ゲーム世界に三年居た俺は家出王女にあだ名で呼ばれました③
「助けて!? あの人たち……悪い人なの!?」
女の子はアマノの後ろに隠れてしまった。完全に、あとは任せた状態。
そして迫ってくる五人ほどの男たち。腰に剣は持ってるけど、抜刀はしてないな。ものすごく必死な顔で怖いけど。
「……これってクエストなの?」
「らしいな」
「……じゃああいつらぶっ倒していいのよね?」
嬉しそうだな。おい。
それにしても、ぶっ倒すって言葉がこれほど似合う女も珍しい。
立ち上がったアマノは水晶ロッドを構え、男たちに魔法を詠唱し始めた。
……え? 問答無用でぶっ倒すの? 口上とか言い分とか聞かないでやっちゃうの?
「おい。いちおうあいつらの話も――」
「ウォタル!」
ですよねー。俺の話なんか聞くわけないですよねー。
アマノが撃ち出した水弾が男たちの足元へ直撃。大きな水たまりができた。あれ? 男たちに当たってないけど。外したのか?
「エレカミ!」
「お?」
アマノが続けて魔法を詠唱した。今度は黄色魔法の【エレカミ(雷撃)】だ。一般的にいう雷属性。
小さな落雷が男たちの足元へと落ちた。
……あーそういうことか。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」
さっきウォタルで作った水たまりに、エレカミが直撃。
水は電気を良く通す。某人気モンスター育成RPGでも、水属性に雷属性攻撃は効果が抜群だ。
落雷は水たまりを勢いよく走り、拡散して放電した。男たちはその放電の餌食になった。ご愁傷様です。
「お、お前たち何者だ!?」
「あう!?」
あ、後ろにもいやがったのか。
女の子が男に抱きかかえられ、じたばたと暴れている。
「離してよぉ!?」
「離しません! そろそろお戻りになっていただかないと私たちが――」
「てい」
「ぎゃあ!?」
デコピンで男の額を一撃。もちろん。ブルードラゴンのときよりも手加減してる。
それでも五メートルぐらい吹っ飛んだかな? なんか言いかけてたけど、もうアマノがやっちまったんだ。いまさら変わらん。なんでもいいや。
「お前、今の自分で考えたのか?」
「水と雷の相性が良いのは常識でしょ?」
常識かどうかは知らんが、アマノをマジックユーザーにしたのは間違ってなかったみたいだな。発想と工夫。それを見事に実践してる。
「……」
女の子がぼーっと俺たちの顔を見つめてる。
……俺に一目惚れ? いやいや。子供に惚れられても……いやまいったな。
「んなわけないでしょ」
「おいコラ。俺の脳内にツッコむな」
晃じゃあるまいし。それに冗談に決まってるだろ。
「ていうかロリコン?」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ!? 人の耳に入ったら一番誤解されそうな単語を!」
そしてその軽蔑の目をやめろ。
「すっごぉい!?」
「うわ」
女の子が突然大声をあげた。子供の声は無駄に大きいな。
「強いね! 二人とも! あっという間に五人倒しちゃうなんて!」
ツインテールを振りかざしながら、女の子は満面の笑みで、俺とアマノの間に入ってきた。そして俺たちの足をバンバンと叩く。
……なんだこの子?
初対面の人の足を叩くなってお母さんに教わらなかったか?
「よし。落ち着こう。そして叩くのやめよう。俺の名前はヒロユキ。こっちのがアマノ。君の名前は?」
「……こっちの?」
こっちの扱いされたアマノがこっちを睨んでるけど、無視。
クエストってのは、さっさと先に進めちまうに限るんだよ。
「私、サニー=アカムレッド! サニーでいいよ!」
……あーやっぱりか。
クエストの名前で予想はしてた。
この子、アカムレッドの王女じゃねぇか。どっかで見たことあると思ったよ。前に見た時はまだこーんなに小さかったけど。今も充分小さいが。
「……とりあえず宿屋行くか」
訳ありみたいだし。狙われてるんだとしたら、このまま外でのんびりしてるのはあれだ。
……いや、ちょっと待てよ。
「おい」
「なによ?」
「そろそろ帰らないと不味くね? もう夜になるぞ」
「明日休みなんだから別にいいんじゃないの?」
あ、そういや明日土曜じゃねぇか。学校ねぇよ。
って、違う!? 俺的にはそれでも関係ないんだって! 瞳姉にばれたら面倒なことになるんだって!
「いや、俺は枕が変わると寝られなくてだな……続きはまた明日……」
「じゃあ行きましょうか」
ナイスシカト。
アマノは一足先にサニーの手を取って宿屋に向かって歩いて行った。
……一人で帰っちまおうかな?
……そうもいかない。あいつを一人にするとなにをしでかすか……。
「仕方ねぇな……」
瞳姉になんて言い訳しよう?
必死に瞳姉への言い訳を考えながら、二人の後を追った。
ミ☆
アカムレッドの宿屋に部屋を取り、とりあえずサニーに話を聞く。
……はずだった。
「食うのやめろ。お前ら」
さっきからアマノとサニーはアカムレッドクレープを食べながら、その美味しさをお互いに評価し合っている。
しかも買わされたの俺。俺だよ俺。そこ重要。最重要。
「アカムレッドクレープの美味しさがわからないなんて……可哀相な奴」
「うん。可哀相な人だね……」
なんで俺が憐れみの目で見られるんだよ!?
アカムレッドクレープってなにげに一個100Gするんだよ!? 傷薬より高いんだよ!? わかってるそこんところ!? スペシャルとかウルトラとかその倍するんだよ!? 傷薬何個買えると思ってんの!?
「とりあえず! サニーはなんでさっきの奴らに追いかけられてたんだ!?」
このままじゃ話が進まない。クレープ批評会で終わっちまう。
「あの人たち、悪い人なの」
「それはさっきも聞いた!? 問題はなんでアカムレッドの王女が悪い奴らに追いかけられてるんだってこと!」
「……王女?」
アマノがクレープを食べる口を止め、サニーを見た。
ああ、そういやアマノは知らんか。俺が一人で納得してただけで。
「あれ? 私、王女だって言ったっけ?」
「サニー。おもいっきりセカンドネーム名乗っててそれはねぇだろ」
アカムレッドとかいうセカンドネーム。アカムレッド王家以外にいねぇから。
「王女様……可愛いわけだわ」
……なんかアマノの奴。やけにサニーにくっついてないか?
いや、むしろクレープを持ってる手とは逆の手。サニーの体をしっかりと抱きしめてる。距離がめっちゃ近い。馴れ馴れしすぎじゃないか?
「私の妹にならない?」
「え? いいよー」
いいよー。じゃねぇよ。アマノも何言ってやがんだ。
「馬鹿なこと言ってねぇで、話を先に進めるぞ」
「馬鹿なこととはなによ? 可愛くて小さな女の子は天使よ?」
「……お前って変態なの?」
「違うわよ馬鹿。プールで足つって溺れて死ね」
即答で罵倒。
俺のことは散々変態だって言ってるくせに。
「……んで? さっきの奴らはなんだ?」
「お城の兵士だよ」
「……ちょっと待て」
お城の兵士?
……え? 俺ら、城の兵士をぶっ飛ばしたの?
「それって兵務妨害じゃねぇかよ!?」
現世界の公務執行妨害と同じだ。警察官の公務を邪魔すると罪になるっていう。
つまり、兵士の仕事を邪魔すると罪になりますよーって法律。
「なに焦ってんのよ?」
「……兵務妨害は牢獄行き。重要な任務を邪魔したらへたすれば打ち首だぞ?」
「うわー大変だねぇ……ユッキー」
「お前が悪い奴らだって言ったんじゃねぇかぁぁぁぁぁ!?」
「私をお城に連れ戻そうとしてたんだから、悪い人たちだもん」
だもん。じゃないよ!? ただの兵務中の健全な兵士さんたちじゃないか!
しかもなんで俺限定? 真っ先にぶっ飛ばしたのアマノなんだけど。
それから変なあだ名つけんな。
「サニーは何で兵士に追いかけられてたのよ?」
「……私、家出したの。お父さんとケンカして……」
「……それで連れ戻しに来た兵士を俺らがぶっ飛ばしたわけか?」
「うん。いやーもう少しで捕まっちゃうところだったよ~」
そのおかげで俺らは一歩間違えば犯罪者ですけど。
これ……俺らが王女を誘拐したって思われてもおかしくないぞ? そしたら百パー打ち首だ。
「だってお父さん、私に【王家の宝】を見せてくれないんだよ!」
「……王家の宝?」
なんだそのべたな名前の宝は? そういや、クエストの名前がそんなだった気がするけど。
「お城の地下にね。【王家の墓地】っていう場所があるの。その奥にある宝!」
「……知らねぇな。そんな場所」
三年この世界にいた俺も、アカムレッド城の地下にそんな場所があるなんて知らない。ダンジョンなのか?
「サニーはその宝が見たいの?」
「うん。えっとね……その王家の宝に、アカムレッド王家の血を引く人間が触れると……一個だけ願いが叶うんだって! 書館室にあった古代本で読んだの!」
なんだそりゃ? まるでこの世界を創った、あのはた迷惑な流れ星みてぇじゃん。
考えるに……やっぱり王家の墓地ってのはダンジョンだろうな。そしてその奥に王家の宝ってアイテムがある。たぶん、それを取りに行くクエストだろう。流れ的に。
「んで? お前は叶えたい願いがあると?」
「……うん。私、お母さんに会いたいの」
「お母さんに会いたい? ……あ」
サニーのお母さんってことは……王妃のことだ。それを聞いて、俺は思わず言葉が止まる。
「……え? 会いたいって……サニーのお母さんはどこに行ってるの?」
「アマノ」
アマノに目で合図をする。それ以上深く聞くなってことだ。事情は俺もよく知ってる。
「アカムレッド王妃は……えぇっと、三年前か。【三国大戦】で亡くなってる。有名な話だ」
三国大戦。その名の通り、アカムレッド。ホワイトシロン。クロックの戦争だ。
と言っても、戦争を始めたのはホワイトシロンとクロックだ。アカムレッドは戦争を止めようとして戦いに参加した。他の国が見て見ぬふりをしていたにも関わらず、アカムレッドだけは。
そのときだ。クロックがアカムレッド城を強襲し、城は壊滅しかけた。そして王妃は……殺されたんだ。
「……私、もう一回お母さんに会いたいの! だから王家の宝でお母さんを生き返らせるんだ!」
それでサニーは家出……というか、城を抜け出して王家の墓地に行こうとしてたのか。でも城の地下って言ってなかったか? 必死に逃げすぎて、城下町まで来ちまったってところか。
「じゃあ私たちが一緒に行ってあげるわ」
「おい。勝手に決めんな」
勝手に私たちって言うな。
「……そういうクエストなんでしょ?」
サニーに聞こえないように、アマノがぼそりと呟く。
そうなんだけどさ。勝手に話を進めないでくれ。さっきまでクレープ批評会やってたくせに。
「一緒に行ってくれるの!?」
「えぇ。私たちに任せなさい! 王家の宝なんてすぐに見つけてあげるわ!」
こいつ。俺に対しての態度と全然違うぞ。
確かにサニーは可愛い(子供としてだぞ?)。さすが王女ってほどに。だからってデレデレしすぎだろ。
……アマノの弱点が一つわかった。
こいつ、可愛い物に目がないんだ。
サニーから全然離れようとしないし、たぶん、こいつの部屋は可愛いぬいぐるみとかで埋め尽くされてるんだろう。絶対に。確信を持って。
「……」
まぁ俺も他人事ではない。というのも……。
俺は三年前の三国大戦で、アカムレッドがクロックに強襲されたとき、その場にいたんだ。
アカムレッドを守るために、必死に戦った。
でも……当時の俺は、まだレベルを徹底的に上げる前だった。そこまでレベルが高くなかった。
結果。アカムレッドを守れなかった。俺もかなりの大怪我を負った。
王妃を守れなかったんだ。力の無さを恨んだ。
俺が罪悪感を感じることはないのかもしれないけど……。
それでも、サニーの悲しそうな顔を見ると心が痛む。
「……わかったよ。じゃあ作戦をちゃんと考えてからな? 城にもぐりこむ方法も考えないといけねぇし」
「本当!? 行ってくれるの!? やったぁ! 二人とも大好きー!」
サニーが嬉しそうにアマノに抱きついた。
アマノは歓喜の表情を必死に抑えている。俺に見せた笑顔なんか比較にならないほどの笑顔を。
……不公平だ。ちくしょう。
存在だけであれだけアマノを笑顔にできるなんて! 子供にヤキモチなんて情けないけどさ!
「じゃあお前ら大浴場でも行ってろ。俺はちょっと城の周辺を見てくる」
「……」
なんでそんな怪しむ目で見るんだよ。
「……覗かないでよね?」
「……お前、俺のこと変態だと思ってるだろ?」
「うん」
相変わらずの即答。腹が立つ。
「ユッキーって変態なの?」
「違うからな? 他所でそんなこと言ったらだめだぞ?」
そこはしっかりと言い聞かせてから、俺は部屋を出た。
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『おまけショートチャット』
「サニーって王女様なのよね? 私……普通に話しちゃってるけど、失礼だったかな?」
「お前。つまんないこと気にしてんな」
「……は? なによ?」
「なんでもないです」
「王女様なら、もっと敬って接したほうがいいかなって思っただけじゃないのよ」
「えー……私、二人とはお友達だもん! 普通に接してほしいな(ニッコリ)」
「――!?(笑顔にズキュゥゥゥゥン)」
「あれ? どうしたのー?」
「大丈夫だ。見て見ろ。このすっごく幸せそうな顔。このまま死んでも本望だろうよ」




