プレゼント
更進めっちゃ遅れて申し訳ない
門の手前で御者さんにお礼を言って別れ、城門へ。
そばにいた衛兵に呼び止められるかとも思ったが、セリアさんの顔を一瞬見てスルー、そのまま入れてくれた。
………顔パスですかい。
門を抜け、大通りに入った僕達の目の前に広がった光景は……雑踏であった。
人の物量、物の物量、そこかしこを人や馬車が行き交い、にぎやかな雰囲気である。
あちこちで屋台が軒を連ね、人々の声が通りをこだまする。
そんな中をセリアさんは真っ直ぐ突っ切って行く。
僕も迷わないようについていった。
――――凱旋の街ナルサス。ヨトゥン南部に位置し、豊かな穀倉地帯と良質な金属の取れる山岳地帯の境目という立地、また整備された街道沿いに存在するという交通便のよさから、冒険者のみならず、多数の人々がここに拠を据えている。
始まりは、千年前の魔大戦において魔神の首を討ち取った英傑が凱旋した村が、やがて街にまで発展して出来たとされている。
……お腹空いた。
時は既に、太陽が沈まんとする刻。
ミヤマがちゃんと付いてきているかを確かめつつも、私の心は既にご飯の事でいっぱいである。
今日はそんなに動いていないとはいえ、空くものはすくのである。
自然の摂理なり。
どっかでご飯屋さん探そ………
内心フラフラになりながら、街を散策。
しばらくして。
「…………いい匂い?」
「あぁー……、そうですね、美味しそうな匂いですね。」
どこからか美味しそうな匂いが漂ってきた。
匂いのもとはどこから……と振り向くと、こじんまりとした一軒の料亭がそこにはあった。
すぐさま突入。
「…………今日のオススメ二人前ください。」
近寄ってきた店員さんが何か言う前に注文して手近な二人席に座る。
お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いた……………
どこかドス黒いオーラを纏ったセリアさんに怯えながら、僕は向かいの席に座った。
なんだこの空気と思いながら周りを見渡す。
年季の入った建物だが、掃除が行き届いているようで中々清潔である。
奥を見やると、厨房で料理を作ってる様子がうかがえる。
もう外も暗くなってきて、夕食を食べに来た客で店が混み始めてきた。
十数分して料理が運ばれてきた。
皿の上に乗せられているのは……
「トンカツ………?」
「今日のオススメ、鉄鎧鼠のカツと、卵かけ米のセットでございます。」
店員さんがにこやかに説明してくる。
って何?
あわてて机上を見やると……
「白米………だ……。」
まさか異世界に来てすぐにまんまの白米と出会うとは。
箸は無かったので、スプーンらしき物ですくって一口。
うむ。まっことあっぱれな白米なり。
モチモチふっくらとした、日本人なら馴染みのある味。
ってさっき卵かけって………
おおあったあった。既に器に盛られてて、何かの液がかかっている。
何の卵かは知らんが、かけていただきます。
生卵のコクと醤油っぽい……いや、もうこれは醤油だ。
それらが米と混ざりあい、旨さを引き上げる。
まごうことなき醤油卵かけご飯であった。
卵かけご飯を堪能したのち、トンカツ……ネズミカツをいただく。
この響き嫌だな。カツと呼ぼう。
とりあえず、一口パクッ。
サクッとした食感のち、肉の歯ごたえと溢れる肉汁。
肉を食らったという、確かな手応え。
今のはソースがかかってない部分だった。
次はソースがかかってる部分。
ソースに浸った衣の感触。
ソースの酸味と肉汁が混じりあい、また違ったうまさ。
付け合わせのキャベツに似た野菜もつまみつつ、フォークを握る手が止まらない………!
ネズミすごいぞ………!
ハハッ…………!
ふと向かいに座ってるセリアさんを見ると、先程のドス黒いオーラはどこかへ霧散し、ただ無心に料理を食べていた。
相変わらずの無表情、いや、心なしか頬が緩んでいる!?
……セリアさんの様子を観察して一つ悟った。
この人を飢えさせてはイケナイ。
お互いに食べ終わり、店を出るだんになって「650リキッドでーす!」うぉぉぉなんだっけその単位?と思いながら金貨袋をごそごそ探っているうちに、セリアさんが二人ぶんパッパと払って店を出ていっておいてかれそうになった。
女の子に全額負担させるなんて。なんか情けない。うう……
ざわめきが止まぬ夜の雑踏。
日が出ている刻とはまた違った様相の中をゆっくりと歩を進める。
ふぅ、とためいきをつく。
やはり、ご飯を食べている時間は至福である。
次に絶景。最近見てないし、どこかに見に行こうかな。この旅が終わったら。
空を見上げると、双子月の兄月がもう中天に達していた。
今日はもう宿屋をとって休もう。
そう思った。
ふと後ろを見ると、ミヤマが双子月を物珍しそうに見上げている。
…………月を見たことが無い?
一瞬変な想像を思い付いたが、まさかとすぐ打ち消した。
この世界で過ごしている以上、月を見ずに育つ事など無いのだから。
宿屋にて。
「水洗…………トイレだ…………!」
それも便座式。ここは天国か。
異世界バンザイ。聞くところによると数百年前に下水道技術が発展していらい、あちこちの街や都市でこれらの設備がおかれるようになったらしい。
なお水は魔法で生み出しているとの事。ここはファンタジーだな。
トイレはあったものの、湯船に湯を張って浸かるという習慣は無かったらしく、蛇口のようなものからドバッとお湯が出るだけであった。
シャワーから上がってベットに向かうとふと、その横の机に本が置いてあるのが見えた。
手にとってひらいて見る。
…………読めない。言葉が通じるなら文字も………とは思ってたが、そんなに甘くは無かった。残念。
それともなんとか読み解こうと、うんうん唸って足掻いていると。
コンコン。
ノックの音。
開けてみるとセリアさんだった。
「………今、大丈夫……かな?」
「あ、はい大丈夫ですよ」
彼女に、部屋にあった椅子の一つを勧める。
どこかリラックスした様子で座った彼女は、シャワーを浴びたばかりなのか、髪の毛がしっとり濡れていた。
格好も、コートを脱いでラフな物になったり。
具体的には飾り気のない黒のキャミソールにホットパンツ。
髪も結わえているのを解いて完全なロングに。
濡れた黒髪の色あいもあいまって今までとは違う雰囲気……
この状況は、まさか………あれ、なのか?
あれ、だよな。
まさかまさかのエr「………明日の予定を確認、しよっか」
はいデスヨネ。
左様ですか。ショボン。
と言うかなんでそう思ったんだ。
僕のバカ。
お互い向かい合い、相変わらずまともに正視出来ない中で明日の予定を話し合う、と言うか決めてもらってる中。
ふと、彼女の首筋の左側から伸びてる、奇妙な、赤い茨のように枝分かれして伸びる刺青みたいなものに気づく。
昼間はコートに隠れて気づけなかったが、刺青のようなそれは彼女の左肩を伝い手首まで、また彼女の左半身を伝って太股にまで刻まれていた。
って、あんまりいやらしい目で見ちゃアカン、気づかれる。
思い虚しく、僕の視線に気づいたらしいセリアさんは首筋のそれに手をやる。
「……気になる?」
「え、あ、はい。」
変な事を考えてたのがバレたかと冷や汗をかく一方、セリアさんは何処か上の空と言うか、ここではない場所に意識を飛ばしてるかの様子で言葉を続ける。
「……この紋様は、生まれた時から刻まれてた。」
「……ただのおまじないみたいな物。うん、おまじない………。」
「……気味悪い、かな?」
そう言って、気にした様子でこちらを見てきた。
「い、いえ、別にそういうつもりで聞いたんじゃ………!」
「……そう、よかった。それじゃ、私はそろそろ戻るね。また明日。」
「はい、おやすみなさい。」
そう言って、彼女は僕の部屋から去っていった。
うーん、最後のあの様子、何か地雷に触れてしまったか?
僕はしばらくベットの上で悶々とすることになった。
「………おまじない、か。」
ミヤマの部屋から出た後、廊下に寄りかかりながらそう呟いた。
そのまま首筋のそれに手をやる。
指に触れるそれは、焼けそうなくらい熱い熱を返してくる。
とてもお呪いなんて生易しい物の放つ熱じゃない。
これは、呪いだ。
翌日、宿屋の外に出てみると既にミヤマが待っていた。
………妙にそわそわしている。
「………ごめん、待たせちゃったね。」
「いえ、大丈夫ですよ!早く行きましょう!」
ミヤマはどこか浮かれた調子でそう答えた。
今日はミヤマの故郷に関する情報を集めつつ、色々買い物をする予定である。
始めに魔術師ギルドで魔封紙をいくつか購入。
魔法が使えない者にとっては結構恩恵が高いアイテムである。
………ここで"探索者"の魔法を買っておけば丸二日森で迷うことも無かったよね。ショボン。
ミヤマは手持無沙汰なのか、陳列されてる得体のしれないアイテムに興味しんしんの様子。
無闇に触っちゃダメだy「ボフン!」………言わんこっちゃない。
彼が金色のドクロに触れた瞬間小さな爆発が起こったのである。
目を真ん丸にして驚いてる様子を見て思わず笑ってしまった。
次に服飾品店。
ミヤマの服装が長旅に向いてるとは思えなかったので、せめてローブだけでも買うことにしたのだ。
ローブの分のお金を渡そうと思ったが申し訳なさそうに断られた。
何か気を悪くするような事を言ってしまったのか。
ちなみに待っている間に女性店員から何度も服をオススメされた。
それもいわゆる可愛い系のやつ。
丁重にお断りした。似合わないだろうし。
買ったばかりのローブをどこかひけらかすようにしながら歩くミヤマを尻目に雑貨店へ。
ミヤマ用の回復薬をいくつか購入してさっさと店を出る。
さて次は…………武具店、かな。
「うわぁ…………!」
ズラッと箱に並ぶ槍、壁にかけられた刀剣類や盾、整然と並ぶ鉄鎧。
僕の思い描く武器屋がそこにはあった。
「なんだ、ショタ公、武具店は始めてか?」
振り返るとそこにはカウンターに肘をついてこっちを睨む強面のおじさんが。店長だろうか?
っておい。
「ショタ公ってなんですか。」
ジト目でおじさんを見たが
「ああ?いかにもショタって見た目じゃあねえか。」
そう言いながらこちらの体―――筋肉の欠片もないもやしっ子体形―――を見やる。
いや、ショタって決してもやしっ子の意じゃないですよおじさんと言うこちらの心の声を意に介さず、店舗の方へ来て武器を見漁っていたおじさんはやがて。
「ほらよ」
一本の槍をこちらへ放ってきた。
見てみると一メートル半少しの長さの木製の柄に、金属製の穂先のついた槍。
意外と重くはない。
「よく最初っから剣を買いにくるやつは多いが、剣はそんなに安い武器じゃねえ。鉄とか多く必要とするからな。それに慣れてねえと扱いずれぇ。
最初から剣に慣れてるようなやつは既にここに買い求めに来ずとも大抵剣は持ってる。ショボいのでもな。」
おじさんが語り続ける。
「それに比べて槍は、より安価でまともな性能のを手に入れられる。木製柄でも性能はそこそこあるからな。
射程も、剣とは段違いだ。
戦闘に慣れてねえやつにとっちゃこれはかなり重要な所だぜ。
後は……そうだな、あんまり無いが、毒を塗る際にも剣より少量で、より効果を得られるところってかな。」
なるほど…………。
「まあなんにせよ、ショタ公の体格じゃあその槍を振り回すのでもう精一杯だろうなぁ、ハッハッハ。」
ぐぬ…………。まあ確かにその通りだ。
僕は言われた通りこの槍を買う事にした。
「いくらですか?」
「8700リキッドだ。」
おぉぉう、有り金がこれでほとんど消えちまった……!
安い槍でこれか。
現実は厳しい。
「それじゃ、俺は嬢ちゃんの剣研いでるから、少し待ってろ。」
そう言って奥に引っ込むおじさん。
どうやらセリアさんは剣の整備を頼んだらしい。
待ってる間、武器の品定めでもしようかと店内をうろついてると、セリアさんが鎧コーナーの方でなにやら漁ってる気配。
やがて、何かを抱えたままカウンター前に来て整備の終わりを待っている様子。
やがて剣の整備を終えて出てきたおじさんにそれを渡す。
「整備代金の2000合わせて96000リキッドだな。」
って高っ!
一体彼女は何を買ったんだと確かめる間もなく彼女は店を出ていく。
慌てて彼女の背を追って店を出ようとする僕を呼び止める声。
振り返るとおじさんが何かを放り投げてきた。
両手で受け止めると、それは鞘に入った片刃短剣だった。
「冒険者デビューのショタ公に餞別だ。頑張れよ!」
またショタ公呼ばわり。まあでもいいか。
お礼を言って店を出る。
武具店の外でミヤマを待つ。
そして、抱えたそれを見下ろす。
喜んで、くれるかな?
しばらくしてどこか嬉しげなミヤマが出てきた。
彼におずおずと声をかける。
「………あの、ミヤマ?その………これ、受け取って、くれるかな?」
ミヤマにそれを渡す。
加工聖銀製の籠手。
武具店でなんか嬉しそうな様子を見て、ふと気まぐれを起こしたのだ。
彼は目を丸くしてそれを見つめると、戸惑いと笑みがごちゃ混ぜになったような表情を浮かべた。
そして、それを付け、あの不思議な動作と共にお礼を言ってくる。
喜んで貰えたようだ。
どこかはしゃいだ様子で通りを歩くミヤマを眺めながら、この懐かしい感じに思いを馳せる。
そう、懐かしいのだ。
思えば、誰かと一緒に買い物をしたのは実に何年ぶりだったろうか。
少なくとも、10や20と言った年月では計れない。
それどころか、誰かに物をプレゼントしたのは、おそらくこれが初めて。
なんでかなー、とためいきをついて、しばし過去に思いを馳せつつ歩を進めた。
懐かしい顔ぶれが次々と思い出される。
既に会える事の出来なくなった彼らとの出会いを思い返す内に、思考にノイズが走る。
一瞬、頭を横切る一つの情景。
一人称視点で見る、ある風景。
ここでは無い、別の場所、港街、晴天、遠くに見える神殿らしき建物、そして、自分から伸びる手を引き、前を走る人影。
また、か。
過去を思い返そうとすると必ず思い浮かぶ情景。
永き年月を経る内に忘れていった記憶もあれど、絶対に忘れる事の無いもの。
否。
絶対に忘れてはいけないと、心の何処か片隅で言っているのだ。
何故なのだろうか。
分からない。
何処か釈然としない思いを抱えながら、私はため息をついた。
セリアさんから、約90000リキッドもする高級な籠手を貰いました。
というか。
「初めて女の子からプレゼント貰えた……………!」
うれしい。
嬉しすぎて、号泣してダンスしながら舞い上がりそうだ。
父さん、母さん、友人達、僕、異世界に来て女の子に初めてプレゼントを貰えたよ。
うわあああああああぁぁぁぁぁい!!
「………とりあえず、これで買い物は終了、かな?」
はっ!
セリアさんの声で現実に戻る。
「はい、もう特に必要な物は無いかと。」
「…………なら、次はここ、かな。」
そう言って彼女は一軒の建物の前で足をとめる。
「ここ………は?」
「…………"縞金鹿の酒場"。私の知ってる限りだと、この街ではここが一番情報収集しやすい。」
僕達の目の前には、小綺麗な造りで金色の鹿のプレートを掲げた一軒の酒場があった。
ミヤマ君に唐突なショタ属性付加(´・ω・`)
流石に強引すぎか。