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狭間の国のメモラビリア  作者: 終乃スェーシャ(N号)
五章:狭間の国のメモラビリア
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魂の配慮

中途半端なところで前回切ってしまったため字数は少ないです。

 廊下に出て、一度ばかし立ち止まる。


 ……前の拠点とほとんど変わりはないが、よく見れば壁に掛けられた絵の額縁に埃が溜まっていた。深い茶のシックな扉もなんだか霞んでいる……それもそうだ。ずっとこの家には誰もいなかったのだ。


 そう思うと元より冷たいこの身体は、肌に触れる空気を寒く感じた。


 ――――ひとまず自分の部屋に戻ろう。既に崩壊しきっている【暁の星】を守るべく、どうすべきかを考えるためには時間が必要だ。


 そう考えていたとき、ふと背後から声が響いて、同時に誰かが手を握った。伝わる熱でワタシはその人物がジェイルであると理解して、だから振り向こうとは思わなかった。


「アイラ、……なんであんな悲しい顔をするんだ」


 その声は震えている気がした。ワタシの思い過ごしなら良かったが、そうではないと手が告げていた。


「……」


 ワタシは咄嗟の言葉が出ずに閉口してしまった。……どうやら、自覚のないうちに彼の所為で感情を隠すのが下手になってしまったらしい。


 だが、前とは違う。ワタシはもう自分の想いに嘘はつかない。誰かに委ねられたりはしない。……モラトリアムは脱した。


「本当に、本当にワタシは大丈夫です。……信じてください。ワタシはあなたを信じていますから」

 ワタシは卑怯だ。どうやったってその根底は変えられないだろう。こんなことを言えば、ジェイルは優しいから容認せざるをえなくなることは明白であった。しかしその卑怯さで救えるならワタシは喜んで卑怯者になろう。


 ……真摯な瞳がワタシの顔を覗いていた。琥珀色の輝きが一心に向けられる。廊下が冷たく静まり返るなか、どうしてかそんな空気が適温に感じれた。


「…………分かった。信じる」


 ジェイルはその一言だけ言うと、ゆっくりと手を離した。その直前、僅かに彼の力は強まっていて、狭間の国にジェイルを連れて行ったときのことを思い出す。あのとき、確かに信じて手を握ってくれた。ワタシはもう平気だった。寂しさはまだ胸の奥で蹲っていて、凍えた空気に響く鈴のように透き通った空虚さが立ち込めていたけれど、同じほどに清々しさがあった。


 ワタシはもう自分に嘘はつかない。それに、この手にはもう、手を握らずとも熱が移っているのだ。

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