ゲーム世界に三年居た俺は家出王女にあだ名で呼ばれました④
「……つーか、普通に考えて【魔法結界】張ってあるよな」
城の正門前で一人「うーん」と唸る俺。
見つからないように城内に侵入。それで一番手っ取り早いのは、インビジルリアで姿を消して侵入だ。
まぁでも、一国の城ともなると、魔法結界っていう魔法の効果を消す結界が張られてる。つまり、城内で魔法は使えないし、インビジルリアみたいにSP消費で持続する系の魔法は効果が消される。【固定効果時間】がある魔法は、結界に入る前に使っておけば別だけど。侵入に使えそうな魔法はないな……。
そういえば三国大戦では、クロックに魔法結界を破壊されたんだよな。俺なら簡単に壊せるけど、さすがにそんなことできん。本当に犯罪者になる。
「だとしたら、どっか抜け道がありゃいいんだけど」
そう思って、さっきから城の周りをぐるぐる回ってるんだけどな。
まぁわからん。わかるわけがない。
……正門の橋の下に隠れ通路とかねぇのかな? 夜中になって橋を上げると丸見えになるみたいな。
「……そういやサニーはどうやって城の外に出たんだろうな?」
見張りの兵士がいるのに、そう簡単に出してもらえるとは思えないけど。
もしかしてあいつ、どっか抜け道知ってるのかな? だったらそれを逆に使って中に入れれば、後はどうとでもなるんだけど。
戻って聞いてみるか。俺は宿屋に引き返した。
「……」
それにしても、王家の宝か。王家の血を引いてる人間が触れれば、一つ願いが叶う。
……そんな宝が本当にあるんなら。
なんで国王は王妃を生き返らせようとしなかったんだろうな?
もう別のことに使っちまったのかな? 権利が残ってるなら、使わない手はないと思うんだけど。
「……まぁいいか」
行ってみりゃわかる。俺がここで考えてても仕方ない。
ミ☆
「……んで? お前らはなんでまたクレープ食ってんだ?」
部屋に戻ると、当たり前のように……風呂上りのアマノとサニーがアカムレッドクレープを食っていた。
つーかなに? また買ってきたの? 今度は自分の金で買ったみたいだけど、何個目だよおい。お前らの胃はどうなってんだ? 特にアマノ。
「安心しなさい。あんたのゴールド袋からお金もらって買ったから」
「俺の金かよ!?」
しまった。うっかりゴールド袋を置いて行っちまった。
つーか当たり前のように人の金取るな。泥棒駄目。絶対。
「……俺にも一個くれ。腹減った」
「駄目」
「なんでだよ!? 俺の金で買ったんだろうが!?」
見たところまだ三個は余ってるだろ! 一個くらいよこせ!
「私の食べる分が減るじゃないの」
ここまで来ると気持ち良いほど、自分勝手で自己中心的な理由ですね。
……こいつ、いつか泣かす。
「それで? 城はどうだったのよ」
「……話すから食べるのやめろ」
「無理」
俺の意見は一つとして通らないのか?
駄目だ。まともに相手してると疲れるし腹が立つ。さっさと本題に入ろう。
「サニー。お前、城を出るときどうやって抜け出したんだ?」
「ん?」
「見張りがいるのに、王女をほいほいと外に出すわけねぇだろ? だったら……正攻法じゃない、なにか方法があるんじゃないのか?」
「うーん……でも、たぶん二人は通れないと思うんだよね」
「……どういうこった?」
俺たちは通れないってなんだ? どういう抜け道なんだ?
「すっごく狭い通路だから、体が小さくないと通れないんだよね。私の部屋にある換気口なんだけど。外にも繋がってるんだー。そこから出たの!」
換気口か。さすがにそんな所は兵士たちもノーマークだったんだろうな。
「でも、城の外に出ちまったら駄目なんじゃないか? 城の地下にあるんだろ? 王家の墓地は」
「そこまで考えてなかったんだー。とにかく、部屋から出ないとって感じだったから」
先のことは後で考える。子供の思考そのまんまだな。けっきょく、城の中に戻れないで兵士に見つかっちまったわけか。
でも、逆に城の中に入るなら好都合だ。換気口なら、他の部屋にも繋がってる。兵士に見つからないようにこっそりと移動するには最適だ。
「じゃあ決まりだな。今夜、その換気口から侵入だ。中に入ってからはサニーの案内で王家の墓地まで直行。見張りの兵士がいるだろうけど、まぁ見つからないように行きゃあいい」
「……あんた、今の話聞いてた? 体が小さくないと入れないって言ったじゃないのよ」
「心配するな。お前の胸ならなんとか通れる」
「……バナナの皮で滑って頭打って死ね! むしろ殺す!」
「しまった!? 思わず素直な言葉が……って、ちょっと待て!? 心配するな! マジな意味で!」
アマノが形相で俺に殺気を向けてる。やばい。本当に殺られる。
俺はいつでも逃げ出せるように身構えながら、アマノを宥めながら説明した。
「ピッタリな無色魔法がある! それがあれば大丈夫なはずだ!」
「……大丈夫じゃなかったらアカムレッドクレープ十個ね」
まだ食う気かよ。こいつ。
「なんで夜中に行くのー?」
「さっきの騒ぎで(俺とアマノが兵士をぶっ飛ばした)町中を兵士が走り回ってる。明るいうちに外を出歩いたらすぐに見つかるぞ? 主にサニーが。まだお前のこと探してるだろうし」
そんないかにも王女様っていうドレス着てるんだからな。
「あーそっか。夜中なら兵士たちがサボってるってことだね!」
いや、そこまでは言ってない。兵士たちが泣くぞ。
夜中なら昼間よりは警備が手薄だろうってだけだ。闇にまぎれて行動しやすいしな。まぁ侵入するにあたっての基本ってわけだ。
「……まぁどっちにしても、サニーはその格好をどうにかしたほうがいいな」
「格好?」
「その派手なドレスだよ。目立つし、動きづらいだろ?」
「あー……それなら着替えようかな? ちゃんと持ってきたんだ!」
サニーは肩にかけてた小さな鞄から、短い棒と服を取り出した。
【サニー=アカムレッド】 職・ヒーラー
Lv8
力 1
体力 1
素早さ 1
知力 51
技 36
武器 レッドワンド 魔法攻撃力 15
防具 セイントローブ・赤 防御力 15
装飾品 十字架のリボン 回復魔法の効果アップ
棒をくるりと回転させると、赤色のワンドに変化した。魔力を込めると変化する武器か。服はヒーラーがよく着ているセイントローブを、赤色に染めた物みたいだな。赤い髪によく合ってたあの黒いリボンは装飾品だったらしい。まぁ、これなら動きづらいってことはないな。
「サニーはヒーラーだったのか」
「うん! 回復なら任せてよー」
まぁ、俺も回復系の白色魔法使えるけど。回復はサニーに任せても大丈夫か。序盤のクエストなら、ダンジョンの難易度もそんなに高くないだろ。
「そういえば、アマノンはマジックユーザーみたいだけどさ。ユッキーは職業なんなの?」
「……アマノンってアマノのこと?」
「うん」
人にあだ名を付けるのが好きみたいだな。子供らしいっちゃ子供らしいけど。センスは……まぁ、人の受け取り方によるか。
「ステータス非表示にしてるよね? なんでなんでー?」
「……俺のステータスには呪いがかけられててな。見るだけでその人間を死に至らしめる効果がある。だから俺は無駄な犠牲者を出さないために――」
「嘘だから信じないでいいわよ。サニー」
せめて最後まで言わせてください。
「ぶー……教えてよ~。一人だけ職業がわからないと連携とかができないよー?」
「どうせ言ってもわかんないと思うぞ? カラフルナイトって職業だ」
「え? なにそれ?」
ほらな。サニーが頭に?を浮かべてる。究極職は一般的に知られてないからな。サニーが知ってるわけがない。この域に到達したのは俺が初めてだろうし。
「……大剣を持ってるってことは大剣士系? でも魔法も使えるし……もう! 気になるよー!」
「後でゆっくり説明してやるから。ほれ、夜中までお子様は寝てろ。まだ数時間ある」
サニーを猫のように摘み上げて、ベッドに投げる。軽っ。軽すぎてびっくりした。比喩で言ったのに、マジで猫みたいだった。不満そうに俺のことを見てるけど、偵察で疲れてるし、説明するより戦闘で実際に見せたほうが早い。ここは無視しよう。
「私、一人だと眠れないよー」
「ん? じゃあ普段はどうやって寝てるんだ?」
「お世話係のメグさんと一緒に寝てるのー」
誰だよ。メグさんって。固有名詞だされてもわからんって。お世話係ってところは、やっぱり王女様だなって感じするけど。一人じゃ寝られないって言われてもな……。
「仕方ねぇな。アマノ、一緒に寝てやれ……って、もうベッドに入ってるし!?」
俺が言うまでもなく、アマノはサニーの隣にちょこんと座っていた。一緒に寝る気満々だ。なんて素早い行動。五分前行動どころか、言う前行動だ。
「……なによ?」
「いえ、別に」
ギロリと(効果音じゃなくてマジでそんな感じ)俺を睨んできたアマノ。
怖いです。その目。俺を食う気かってくらいの威嚇の目です。別に邪魔する気なんてないっての。
「……俺は隣の部屋で寝るからな。出発は夜中の十二時だ。寝過ごすなよ?」
「うん。いいからさっさと行け」
「……はい」
邪魔者は消えろと目が言っている。
……なんか、さっきから俺の扱い酷くね?
ミ☆
そして夜中の十二時。城の裏門近くの通路。
思った通り、見張りの兵士は昼間より少ない。ここまではなんの問題もなく来れた。
「あ、あれだよ」
サニーが指差した先には、小さな鉄格子の扉。数ある換気口の中の一つだろう。サニーはここから城の外に出たらしい。押せば簡単に外れそうだな。
「でも、さっきも言ったけど二人は通れないと思うけど」
「大丈夫だ。こうやる。アマノはちょっとこっち来い」
「……?」
アマノと二人で、城から少し離れる。魔法結界の範囲外まで移動してから、コマンドを開き、一つの魔法を選択した。
「【ドレルチ(幼児化)】」
俺が魔法を詠唱すると、光が俺とアマノを包んだ。そして、ボン! と煙が溢れ出して、次の瞬間には、
「よし」
「……なにこれ?」
俺とアマノの体が縮んでいた。
正確には、子供になっていた。武器や防具も全部子供サイズになってる。
「ドレルチは体を幼児化する魔法だ。これで問題なく通れるだろ?」
「……無色魔法って無色に関係する魔法じゃないの?」
「ちげぇよ。無色ってのはどの色にも属さない魔法ってだけだ」
インビジルリアがたまたま透明化っていう、無色関連魔法だっただけだ。無色魔法ってのは、他のどの色にも属さない。いわゆる、なんでもありな魔法だ。
「……」
「……なんだよ?」
俺の顔をじっと見てくるアマノ。またなんか言われるのか?
「……子供のあんた、意外と可愛い」
意外とってなんだよコラ。
……でも可愛いって言われるのはちょっと照れる。へへっ。
「ユッキーってなんでもできるねー。無色魔法ってマジックマスターとかじゃないと使えなかったと思うんだけど……」
「気にするな」
「そだねー。とりあえず中に入ろうか」
……うん。やっぱり簡単に納得されると逆に寂しい。
城の周辺から中にかけて、魔法結界が張られてるけど。ドレルチに関しては、固定効果時間がある魔法だから、魔法結界に入る前に使っておけば解除されない。簡単に言えば、決められたこの時間はなにがあっても効果が続きますよってこと。ドレルチの場合は、自分で解除しない限りは効果が続く。この効果がある魔法はあんまりないんだ。
「……ていうか、届かないわよ?」
換気口は少し高い位置にある。ドレルチを使う前なら余裕で届いたけど、幼児化した今だと届かないな。
「俺を踏み台にしろ。そうすりゃ届くだろ?」
「あんたはどうすんの?」
「俺はジャンプすりゃ届く」
壁に手を付き、少し膝を曲げた格好になる俺。俺の背中を踏み台にすればなんとか行けるだろ。
「……」
「おい、早くしろって」
「上見ないでよね? 見たら殺す」
「……お前、俺のこと変態だと思ってるだろ?」
「うん」
……何回目だ? このやりとり。
「ユッキーって変態なの?」
「……サニー。お前、さっきから意味わかっててその言葉使ってる?」
「変な人ってことだよねー?」
微妙にわかってるから逆に嫌だ。
上を見ないように首を固定し、アマノに頭を踏まれながら(ちゃんと背中を踏めよ……)、二人が換気口に入ったのを確認して、最後に俺も換気口へと入った。
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『おまけショートチャット』
「固定効果時間だっけ? なによそれ」
「簡単に言えば、決められてる時間の間は、効果がずっと続くってことだ。魔法ごとに違うけどな。時間指定だったり、使用から解除までだったりするな。これなら魔法結界に入る前に使っておけば、効果が解除されない。ちなみにヒーラーのステータスアップ魔法がこれに該当する。あれは五分固定で効果が持続するからな」
「ふーん」
「……さっきから俺の頭撫でるのやめない?」
「喋らないで。小さいあんたは、見た目だけなら可愛いから」
「……(お前自身も今はちっこいだろうが。鏡見たらどういう反応するんだ?)」




