。見たいか見たくないかで言ったら……あぶねっ。誘導尋問だ。
「ユッキーはパンツ見たいの?」
「ストレートに言うな。それからあいつが自意識過剰なだけだから無視しなさい」
「私のパンツ見る?」
「女の子がそんなこと言うんじゃありません!?」
ここで「見せて」とか言ったら俺は本当にただの変態じゃねぇか。七歳の女の子のパンツ見て興奮するとか、ロリコンを通り越して精神異常者だろ。
「見せて」
「おいコラ。お前が言うんじゃねぇよ」
精神異常者がここにいたよ。
「お?」
通路を抜けた先に、入口と同じ、一際大きな石の扉。やっと最深部か?
でもその前に陣取るように……体が岩石で構成されてる巨兵【ゴーレム】が座っていた。胸にはアカムレッドの紋章があるな。明らかに、いままで戦った雑魚モンスター共とは違う。
「王家の宝と、墓の番人ってところか」
「……じゃああの先?」
「やったぁ! やっと着いたねぇ!」
【王家の墓守・岩石巨兵ゴーレム出現】
ていうか、これもしかしてボスか?
そもそも、王家の墓守……つまり、歴代の王たちの墓を守ってる存在なら、王家の血を引くサニーがいるんだから襲ってくるはずない……と思うんだけど。
「めっちゃくちゃ戦闘態勢だな」
ゴーレムはその巨体を持ち上げ、立ち上がった。石の剣を肩に担ぎ、俺らを見据える。完全に、俺たちを敵とみなしてるな。
「……サニー。私は王家の血を引く者ですーって言えよ」
「私は王家の血を引く者ですー」
綺麗に復唱すんな。
ゴーレムは聞く耳持たない。もしかして、何かしらの証でも見せないと王家の人間って認められないのか? そもそも入口は王家の人間の血で開くのに? 王家の墓守が、王家の人間に攻撃してくんのかよ。適当に作られたダンジョンだな。おい。
「まぁいっか。面倒だ」
ここまで来るのにかなり時間を食ってるんだ。手っ取り早く終わらせるには……。
「強行突破だ」
ゆっくりとゴーレムに近づき、エクスキューショナーを背中から引き抜く。ギョロリ、と赤い一つ目が俺を視界に入れたのか、上下に動きだす。石剣を振り上げて、重みと怪力で力任せに振り下ろしてきた。
「おっと」
それを片手で受け止めてから……ひょいといなして、ジャンプ。
「とりゃ」
ゴーレムの頭にエクスキューショナーで一撃。木端微塵に砕かれるゴーレムの頭。赤い一つ目も地面に落ちて、光になって消えて行く。
【岩石巨兵ゴーレムを倒した】
石の扉がズズズ……と重い音をたてながら開いて行く。なるほど、入り口と同じ扉だから、てっきり王家の人間の血で開くのかと思ったけど。ゴーレムを倒したら開く仕組みなんだな。
「……おい。なに見てんだコラ?」
アマノが俺をめちゃくちゃ見ている。白い目で。
「……チートすぎて引くわ」
お前、そのチートな俺に助けを求めてパーティ組んだこと忘れてねぇか? もっと尊敬の眼差しで見てもいいと思うぞ。格好良い先輩! ぐらいの。
「ユッキー……レベルいくつなの? ボスクラスのモンスターを一撃って……しかもあんまり力の入った攻撃には見えなかったよ」
さすがのサニーも、俺の一撃の重さを不審に思ったらしい。驚いた表情で俺を見ている。
まぁ「おっと」とか「とりゃ」とか言う適当な掛け声だったからな。
レベルマックスです。って言うのは簡単だけど……もう少しもったいぶりたいな。
「……会心の一撃? てへっ(舌を出しつつ)」
「死ね。舌を噛み千切って死ね」
「なんでだよ!?」
「普通にむかついたわ」
なにその理不尽な理由。
こいつ、絶対にいつか泣かす。
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『おまけショートチャット』
「大剣より重い物持ったことないって言ってたけど、そもそも、その大剣って軽いのー?」
「軽いぞ。片手でぶん回せるぐらいには軽い。地面に置くと少しめり込むぐらいに軽い」
「すっごく、重いんじゃないのよ」




