狂気に歩み寄る
投稿遅れて申し訳ございませんでしたぁ!!
あ、次回は16日の0時5分ぐらいに投稿します。
「まだ数日しか経ってないというのに…………一体何をしたのです? チェイサーでさえ一週間以上掛かったのですよ?」
「エドワードは、父さんは一日でやってのけたって書いてあったぜ? ともかく、何もできないってことはない。これでも駄目か?」
「ええ、駄目です。硬化程度アベンジャーだって使えました。それにジャックを探してどうしようというのですか? 捕まえるつもりでしたら、どうやって? そもそもあなた一人では無理ですジャックが男を殺したという事例はまだありませんが、敵は【金の十字架派】。必ずあなたと敵対しますよ? 死んでしまうかもしれないのですよ? この意味が本当に分かっておりますか? いままで死んだ人がどれだけいたか分かっているのですか?」
アイラは問い詰めるように質問を重ね、その儚げな顔を近づける。張り詰めた空気は依然として部屋を支配し、彼女は言葉を発すれば発するほど、自ら押し殺すように冷徹で機械的な声になっていく。
それが逆に、普段とは違い抑揚のある、感情に満ちたものに聞こえて、ジェイルはアイラの小さな手を握った。
「アベンジャーを殺した奴が窓の向こうにいるって分かってるのに、お前も本当はこんなところに篭ってるのなんて嫌なんだろ? お前の力を貸してくれ。拳銃になれるんだろ?」
「……駄目です。行けば助からない。アベンジャーはワタシ達のなかでも相応の実力者でした」
「だったら俺一人で行く。一瞬でも隙があったら出て行く」
アイラは軽蔑の眼差しを寄越すと、指で拳銃を撃つような仕種をおこなった。
細い指を向けられると脳天に銃口を突き付けられたかのような危機感が全身を走り、背筋が凍った。
――――それがアイラが魔術を使う際のトリガーだと、直感的に理解できたからだ。
一瞬の出来事だった。アイラの指が閃光と銃声を発するのと、半ば条件反射的に【硬化】を付与した手で彼女の指を掴むのは、全くの同時だった。
くぐもる轟音。手から腕に掛けてビリビリと痺れるような衝撃が響いた。指と指の間から光が漏れる。幾度か手の中で何かが弾けた。いや、兆弾した。そのたびに岩でも殴るかのような振動と、鈍痛が走った。それでも数秒が経過すると、その弾丸は手の中で霧散するような感覚と共に消えた。
アイラはその鉄面皮を崩し、青ざめた表情でこちらを睨んでいた。蒼い双眸から怯えと畏怖が伝わってくる。
ジェイルは【硬化】を解除した。強い熱を帯びて痛む手は、赤く腫れ、はたまた内出血によって紫に染まっている。日頃から与えられてきた暴力よりも痛覚的な痛みは勝っていた。それでもうめき声一つ上げなかったのは、アイラに少しはできる奴だと見せてやりたかった……そんな馬鹿みたいなプライドからだった。
ジェイルは痛みを堪えるために、大袈裟な笑顔を作ると、自身が悪役になったつもりで、仰々しく発言した。
「俺を守りたいなら一緒に来てくれ。分かるか? お前が本当はどうしたいかなんて関係ない。与えられた命令とやらに基づいて考えるんだな。俺を守りたければどうすべきかを」
しばしの沈黙。窓の向こうから雨音だけが響いていた。アイラは熟考していたが、やがて小さな手を伸ばし、絹糸のように細い声で言った。
「……深夜。切り裂きジャックは深夜に行動します。そのときに出ましょう。それと…………ありがとう、ございます」
彼女は顔を背け、表情は見せようとしなかった。神秘的な白銀の髪がアイラの顔を隠した。その姿はいままでにない親しみやすさがあり、ジェイルは虚を突かれたように押し黙った。
「…………! 俺は……礼を言われるようなことはしてない。ただ我儘を押し通すために脅しただけだ」
命を掛けてこの命を繋ぎ止めてくれた両親からしてみれば親不孝だろう。一切の自由も尊厳もない監獄から救い出してくれたチェイサー達には本当に申し訳ないことをしている。
どれだけ殴る蹴るの暴行が加えられようが堪えてみせよう。だが、残虐に弄ばれたアベンジャーや、命令とやらに縛られるアイラの姿を見て堪えきれるほど、自分はできた人間ではなかった。
「ええ、ワタシは命令に基づいてあなたの護衛を行います。しかしワタシの【弾丸】は、ワタシが拳銃の姿であったほうが威力が跳ね上がります。ついでを言うなら反動を強くしたほうが威力が上がります。ジェイル・シルヴァー、あなたは拳銃を持ったことはありますか?」
「使い方は分かるけど、撃ったことはない」
「目を閉じてください」
ジェイルの発言に対しアイラは鼻で笑うと、握っていた手に力を込めた。刹那、アイラを中心にして白く眩い光が生じた。そして閃光が晴れたとき、さきほどまで目の前にいたはずの少女は消え、鋼の銃身を持つ無骨なリボルバー式拳銃が手元にあった。
「ワタシの弾丸は特殊です。室内で撃ってもいいようにこちらで調整しますので、付け焼き刃程度でも射撃訓練をしておきましょう。エドワードの実の子として、ワタシを失望させないように善処してください」
手に持ったリボルバーが、どこからか声を発した。口はないようだが、これも魔術の一環だろう。ジェイルは両手で銃を構え、格好つけるように言った。
「了解。バシバシ撃ってやる」
ゆっくりと、着実に忍び寄っていた狂気に自ら近付く。……ジェイルはその意味をまだ理解できていなかった。




