第零話、ぷろろーぐ
微かに、そして重厚に響き渡る葉ずれの音。
木々の葉が日を遮り、鬱蒼とする。
どこからか響く獣の咆哮。
通称"神隠しの森"と呼ばれる、入った人は何処かへ消えると噂され、近隣の村人も恐れ近づかないその森を。
何の恐れも、警戒も抱かず、あまつさえ歌いだしそうな雰囲気を醸し出しながら歩く、一人の異質な存在。
否。
後ろのこずえから飛び出し、それに襲いかかろうとした影を、振り向き様に切り刻む。警戒していないように見えて、その実多くの情報を知覚している。
叩き斬った獣の骸を検分したその者―――少女は、その見目よい眉をひそめると、骸をはじに寄せて再び歩き出す。
その光景に恐怖したのか、辺りから獣の気配が消える。
少女はその様子に、その端麗な相貌を苦笑させながら、この暗い森を歩き続けた。
「…………見当たんないなぁ」
思わずそんな言葉が口から飛び出してしまう。
私は、手近な背もたれになれる木を見つけ、そこで休憩することにした。
私が今探しているのは、破壊熊と呼ばれる狂暴凶悪な魔獣。
なんでもここ最近、この森を住み処にしているらしい個体が近隣の村々を襲撃しては被害を出しまくっているそうな。
近いところは森にくっついてる村から、遠いところは数キロミドルも離れた村にまで。
たまたま、冒険者のパーティが逗留している村が襲撃され、彼らの助力で被害をほとんど出さずに追い返したところもあったが、矢面に立ったそのパーティはしばらく動けないダメージを負ったとか。
ここは一応、剣聖王国領ではあるものの辺境であり、それにただの騎士が一人二人派遣されたところで状況は変わらないだろう。
おそらく、王国が事の重大さを理解する頃には近隣の村は全滅しているだろう――放浪をするなかでそのような話を聞き、又、この森に隣接する村で、かの魔獣に両親を殺されたという少女のその、絶望とも悲観ともとれる顔を見たとき、思わず言ってしまったのだ。大丈夫、仇をとってきてあげる、と。
というわけで、森に突入。うら若き乙女が一見無防備にさまよっているのだから、すぐに相手の方からおいでになるだろうと思ったのだが………
森をさまよってはや一日。
朝ご飯を与えていないお腹はグーグー鳴るし、熊は見つからないし、もう森なんて飽きたし、しかも。
「………多分、迷子になった。」
森を抜けられる気配さえなかった。
ああヤバイ。気を抜いた瞬間めまいが襲ってきた。このままバタンキューして私の骸は森の養分となるのだろう、ああ哀れ哀れ……などと益体も無い事を考えながらのたうち回っていたとき。
「………グゥゥオォォ……」
聞こえた。即座に臨戦体制に入る。決して遠くは無い。紛れもない、強者の気配。その方向を見定めた私は、地を蹴りだし、猛スピードで駆け出す。
木の根を上手くかわし下生えを飛び越し、邪魔な枝は瞬時に切り払って先へ先へ。会敵まで後50ミドールといったところで、私の知覚能力が、その近くに新たな気配が出現したことを察知する。
「………!?」
おかしい。人間の気配のようだが、ここにくるまで一切気づけなかった。この弱々しい気配の感じは別段、身を潜める事に長けたその手のプロのでは無さそうなのだが……
思わず考えに耽った私のもとに瞬間、
「うわああああああああああっっっっっっ!!?」
その悲鳴が聞こえた刹那、先程とは比べ物にならない速さで駆け出す。
あっという間に悲鳴のもとにたどり着いた私の目に映ったのは、木に倒れかかる少年と、その木を――少年の頭の上スレスレを――その剛腕で粉砕し、少年にのし掛かろうとする1頭の巨熊。
状況を正確に把握した私は、近くの木を足場にすると、その木を踏み折る勢いで踏み込む。
踏み出し、跳躍、刹那、熊に肉薄した私は手に持った二刀で切り刻んだ。
多少の誤字脱字には目をつむって生温かく見守ってくださいまし。(。>д<)
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